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第八話 セレネの後悔、ジャンの発見
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大兵営本陣建物内へやってきたセレネは、ジャンを引き連れて早足で食堂へ向かっていた。
とにかく、周囲の目が気になる。普段ならそこまで気にならないのだが、セレネが男性を連れているとなれば、兵士たちの目の色が違う。厳重警戒の雰囲気がどこへ行っても付きまとい、セレネの身の安全を極度に心配する誰かしらに見張られているのだ。
それはジャンも気付いていたようで、早足のセレネについて行きながら問いかける。
「何だか、あちこちから見られているようだが、君は大兵営では有名人なのか?」
「気にしないで。それより、お肉は好き? バスケットの中はローストビーフのサンドイッチなんだけど」
「ああ、好き嫌いはない」
「よかった」
セレネもこれで誤魔化せるとは思っていない。他に何か話題は、と頭の引き出しを探していると、ふとあることを思い出した。
セレネよりもずっと背が高く、ブラウンの長髪は優雅で、美人で有名なエールヴェ伯爵令嬢ユーギット。彼女とジャンは、恋人ではないか? よく考えれば、恋仲だと思っていたが、はてそんな噂を聞いたことはあっただろうか。
こうしてはいられない。セレネはもどかしい気持ちを何とかするために、ジャン本人へ聞かねばならなかった。
「あの、ほら、あなたが……貴族学校で、エールヴェ伯爵令嬢とよく話していたけど、恋人なの?」
「違う」
ピシャリ、とジャンは否定した。その強い断定口調に、セレネは(な、何だってー!?)と心の中で叫ぶしかない。
今までセレネがジャンとユーギットを嫉妬してきたことは何だったのか。見当違いの誤解だった、という現実がセレネはまだ受け入れられないが、そうとは知らずジャンは追い討ちをかけた。
「彼女と僕では釣り合わない。もちろん、君ともだ。僕は所詮、平民だからな」
その言葉を聞いて、しばし、セレネは考えた。
考えながら早足で歩き、閉店中の看板が掲げられた食堂の扉の前で、セレネはやっとジャンの言葉を呑み込めた。
(平民だから……婚約できない? え? それが断られた理由? あれ? ジャンは……えっと、そう、ド・ヴィシャ侯爵家の)
そこまで考えてから、セレネは機微な関係性——婚外子、という単語を避け——を直接口にしないよう、ジャンの身分を確かめようとする。
「じ、じゃあ、ド・ヴィシャ侯爵家は……?」
「僕が継ぐことは絶対にない。単に、僕の血縁上の父親がかの侯爵だというだけ、今はただのパトロンだ。僕の箔付けにと、君との婚約を進めようとしていただけだろう。僕は、そんなことに誰かを利用するなんてまっぴらだ」
だんだんとジャンの語勢が荒くなる。この話題はよほどジャンにとって腹立たしいものらしく、ジャンと父親であるド・ヴィシャ侯爵との関係がよろしくないことは明白だった。
おそらく、ジャンは父親の出身階級である貴族がさほど好きではなく、婚約も望まないものだった。貴族の父を持ちながらジャンは自身を平民と強調し、セレネが嫌いだからではなく貴族だから婚約しない、ということだとセレネはやっと理解した。
大人げないと言えば大人げなく、子どもの癇癪にも近い理由だが、セレネはストンと腑に落ちたのだ。
セレネだって、元王女だからという理由で婚約を利用されたことが明らかなら、多分怒る。恋なんか絶対に成立せず、逃亡を図ることさえありえる。それと同じなのだと分かれば、ジャンの気持ちは痛いほど理解できるのだ。
