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第三十二話
しおりを挟む「あっ……ううん、あなたを責めるつもりじゃないの。あなたのおかげでベルも大兄様も助かったんでしょう? だったら」
「姐さんに心配かけちまった。姐さんに泣きそうな顔をさせちまって、申し訳ねェ」
忠次は、私がさっき涙を堪えたことに気付いていた。
恥ずかしいような、情けないような、知られたくなかったことだが、私は——だったらと逆に胸を張る。
「じゃあ、これからは気を付けてね。本当に命の危険が差し迫ったとしても、私が泣いちゃうようなことはできればしないで。ベルだって泣いちゃうから」
「へェ、肝に銘じまさァ!」
「うん」
頭を上げた忠次は、ちょっとだけ誇らしげだった。その理由は知らないが、きっと悪いものではないだろう。
それはそうと。
私は、本題をやっと切り出した。
「こほん、ここからが本題なの。ブランモンターニュ伯爵家から連絡があったわ。明日、ベルのお父様——おじ様がこちらへいらっしゃるそうよ。婚約破棄の件もそうだし、大兄様とのお見合いも、今日の誘拐事件についてもご説明しないといけないわ」
これには私と忠次は揃ってうーんと頭を抱える。
「どうにかお嬢に出てきてもらわねェと、さすがにお身内を騙せやしねェかと」
「どうしよう」
今まで何とかブランモンターニュ伯爵家から忠次inベルを遠ざけてきたが、それも限界に近づきつつある。このまま忠次がベルのフリをして強行突破する、ということも考えなくてはならないが、あまりにもバレたときのリスクが高すぎる。
ならば、奥の手だ。私は今日学んだ緊急事態対応方法を、今こそ使うときだと決断する。
「仕方ない。フロコン大司教様から教わったあれを試すとしますか」
「あれ?」
「できればやりたくなかったんだけれど」
私は立ち上がり、図書室の本棚から適当な本を取り出す。角はダメだ、表紙で叩ける頑丈なものがいい。
何かを察した忠次が身を翻していた。しかし、私はすでに両手で本をしっかり握り、振りかぶっている。
「ベル、あとで謝るから! てい!」
「ごふ!?」
——どこに当てたかって? 大丈夫、背中だから。頭じゃないから、死ぬことはないわ。そう聞いているわ、うんそのはず、多分。
振り抜いてから、私がやっとの思いで顔を上げると、吹っ飛んだ忠次が本棚に張り付いていた。
果たして、成功したのか?
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