戦国ベースボール伝

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炎の三番勝負!(後編)

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「準備はいいか?」

「はい、大丈夫です!」

やるしかない。大好きな野球、精一杯頑張ってきた野球。
戦国時代にやってきて、こんな序盤で終わってたまるか。

「なんだか変な服装だな。まぁいい。うちの軍からは直澄、直隆、景健だ。」

朝倉景健、それに・・・やはり出てきた。真柄兄弟。

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◆真柄 直澄
朝倉家の誇る怪力無双の豪傑。
織田・徳川連合軍 と、「姉川の合戦」で、敗戦して撤退している朝倉軍を
追撃しようとする徳川軍の前に立ち塞がり、大太刀「太郎太刀」を振り回し、
孤軍奮闘して徳川軍を食い止めたと言う、まさに戦国無双な人。
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◆真柄 直隆
弟と同じく大太刀を振るう怪力の豪傑だった。
「姉川の合戦」では、一騎駆けしてきた徳川の猛将「本多 忠勝」
と激戦を繰り広げている。
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「どうやら本気のようだね。」

義景の口から発された武将の名を聞いて、カイトがそう話してきた。
カイトの予想通りだった。

「朝倉軍の主力3武将ですよ。翔の時代でいうクリーンアップを担う選手といったところでしょうか。」

つまりは・・・この3人を打ち取れば、全員黙らせられるってことだろ。
頭の良くない俺には、実にシンプルでいいよ。

「それでは三番勝負、第一試合 翔対直澄。両社前へ。」

義景の掛け声とともに、俺にとって負けられない三番勝負の幕が開けた。

「お前さぁ。俺を打ち取ろうとか、100万年早いかんね!」

真柄直澄。正直、高校の歴史の授業で出てくるような人物ではない。俺にとっては、初耳の人物だ。
身長は、2mクラス。相当でかいな。体格もしっかりしているし、典型的なパワーヒッターだろう。

「吉家。捕手を頼む。」

義景は、見物集団の最前列で勝負を見守っているメンバー、つまりさっきの軍議メンバーの中にいる吉家という人物に声をかけた。
気がつくと、軍議メンバーだけでなく、大勢の人が集まっていた。

「準備しております。」

大方予想がついていたかのように、キャッチャー道具を身につけ、吉家はこちらへ向かって歩いてきた。
どんな道具かと思いきや、材質は自分たちの時代のものと多少異なるであろうものの、姿形はちゃんとしたキャッチャー道具だ。もちろん、バット、グローブ、ボールもちゃんとしている。
さすがは、神様といったところなのだろうか。

「軽く投げときますか?」

ホームプレートの向こうに座った吉家が尋ねてきた。
敵意むき出しの面々の中で、彼だけは和やかな雰囲気を醸し出し、温かい言葉をかけてくれる。山崎吉家。彼も、この朝倉家にとって重要な武将の一人だったはずだ。

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◆山崎 吉家
朝倉家の中でも高位の将軍の一人。
加賀の一向一揆との戦いや、「姉川の戦い」など、
朝倉家の主要な合戦には必ず参陣している。織田家の侵攻軍を相手に互角以上に戦い、信長の甥「織田信治」や
織田家の重臣「森 可成」を撃破して討ち取るなど、数々の軍功を上げた。
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「はい。お願いします。」

よし、最初は軽めに。

ービシュッ!バシッ!!ー

「?!!!!!」

あれ?なんかめちゃめちゃ速くなかったか?

「翔!ナイスピッチング!」

カイトは、相変わらず飄々とした感じで声援を送ってくる。
驚いた様子は微塵もない。
他の武将はもちろん、俺自身正直戸惑いを隠せていないのに。

「なるほど。これはすごいな。直澄、この球が打てますかな?」

「ぐ、愚問ですぞ、吉家殿。この直澄、必ず打ってみせましょうぞ!」

この直澄って武将、体つきもしっかりしているし、素振りを見ていてもスイングスピードはかなりのものだ。当たったらどこまででも飛んでいきそうなほど。
だけど・・・なぜだろう。負ける気がしない!