セレネは、食堂の扉を押し開けた。厨房はもう片付けに入っていて、食堂のテーブルは一部を残して椅子をテーブルの上にひっくり返して載せてしまっている。出入り口の扉から一番近いところにある、まだ椅子が床についたままのテーブルを見つけて、セレネはジャンへ座るよう促した。
「そっか。そういう理由で婚約を断るってことなんだ」
「ああ。貴族は貴族と結婚したほうがいい、それが順当で、幸せを得られるというものだろう。僕も僕の母も、貴族に関わってしまったばかりに色々と苦労をさせられた」
着席して、正面を向いて、バスケットを挟んでジャンを捉えて事情を聞かされれば……セレネはもうすっかり婚約が成立しなかったことが当然の成り行きだとさえ思えるようになっていた。というよりも、元から強引すぎて話し合いの余地がない。ここまで来れば、セレネもジャンへ婚約を迫る無意味さを悟った。
ちょっとだけセレネは大人になった気がしたので、素直にジャンへ感謝した。
「ありがとう、正直に話してくれて。少しだけど、疑問や不安が解けたわ」
「どういたしまして……と言うべきなのか、君には謝るべきなのか」
「いいの! そんなことを言ったら、私は多分」
それ以上は言ってはいけない、とセレネは思わず口を手で押さえた。
ジャンはおそらくセレネのことをよく知らない。貴族に詳しくなさそうだし、厄介なセレネの事情なんて知らないままのほうがいい。巻き込んではならないのだ。
「うん、そうよね。私も、私のせいであなたに迷惑をかけたくない。まあ、そんなことを言ったら、一生独身でいなきゃいけないけど! あはは!」
セレネは笑って誤魔化した、つもりだった。
だが、笑って誤魔化せるほど、セレネが背負ってしまったものは軽くない。元王女という肩書きがある以上、セレネは好きな人と結婚するなんて夢物語は諦めなければならない。心から好きな人に、そこまでの迷惑をかけたくないからだ。
そんな事情は、セレネが生きているかぎり付きまとう。セレネがこの国の国王に疎まれている、なんて知れば、年若い男性のほぼ全員がセレネとの結婚を躊躇うだろう。セレネが譲歩に譲歩を重ねて結婚相手を権力を握る老人に絞ったところで、そんな面倒は嫌だと言うに違いない。
かくも厳しい現実に、セレネはうなだれた。恋も結婚も、すでに絶たれた道なのだと思うと、思春期の少女の心には嫌気が差す。
「はー……もうどこかの国に移住しようかな。誰も私のことを知らないところに行くとか、そういう感じで」
それは叶うことのない夢だ。元王女が国外に出ること自体が根も歯もない疑惑を生じさせるし、国外ならこれ幸いと暗殺者が送り込まれてくる可能性が高い。それに、よくしてくれているサンレイ伯爵家を捨てていくなんて、とてもではないがセレネにはできない。土台、無理な話なのだ。
ところが、である。
ジャンは、その夢のような話を真面目に受け取って、諌めてきた。
「無礼に無礼を重ねるようだが、言わせてもらっても?」
「え? 何?」
「理想郷など、世界中探しても存在しないぞ。僕だって分かっている。だから、この嫌なことしかない国にしがみついているんだ」
ジャンの諫言は、至極真っ当だった。
生まれた国を離れればどこかに楽園があるなどと考えるほど、愚かなことはない。それは苦境を直視せず、逃げているだけなのだ。
今まであまり叱られることもなく、いい子として扱われてきたセレネにとってその諫言はグサリとストレートに胸へ刺さり、テーブルへ額をぶつけるほど落ち込ませるには十分な威力を発揮した。
「ごめんなさい、馬鹿みたいなこと言った……本当、今の忘れて、私の馬鹿」
「……気遣いはありがたいよ。でも、逃げてもどうにもならないんだ、きっと」
二人揃って沈痛な面持ちで、ため息を吐く。
世の中はどうしようもないことだらけで、どうにかしたいけど逃げることさえできない。
(私はともかく、天才って言われてるジャンでもそうなんだ。でもなあ……本当にそうかなぁ……?)
