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第十四話
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入ってすぐに螺旋階段があり、天窓から入ってくる光を頼りに一段一段降りていく。意外にも、中は真っ暗というわけではなく、どこからか自然光が差し込んできていた。不思議なもので、あちこちに魔法道具の鏡が仕掛けられて、外から採光しているようだった。
(水道にはそこまでするのね。まあ、いちいちランプを持ち歩くよりは、ということかもしれないけれど)
単純に、水の供給は人間の生命線だ。大都市なら尚更で、管理に力を入れること自体は当然のことだろう。
そのおかげで、私の背丈の何倍もある高さの地下水道を、鉄板で作られた作業用通路から覗いて全体を見渡す、ということができる。
「ほら、意外と綺麗だろ?」
「本当ですね。しかも、広いです」
「昔は、国がちゃんとした水道を作ろうって計画もあったんだってさ。今はどうなったやら」
ニコは色々なことを知っている。興味の対象が広いようだ。
その知識欲の貪欲さに感心しつつ、私は目に映るマナの流れを追っていく。
ニコの案内があるとはいえ、地下水道は広く、大きく、いくつか枝分かれしている。迷子にならない保証はなかった。
(地上に繋がるマナの流れを追えば迷子にこそならないけれど、やっぱり怖いもの。どこまで行けるか、今のうちに試しておかないと)
この千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。
私は、気合を入れてあちこちに目を走らせる。異変の一つも見逃すまい、とひたすらに目の前のマナの奔流に目を凝らした。
そうしてやっと、一時も止まらない水に沿うマナの流れとは違う、別の大ぶりなマナの流れを捉えると、作業用通路の先に視線を辿らせる。
その先には、別の地上への螺旋階段があるのかと思いきや、違った。
赤煉瓦で作られた小屋のようなものが、地下水道の壁に半分埋め込まれているような、張り付くような半円形で作られていた。地下水道の天井から底まで、澄んだ水中を眺めるといくつか同じ赤煉瓦で作られた大型の取水口のようなものもある。ちなみに、周囲に扉らしきものはない。
私は、ニコへ聞いてみた。
「ニコ。あの煉瓦造りの壁は何ですか?」
答えるより早く、ニコは赤煉瓦の小屋を見るなり、近寄ってうろちょろと見定めはじめた。
「さあ……? 何かの設備かな」
「ここだけ煉瓦ですね。不思議です」
周囲の壁面は、掘削された石灰岩だ。階段と作業用通路は鉄製だが、それ以外に人工物らしきものは見当たらない中での、いきなりの赤煉瓦の小屋となれば、怪しいことこの上ない。
もしかしてこれが、私の目指した『地下配水塔』?
そう思った私は意識を集中して、赤煉瓦の周囲にあるマナを一時的に絶った。そして、すぐにマナを戻す。
そうして私に頑として堰き止められたマナの流れが、水が流れ込むように一気に赤煉瓦の壁へと流れ込んだ。止められると大人しくなっていたマナが、一気に活性化してはしゃぐように発光する。
私の視界を活性化したマナの光が染め上げるほどの膨大な流れぶりは、間違いない。
(ここだわ。やっぱり周囲のマナが吸い寄せられるように集まって、赤煉瓦の壁の奥、別の場所へ一気に流れ込んでいる)
少しすると光は落ち着き、穏やかにマナは光を失っていく。自然な流れを止められるとマナは驚いたように活性化するが、自然な流れに戻ればゆるりと漂うような存在なのだ。
それでも、魔力がさほどないニコでさえ、この場の異変を感じ取れたらしい。
「なんかここ、空気がみちっとしてるような気がする。ぎゅっと圧縮されたっていうか、密閉空間だからかな」
「空気が悪いかもしれませんね。もう上がりましょうか」
「そうだね。行こう」
今度は私が先頭に立ち、ニコが殿を務めて螺旋階段まで戻る。
その間、私はニコに顔を覗かれないようにしながら、考え込んでいた。
(地上で見たよりもずっとマナの流入量が多い。多すぎるくらいだわ。これを止めてしまうと、どんな影響が出るか……最悪、死人が出るかもしれない)
もちろん、得るものはあった。実際にマナは水道を通してあの赤煉瓦の地下配水塔に集められており、その量は自然の働きでは考えられないほどだ。
人為的にマナを集める地下配水塔の近くにいては、マナの影響を受ける人間も多少なりともマナを奪われ、体調に変化が現れるだろう。ただでさえ普段触れないほどの莫大な量のマナの近くにいたのだから、健康な青少年の体でも耐えられないかもしれない。
皮肉にも、『灰色女』の私はまったく問題ないのだが。
とにかく、地上の広場に帰ってきた私とニコは、昼の鐘が鳴り響くのを耳にした。ニコを笑顔で学校へ再度送り出し、私は広場を後にする。
(ここまで来ておいて悔しいけれど、対処法を考えないと。地下配水塔のマナの吸収を止めても、今度はマナが溢れて王都中がひどい影響を受けてしまいかねない。どうにか上手くやる方法はないかしら……)
乗合馬車の停留所に歩いて戻りながら、私はひたすら次の一手を考えていた。
