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第四十九話
私はぱあっと、自分の顔が無意識のうちに微笑んだことに気づいた。
だって、サナシスがありがとう、と言ってくれたのは、これが初めてではないだろうか。
私は、サナシスのために何かをできたのだ。そう考えると、万感の思いが込み上げてくる。あと、怒られなかったことで、私はこっそり安心した。よかった。
その様子を見て、ニキータはくっくと喉を鳴らして笑いを堪えていた。
「よかったですね、エレーニ姫」
「はい!」
「それはそうとニキータ、お前は今からでも仕事に戻れ。お前の部下たちが必死になって探していたぞ」
「ははは、それでは失礼を。エレーニ姫、またお会いしましょう」
ニキータは大仰に一礼をして、素早く立ち去った。あっさりと帰ったのは、私とサナシスに気遣ってくれているのだろう。王城では手に入りにくいお金ももらったことだし、今度会ったら、ニキータにはちゃんとお礼をしなければ。
気を取り直して、サナシスは秘書官イオエルを呼び出し、フォークを調達していた。私にも必要か、と尋ねてきたけど、海産物は食べられる自信がないしお腹いっぱいだから、と遠慮しておいた。実際、何だか胃がもたれてきていた。食べ慣れないものを食べたからだろうか、ギロピタは革命的に美味しかったけど、少し後悔する。
金のフォークを受け取り、サナシスはついに、カラマラキア・ティガニタを一つ、口にした。
わずかに咀嚼音が聞こえる。イオエルが持ってきた冷水を一口飲み、サナシスは上品に食べる。どことなく、表情が緩んでいるように見えるのは気のせいだろうか。でも、そこまで踏み込むのははしたない、もっと聞くべきことを聞こう。
「美味しいですか?」
「……うん、美味しい。昔と変わらない味だ」
「よかった。お言いつけくだされば、いつでも私が食堂へ買いに行きます」
「お前がわざわざ行かずとも」
「私も、サナシス様のために仕事がしたいのです」
初めての、今の私がサナシスのためにできる数少ないこと。子供のお使いも同然だ、と言われればそのとおりだけど、何事もまずは初めの一歩から。それに、サナシスに心配をかけることはしたくないから、まずはこの程度でいいのだ。
サナシスは、ちょっと困った顔をして、笑った。
「今度は、一緒に買いに行こう。ニキータに先を越されたのは癪だが、まあいい」
数秒、無言の間が空いた。
一緒に買いに行く。そこを理解するのに、私は時間を要した。
今日はニキータと一緒に買いに行った。でもそれは、誘ってくれたことと、案内役としてだ。
それを、次はサナシスと行く?
私の混乱を見抜いたらしく、サナシスは言葉を付け加えた。
「エレーニ、意味は分かるか? 行くなと言っているんじゃない、俺が、お前と一緒に行きたいんだ。つまり、夫婦らしく、ともに出かけたい。ああ、思い返せば返すほど、ニキータに先を越されるんじゃなかったと思うな! あいつめ、俺より先にエレーニと外出するなど、腹が立ってきた」
そう言いながら、サナシスは揚げ物をぱくぱく口へ放り込む。
さらに数秒、私は考えた。その結果、こういう問いを発することとなった。
「私、聞いたことがあります」
「何をだ?」
「それは……俗世では、そう」
そう、それは——すなわち。
「デート、というものですね?」
私だってそのくらいの知識はある。
デート。恋仲の男女が仲睦まじく、外へお出かけすることだ。
まさか自分がそれをできる日が来るとは、夢にも思わなかった。
ただ、サナシスはそっと指摘する。
「……神域アルケ・ト・アペイロン行きは、デートじゃなかったんだな」
「あ! あれもでしょうか!?」
「いや、まあ、あれは違うな。一応、王城の中ではあるから、うん、大丈夫、違うぞ」
そういうことだった。