それはほんのわずかに生じた、無邪気な好奇心による純粋な疑問だった。
後先考えないと言われればそれまでで、失恋から始まり今日一日ですでにメンタルがズタズタなセレネは、ポンと口をついてその問いが飛び出し——ちょっと親しくなったジャンへ、聞いてみたくなっただけだったのだ。
テーブルに突っ伏したままのセレネのささやかな、何も考えていないその言葉が、歴史を動かす。
「じゃあさ、たとえばなんだけど、その」
「どうぞ。僕が聞いてもいいことなら」
「えっと……私、父上とずっと喧嘩をしてて、それで……暗殺者とかけしかけられるんだけど」
「あ、暗殺……?」
「まあ、今まで大丈夫だったからそれはよくって! でもさ、これからもそれがあると思うと嫌じゃない!? だからどうしようかなって!」
「待ってくれ。サンレイ伯爵が、君を」
「違う違う、私の本当の父上のほう! 今の国王なんだけど!」
セレネは、自分が何を口走ったのか、この時点でやっと気付いた。
いつの間にか、言わないようにしていたはずの事情を自らぶちまけていた。目の前のジャンも、開いた口が塞がっていない。
ジャンは、ぎこちなく頬を引きつらせていた。
「嘘、じゃないよな?」
普通に考えれば、この場は誤魔化すべきである。しかし、国王の子であるとのたまった挙句に、どう誤魔化しても角が立つことしか言っていないセレネは、額に溢れる冷や汗と真っ青になった顔を隠すようにまたしてもテーブルに突っ伏した。
「私の馬鹿……何で身内の恥を言いふらすの……本当、馬鹿……」
セレネの今の気分は、「もうどうにでもなーれ」である。
人生の初めから今までまったくもってどうにもならなかった、とセレネが後悔しはじめた矢先。
ジャンが、きわめて固い声色でセレネの名を呼んだ。
「セレネ」
「はい?」
「君は、王女なのか?」
「まあ、元がつくけど、一応。放棄前提だけど、王位継承権もあるし」
繰り返すが、今のセレネの気分は、「もうどうにでもなーれ」である。
ほとんど暴露したのだから、もう何を言っても変わらない。そう思ったのも束の間、ジャンが豹変したように頭を抱えて叫んだ。
「わけが分からない! 説明してくれ!」
「ひゃい!?」
飛び起きたセレネは、かくかくしかじか、洗いざらい己の身の上を語る。
それを聞いて、ジャンは天を仰いでいた。なぜそうなるのか、とセレネが尋ねる前に食堂へカーネリスの部下たちが駆け込んできて、セレネとジャンをカーネリスのもとへと慌てて引っ立てていったのだった。
とにかく、周囲の目が気になる。普段ならそこまで気にならないのだが、セレネが男性を連れているとなれば、兵士たちの目の色が違う。厳重警戒の雰囲気がどこへ行っても付きまとい、セレネの身の安全を極度に心配する誰かしらに見張られているのだ。
それはジャンも気付いていたようで、早足のセレネについて行きながら問いかける。
「何だか、あちこちから見られているようだが、君は大兵営では有名人なのか?」
「気にしないで。それより、お肉は好き? バスケットの中はローストビーフのサンドイッチなんだけど」
「ああ、好き嫌いはない」
「よかった」
セレネもこれで誤魔化せるとは思っていない。他に何か話題は、と頭の引き出しを探していると、ふとあることを思い出した。
セレネよりもずっと背が高く、ブラウンの長髪は優雅で、美人で有名なエールヴェ伯爵令嬢ユーギット。彼女とジャンは、恋人ではないか? よく考えれば、恋仲だと思っていたが、はてそんな噂を聞いたことはあっただろうか。
こうしてはいられない。セレネはもどかしい気持ちを何とかするために、ジャン本人へ聞かねばならなかった。
「あの、ほら、あなたが……貴族学校で、エールヴェ伯爵令嬢とよく話していたけど、恋人なの?」
「違う」
ピシャリ、とジャンは否定した。その強い断定口調に、セレネは(な、何だってー!?)と心の中で叫ぶしかない。
今までセレネがジャンとユーギットを嫉妬してきたことは何だったのか。見当違いの誤解だった、という現実がセレネはまだ受け入れられないが、そうとは知らずジャンは追い討ちをかけた。