後ろを見ると、義景に指示された武将がポジションについている。

「案ずるな。そやつらにもわざと失策をおかさぬよう、きつく釘をさしてある。では、参るぞ。いざ、尋常に・・・勝負!」

義景の掛け声で、俺はゆっくりと振りかぶった。
初球は、内角高めにストレート。

ービシュッ!ー

「ぐっ。」

ーバシッ!ブンッ!ー

球が吸い込まれたミットからは快音が、豪快なスイング音より先に響き渡る。

「一振!」

審判のコールがグラウンドに響く。どうやら、ストライクのことを一振って言うようだ。空振りじゃなくても一振なのかな?まぁ、それはおいておいて、とりあえず初球ストライク。

吉家から返球された球を握り替えて・・・次は、外角低めへスライダー。

ーシュッ!ー

「ぬおっ。」

ーブンッ!ダフッー

先ほどと同じように豪快な空振り。吉家は、鋭い曲りのスライダーにしっかりキャッチできず、前にこぼれた。

「二振!」

審判のコールが再び響き渡る。

「すごい球だな。しっかり受けきれない。翔殿。素晴らしい投球をなさいますな。」

「あ、ありがとうございます。」

吉家からの褒め言葉に、思わず照れてしまう。

「しばし!」

ボールを握り替えて、次の投球に移ろうとした時だった。
直澄が、(おそらくタイムなのであろう)コールをして、ベンチに戻っていった。

何だろう?とその姿を目で追っていると、今まで使っていたバットをしまい、別のバットを取り出した。
バットを替えにいっただけ・・・。

「?!」

なんだあのバットは?

「これが我が相棒・太郎太刀じゃい!」

直澄は、先ほどまでとは打って変わって意気揚々と新しいバットを振り回しながら、バッターボックスに戻ってきた。
出てきたのは、長さも太さも通常のバットとは比べものにならない、まさに規格外のバット。この時代には、道具の規定が存在しないのか?

「どうした?怖気づいたか?」

「・・・。」

バットが長く大きいってことは・・・。
俺は、最初こそ戸惑ったものの、冷静さを取り戻し、投球動作に入った。
狙うは一点・・・インハイだっ。俺は、渾身のストレートを投げ込んだ。

ービシュッッッ!ー

「は、速い!」

ーバシーーーーッ!!!ブーーーン!ー

直澄の豪快なスイング音を聞くより先に、俺のボールは吉家のミットに吸い込まれ、快音を響き渡らせた。

「三振!それまで。」

審判のコールとともに、グラウンドにはどよめきが走った。

「ば、ばかな。」

ありえないといった直澄の顔。
信じられないって?それは、俺もだよ。こんな球、投げたことない。

まずは一人目。

ーバシッ!ー

俺は、マウンド上でもう一度頬を叩いて、気を引き締めた。

「あ、兄貴。すまねぇ。」

直澄が、次に構える兄・直隆に向かって、面目なさそうに謝る。

「いい投手だな。だが、お前の気のゆるみがもたらした結果でもある。最初から太郎太刀で間合いをはかっていれば、違った結果になっていたかもしれぬ。少なくとも、あんな無様な空振りで終わることはなかったであろう。」

「す、すまねぇ。」

直隆。身体つきこそ、直澄より小柄ではあるが、この男の方がやりづらそうだ。

「実にいい投手だ。自分たちで売り込んできただけのことはある。俺は、弟と違って最初から本気でいかせてもらうよ。」

そういって握りしめるバットは、直澄の構えたものに比べると長さは短い・・・が尋常じゃない厚みだ。

「我が相方・真柄の大まさかり。」

まさかりって・・・。何でもありかよ、この時代は。

とりあえず、初球は様子見だ。
外角へのチェンジアップ。

ーシュッ!バシッ!ー

「一球。」

一球って、ボールってことでいいんだよな?

「今度は、緩急。彼はいったいいくつの球種を持っているんでしょうね。」

「吉家殿。私はどんな球であろうとも、きた球を捕らえるのみ。」

直隆と吉家が、何やらやりとりをしている。何だろう。
それにしても・・・この直隆って武将、やっぱり直澄より格段に投げにくい。

よし、次は内角低めにストレート。

ービシュッ!カーン!!!ー

「?!」

内角低めに決まったかに思えたストレートは、上手く腰を回転させた直隆のスイングによって外野まで運ばれた。

「・・・無効球!」

外野に運ばれたものの、飛球はファールゾーンに切れていった。
無効球って、ファールってことでいいんだよね?何だか、コールが違って若干戸惑うんですけど・・・。

それにいても、何てしなやかなスイングをするんだ。
コース間違えなくて、本当によかった。
・・・もう一球だ。もう一球内角低め!

