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第七話
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私の父、カテナ子爵ステファノは元は平民で、隣国との戦争で際立った武勲を挙げたことによってカテナ子爵家を創立した軍人だ。何でも、百人で国境の砦に立て籠もり、数万にも及ぶ隣国の大軍の侵攻を二ヶ月にわたって防いだそうな。
そんな父は、没落貴族の娘である母ジュディッタと恋に落ち、母を迎えるために武勲をアピールして貴族の身分を得て結婚を果たしたらしく、何かと苦労したそうだ。貴族の身分にこだわりがあり、だからこそ娘の私を同じ貴族に嫁がせたいと思っているだろう。
しかし、実際には、私は貴族の婚約にまったく向いていなかった。
「なるほど、ブレッツィ伯爵家といえば確かに歴史ある名家だ。それで、婚約の話は成立せず、と?」
クリュニーの指摘に、またしても私は頷くしかない。
「多分、私がダンスを踊れないから、貴族令嬢として問題があるから、父は他の家にブレッツィ伯爵家の子息を紹介して、そちらで婚約が決まりそうだという話です」
ここまで話して、やっとクリュニーは私が落ち込んでいる理由を察したらしく、目を泳がせ、言葉を選んで、私を慰めてくれた。
「何というか、傷つくかもしれないが、貴族の家同士の話っていうのはそういうものだ。気にしないほうがいい」
「そう思います。でも、やっぱり、父も私のような娘は嫌なのだろうと思うんです」
「踊りができないからって? ただそれだけで? 見てみなよ、精霊ちゃんだって怒ってる」
クリュニーが両手で持つクラゲ型の精霊ジーナは、横に引き伸ばされて細長い足を何本もばたつかせ怒っているようにしか見えない。しかし、細長い足の一本は、私の指に絡まりぎゅっと握って、まるで励ましてくれているようだった。
ただしクリュニーは言葉を選びすぎて、あろうことか豆知識でお茶を濁そうとしていた。
「このあいだの歴史書で見たと思うんだが、大昔は舞踏会は精霊のための舞を競うためのものだった。他国の影響で、次第に王侯貴族の男女の社交界になってしまったけど、元は精霊と波長の合う卓越した踊り手を探すための場でもあったんだ——って、うぅむ、すまない、慰めるのは慣れてなくて」
うっかり私は、そうですね、と相槌を打ってしまうところだったが、何とか未遂に終わった。
気まずい空気が漂い、私とクリュニーは精霊ジーナをもて遊び、緊張がほぐれるまで無言だった。次第に精霊ジーナも触られすぎたのか、クリュニーの手から逃げ出して空中をぷかぷか浮き、太陽光が半透明の青い体で柔らかく分散されていた。
私は、気遣ってくれたクリュニーに礼を言おうとする。
「クリュニーさん、話してしまった私が言うのもあれですけど、本当にお気遣いなく」
「ごめん……よし、気晴らしに他のことをしよう!」
妙案でも思いついたらしく、クリュニーは閃いたとばかりに指を鳴らす。
「アリアン、ひょっとして舞踏会に出たことは……ないね?」
——そんなもの、あるわけがない。他人の踊りを見ることすらできないのに。
その言葉を、私は意地を張って、口に出せなかった。だから、私の気持ちなど知らず、クリュニーはすみやかに話を進めていく。
「よし、ちょっと見に行こう。後学のためにも、見ておいたほうがいい」
「そんなこと、できるんですか?」
「正面から行くわけじゃないよ。こっそり見せてもらうだけさ。夕食の後、図書館に来てくれ。前と同じところだ、カーン先生には話を通しておくから」
言うだけ言って、クリュニーは精霊ジーナを呼んで、一目散に校舎の方角へと走り去った。
残された私は、ちょっとだけ考える。
(断ればよかったけど……でも、何でだろう、舞踏会を一度見てみたいって思ったのよね。踊りなんて見たくもないのに、どうかしてるわ、私)
その自分のほんのちょっとの変化を、私はああでもないこうでもないと悩んで、自分の考えに納得が行かないまま、夕食後を迎える。
そんな父は、没落貴族の娘である母ジュディッタと恋に落ち、母を迎えるために武勲をアピールして貴族の身分を得て結婚を果たしたらしく、何かと苦労したそうだ。貴族の身分にこだわりがあり、だからこそ娘の私を同じ貴族に嫁がせたいと思っているだろう。
しかし、実際には、私は貴族の婚約にまったく向いていなかった。
「なるほど、ブレッツィ伯爵家といえば確かに歴史ある名家だ。それで、婚約の話は成立せず、と?」
クリュニーの指摘に、またしても私は頷くしかない。
「多分、私がダンスを踊れないから、貴族令嬢として問題があるから、父は他の家にブレッツィ伯爵家の子息を紹介して、そちらで婚約が決まりそうだという話です」
ここまで話して、やっとクリュニーは私が落ち込んでいる理由を察したらしく、目を泳がせ、言葉を選んで、私を慰めてくれた。
「何というか、傷つくかもしれないが、貴族の家同士の話っていうのはそういうものだ。気にしないほうがいい」
「そう思います。でも、やっぱり、父も私のような娘は嫌なのだろうと思うんです」
「踊りができないからって? ただそれだけで? 見てみなよ、精霊ちゃんだって怒ってる」
クリュニーが両手で持つクラゲ型の精霊ジーナは、横に引き伸ばされて細長い足を何本もばたつかせ怒っているようにしか見えない。しかし、細長い足の一本は、私の指に絡まりぎゅっと握って、まるで励ましてくれているようだった。
ただしクリュニーは言葉を選びすぎて、あろうことか豆知識でお茶を濁そうとしていた。
「このあいだの歴史書で見たと思うんだが、大昔は舞踏会は精霊のための舞を競うためのものだった。他国の影響で、次第に王侯貴族の男女の社交界になってしまったけど、元は精霊と波長の合う卓越した踊り手を探すための場でもあったんだ——って、うぅむ、すまない、慰めるのは慣れてなくて」
うっかり私は、そうですね、と相槌を打ってしまうところだったが、何とか未遂に終わった。
気まずい空気が漂い、私とクリュニーは精霊ジーナをもて遊び、緊張がほぐれるまで無言だった。次第に精霊ジーナも触られすぎたのか、クリュニーの手から逃げ出して空中をぷかぷか浮き、太陽光が半透明の青い体で柔らかく分散されていた。
私は、気遣ってくれたクリュニーに礼を言おうとする。
「クリュニーさん、話してしまった私が言うのもあれですけど、本当にお気遣いなく」
「ごめん……よし、気晴らしに他のことをしよう!」
妙案でも思いついたらしく、クリュニーは閃いたとばかりに指を鳴らす。
「アリアン、ひょっとして舞踏会に出たことは……ないね?」
——そんなもの、あるわけがない。他人の踊りを見ることすらできないのに。
その言葉を、私は意地を張って、口に出せなかった。だから、私の気持ちなど知らず、クリュニーはすみやかに話を進めていく。
「よし、ちょっと見に行こう。後学のためにも、見ておいたほうがいい」
「そんなこと、できるんですか?」
「正面から行くわけじゃないよ。こっそり見せてもらうだけさ。夕食の後、図書館に来てくれ。前と同じところだ、カーン先生には話を通しておくから」
言うだけ言って、クリュニーは精霊ジーナを呼んで、一目散に校舎の方角へと走り去った。
残された私は、ちょっとだけ考える。
(断ればよかったけど……でも、何でだろう、舞踏会を一度見てみたいって思ったのよね。踊りなんて見たくもないのに、どうかしてるわ、私)
その自分のほんのちょっとの変化を、私はああでもないこうでもないと悩んで、自分の考えに納得が行かないまま、夕食後を迎える。
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