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第三十五話
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皇帝からすれば、アレクが皇子となろうがどうなろうが、どちらでもいいのでしょう。すでにアレクの兄が皇子となっています、アレクがいなくても他に後継はいるのですから。
それは非情にも、アレクから父を奪うということです。
私は、何かを思うよりも先に、口が動いていました。
「質問があります」
皇帝は鷹揚に、顎で私へ指示します。
「かまわぬ、言ってみろ」
「では。あなたはアスタニア帝国皇帝ですか?」
私の隣で、アレクが何を当たり前のことを聞いているのか、と驚いています。
でも、聞かなければならないことなのです。
「いえ、宮殿に戻って人々にかしずかれていれば、証拠にはなります。でも、今ここにいるあなたは、アスタニア帝国皇帝陛下なのでしょうか。それとも、アレクの父親なのでしょうか?」
つまりは、先ほどの言葉は、どちらの立場で言い放ったことなのか、と問いかけているのです。皇帝としてならば今のアレクを子と認めていないことになりますし、アレクの父としてならあまりにも情のない話です。
どちらにしても、皇帝は責められるべきです。そんなことを実の子に言うような人間を、私は許せません。
皇帝はどういう意図なのか、私を品定めするように見ています。
「意地の悪い質問をするな、あざの娘」
「エミーです、皇帝陛下」
「そうか、余の義理の娘はエミーというのか。気が早いか? なあ、アレク」
本心でそう言っているわけではないくせにアレクをからかうなんて、と私は心の中で皇帝へのいらだちを募らせます。アレクを試そうとするだけならばまだしも、落ち込ませて傷つけるようなことを言ったのは、見過ごせません。
私と皇帝の睨み合いを終わらせたのは、アレクです。
「認めます」
アレクは私の前に進み出ます。
「あなたを父と認めます。その代わり、俺とエミーの結婚を認めてください」
私をかばうように、皇帝との間に入ってアレクは立ち塞がります。
それでよかったのでしょうか。こんなふうに親子になるのは嫌だろうに、アレクはきっと我慢をしています。
でも、私にはこれ以上何も言えません。私はまだ部外者、これは二人の間のことだからです。
皇帝は頷きました。
「それでいいのだな? 分かった、そうしよう。しかし残念だな、お前にはいい縁談をいくつか用意していたが、無駄になってしまった」
「あなたったら、その気もないくせにもったいぶっちゃって」
アレクの母エステルが茶々を入れて、皇帝はちょっと憮然としています。
それを誤魔化すように、皇帝は私とアレクの横を通って玄関の扉へ進みます。
「余は帰る。ではな」
「あ、その前に。私、外国人なので市民権がなくてアレクと結婚できないのです」
私は振り向きもせず、皇帝の顔も見ずに言いました。
当初の予定とは違いますが、絶好の機会です。このタイミングでなら、皇帝は断れないでしょう。さっき、私とアレクの結婚を認めると言ったのですから、力を貸すしかありません。
皇帝がどんな顔をしていたかなど知りません。しかし、聞こえなかったわけではないようです。
「分かった、帰ってから侍従長に言っておいてやる。あとのことはそちらと話せ」
「ありがとうございます。恩に着ます、皇帝陛下」
「ふてぶてしい娘だな。そのあざの顔で、堂々として」
皇帝は笑います。余裕を見せて、褒めたのか貶したのかよく分からないことを口にします。
「まるで古強者の傷のようで、誇らしくも恐ろしいな」
「そんなことを言われたのは初めてです」
「ほう、今まで女の顔を褒める男はいなかったのか」
「褒めてくださっていたのですね、気付きませんでした」
皮肉の応酬は、きっと聞いていて必ずしも気分のいいことではなかったでしょうが、私は負けるわけにはいきませんでした。
アレクのために、たとえ、皇帝相手でも。
それは非情にも、アレクから父を奪うということです。
私は、何かを思うよりも先に、口が動いていました。
「質問があります」
皇帝は鷹揚に、顎で私へ指示します。
「かまわぬ、言ってみろ」
「では。あなたはアスタニア帝国皇帝ですか?」
私の隣で、アレクが何を当たり前のことを聞いているのか、と驚いています。
でも、聞かなければならないことなのです。
「いえ、宮殿に戻って人々にかしずかれていれば、証拠にはなります。でも、今ここにいるあなたは、アスタニア帝国皇帝陛下なのでしょうか。それとも、アレクの父親なのでしょうか?」
つまりは、先ほどの言葉は、どちらの立場で言い放ったことなのか、と問いかけているのです。皇帝としてならば今のアレクを子と認めていないことになりますし、アレクの父としてならあまりにも情のない話です。
どちらにしても、皇帝は責められるべきです。そんなことを実の子に言うような人間を、私は許せません。
皇帝はどういう意図なのか、私を品定めするように見ています。
「意地の悪い質問をするな、あざの娘」
「エミーです、皇帝陛下」
「そうか、余の義理の娘はエミーというのか。気が早いか? なあ、アレク」
本心でそう言っているわけではないくせにアレクをからかうなんて、と私は心の中で皇帝へのいらだちを募らせます。アレクを試そうとするだけならばまだしも、落ち込ませて傷つけるようなことを言ったのは、見過ごせません。
私と皇帝の睨み合いを終わらせたのは、アレクです。
「認めます」
アレクは私の前に進み出ます。
「あなたを父と認めます。その代わり、俺とエミーの結婚を認めてください」
私をかばうように、皇帝との間に入ってアレクは立ち塞がります。
それでよかったのでしょうか。こんなふうに親子になるのは嫌だろうに、アレクはきっと我慢をしています。
でも、私にはこれ以上何も言えません。私はまだ部外者、これは二人の間のことだからです。
皇帝は頷きました。
「それでいいのだな? 分かった、そうしよう。しかし残念だな、お前にはいい縁談をいくつか用意していたが、無駄になってしまった」
「あなたったら、その気もないくせにもったいぶっちゃって」
アレクの母エステルが茶々を入れて、皇帝はちょっと憮然としています。
それを誤魔化すように、皇帝は私とアレクの横を通って玄関の扉へ進みます。
「余は帰る。ではな」
「あ、その前に。私、外国人なので市民権がなくてアレクと結婚できないのです」
私は振り向きもせず、皇帝の顔も見ずに言いました。
当初の予定とは違いますが、絶好の機会です。このタイミングでなら、皇帝は断れないでしょう。さっき、私とアレクの結婚を認めると言ったのですから、力を貸すしかありません。
皇帝がどんな顔をしていたかなど知りません。しかし、聞こえなかったわけではないようです。
「分かった、帰ってから侍従長に言っておいてやる。あとのことはそちらと話せ」
「ありがとうございます。恩に着ます、皇帝陛下」
「ふてぶてしい娘だな。そのあざの顔で、堂々として」
皇帝は笑います。余裕を見せて、褒めたのか貶したのかよく分からないことを口にします。
「まるで古強者の傷のようで、誇らしくも恐ろしいな」
「そんなことを言われたのは初めてです」
「ほう、今まで女の顔を褒める男はいなかったのか」
「褒めてくださっていたのですね、気付きませんでした」
皮肉の応酬は、きっと聞いていて必ずしも気分のいいことではなかったでしょうが、私は負けるわけにはいきませんでした。
アレクのために、たとえ、皇帝相手でも。
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