ーシュッ!ー

「もらった!」

ーカキーーーン!ー

快音とともに、さっきより大きな当たりが外野に飛んだ。
ただし、その大飛球はファールゾーンへと切れていった。

「絶好球で、力んでしまったか。」

直隆が、悔しそうに顔をしかめた。

ただ、このファールはなるべくしてなったんだけどね。
今投げ込んだのは、さっき投げたコースからさらにボール一つ分内のコース。
加えて、球速を5キロほど抑えたということ。

さっきの球より、「さらにコースが内」「さらに球種が遅い」からこそファールになったということ。

追い込んだ。次で決める。
俺は、通常のフォームであるオーバーハンドではなく、スリークオーター気味に腕を振り下ろした。
さらに、踏み込む足をプレートの右端へとついた。
そして、身体を置きくひねりながら、ピッチング動作を進め、狙うは外角高めギリギリ!

ービシュッッッッッッッ!ー

「なっ?!」

ーバシーーーーーーーッ!ー

「三振!それまで。」

義景のコールと共に、第二戦が幕を閉じた。

「何だ・・・今の。」

直隆が驚いた顔で、こちらに話しかけてくる。

「クロスファイヤーという投球です。」

「ク、クロス・・・ファイヤー?」

直隆は、聞き覚えのない言葉に、なおさら戸惑いを見せていた。
何て説明したらわかるんだろう。

「踏み出した足を目いっぱい右にし、投げる腕を真上から振り下ろすのではなく、若干横手気味から投球を行うことで手離れをわかりにくくしました。そして、直隆さんから一番遠いプレート・・・板の角を目掛けて身体をひねりながら投げたため、見たことのない「軌道を描いて、板を掠めて行ったんです。」

ホームプレートって・・・板で通じるのか?

「・・・素晴らしい。この戦、そなたの勝ちだ。」

一礼をして、直隆はベンチへと戻っていった。
正直、相当しんどい戦いだった。
あの二球目の内角低め。あれが勝負の分かれ目だった。
あそこに投げきれたこと。そして、あれを振ってくれたこと。

「さて、俺の出番かい?」

景健が、待ってましたと言わんばかりに、ベンチから飛び出してきた。
直隆からだって、恐ろしい程のオーラを感じていたのに。
この景健・・・それを凌駕するオーラを感じる。化け物だ。
イ●ローやゴ●ラと対峙するピッチャーは、こんな気持ちになるんだろうか。

「お前やるねー!いやぁ、驚いた。こんな楽しみな戦・・・久しぶりだぜ。」

満面の笑みをこちらに向けてくる。
その言葉に偽りなしって感じだな。

「俺のダチはこいつだ。名刀・朝倉鉄扇!こいつで、お前の球を捕らえてやるぜぃ!」

構えた景健の顔から、自然と笑みが消えた。
やばいな・・・どこに投げていいかわかんない。

俺は、完全に頭の中が真っ白になった。
思い出してしまう・・・高校野球夏の最後の大会。
あの時もそうだった。どこに投げていいのかわからなくて、どこに投げても打たれる気がして・・・すごく臆病になっていた。
それで、俺たちは大敗を喫したんだ。

球を握りはするが・・・俺は投球動作に移れない。

「早く投げねえか!」

「どうした?こわくなったか?」

野次・罵声が飛び交い、ますます俺を委縮させる。
そな時だった。

「しばし!」

野次・罵声を掻き消すように、大声でタイムのコールが上がった。
声の主は、吉家だった。

義景が頷いたのを見て、吉家とカイトがマウンドへと駆け寄ってきた。

「翔殿。いかがした?」

吉家が、心配そうに声をかけてきた。

「す、すいません。景健さんの様子を見て、ついつい同様してしまって。」

「翔。大丈夫だ、思いっきり投げろ。君は負けやしない。」

「私もそう思います。」

カイトに続いて、吉家が励ましてくれる。

「景健殿は、我が軍の主砲。今までも数々の戦で活躍されてきた方であることは間違いない。だが・・・そんな景健殿にでもあなたの投球が通じると私は確信しています。私が投球をしっかり捕球できなかったのは、宗滴殿に続いてあなたが二人目ですから。」