すでにマナの流れを止めた大聖堂や王城に、あの地下配水塔で見た膨大なマナは流れ込んでいない。そのせいか、王都の街路樹は例年よりも青々と、目に見えて生き生きとしていた。
(水道にはそこまでするのね。まあ、いちいちランプを持ち歩くよりは、ということかもしれないけれど)
単純に、水の供給は人間の生命線だ。大都市なら尚更で、管理に力を入れること自体は当然のことだろう。
そのおかげで、私の背丈の何倍もある高さの地下水道を、鉄板で作られた作業用通路から覗いて全体を見渡す、ということができる。
「ほら、意外と綺麗だろ?」
「本当ですね。しかも、広いです」
「昔は、国がちゃんとした水道を作ろうって計画もあったんだってさ。今はどうなったやら」
ニコは色々なことを知っている。興味の対象が広いようだ。
その知識欲の貪欲さに感心しつつ、私は目に映るマナの流れを追っていく。
ニコの案内があるとはいえ、地下水道は広く、大きく、いくつか枝分かれしている。迷子にならない保証はなかった。
(地上に繋がるマナの流れを追えば迷子にこそならないけれど、やっぱり怖いもの。どこまで行けるか、今のうちに試しておかないと)
この千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。
私は、気合を入れてあちこちに目を走らせる。異変の一つも見逃すまい、とひたすらに目の前のマナの奔流に目を凝らした。
そうしてやっと、一時も止まらない水に沿うマナの流れとは違う、別の大ぶりなマナの流れを捉えると、作業用通路の先に視線を辿らせる。
その先には、別の地上への螺旋階段があるのかと思いきや、違った。
赤煉瓦で作られた小屋のようなものが、地下水道の壁に半分埋め込まれているような、張り付くような半円形で作られていた。地下水道の天井から底まで、澄んだ水中を眺めるといくつか同じ赤煉瓦で作られた大型の取水口のようなものもある。ちなみに、周囲に扉らしきものはない。
私は、ニコへ聞いてみた。
「ニコ。あの煉瓦造りの壁は何ですか?」
答えるより早く、ニコは赤煉瓦の小屋を見るなり、近寄ってうろちょろと見定めはじめた。
「さあ……? 何かの設備かな」
「ここだけ煉瓦ですね。不思議です」
周囲の壁面は、掘削された石灰岩だ。階段と作業用通路は鉄製だが、それ以外に人工物らしきものは見当たらない中での、いきなりの赤煉瓦の小屋となれば、怪しいことこの上ない。
もしかしてこれが、私の目指した『地下配水塔』?
そう思った私は意識を集中して、赤煉瓦の周囲にあるマナを一時的に絶った。そして、すぐにマナを戻す。
そうして私に頑として堰き止められたマナの流れが、水が流れ込むように一気に赤煉瓦の壁へと流れ込んだ。止められると大人しくなっていたマナが、一気に活性化してはしゃぐように発光する。
私の視界を活性化したマナの光が染め上げるほどの膨大な流れぶりは、間違いない。
(ここだわ。やっぱり周囲のマナが吸い寄せられるように集まって、赤煉瓦の壁の奥、別の場所へ一気に流れ込んでいる)
少しすると光は落ち着き、穏やかにマナは光を失っていく。自然な流れを止められるとマナは驚いたように活性化するが、自然な流れに戻ればゆるりと漂うような存在なのだ。
それでも、魔力がさほどないニコでさえ、この場の異変を感じ取れたらしい。
「なんかここ、空気がみちっとしてるような気がする。ぎゅっと圧縮されたっていうか、密閉空間だからかな」
「空気が悪いかもしれませんね。もう上がりましょうか」
「そうだね。行こう」
今度は私が先頭に立ち、ニコが殿を務めて螺旋階段まで戻る。
その間、私はニコに顔を覗かれないようにしながら、考え込んでいた。
(地上で見たよりもずっとマナの流入量が多い。多すぎるくらいだわ。これを止めてしまうと、どんな影響が出るか……最悪、死人が出るかもしれない)
もちろん、得るものはあった。実際にマナは水道を通してあの赤煉瓦の地下配水塔に集められており、その量は自然の働きでは考えられないほどだ。
人為的にマナを集める地下配水塔の近くにいては、マナの影響を受ける人間も多少なりともマナを奪われ、体調に変化が現れるだろう。ただでさえ普段触れないほどの莫大な量のマナの近くにいたのだから、健康な青少年の体でも耐えられないかもしれない。
皮肉にも、『灰色女』の私はまったく問題ないのだが。
とにかく、地上の広場に帰ってきた私とニコは、昼の鐘が鳴り響くのを耳にした。ニコを笑顔で学校へ再度送り出し、私は広場を後にする。
(ここまで来ておいて悔しいけれど、対処法を考えないと。地下配水塔のマナの吸収を止めても、今度はマナが溢れて王都中がひどい影響を受けてしまいかねない。どうにか上手くやる方法はないかしら……)
乗合馬車の停留所に歩いて戻りながら、私はひたすら次の一手を考えていた。
すでにマナの流れを止めた大聖堂や王城に、あの地下配水塔で見た膨大なマナは流れ込んでいない。そのせいか、王都の街路樹は例年よりも青々と、目に見えて生き生きとしていた。
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