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第三話

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 三階まで吹き抜けのエントランスで待っていたベルは、ふんにゃりした笑顔で私に抱きついてきた。

「ああ、レティ! 会いたかったわ!」
「ふふ、私もよ、ベル。お誘いありがとう」
「ねえ、早く見に行きましょう。初めて見る異国の品物もたくさんあるの。わくわくするわ」
「はいはい、行きましょうね。楽しみだわ」

 私は嬉しさのあまり興奮気味のベルの背を押して、異国の品々を置いている部屋へと向かった。廊下ですれ違う使用人たちは忙しそうだがきちんと躾がなされていて、ベルと私へしっかり足を止めてお辞儀をし、それから通り過ぎていく。彼らは使用人でもあるが、貿易商であるブランモンターニュ伯爵家の従業員でもある。才覚よく、将来有望な商人やその子女たちもここでたくさん奉公しているのだ。

「最近はきちんとした中継地のある定期航路が多く拓かれて、異国の商人たちも遠路はるばるこちらへ来ているの。今までよりずっと多くの貿易がなされて、こちらの品物も向こうへ大量に渡っているわ。お互いに見たことのないものを珍しがって、交換しているような状態だそうよ」

 ベルはこともなげにそんな話をするが、貴族の令嬢がそういう話をするのはあまり好まれない。貴族令嬢はそんな市井の話などせず、紅茶のブランドやドレスの仕立ての話をしていればいいのだ。女が商売の話をすることを嫌う貴族の男たちは意外といる、そのくせ値段を見ずにネックレスやブローチを買うと嫌味を言うのだから矛盾している。

 観音開きの白く塗られた扉を、ベルは自ら開けて私を部屋の中へ誘う。ここは倉庫としてよく使われている、とベルは言ったが、私たちの身長よりさらに高い棚が並び、所狭しと木箱や布に包まれたものが置かれているほかは、花柄の壁紙や大きな窓の装飾、カーテンからごく普通に応接間にもなりそうな部屋だ。床は大理石で、歩くとカツンカツンとヒールが鳴る。

 その倉庫兼部屋の隅に、ベルは私を呼び寄せた。大きめの木箱の蓋を開けて、白詰草を掘って中にある小箱をいくつも外に出していく。私は横で、ベルの解説付きで興味深く眺めていた。

「ここにはね、はるか西方、大海を越えた先にある何千年と続く文化圏の品物ばかりあるの。そこは何百万人もいる都市がいくつもあって、東西に流れる大河には南北に行き来するための大運河が整備されていて、人々はその国の皇帝に毎年穀物や税のほか、美しいものや珍しいものを献上するんですって。すると皇帝は気に入ったものを贈った民に褒賞を与えて、お城に取り立てることもあるらしいわ。中には光る貝殻を使った装飾品や、大海を泳ぐ象より大きな魚の皮を何年もかけてなめした敷物もあるとか」
「へぇ、見たことも聞いたこともないものが、そんなにあるのね。はあ、世界は広いわ」
「ええ、そうでしょう? 世界は広いの。すごく楽しいわ」

 ベルは本当に、心の底から嬉しそうに笑っていた。

 ところが、箱の中から奇妙なものが出てきて、その顔は困惑してしまった。

「あら? これは……何かしら。何だか、気味が悪い模様ね」
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