カイトと吉家は、ニコッと微笑んで、マウンドから去って行った。

「ふー。」

俺は、深く深呼吸して、覚悟を決めた。
やるしかないな。

動揺は消えた。弱腰もどこかに失せた。
俺は、しっかりと吉家のミットに目を向けた。

出し惜しみはしない・・・いやできない。
初球は、外角低め。そしてクロスファイヤーだ。

ービシュッッッ!ー

俺は、続けてクロスファイヤーから外角低めにストレートを投げ込んだ。
ただし、直隆の時より、球速を15キロ程落とした。
直隆へのクロスファイヤーでの直球を投げ込んだ時、ネクストサークルでしっかりとスイングしてタイミングを合わせていたことに気づいていたからだ。

「?!」

投げた瞬間、俺の考えが読まれていたことに気づく。
景健はバランスを崩すことなく、身体をためてボールを待っていた。

・・・や、やばい。

「もらったー!」

ーカキーン!ー

レフト方向に高々と上がった飛球。ファールか?フェアーか?

「む、無効球!」

紙一重だった。
最後の最後までわからず、最後はギリギリファール。

「だー!もっと溜めるべきだったか。」

レフト方向、飛球のとんだ方向に視線を向けたまま悔しがる景健。
今のはなるべくしてなったファールじゃない。
たまたま、ファールになってくれただけ。本当にすごいバッターだ。

でも、俺は迷わない。
全力で向って打たれたなら仕方がない。
それに、こんな俺でもカイトと吉家の支えがある。

続いて、俺は身体を目いっぱい使って振りかぶった。
小細工はいらない。真上から最速で腕を振り下ろす。

ービシュッッッッッッ!ー

ーキーンー

「くっ。」

打球音とともに、景健の口から声が漏れる。
ライナー性の当たりがライト方向に飛ぶが、先ほどと違って飛んだ瞬間ファールとわかる打球。

「無効球!」

「いいねぇ。今日イチの球じゃないか?」

景健は、笑みを浮かべながら話しかけてくる。
決して小ばかにした笑いではなく、この勝負を心から楽しんでいる・・・そんな顔だ。でも、それは景健だけじゃない。
さっきまでの恐怖心は、俺の中から消え失せており、あるのは興奮とこの状況を楽しむ心地いい昂揚感だった。

「いや、景健さんこそ、さすがです。」

俺は、そう返しながら、ボールの握りを変えた。
次に狙うのは、外角低めにスライダー。

ーシュッー

ーバシッ!ー

ストライクからボールになるスライダーに、景健のバットはつられることなく止まっている。
最初のころの恐怖感は無くなっているものの、実際問題この人物の圧に追い込まれているのは間違いない。
さて、何を投げれば・・・。

「?!」

何だ?この感じ。不意に頭の中に、新たな球種のイメージが浮かぶ。
いや・・・でも・・・こんな球ありえない?!

だが、迷ってる暇も、疑ってる暇もない。
もし、もし今頭の中に浮かぶ球を投げられたら・・・景健を打ち取れる。
俺は、身体の赴くままに腕を振った。
いけ・・・いけ・・・。

「いけ~~~~~~~~~!」

ーシュッ!ー

決して剛速球ではない。とんでもなく変化する訳でもない。

「絶好球!」

景健は、勝利を確信したように満面の笑みでバットを振りだす。
景健のバットの軌道は、間違いなく俺の投球を真芯で捕らえるだろう・・・ボールが存在し続ければ。

ボールとバットの距離が近づく。
誰もが景健の勝利を信じて疑わない。次の瞬間だった。

ーブーン!ドン!ー

「ぐっ。」

大きく空振りをしてバランスを崩したのは景健。声を上げたのは吉家。
景健はボールを捕らえることができず、吉家はボールを収めることができず、みぞおち付近にぶつかってしまった。

「・・・・・・。」

静寂につつまれるグラウンド。

吉家は痛みをこらえ、前にこぼれたボールを掴み、唖然とする景健にタッチした。

「さ、三振。それまで!」

慌ててコールが発せられる。

「か、勝った・・・。」

ードンー

安ど感からなのか、俺はマウンドに倒れこんだ。
そして、そのまま意識を失った。

「・・・ぉい。おい!いい加減起きろ!」

大きな声によって、俺は目を覚ました。
目を開けると、大きな部屋に敷かれた布団で寝ていることがわかった。
部屋は本当に大きく、20畳はくだらないんじゃないだろうか。

「ようやく目を覚ましたか。」

そう話しかけてきたのは、もちろんカイト・・・ではなく義景だ。
本当に口が悪い。

「無事かい?」

そう優しく声をかけてくれたのはカイト。

「あぁ、だいじょ・・・しょ、勝負は?確か最後は・・・。」

記憶を辿ろうとした瞬間、義景が憎たらしい笑みを浮かべながら、勝負の結果を伝えてきた。
ただ、その言葉を聞いて、俺は心底安堵した。

「さて、翔。今、伝えたとおり、勝負はお前の勝ちだ。よって・・・。」

義景の顔から、憎たらしい笑みが消える。

「よって、お前を宗滴亡きあとの朝倉軍軍師に任ずる!」

「・・・えっ。」

義景の口から発せられた言葉に耳を疑った。
軍師任命という言葉を信じられず、言葉を失ってしまった。

「翔。共にこの乱世を戦ってくれぬか。」

卑怯だよなぁ・・・。
日頃はダメ主な雰囲気だしてるくせに、こんな時だけ。
ずるい人だなぁ・・・ここまで言われたらノーとは言えない。

史実では、乱世に散っていった数多の武将の一人だったかもしれないけど・・・この世界では、この人を俺が天下人にするんだ。

「はい。喜んでお受けいたします。」

俺は、深々と頭を下げた。
この時、俺と義景の主従関係が正式に成立したんだ。



俺が眠りから覚めたのは、すでに日が暮れる頃だった。
義景は、どうやら忙しいらしく、夕餉までには戻るからしばらくゆっくりしていろとだけ言い残して去っていった。

義景が去った後、カイトから勝負の後の事を聞いた。
俺が、倒れて運ばれた後、緊急軍議が開かれたらしい。
議題はもちろん、俺とカイトのことだ。

急なことに、動揺する武将もいたらしいが、勝負相手の景健たちの強い押しがあり、最後は義景の一声で全てが決まったらしい。

決定事項こそが、まさに先ほど伝え聞いた、俺を軍師に任ずるという内容。
もう一つ驚きだったのが、サポート役ということで副軍師にカイトが任命されていたということ。
カイトめ・・・何にも苦労せずに、ちゃっかり副軍師になんかなりやがって・・・。

軍師に任ぜられたからといって、これで終わりではない。
軍議メンバーの中には、不満があるような顔をした面々もいたらしいし、何よりまだ朝倉家内での話。
ここから、各国武将たちとの戦が始まるんだ。

ードドドドドドー

「?!」

カイトから聞いた内容を、頭の中で整理していた時、こちらに近づいてくる足音がした。

ーガラッー

障子戸が勢いよく開き、顔を出したのは直澄と長徳だった。

「よう!義景様から、お前が起きたって聞いてよ!」

広い部屋いっぱいに響くような大声の主は、もちろん直澄だ。

「お身体いかがですか?」

まだ小さい長徳は、心配そうに声をかけてくれる。

「おかげさまで。」

どんな顔で話せばいいのかわからず、とりあえず愛想笑いを浮かべながら、そう答えた。

「いや~、久しぶりにあそこまでやられたぜ!」

豪快に笑いながら、直澄がそう話しかけてくる。

「俺の時もすごかったが、兄貴や景健様の時はもっとすごかったなぁ!特に、景健様の時の最後の球!魔球・朧!いや~しびれたぜ!」

・・・ん?ちょっと待て。魔球?朧?

「ゴホン。僭越ながら、私、長徳が命名させていただきました。打者が捕らえたと思った球が、ま、まさか消えてしまう・・・ま、まさに魔球・朧の名にふさわしい!」

興奮しているからか長徳も大声になっている。
目をキラキラさせて、魔球と命名している辺りから、やはり子供らしさが漂ってくる。

「魔球・朧ね・・・いいネーミングじゃない?ねえ、翔?」

発言を聞いていたカイトが、微笑みながら、そう言った。

「そうだね。長徳ありがとう。」

俺に受け入れられたのがうれしかったのか、長徳の顔が一段と明るくなる。

・・・あの不思議な感覚。
もう一度、あの球を投げられるのだろうか。

「明日からは軍師の仕事で忙しかろう!今日は、いっぱい飯を食って寝ることだ!」

相変わらず豪快に笑う直澄。
最初は怖かったけど、なんだか親しみやすくていいやつなのかも。
こうして、俺はタイムスリップ当日に朝倉軍軍師に任命された。
ようやく・・・スタートラインに立てたんだ。

この時、これから想像を絶する戦国乱世が繰り広げられることを、俺はまだ知らない。
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