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ある少女の出会い
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黒髪緑目の少女がいた。
彼女は他の兵士と同じ軽鎧姿だったが、腰には一際目立つ赤鞘のサーベルを下げていた。
それを見た兵士たちは、なぜか自然と背筋が伸びる気がした。まるで一番偉い将軍に見られているかのような、ここで失態を犯してはならないと自戒してしまうような、そんな気持ちに駆られるのだ。
一人の兵士が、彼女に問いかけた。
「君はなぜここにいるんだ?」
少女は答えた。
「世界を見て歩くため。ときには傭兵仕事もするんです」
「なるほど。しかしここは危ない、最前線だ」
「分かっています。ですが、私はここでは一兵士です。その責務を全うしなければなりません」
どうやら、少女の意思は固いようだ。
となると、兵士たちは自ら、彼女を守ろうという気になった。彼女は剣術が得意で、最新鋭のライフル銃さえ扱えるというのに、だ。
ある兵士は、こんなことを言っていた。
「あの少女は偉い貴族の末裔で、サーベルはその証明の品なんだろう。勇猛果敢で、男よりも先に走り出し、敵陣に斬り込んでいく姿は、とても平民の娘の度胸ではない。何か、やんごとない事情があるに違いない」
果たして、それが正しいかどうかはさておき、いつのまにか周囲にいた兵士たちは少女率いる部隊に組み入れられて、なかなかの戦果を挙げた。偵察も、奇襲も、警戒も、難なくこなす。
となると、前線指揮官たちも興味が湧いたのだろう。数人が少女を訪ねてきた。
少女は、こう名乗った。
「アンドーチェ・クラリッサ・マーガリー・クロードと申します」
「クロードか。君はどこの出身だ?」
「父はジルヴェイグ大皇国です。母はヴェルセット大公国の出だと聞いています」
「君は平民か? 貴族か?」
「平民です」
「そのサーベルは?」
「祖父から譲り受けました。会うことはもうないでしょうが、これが唯一の繋がりです」
「なるほど。少し拝見しても?」
「どうぞ」
前線指揮官たちはアンドーチェからサーベルを借り受け、鞘に彫られた文字を読む。
『Steady』という一文に、『D,O,V』の単語。
一人の前線指揮官が、その意味に気付いた。
「これは……いや、しかし……」
その困惑から何かを察したのか、アンドーチェはサーベルを返してもらい、何も言わずに去った。
それから、数ヶ月後。
アンドーチェの噂は、援軍にも届いていた。
そして、その援軍の中に、金髪碧眼の若い高級将校がいた。
彼もまた、祖父から譲り受けた『Steady』という一文に『D,O,V』の単語が刻まれた赤鞘のサーベルを持っていた。
二人は前線指揮官たちに引き合わされて出会い、こう挨拶するのである。
「初めまして、閣下」
「うむ、初対面だ。確かにな」
その出会いから新たな物語が生まれるのだが、それはまた別の話である。
彼女は他の兵士と同じ軽鎧姿だったが、腰には一際目立つ赤鞘のサーベルを下げていた。
それを見た兵士たちは、なぜか自然と背筋が伸びる気がした。まるで一番偉い将軍に見られているかのような、ここで失態を犯してはならないと自戒してしまうような、そんな気持ちに駆られるのだ。
一人の兵士が、彼女に問いかけた。
「君はなぜここにいるんだ?」
少女は答えた。
「世界を見て歩くため。ときには傭兵仕事もするんです」
「なるほど。しかしここは危ない、最前線だ」
「分かっています。ですが、私はここでは一兵士です。その責務を全うしなければなりません」
どうやら、少女の意思は固いようだ。
となると、兵士たちは自ら、彼女を守ろうという気になった。彼女は剣術が得意で、最新鋭のライフル銃さえ扱えるというのに、だ。
ある兵士は、こんなことを言っていた。
「あの少女は偉い貴族の末裔で、サーベルはその証明の品なんだろう。勇猛果敢で、男よりも先に走り出し、敵陣に斬り込んでいく姿は、とても平民の娘の度胸ではない。何か、やんごとない事情があるに違いない」
果たして、それが正しいかどうかはさておき、いつのまにか周囲にいた兵士たちは少女率いる部隊に組み入れられて、なかなかの戦果を挙げた。偵察も、奇襲も、警戒も、難なくこなす。
となると、前線指揮官たちも興味が湧いたのだろう。数人が少女を訪ねてきた。
少女は、こう名乗った。
「アンドーチェ・クラリッサ・マーガリー・クロードと申します」
「クロードか。君はどこの出身だ?」
「父はジルヴェイグ大皇国です。母はヴェルセット大公国の出だと聞いています」
「君は平民か? 貴族か?」
「平民です」
「そのサーベルは?」
「祖父から譲り受けました。会うことはもうないでしょうが、これが唯一の繋がりです」
「なるほど。少し拝見しても?」
「どうぞ」
前線指揮官たちはアンドーチェからサーベルを借り受け、鞘に彫られた文字を読む。
『Steady』という一文に、『D,O,V』の単語。
一人の前線指揮官が、その意味に気付いた。
「これは……いや、しかし……」
その困惑から何かを察したのか、アンドーチェはサーベルを返してもらい、何も言わずに去った。
それから、数ヶ月後。
アンドーチェの噂は、援軍にも届いていた。
そして、その援軍の中に、金髪碧眼の若い高級将校がいた。
彼もまた、祖父から譲り受けた『Steady』という一文に『D,O,V』の単語が刻まれた赤鞘のサーベルを持っていた。
二人は前線指揮官たちに引き合わされて出会い、こう挨拶するのである。
「初めまして、閣下」
「うむ、初対面だ。確かにな」
その出会いから新たな物語が生まれるのだが、それはまた別の話である。
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