あなたが婚約破棄したいと言ったので私は腹黒宰相様と一緒に叶えてあげました

ルーシャオ

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第七話

 そんな騒がしい『寮』の先輩たちにポスター貼りは任せ、私は『学園』大ホールの管理課担当者との打ち合わせに向かう。学生だけではなく、『ステュクス王国の使者』をはじめVIPが多く列席するから、開演時間の調整や警備の相談をしておかなくてはならない。

 その途中で、私はニキータとばったり出会った。誰もいないテラスで煙草を一服していたようで、少し煙草くさい。

 私を見つけてか、何だか悪い顔をしているニキータは、嬉しそうにこう言った。

「メアリ、急ぎ使者を送っておいた。近隣の王侯貴族たちも重い腰を上げてやってくるだろう」

 私はすぐにその意味が分かった。そこまでするか、とも思うが、ニキータはそういった嫌がらせが得意な——というよりも『本業』のようで、他にも自主的に色々と手を回してくれている。

「ありがとうございます。証人は多いほうがいいですから」
「そうだろうとも。ベイリンもヘプタコルムのお偉方を引き連れてくるそうだ、これで逃げ場はない。もっとも、獲物はそうは思わず、飛び込んでくるがね」

 はっはっは、とニキータは口の端を上げて、悪い笑みを浮かべていた。先ほどの女子生徒たちの笑みなど比べものにならないほど、堂に入った邪悪さだな、さすが本職、と私は思う。

 何にせよ、仕掛けは順調だ。あと二日、やり遂げてみせる。

 ニキータは去り際に、私の頭をぽんと撫でた。

 するりと頭から、顔、頬へニキータの手が滑り落ちる。その手は私の髪の毛を軽く握ったままで、長い指先で弄んでいた。

 ニキータの爛々とした金色の瞳が私を見つめていた。突然のことで私は、ニキータのまつ毛長いなとか、煙草くさいなとか、色々と思い浮かぶことで頭がいっぱいになる。

 ニキータは、伊達男という表現が本当によく似合う。やんごとない身分だろうに、その姿は熟練の賭博師が身なりを整えました、とばかりだし、黒づくめの服装の中にもセンスが光る。昨日ちらっと見たジャケットの裏生地なんて、全体に銀糸の刺繍が入っていた。あれは高価そうだ。ブーツにしたってズボンにしたって最高級の黒毛羊の皮革だし、一分の隙もなく真っ黒く染めた絹入りのターバンなんて恐ろしい値段だろう。

 それに——ニキータは、私に失望しない。ベイリンと同じ、そしてベイリンよりもずっと私に協力的だ。もちろんその方向性はとんでもないが、そこには彼なりの美学があるようだった。

 だから、ニキータはこんなことを口にしていた。

「君が努力するさまは、誰も否定できぬほど美しいということを忘れてはならないよ」

 ニキータは指先で私の頬を撫でて、髪の毛をはらりと手放す。

 そのまま、ニキータは別の悪巧みのためか、どこかへ去っていった。

 私は立ち止まり、何度もニキータの言葉を頭の中で反芻する。

 私は心のどこかでもう諦めていたのだろう。褒められることも、認められることも、神の加護がない私には無理だと。何をしたって、足掻きにすぎないと。

「……美しい、なんて思ってくれるんだ」

 それはお世辞や社交辞令かもしれない。でも、私は——信じた。
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