「彼女と僕では釣り合わない。もちろん、君ともだ。僕は所詮、平民だからな」
その言葉を聞いて、しばし、セレネは考えた。
考えながら早足で歩き、閉店中の看板が掲げられた食堂の扉の前で、セレネはやっとジャンの言葉を呑み込めた。
(平民だから……婚約できない? え? それが断られた理由? あれ? ジャンは……えっと、そう、ド・ヴィシャ侯爵家の)
そこまで考えてから、セレネは機微な関係性——婚外子、という単語を避け——を直接口にしないよう、ジャンの身分を確かめようとする。
「じ、じゃあ、ド・ヴィシャ侯爵家は……?」
「僕が継ぐことは絶対にない。単に、僕の血縁上の父親がかの侯爵だというだけ、今はただのパトロンだ。僕の箔付けにと、君との婚約を進めようとしていただけだろう。僕は、そんなことに誰かを利用するなんてまっぴらだ」
だんだんとジャンの語勢が荒くなる。この話題はよほどジャンにとって腹立たしいものらしく、ジャンと父親であるド・ヴィシャ侯爵との関係がよろしくないことは明白だった。
おそらく、ジャンは父親の出身階級である貴族がさほど好きではなく、婚約も望まないものだった。貴族の父を持ちながらジャンは自身を平民と強調し、セレネが嫌いだからではなく貴族だから婚約しない、ということだとセレネはやっと理解した。
大人げないと言えば大人げなく、子どもの癇癪にも近い理由だが、セレネはストンと腑に落ちたのだ。
セレネだって、元王女だからという理由で婚約を利用されたことが明らかなら、多分怒る。恋なんか絶対に成立せず、逃亡を図ることさえありえる。それと同じなのだと分かれば、ジャンの気持ちは痛いほど理解できるのだ。
セレネは、食堂の扉を押し開けた。厨房はもう片付けに入っていて、食堂のテーブルは一部を残して椅子をテーブルの上にひっくり返して載せてしまっている。出入り口の扉から一番近いところにある、まだ椅子が床についたままのテーブルを見つけて、セレネはジャンへ座るよう促した。
「そっか。そういう理由で婚約を断るってことなんだ」
「ああ。貴族は貴族と結婚したほうがいい、それが順当で、幸せを得られるというものだろう。僕も僕の母も、貴族に関わってしまったばかりに色々と苦労をさせられた」
着席して、正面を向いて、バスケットを挟んでジャンを捉えて事情を聞かされれば……セレネはもうすっかり婚約が成立しなかったことが当然の成り行きだとさえ思えるようになっていた。というよりも、元から強引すぎて話し合いの余地がない。ここまで来れば、セレネもジャンへ婚約を迫る無意味さを悟った。
ちょっとだけセレネは大人になった気がしたので、素直にジャンへ感謝した。
「ありがとう、正直に話してくれて。少しだけど、疑問や不安が解けたわ」
「どういたしまして……と言うべきなのか、君には謝るべきなのか」
「いいの! そんなことを言ったら、私は多分」
それ以上は言ってはいけない、とセレネは思わず口を手で押さえた。
ジャンはおそらくセレネのことをよく知らない。貴族に詳しくなさそうだし、厄介なセレネの事情なんて知らないままのほうがいい。巻き込んではならないのだ。
「うん、そうよね。私も、私のせいであなたに迷惑をかけたくない。まあ、そんなことを言ったら、一生独身でいなきゃいけないけど! あはは!」
セレネは笑って誤魔化した、つもりだった。
だが、笑って誤魔化せるほど、セレネが背負ってしまったものは軽くない。元王女という肩書きがある以上、セレネは好きな人と結婚するなんて夢物語は諦めなければならない。心から好きな人に、そこまでの迷惑をかけたくないからだ。
そんな事情は、セレネが生きているかぎり付きまとう。セレネがこの国の国王に疎まれている、なんて知れば、年若い男性のほぼ全員がセレネとの結婚を躊躇うだろう。セレネが譲歩に譲歩を重ねて結婚相手を権力を握る老人に絞ったところで、そんな面倒は嫌だと言うに違いない。
かくも厳しい現実に、セレネはうなだれた。恋も結婚も、すでに絶たれた道なのだと思うと、思春期の少女の心には嫌気が差す。
「はー……もうどこかの国に移住しようかな。誰も私のことを知らないところに行くとか、そういう感じで」