私は、楽しみのあまり、思わず顔がにやけるのを抑えることができなかった。
だって、サナシスがありがとう、と言ってくれたのは、これが初めてではないだろうか。
私は、サナシスのために何かをできたのだ。そう考えると、万感の思いが込み上げてくる。あと、怒られなかったことで、私はこっそり安心した。よかった。
その様子を見て、ニキータはくっくと喉を鳴らして笑いを堪えていた。
「よかったですね、エレーニ姫」
「はい!」
「それはそうとニキータ、お前は今からでも仕事に戻れ。お前の部下たちが必死になって探していたぞ」
「ははは、それでは失礼を。エレーニ姫、またお会いしましょう」
ニキータは大仰に一礼をして、素早く立ち去った。あっさりと帰ったのは、私とサナシスに気遣ってくれているのだろう。王城では手に入りにくいお金ももらったことだし、今度会ったら、ニキータにはちゃんとお礼をしなければ。
気を取り直して、サナシスは秘書官イオエルを呼び出し、フォークを調達していた。私にも必要か、と尋ねてきたけど、海産物は食べられる自信がないしお腹いっぱいだから、と遠慮しておいた。実際、何だか胃がもたれてきていた。食べ慣れないものを食べたからだろうか、ギロピタは革命的に美味しかったけど、少し後悔する。
金のフォークを受け取り、サナシスはついに、カラマラキア・ティガニタを一つ、口にした。
わずかに咀嚼音が聞こえる。イオエルが持ってきた冷水を一口飲み、サナシスは上品に食べる。どことなく、表情が緩んでいるように見えるのは気のせいだろうか。でも、そこまで踏み込むのははしたない、もっと聞くべきことを聞こう。
「美味しいですか?」
「……うん、美味しい。昔と変わらない味だ」
「よかった。お言いつけくだされば、いつでも私が食堂へ買いに行きます」
「お前がわざわざ行かずとも」
「私も、サナシス様のために仕事がしたいのです」
初めての、今の私がサナシスのためにできる数少ないこと。子供のお使いも同然だ、と言われればそのとおりだけど、何事もまずは初めの一歩から。それに、サナシスに心配をかけることはしたくないから、まずはこの程度でいいのだ。
サナシスは、ちょっと困った顔をして、笑った。
「今度は、一緒に買いに行こう。ニキータに先を越されたのは癪だが、まあいい」
数秒、無言の間が空いた。
一緒に買いに行く。そこを理解するのに、私は時間を要した。
今日はニキータと一緒に買いに行った。でもそれは、誘ってくれたことと、案内役としてだ。
それを、次はサナシスと行く?
私の混乱を見抜いたらしく、サナシスは言葉を付け加えた。
「エレーニ、意味は分かるか? 行くなと言っているんじゃない、俺が、お前と一緒に行きたいんだ。つまり、夫婦らしく、ともに出かけたい。ああ、思い返せば返すほど、ニキータに先を越されるんじゃなかったと思うな! あいつめ、俺より先にエレーニと外出するなど、腹が立ってきた」
そう言いながら、サナシスは揚げ物をぱくぱく口へ放り込む。
さらに数秒、私は考えた。その結果、こういう問いを発することとなった。
「私、聞いたことがあります」
「何をだ?」
「それは……俗世では、そう」
そう、それは——すなわち。
「デート、というものですね?」
私だってそのくらいの知識はある。
デート。恋仲の男女が仲睦まじく、外へお出かけすることだ。
まさか自分がそれをできる日が来るとは、夢にも思わなかった。
ただ、サナシスはそっと指摘する。
「……神域アルケ・ト・アペイロン行きは、デートじゃなかったんだな」
「あ! あれもでしょうか!?」
「いや、まあ、あれは違うな。一応、王城の中ではあるから、うん、大丈夫、違うぞ」
そういうことだった。
私は、楽しみのあまり、思わず顔がにやけるのを抑えることができなかった。
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