愚者の勲章

Canaan

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番外編

童貞妄想奇譚 ~落日の童貞たち~ 2

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 ロイドを乗せた馬車が帝都の街並みを行く。帝王を一目見ようと年若い女性たちがひしめき合っていた。

「きゃあっ。キングのおでましだわ!」
「ミカド! こっち向いてぇっ!」
 ロイドは奴隷──捕らえた非童貞──に扇子で扇がせながら、自分を見に来た女性たちに手を振って見せた。
 帝王なのでキングでもミカドでもどっちでもいい。この童帝国の市民たちには「童貞こそ至高の存在」という教育を施してある。その頂点に立つロイドは、最高にカッコいい存在と言って良いだろう。
「童貞にあらずんば人にあらず! はっはっはっ!」
 持て囃す声に決めゼリフで応えながら、ロイドは奴隷たちの作業場へ向かうようにと御者に命じた。



「ああっ! ちょっと、ロイド! うちの子たちどこにやったのよ!」
 作業場に入るなり、鉄格子を中からガチャガチャやりながら声を荒げる女奴隷がいる。姉のジェーンであった。
「ね、姉ちゃん……」
「それに、あんたねえ、実の姉にこんなことしてただで済むと思ってんの!?」
「う。そ、それは……」

 ロイドはちょっとたじろいだ。
 童帝国では、処女と童貞が自由市民。非処女と非童貞は奴隷である。非処女とはいえ女性を奴隷の身分に落とすのは気が引けたが、しかし非処女がいるから非童貞がいるのだ。非処女。それは非童貞と同等に罪深い存在である。
 そして童帝国は非処女と非童貞の子供──まあ、普通の夫婦の間に出来た子供なのだが──を取り上げ、穢れた存在から隔離し「非童貞はフケツ。清らかな童貞こそ至高の存在」との英才教育を施している。
 さらに子供たちを、幼いうちから男女別に分けている。教育係ももちろん処女と童貞ばかりだが、年の離れた弟妹がいるとか、孤児院併設の教会にいたシスターだとかもいるので、赤子の世話はそういう人たちに任せていた。

 大人になってもこの帝国では男女が別々のエリアで生活している。自由市民の童貞と処女とはいえ、彼らを一緒にしたら何が起こるか分かったものではない。
 ロイドは至高の童貞として君臨し毎日黄色い声援を浴びているが、それだけだ。たとえ帝王でも男女交際は絶対禁止なのである。それが童帝国の掟だ。

「子供たちは責任もって面倒見てるよ。姉ちゃんが心配することは何もない。作業に戻ってくれ」
「なによ、その言い方ー!」
 基本的に非処女たちの受け持つ仕事は掃除洗濯、裁縫などである。料理も任せたいところだが「非処女の作った飯など食えるか、汚らわしい!!」と主張する童貞もいるので、その辺は賃金を払う形で自由市民を雇っている。我ながら細やかな気配りである。

「あと、ランサムも元気にしてるんでしょうね!」
 姉は監視役の処女たちに腕を引かれながらも──非処女の監視は処女だ。非処女に童貞の監視役などつけたら、堕落させられる危険性がある──夫の身を案じていた。
「ちょっとロイド! 返事しなさいっ! ただじゃおかないからね、覚えときなさいよ!」
 小悪党のようなセリフを吐きながら姉は持ち場に連れ帰られていったが、ランサム……その名を耳にするとロイドの胸はじくじくと痛む。



 ロイドは非処女たちの作業場を通り抜けて、今度は非童貞たちの作業場に入った。非童貞たちは脱走防止のために足に鎖を装着──大股で歩いたり速く走ったりできないように、両の足を鎖で繋ぐのだ──された状態で仕事に就いている。ある非童貞は石を切り出す作業。別の非童貞は木を切る作業。かなりの重労働である。

 まずは木の切り出し作業を行っているエリアを視察する。
 ここには双子の弟であるグレンがいた。
 彼はボロを纏い、切り倒したばかりの木を持ち上げようとしていた。グレンの肌は埃と土まみれで、そこに汗の筋が出来ていく。
 彼はちらりとロイドの姿を見たが、口を開くことなく黙々と作業を続けている。ロイドの顔を見るなり怒り出す姉とは違って、グレンは何も言わなかった。「ようグレン、頑張ってるか? 悔しいか?」とか「いい眺めだなあ!」とかイヤミの一つでも投げつけてやりたかったのだが、グレンの妙な迫力にロイドもまた何も言えずにいた。

 グレンが丸太を担ぎ上げ、ロイドの前を歩いていく。その時、ぼそりと彼が喋った。
「ロイド……何が不満なんだ?」
「えっ……?」
「今のお前の表情……自分の理想の国を創り上げた男の顔じゃないな。何が不満なんだよ」
「……!!!」
「身内を奴隷にしてでも創りたかった国なんだろう? なんでそんな顔してるんだ……?」
「……。」
 ロイドは何も答えられなかった。グレンはかつて「たとえ身内でも容赦しない」といって童貞たちを虐げていた立場の男だ。今ではそれが逆転し、ロイドがグレンをこき使う立場になった。なのに彼の問いに、どうしてこんなに追い詰められた気持ちになるのだろう。
「ど、童貞にあらずんば人にあらず!!!」
 言葉に詰まったロイドはその科白だけを吐き捨てて、そそくさと伐採エリアを後にしたのだった。



 次にロイドが訪れたのは石切り場だ。
 ここでは従兄のヒューイが働いていた。

 石切り場を囲むフェンスの外から中の様子を眺めていると、
「あっ、ロイドじゃなーい! 久しぶりー。元気だった?」
 向こうから背の高い女性が歩いてくる。ヒューイの妻のヘザーであった。非処女の罪により奴隷の身分になったというのに、相変わらずノリが軽い。しかし彼女がこうして石切り場周辺をうろつけるのには理由があった。
 ヘザーのお腹の中には三人目の子供が入っているのである。高身長のせいなのか、外見からは妊婦だとはまったく分からないのだが、思えば彼女は一人目二人目の時も、生まれるギリギリまであまり腹が出てこなかったとロイドは記憶している。
 それでも妊婦に他の非処女たちと同じ労働をさせるのは憚られた。だから男たちの労働エリアをフェンスの外からなら見学していても良いと許可を出したのだ。非処女は罪深い存在だが、ロイドは妊婦に気を使える統率者なのである。

 ヘザーはにこにこと笑いながらロイドの隣までやって来た。
「あのさあ、ロイドにお願いがあるんだけどー」
「……。」
 彼女の次の言葉が簡単に予想できた。
「十分くらいでいいから、ヒューイに会いたいなあー」
「だ、だめだよ。ヘザー姉ちゃんのお願いでも、それはだめだ」
「ええー。いいじゃーん。ね、お願い」
「だめ。絶対だめだ」
 石を切り出しているヒューイを、フェンスの外から眺めるのはいい。でも、会話は許可していない。フェンス越しに触れあうのもダメ。遠くから合図を送るのもダメ。男女交際は禁止! 夫婦でも対面して個人的な会話をするのは禁止! そういう決まりだ。
「それ、厳しすぎない?」
「ヘザー姉ちゃんは、ヒューイが他の奴隷たちに恨まれてもいいのかよ」
 妻と合図を送り合ったりしているなんてばれたら、裏切りとか抜け駆けだとか思われて、ヒューイは恨まれてしまうだろう。
「だから、そこを何とか出来るのがキングなんでしょ。どこか人目につかない小部屋とか用意してもらってさ……」
「だ、ダメだって! そんなにワガママ言うなら、ヘザー姉ちゃんが見学するのも禁止にしちゃうからな!」
「えー……」
 ヘザーはしょんぼりしながら俯き、まだ目立たぬお腹を撫でていたが……唐突に顔を上げた。
「じゃあさ、ヒューイに会わせてくれたら、代わりにおっぱいさわらせてあげる。どう?」
「えっ……えええっ!?」
 ロイドはたじろいだ。後退ってヘザーから距離をとった。

 おっぱい……さわってみたい……!
 でも、でも……ヘザーは非処女なうえに血の繋がりこそないがロイドの身内であり、十四も年上である。
「今ねえ、妊娠してるからかな。ちょっと大きくなってきてるみたい。ほら、お得だよ」
「……!!!」
 いつもより大きいおっぱい……確かにおトクかも……! さ、さわってみたい……いや、非処女のおっぱいなんて何の有難みもない筈だ……そうだろう?