それは叶うことのない夢だ。元王女が国外に出ること自体が根も歯もない疑惑を生じさせるし、国外ならこれ幸いと暗殺者が送り込まれてくる可能性が高い。それに、よくしてくれているサンレイ伯爵家を捨てていくなんて、とてもではないがセレネにはできない。土台、無理な話なのだ。
ところが、である。
ジャンは、その夢のような話を真面目に受け取って、諌めてきた。
「無礼に無礼を重ねるようだが、言わせてもらっても?」
「え? 何?」
「理想郷など、世界中探しても存在しないぞ。僕だって分かっている。だから、この嫌なことしかない国にしがみついているんだ」
ジャンの諫言は、至極真っ当だった。
生まれた国を離れればどこかに楽園があるなどと考えるほど、愚かなことはない。それは苦境を直視せず、逃げているだけなのだ。
今まであまり叱られることもなく、いい子として扱われてきたセレネにとってその諫言はグサリとストレートに胸へ刺さり、テーブルへ額をぶつけるほど落ち込ませるには十分な威力を発揮した。
「ごめんなさい、馬鹿みたいなこと言った……本当、今の忘れて、私の馬鹿」
「……気遣いはありがたいよ。でも、逃げてもどうにもならないんだ、きっと」
二人揃って沈痛な面持ちで、ため息を吐く。
世の中はどうしようもないことだらけで、どうにかしたいけど逃げることさえできない。
(私はともかく、天才って言われてるジャンでもそうなんだ。でもなあ……本当にそうかなぁ……?)
それはほんのわずかに生じた、無邪気な好奇心による純粋な疑問だった。
後先考えないと言われればそれまでで、失恋から始まり今日一日ですでにメンタルがズタズタなセレネは、ポンと口をついてその問いが飛び出し——ちょっと親しくなったジャンへ、聞いてみたくなっただけだったのだ。
テーブルに突っ伏したままのセレネのささやかな、何も考えていないその言葉が、歴史を動かす。
「じゃあさ、たとえばなんだけど、その」
「どうぞ。僕が聞いてもいいことなら」
「えっと……私、父上とずっと喧嘩をしてて、それで……暗殺者とかけしかけられるんだけど」
「あ、暗殺……?」
「まあ、今まで大丈夫だったからそれはよくって! でもさ、これからもそれがあると思うと嫌じゃない!? だからどうしようかなって!」
「待ってくれ。サンレイ伯爵が、君を」
「違う違う、私の本当の父上のほう! 今の国王なんだけど!」
セレネは、自分が何を口走ったのか、この時点でやっと気付いた。
いつの間にか、言わないようにしていたはずの事情を自らぶちまけていた。目の前のジャンも、開いた口が塞がっていない。
ジャンは、ぎこちなく頬を引きつらせていた。
「嘘、じゃないよな?」
普通に考えれば、この場は誤魔化すべきである。しかし、国王の子であるとのたまった挙句に、どう誤魔化しても角が立つことしか言っていないセレネは、額に溢れる冷や汗と真っ青になった顔を隠すようにまたしてもテーブルに突っ伏した。
「私の馬鹿……何で身内の恥を言いふらすの……本当、馬鹿……」
セレネの今の気分は、「もうどうにでもなーれ」である。
人生の初めから今までまったくもってどうにもならなかった、とセレネが後悔しはじめた矢先。
ジャンが、きわめて固い声色でセレネの名を呼んだ。
「セレネ」
「はい?」
「君は、王女なのか?」
「まあ、元がつくけど、一応。放棄前提だけど、王位継承権もあるし」
繰り返すが、今のセレネの気分は、「もうどうにでもなーれ」である。
ほとんど暴露したのだから、もう何を言っても変わらない。そう思ったのも束の間、ジャンが豹変したように頭を抱えて叫んだ。
「わけが分からない! 説明してくれ!」
「ひゃい!?」
飛び起きたセレネは、かくかくしかじか、洗いざらい己の身の上を語る。
それを聞いて、ジャンは天を仰いでいた。なぜそうなるのか、とセレネが尋ねる前に食堂へカーネリスの部下たちが駆け込んできて、セレネとジャンをカーネリスのもとへと慌てて引っ立てていったのだった。
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