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第二十七話
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私はちょっと広い家を借りることにしました。バルクォーツ女侯爵の屋敷に居候をしていたアレクが一緒に住みたいと言ったこともあるのですが、ワグノリス王国から脱出してきたマギニス先生を匿うためでもありました。
そうしていると、ある日一人の老騎士がワグノリス王国からやってきました。マギニス先生を通じてアレクを訪ねてきたのです。キッチンでお茶を用意しながら、隣の応接間から聞こえる声に私は耳を傾けます。
「そういうわけで、アスタニア帝国への亡命を希望します。できれば支援をしていただければと思い、参った次第です」
どうやら、そういうことらしいです。あの事故を巡るテイト公爵の醜聞によって、ワグノリス王国の騒動が大きくなっている証かもしれません。
私は一緒にお茶を用意していたマギニス先生へ問いかけます。
「マギニス先生、あの方は?」
「ラッセル・ブロード卿です。おそらくアスタニア帝国に移って執筆活動を行いたくなったのでしょう」
平然とマギニス先生は答えましたが、ラッセル・ブロード卿といえば奇才の騎士として知られる文筆家です。アレクがこよなく愛するワグノリス王国の文学を代表する作家と言っていいでしょう。
「もしかして、マギニス先生はブロード卿とお知り合いですか?」
「ええ、私の恩師です。その人柄もよく存じています」
そのマギニス先生を通じて、ラッセル・ブロード卿はアスタニア帝国に移り住み、執筆活動を続けるということですから、ファンであるアレクにとっては願ってもいない話です。アレクはあっさりとラッセル・ブロード卿を受け入れました。
「あなたの作品がこんなに間近で接することができるようになれば、嬉しいかぎりです。ジーベルン子爵としてあなたを支援します、その代わり」
「ええ、作品は真っ先にあなたへお見せしましょう。奥方様がワグノリス王国の言葉にも通じてらっしゃるとか、それならば私が拙いアスタニア帝国の言葉で書くよりも翻訳していただいたほうがずっといいでしょうな」
奥方様、という言葉に、私は反応します。
もう他人からも、私がアレクの妻であると認識されるようになっているのです。何だかこそばゆいし、恥ずかしいし、嬉しいしで、今私はどういう顔になっているのか。
「ミス・エミー。顔が緩んでいますよ」
「は、はい!」
緩んでいたようです。私は顔を引き締めます。
「でも、あなたの夫となる男性が優しそうな方でよかった。安心しました」
マギニス先生はそう言ってくれました。あの事故で夫を亡くしたマギニス先生は、ずっと事故の真相を追っていたのです。私が事故で怪我をしてあざを作ったことももちろん知っていて、だから王立寄宿学校でも目にかけてくれていたようです。
そんなマギニス先生の協力で、私はアレクを通じてテイト公爵家にも一泡吹かせることができました。マギニス先生も多少は溜飲が下がったことでしょう。完全に恨みを忘れることなんてできないでしょうが——ワグノリス王国のこれからのことを思えば、我慢できます。
「先生はこれからどうなさるんですか?」
「アスタニア帝国で教師の仕事を続けます。帝都でお誘いがあるので、そちらへ。落ち着いたら連絡します」
「よかった、マギニス先生とこれからもお会いできるんですね」
私のワグノリス王国時代の知り合いは、マギニス先生ただ一人です。そこまで交流があったわけではありませんが、ずっと私を気にかけてくれていた人なのですから、恩があります。これからも交流を続けていければ、そう思うのです。
マギニス先生は、お茶をお盆に載せてこう言いました。
「ミス・エミー、私はあなたに言ったことを、一つ訂正しなくてはなりません」
「え?」
「あなたなら一人で独立して生きていける、と言いましたが、こう言い換えましょう。あなたなら夫と二人で一緒に生きていくこともできる。書籍商として独立し、ジーベルン子爵の妻として夫と歩む。それは、必ずしも楽な道ではないでしょうが、あなたならきっと大丈夫です」
マギニス先生は応接間へお茶を運びます。
私は、嬉しくてつい顔が緩んでいました。
そうしていると、ある日一人の老騎士がワグノリス王国からやってきました。マギニス先生を通じてアレクを訪ねてきたのです。キッチンでお茶を用意しながら、隣の応接間から聞こえる声に私は耳を傾けます。
「そういうわけで、アスタニア帝国への亡命を希望します。できれば支援をしていただければと思い、参った次第です」
どうやら、そういうことらしいです。あの事故を巡るテイト公爵の醜聞によって、ワグノリス王国の騒動が大きくなっている証かもしれません。
私は一緒にお茶を用意していたマギニス先生へ問いかけます。
「マギニス先生、あの方は?」
「ラッセル・ブロード卿です。おそらくアスタニア帝国に移って執筆活動を行いたくなったのでしょう」
平然とマギニス先生は答えましたが、ラッセル・ブロード卿といえば奇才の騎士として知られる文筆家です。アレクがこよなく愛するワグノリス王国の文学を代表する作家と言っていいでしょう。
「もしかして、マギニス先生はブロード卿とお知り合いですか?」
「ええ、私の恩師です。その人柄もよく存じています」
そのマギニス先生を通じて、ラッセル・ブロード卿はアスタニア帝国に移り住み、執筆活動を続けるということですから、ファンであるアレクにとっては願ってもいない話です。アレクはあっさりとラッセル・ブロード卿を受け入れました。
「あなたの作品がこんなに間近で接することができるようになれば、嬉しいかぎりです。ジーベルン子爵としてあなたを支援します、その代わり」
「ええ、作品は真っ先にあなたへお見せしましょう。奥方様がワグノリス王国の言葉にも通じてらっしゃるとか、それならば私が拙いアスタニア帝国の言葉で書くよりも翻訳していただいたほうがずっといいでしょうな」
奥方様、という言葉に、私は反応します。
もう他人からも、私がアレクの妻であると認識されるようになっているのです。何だかこそばゆいし、恥ずかしいし、嬉しいしで、今私はどういう顔になっているのか。
「ミス・エミー。顔が緩んでいますよ」
「は、はい!」
緩んでいたようです。私は顔を引き締めます。
「でも、あなたの夫となる男性が優しそうな方でよかった。安心しました」
マギニス先生はそう言ってくれました。あの事故で夫を亡くしたマギニス先生は、ずっと事故の真相を追っていたのです。私が事故で怪我をしてあざを作ったことももちろん知っていて、だから王立寄宿学校でも目にかけてくれていたようです。
そんなマギニス先生の協力で、私はアレクを通じてテイト公爵家にも一泡吹かせることができました。マギニス先生も多少は溜飲が下がったことでしょう。完全に恨みを忘れることなんてできないでしょうが——ワグノリス王国のこれからのことを思えば、我慢できます。
「先生はこれからどうなさるんですか?」
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マギニス先生は、お茶をお盆に載せてこう言いました。
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「え?」
「あなたなら一人で独立して生きていける、と言いましたが、こう言い換えましょう。あなたなら夫と二人で一緒に生きていくこともできる。書籍商として独立し、ジーベルン子爵の妻として夫と歩む。それは、必ずしも楽な道ではないでしょうが、あなたならきっと大丈夫です」
マギニス先生は応接間へお茶を運びます。
私は、嬉しくてつい顔が緩んでいました。
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