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第二十一話

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「ええ、とっても。今日はお忙しい中、お時間をいただき感謝いたしますわ。何分、急を要する……機微な話なのです」
「ふむ。少々待ってください、人払いをしておきましょう」

 フロコン大司教様は部屋の外に出ると、扉のノブに赤い札をかけて戻ってきた。部外者は近寄るな、という意味だろうか。

 扉をしっかり閉めて席に戻ると、ガラスの水差しから歪な二つのコップに水を注ぎ、フロコン大司教様は私へ好きな席に座るよう促した。

「さて、マドモアゼル・レティシア。ゆっくりでかまいません、ご用件を伺いましょう。何、あなたの真剣な表情を見れば、どれほど差し迫った話題かは嫌でも分かります。ゆえに慌てず、落ち着いて、この老人にも分かるよう話していただけると助かります」

 プランタン王国有数の碩学せきがくは、どうやら聞き上手であるようだった。

 私は——ブランモンターニュ伯爵家で見つけた小瓶と、ベルの異変、忠次の魂がベルに取り憑いた状態であること、それから今日までのことをフロコン大司教様へと話した。私がベルをこんな目に遭わせたこと、そして忠次は決して悪さをしていないこと、むしろベルのために進んでやりたくないであろうことも請け負ってくれていることを付け足す。

 さすがに碩学といえど、他人の魂が肉体に入って意識を乗っ取ってしまった、という事例は珍しいのか、目に好奇心の色を隠せていなかった。私が一通り話し終えて、フロコン大司教様は考えを巡らすように、腕を組んで天井を見上げていた。

「それは……何ともまあ、奇怪な」

 ここまではあくまで情報共有であり、私はここに来た目的をできるだけ丁寧に、間違いのないよう伝える。

「ベルが嘘を吐いたり、演技をしたりはできない娘だと私はよく知っています。それに、取り憑いたという忠次チュウジはベルが知るはずのないことも多く口にしていました。教えてください、異国では、人間の魂を封じるような魔法があるのでしょうか? もしあるなら、何とかベルを元に戻したいのですけれど、その手段があるかどうかも教えてくだされば」

 一息にそこまで言ってから、私は自分が慌てていることに気付き、すっと深呼吸をした。私が慌てたところで、何もいいことはないのだ、と自分に言い聞かせる。歪なコップを手にしたとき、そのコップがあまりにも握る右手にしっくりとくることに驚いて、それから水の冷たさを感じながら、一口飲む。

 私が落ち着くために水を飲み終わるのを待っていたかのように、フロコン大司教様は冷静に、先ほどまで見えていた好奇心を横に置いて、話しはじめた。

「確かに、この世界にはそのような技も存在するのやもしれません」
「でしたら」
「しかし、あまりにも我々はそれを知らない。その小瓶しかり、文字しかり、異国においてその意味があるとは分かっても、それを再現する方法はまったく思い当たらないのです。それでも誤解を恐れずに申し上げるならば……人間の魂を体から引き離すような外法は、今には伝わっていないでしょう」

 ——どういうことだ?
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