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第1話 一人ぼっち

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「お前は終わりだ。そのアイテムボックスの所有権を渡せ」

「な、なんでだよ、俺達は仲間じゃないのか」

「俺様達はお前のアイテムボックスが目当てだ。お前はアイテムボックスのスキルを獲得していた。スキルは相手に譲渡する事が出来る」

「そんなの知ってる」

「譲渡出来るスキルと出来ないスキルがあるが、アイテムボックスは譲渡出来る。だからくれ、それにお前にはアイテムボックスのスキルしかない荷物持ちだろ、これからは冒険者をやめるんだな」

「ふ、ふざけるな」

 俺の心は震えていた。

 それでも俺は彼等の事を信じていた。

 恐竜剣士=ロイフル
 神速剣士=メレル
 炎狂戦士=ドーマス
 震災魔法氏=ドリーム
 道化回復師=ピエロト
 戦艦盾士=ゴムザ
 爆炎奇術師=ズーザス
 騎乗騎士=フレイヤ
 魔物化物使い=チャニー
 電撃人間=ウェイバー
 破壊再生士=シェイバー
 勇魔超士=ナルデラ

 勇魔超士という職業についており、ギルドマスターであるナルデラ。
 彼は俺に向かってアイテムボックスのスキルをよこせと言っている。
 他の11人のメンバー達はそれを気にも留めず見ながら笑っている。

「そもそも、お前の役目は沢山のアイテムを運搬するだけだ」

 ロイフルはけらけら笑っている。

「そもそもあなたにスピードを合わせてあげただけでも感謝して欲しいわね」
 
 メレルがにやつきながら笑っている。

「たく燃えカスにしちまおうぜ」

 ドーマスが腹をかかえて笑っている。

「震災級の魔法を使おうか?」

 ドリームが真面目腐って言いながら。
 
「震災に巻き込まれたものを治すがな疲れるではないか」

 ピエロトが頭を抱えている。

「邪魔、殺す、それがいい」

 ゴムザがいかめしい顔で頷き。

「塵にするか」

 ズーザスが死んだ目でこちらを見る。

「まったく早くしてよねマスター」

 フレイヤ―がペガサスに乗りながらそう言った。

「魔物達疲れてるからはやくしてね、ここさっきまでS級のボスモンスターがいたんだから、レベル換算で1500程度、皆のレベルは1000以上だけどそのアイテムボックスしか能のないやつはレベル30よ」

 チャニーが今の現状を説明してくれる。

「ったくびりびりするぜ」

 ウェイバーが笑い。

「はぁ」

 とシェイバーがため息をする。

「みんな疲れている。早くアイテムボックスを譲渡してくれないかな、ジェル」

「でも、アイテムボックスのスキルがなくなったら何もなくなる、俺は雑魚だ」

「アイテムボックスがあっても君は雑魚だろ?」

「でも、アイテムボックスがあれば」

「だからと言ってレベルは上げられるか? 出来ないだろ、アイテムボックスがあったて、君は永遠にレベル100以下なんだよ? この【盾剣ギルド】はトップスリーに入るのに君がいたら凄く邪魔なんだ。だけど君のスキルはとても魅力的なんだよ、なぁ、だから君のスキルをくれないかい? このギルドマスターにさ」

 心が震えた。

 小さい頃から虐められてきた。

 この世界は普通にビルと呼ばれる超高層建物が存在するし、道路には車という乗り物が走っている。だけどそれは都市部だけであり、魔法壁と壁に囲まれた中での平和というだけの話だ。

 魔法壁と壁の向こうには無数のダンジョンがあり、無数のモンスターがあり、まだ人類系の人種が知らない事だらけなのだ。

 そして今回来たダンジョンはS級ダンジョンであり、ボスモンスターは魔王みたいなやつだった。

 12人の盾剣ギルドのメンバー達が必死に力を出して倒す事に成功した。

 そして帰還魔法を唱えようとしたとき、ギルドマスターが突然自分にスキルをよこせと言ってきたのだ。

 小さい頃から虐められてきた。
 自分が生きる価値を見つけ出せたのは、冒険者ギルドに登録する時、目覚めたスキルがあったからだ。

 それがアイテムボックス。
 
 冒険者ギルドで登録する時に、その反動でスキルを習得する人がたまにいる。
 それが俺だったという事だ。

 小さい頃から虐められてきた。
 だけどもっと前から家族に暴力を受けていた。
 ご飯もろくに食べさえてもらえず、当時住んでいたマンションの外から飛び降りようとした。
 だけど両親はげらげら笑いながらご飯を食べていた。

 俺はベランダの下にうつる庭を見ていた。
 7階、ここから落下すれば即死だろう。
 
 でもでもでもでも、こんな所で死ぬのは、とても情けなくて。

 しかし、自分には強い力が無くて。

 まった、まってまってまった。
 いつか力を手に入れる時がくるのだと、まってまってまてまってまった。

 そしてアイテムボックスというスキルを手に入れて、実家のマンションから逃げた。
 
 いくらアイテムボックスのスキルがあろうと、何もならない、ただ便利屋のように利用される。

 次は冒険者から虐められるようになった。
 また待つのか、いつ、報復が出来る。でも人を殺したら天国にいけなくなる。
 地獄にいくしかない。それが怖い怖い怖い。

 心が震える。

 さぁ俺はどうしたらいい、虐めてきた奴等を虐待してきた奴らを殺すか。
 ダメだ。殺せない。どうしたらいい、どうしたらいいんだ。

【なぁ、君、盾剣組織に入らないか?】

 それは初めてナルデラに声をかけてくれた時の記憶だった。
 その後鼻水を流して泣いた。

 でも結局はこうなる。

 ああ、こうなるのか、こうなっちまうのか、俺がもっとつ強ければ、もっともっと強ければ、力が欲しい。

 俺は歯を食いしばってアイテムボックスのスキルをナルデラギルドマスターに渡した。

 自分自身の手でしか干渉できない心の膜。

 そこから丸いボールを取り出して、ナルデラに渡した。

 まるで俺は心を渡してしまったかのようだった。

 涙がとまり、けらけら笑っていた。

 ああ、悲しい、悲しい、でも嬉しい、嬉しい。

「きもいな、アイテムボックスのスキルは受け取った。さて、帰還するぞ、お前はどうする、ジェル」

「俺はひっひ、ここでいいよ、俺は死ぬんだ。ひっひ、終わった」

「まったく頭がいかれたか、おめーら帰るぞ、ジェルは死んだ事にしておけ、どうせここから1人では帰られないぞ」

 ギルドメンバー達は俺を見てげらげら笑っている。
 俺はかつてダンジョンモンスターがいた台座のど真ん中でげらげら笑い続けていた。

 ここから歩いて帰るにはダンジョンの最上階まで登る必要がある。
 その後険しい森林地帯のフィールドを走る必要がる。
 アイテムボックスを奪われたので、帰還スクロール系は全部ない。

 だからナルデラは最後に帰るかと尋ねてきたのだ。
 
 どうせ俺はここで死ぬ。

 そう思ったんだ。

【おい、ガキ、その面はなんだ】

 その声は突如真上から響いた。

【大体の事は見ていたが、あのナルデラっちゅう奴はひでーな】

「あなたは?」

 いつしか涙は引いていた。

【非常に言いにくい事なんだが、お前もう死ぬのか?】

「もう逃げ道はないね」

 いつしか周りにS級のモンスター達が取り囲んでいた。

【なぁ、お前、地獄にいかないか】

「地獄?」

【お前さ、強くなりたいんだろ】

「ああ」

【俺は希望の魔王、お前に希望を与える事が出来るが、尋常じゃない訓練と尋常じゃない痛みと尋常じゃない拷問がまってる、一度いけば終わるまで帰られない、やく1000年かかる、しかしこちらでは3年だ】

「なぁ、それやってさ、最強になったらさ、あいつら、殺せるかな、家族も殺せるかな、虐めてきたやつらも殺せるかな、みーんなみーんな殺せるかな、殺しまくっていいかな、俺は地獄に行くんだからもう殺していいよね、あ、殺そう、殺してなんぼだよね」

【ふっはっは、その頭の吹っ飛びよう、気に入った。この希望の魔王がお前を最強にしてやろう】

「ああ、ああ、強くなれる」

【お前凄いな笑ってるのか】

「人間をやめてるんだよ、はっは」

【違いねぇ、あとさっきあいつら俺を殺したつもりだが、まだ生きてるぜ、それもうけるな】

「ああ、受けるよ」

【じゃあ、1000年だな】

「地獄にいこうぜ」
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