 ロイドが唾を飲み込みながら葛藤を続けていると、
「おい! こら、ロイドォオオオ! ヘザーに触るのではない!」
 フェンスの奥の方からヒューイの怒鳴り声が聞こえてきた。
 そのちょっと後で、ゼェゼェ言いながらヒューイ本人が走ってやって来る。石切り場は石を削り出す音がかなりうるさい筈なのだが、良く聞こえたなとロイドはびっくりした。
 彼はフェンスをガシャガシャ揺らしながら再びロイドに向かって叫んだ。重労働に就いている割にはやたらと元気である。
「いいか、ロイド、ヘザーは僕の妻だ! いくら君だって触れさせるわけにはいかない!」
「きゃあ、ヒューイ! 会いたかったあん」
 ヘザーがキャっと小さな悲鳴を上げて、フェンス越しにヒューイと指を触れ合わせる。ずいぶんと呑気な妻の様子に、ヒューイの顔は一瞬だけ緩んだように見えたが、すぐに不機嫌そうな表情に戻った。
「ヘザー、君も君だぞ! 気安くそんな提案をするのはやめたまえ!」
「ええ~。だって、ロイドだし……ちょっとタッチさせるだけだってば。それでヒューイに会えるなら安いもんかと思って」
「だめだ!」
「えへへ……」
「笑ってごまかすのはやめたまえ! 君はいつもそうだ!」
「うん、ごめんねえ。でもヒューイに会えて嬉しい~。ねー?」
「う。む……」

 痴話げんかを聞きながら、ロイドは思った。ちょっとタッチさせるだけだったのか……。揉んでもいいのかと思い込んでいた。揉めないのならば話にならない。危うく堕落するところであった。穢れなき童貞を惑わすなど、やはり非処女の存在は害悪だ。
 しかも最後の方はケンカではなくただのイチャつきになっているではないか! 非処女と非童貞のイチャイチャなど汚らわしい! ヒューイに至っては普段高潔を気取っているからこそたちが悪い。

「そこまでだ……! ヒューイは持ち場に戻ってくれ。ヘザー姉ちゃんも、今後はこのエリアへの立ち入り禁止」
「ええー!? だって……」
 ヘザーに反論される前に、ロイドはヒューイの口ぶりを真似て宣言した。
「童貞にあらずんば人にあらず! 処女にあらずんば人にあらず! 奴隷は奴隷らしくしたまえ!」
 ロイドは二人が監視役に引き離されるところを確認してから、石切り場を離れた。



 石切り場をも通り過ぎ、丘陵地帯に差し掛かった時、羊を放牧している柵の中からロイドに手を振る者がいた。
「やあ、ロイド……じゃない、ミカド」
「ランサム……!」
 義兄に駆け寄りそうになったがロイドはぐっと堪えた。自分の中に湧きおこる複雑な感情を整理しながら、一歩一歩ゆっくり踏み出していく。
 憧れの存在だった義兄を奴隷の身分に落とすのは、本当に本当に心苦しかった。だが、非童貞は奴隷。この国の決まりなのだ。ロイドだけが身内を贔屓するわけにはいかない。
「視察かい? ミカドも大変そうだね」
「うん、でも、ランサムほどじゃないよ……」
「いや、私は他の男たちに比べたら……」
「しっ……それは言わない約束だぜ」
 ロイドは唇の前に人差し指を立ててランサムに合図した。
 ランサムの仕事は羊の番である。群れから外れる羊がいても牧羊犬が頑張ってくれるから、実はランサムがやることはそれほどない。それも、ランサムが奴隷として重労働する姿をロイドが見たくなかったからだ。だからランサムは持病のリウマチに悩まされているのだとでっち上げて、比較的楽な仕事を彼に回していた。

「キング! 大変だァ!」
 ランサムと話をしていると、丘の向こうから腹心の部下──かつて、共同体の新入りだった男だ。今ではロイドの部下でもあり親友でもある──が、こちらへ駆けてくるではないか。ランサムが健康体だと知れてはまずい。
「ランサム、膝をさすって……!」
「ん? あ、ああ。わかったよ」
 彼は重いリウマチを患っていることになっているので、腹心の部下の手前、痛がるふりをするようにランサムに告げる。
 だが腹心童貞はランサムには目をくれなかった。彼は重大な情報をロイドに持ってきたからだ。
「キ、キング! 大変だ。すぐに来てくれ」
「どうした?」
「脱走者が出たんだ」
「……なんだって!?」



 脱走者とは、奴隷の脱走者ではなかった。自由市民である童貞たちが、何人かの集団となって国を出たという。彼らは置手紙のようなものを残していた。
 ”おっぱいが見たい”、”女の尻を揉んでみたい”、”女の子とキッスしてみたい”……手紙にはそのようなことが記されていた。
「こ、これは……」
 ロイドは手紙を握りしめ、声を震わせた。
 腹心童貞が頷いた。
「ああ……みんな、女に飢えてるんだ。それで、我慢できなくなった奴らが脱走した」
 おっぱいが見たい云々は、最終的にはセックスがしてみたいということなのだろう。童貞だから直接的なことは恥ずかしくて書けなかったのだ。
 彼らは童帝国を脱出し、童貞も非童貞も、処女も非処女も共存できる理想郷を探しに行ったらしい。

「なんて馬鹿なことを……!」
 外の世界の恐ろしさも知らずに、なんて馬鹿なことを。ロイドはそう思った。この国を一歩出たら「童貞はカッコ悪い」「童貞は可哀想」……迫害まではされなくても、小馬鹿にするような眼差しや憐れみの視線が待っているに決まっている。
「童貞を手厚く保護している国なんて、ここ以外にないというのに……!」
 脱走童貞たちは失望して帰ってくることになるだろう。広い心で許すべきか。いや、それでは真面目に過ごしている者たちに示しがつかない。何か罰則を設けるべきだろう。でも、あまり厳しいものはどうか……。

「君はどう思う」
 腹心童貞に意見を求めようと、ロイドは彼を振り返る。だが腹心童貞はロイドから目を逸らした。
「……どうした?」
「……れ、も……」
「うん?」
「俺も、女の子とイチャイチャしてみてえ!」
「なっ……何を言い出すんだ!」
「非処女でもなんでもいい! 俺もおっぱいが触ってみてえんだ!」
「おい、どうしてしまったんだ、本当に」
 先ほど非処女のおっぱいに惑わされそうになっていた自分自身のことは棚に上げ、ロイドは腹心童貞を問い詰めた。
「あの日、俺は君に約束した。童貞たちが安心して暮らせる国を創るって……童帝国は、あの日の約束を糧に創り上げた国なんだぞ!」

「キング、いや、ロイドさん……」
 彼は俯きながらも、訥々と語り出す。
「あんたのやってることは、前の国がやっていたことと同じじゃねえのか? 確かに童貞が虐げられることはなくなった。けど……童貞と非童貞の地位が入れ替わっただけじゃねえか」
「そ、それは……! 仕方のないことだ。奴らは俺たちを虐げていたんだからな。それに、童貞と非童貞の間には決して埋まることのない深い深い溝がある。童貞と非童貞が共存するなんて、無理な話なんだ……!」
「だからってよぉ……」
 そこで腹心童貞は顔を上げた。真剣な眼差しで真正面からロイドを見据える。そこには覚悟のようなものがあった。
「だからってよォ、『童貞と処女こそ至高の存在』……こんな洗脳をするのはどうかと思うんだよ」
「洗脳ではない! 教育だ!」
「教育……? 童貞と処女のままで、俺たち、どうやって増えるんだ?」
「!!!」
「処女が卵産むのか? そんで、童貞がぶっかけりゃ卵が孵るのかァ? ……違うよなあ?」
「そ、それは、それは……」
 正直なところ、そこまで考えていなかったロイドである。身体を清く保ったまま繁殖する……いったいどうやるというのだ。よその国から子供をさらってくるのか? それでは余計な敵を増やすだけだ。他国と戦争なんてことになったら、ここは安住の地とは呼べなくなってしまうだろう。

 ロイドがあたふたしている間にも、腹心童貞は荷物の準備を始めていた。
「ロイドさん、世話になったな。でも、俺も出ていくことにする! あばよ、達者でな!」
「あっ、待て! 腹心童貞ッ! 腹心童貞ーーッ!!!」

 ロイドはこの時、双子の弟の、何か含みのある態度と言葉を思い出していた。グレンは、こうなることが分かっていたのだ。とっくに知っていたのだろう。童帝国の崩壊が近いことを。
 そしてロイド自身も分かっていたのかもしれない。誰かを虐げて成り立つ国なんて、長く続かないのだということを。



***



「うっ、ま、待て……!」
「……イド様……?」
「ま、て、……」
「ロイド様?」
「……ハッ」

 ロイドが目を開けると、そこには妻のデボラの顔があった。
「えっ? あれっ? 俺……」
「ずいぶんと魘されておりましたが、悪い夢でも見ましたか」
 彼女は心配そうにロイドの顔を覗き込んでいる。ロイドも起き上がって周囲を見回してみると、そこは、今ではもう見慣れたシラカ城の寝室の中だった。ナイトテーブルの上のランプが、美しい妻の顔を優しく照らしていた。ホッとする光景だった。

「ゆ、ゆめ……?」
「……起こして良いものかどうか迷いましたが、あまりに苦しそうだったので」
「ゆ、夢かあ!」
 ロイドは大きなため息をついて胸を撫で下ろす。
「ああー、良かった! 夢かあ……俺の方こそごめん。君を起こしちゃったみたいだ」
 デボラは首を振った。彼女は自分の眠りを妨げられたというのに、ロイドを悪い夢から救うことが出来て良かったと言った。
「お可哀想に……とても恐ろしい思いをされたのですね」
「うん、夢で良かったよー」
「きゃ、ロイド様……」
 天使のように優しい妻を、ロイドは思わず抱きしめていた。
 細くて柔らかな身体を抱きしめながらも、豊かな胸に顔を埋めてその弾力を楽しむ。
「ああー、デボラのおっぱい、ふかふかー」
「もう、ロイド様は意外と甘えっ子さんなのですね……」
 デボラはくすくすと笑いながらロイドの背中を撫でてくれた。

 ロイドが脱童貞してだいぶ経つが、童貞時代の苦しみは未だに心のどこかに巣食っていたようだ。あんなに恐ろしい夢を見てしまうなんて。
 でも、あれはデボラと結婚するための試練だった。そう思うとなんて事はない気もする。デボラの胸に顔を埋めるだけで、疲れや悩み事はすべて吹き飛んでしまうのだから。
 ロイドは自分だけのおっぱいにむにむにと顔を押し付けながら、夢に出てきたヒューイのことを思った。非処女(ヘザー)のおっぱいごときに何をムキになっているのだ、ケチケチすんな! と夢の中でロイドは考えたが、彼も自分だけのおっぱいを守るために必死だったのだ。あの時の彼は、自分だけのおっぱいを守る戦士だったのだな、と。

 デボラのふかふかの胸の感触を存分に味わっていると、
「あの、ロイド様……」
 彼女はちょっと言いよどんでいる。
「……うん?」
 何か、改まって話したいことがあるのだろうか。ロイドは顔を上げ、言葉の続きを促した。彼女の頬を両手でそっと挟んで見つめ合うと、デボラがまた喋りはじめる。
「今度、キドニスの街からお医者様に来てもらおうと考えています」
「……デボラ?」
「はい。まだ確実ではないのですが……でも、おそらくは……」
 彼女は目を伏せ、手のひらを自分のお腹に当てた。

 それは、デボラのおっぱいが、ロイドだけのものではなくなってしまうらしいという、喜ばしい報せであった。



(番外編:童貞妄想奇譚 ~落日の童貞たち~ 了)


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