5 / 40
第五話
しおりを挟む
実家の屋敷に戻って、私は父と対面しました。
父は厳格な人で、その代わり母がとても奔放で、この二人は性格が合わないのに無理に結婚させられたのだろうな、と私は思っていました。母が可愛らしいライラを何かと贔屓していることも父は黙認していましたし、家族と接すること自体それほどなかった父はこの家庭に対する愛情がないのだろう、そうとしか思えませんでした。
だから、私はどうせ父に好かれていないのなら、無理をして媚びる必要はないという考えに至りました。マギニス先生に背中を押してもらったことも、私の決断を後押ししてくれて、まだ興奮冷めやらぬ私は思い切ったことを口にできたのでしょう。
「メリッサ、お前が嫁ぐ先は隣国で探している。しばらく屋敷から出るな、何もしなくていい。アンカーソン伯爵家から出る以上、もう汚名を増やしてくれるな」
「お言葉ですがお父様、私はもう決めました」
「何をだ」
「隣国へはまいります。でも、結婚相手は私が決めます」
「何を馬鹿なことを。お前は」
「アンカーソン伯爵家とは縁を切ります。少しばかりお金をいただいて、隣国で一人で身を立てようと思います。それなら、テイト公爵家に捨てられた私の悪評を知る人もいませんし、アンカーソン伯爵家との繋がりを知る人もいません」
私がはっきりと口にしたことを、父は鷹揚に鼻で笑います。
「貴族の娘が、一人で身を立てる? 夢見がちなことを言うのも大概にしなさい」
「いいえ、これしかありません。どのみち、私の顔を見ればほとんどの男性は逃げてしまいます。それなら、私は一人で生きていく道を探さねばなりません。厄介払いと思って、私を勘当してください」
一瞬、父の顔が引きつりました。私の顔のあざについて、父は少しは責任を感じているようです。私が顔に傷を負ったあの事故の当時、妹ライラを幼い私がかばったことで、そのときとっさに動けなかった父は周囲から責められたそうなのです。
私が大きなあざを作った原因は、自分にもあると考えているのでしょう。助けたにもかかわらず、私のせいで嫌な目に遭ったと公言するライラよりは、父はいくぶんかまともにものを考えられるようです。
「……隣国に行って、それで、何をするつもりだ?」
「それは行ってみないことにはわかりません。商売をするなり、家庭教師をするなり、生きていく道はいくらでもあります。私は貴族ではなくなるのですから、市井で人々に混じって生きていくことになるでしょう」
平民となる、それは貴族にとっては不名誉であり、落胆のあまり自暴自棄になる人間もいるほどです。
それでも、私は選びます。一人で生きていく、そのことしか私の頭にはありませんでした。
父は厳格な人で、その代わり母がとても奔放で、この二人は性格が合わないのに無理に結婚させられたのだろうな、と私は思っていました。母が可愛らしいライラを何かと贔屓していることも父は黙認していましたし、家族と接すること自体それほどなかった父はこの家庭に対する愛情がないのだろう、そうとしか思えませんでした。
だから、私はどうせ父に好かれていないのなら、無理をして媚びる必要はないという考えに至りました。マギニス先生に背中を押してもらったことも、私の決断を後押ししてくれて、まだ興奮冷めやらぬ私は思い切ったことを口にできたのでしょう。
「メリッサ、お前が嫁ぐ先は隣国で探している。しばらく屋敷から出るな、何もしなくていい。アンカーソン伯爵家から出る以上、もう汚名を増やしてくれるな」
「お言葉ですがお父様、私はもう決めました」
「何をだ」
「隣国へはまいります。でも、結婚相手は私が決めます」
「何を馬鹿なことを。お前は」
「アンカーソン伯爵家とは縁を切ります。少しばかりお金をいただいて、隣国で一人で身を立てようと思います。それなら、テイト公爵家に捨てられた私の悪評を知る人もいませんし、アンカーソン伯爵家との繋がりを知る人もいません」
私がはっきりと口にしたことを、父は鷹揚に鼻で笑います。
「貴族の娘が、一人で身を立てる? 夢見がちなことを言うのも大概にしなさい」
「いいえ、これしかありません。どのみち、私の顔を見ればほとんどの男性は逃げてしまいます。それなら、私は一人で生きていく道を探さねばなりません。厄介払いと思って、私を勘当してください」
一瞬、父の顔が引きつりました。私の顔のあざについて、父は少しは責任を感じているようです。私が顔に傷を負ったあの事故の当時、妹ライラを幼い私がかばったことで、そのときとっさに動けなかった父は周囲から責められたそうなのです。
私が大きなあざを作った原因は、自分にもあると考えているのでしょう。助けたにもかかわらず、私のせいで嫌な目に遭ったと公言するライラよりは、父はいくぶんかまともにものを考えられるようです。
「……隣国に行って、それで、何をするつもりだ?」
「それは行ってみないことにはわかりません。商売をするなり、家庭教師をするなり、生きていく道はいくらでもあります。私は貴族ではなくなるのですから、市井で人々に混じって生きていくことになるでしょう」
平民となる、それは貴族にとっては不名誉であり、落胆のあまり自暴自棄になる人間もいるほどです。
それでも、私は選びます。一人で生きていく、そのことしか私の頭にはありませんでした。
295
あなたにおすすめの小説
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。
佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。
「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」
ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?
ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」
華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。
目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。
──あら、デジャヴ?
「……なるほど」
婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています
ゆっこ
恋愛
「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」
王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。
「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」
本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。
王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。
「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」
〖完結〗残念ですが、お義姉様はこの侯爵家を継ぐことは出来ません。
藍川みいな
恋愛
五年間婚約していたジョゼフ様に、学園の中庭に呼び出され婚約破棄を告げられた。その隣でなぜか私に怯える義姉のバーバラの姿があった。
バーバラは私にいじめられたと嘘をつき、婚約者を奪った。
五年も婚約していたのに、私ではなく、バーバラの嘘を信じた婚約者。学園の生徒達も彼女の嘘を信じ、親友だと思っていた人にまで裏切られた。
バーバラの目的は、ワイヤット侯爵家を継ぐことのようだ。
だが、彼女には絶対に継ぐことは出来ない。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
感想の返信が出来ず、申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる