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33話 死霊の勇者

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 9階層、そこは墓場そのものだった。
 巨大な扉を開けて目に付くのは墓場そのもの。

 しかし不思議とその墓場は暗くなかった。

 まるで劇場でも開くかのような盛大なイルミネーションが溢れかえっている、
 とても眩しい墓場だった。

 1人の幽霊がほんわりと浮かび上がっている。

 性格にはほわりほわりと踊っている。
 意味の分からない踊りに、
 周りの墓場から沢山の魂が表れて、
 踊り始める。

 踊って踊って、踊りつくす。

 その亡霊の名前を。

「ってうそ」

 メイルンがそのおっさんを見たときにあげた声は途方もないほど唖然とするものだった。

「でも絵がそっくり、あれ、どこからどうみても」

「「「「初代勇者じゃねーか」」」」

 ネネーネもドースンもフィーズも唖然と叫ぶほどだった。

「なっちんぐなっちんぐ、みなさんをご招待したくて、なっちんぐ、皆殺しにしてあるなっちんぐ」

「メイルン、あれは違うのではないのですか?」
「いえあれは初代勇者です。初代勇者は異世界召喚されてきたとされていますが、元は劇場俳優と呼ばれる仕事に就いていたらしく、決め台詞はなっちんぐです」

「わしとしては少し残念な勇者だと」

「見かけに騙されないほうがいいぜ爺さん」

 フィーズが冷静な瞳をして呟いた。

「よく気づきましたね」

 ロンパが関心して頷くと。

「そりゃ気づくよ、あの幽霊たちは短剣をもっている。踊って踊って突然襲ってくるタイプだろ。勇者がそんな卑怯でいいのかよ」

「なっちんぐ」

 そう勇者は呟き。

「すべては計算ずみなのだよ、君たちの誰かが、仲間たちの亡霊がナイフを握りしめていることにきづく、そして油断しないほうがいいぜという、次の瞬間、君たちは動けない、さぁ劇場の始まりだ」

「は、ええええええ」

 ロンパは後ろにいて見守っている。
 
 4人の勇者ご一行は地面から突き出た腕に掴まれて動けなくなる。

「そして君たちはそこから逃れようと武器を握りしめる。そしてメイルンはこういう」

「油断しないで、すべて計算されている。あの勇者は計略の達人なの」

「というので、次になっちんぐがこういう、その腕は爆弾だと話は続き」

「爆弾んん、はやく斬り飛ばせえええ、いや斬り飛ばしたら爆発するか、なんとか腕から逃れる方法が」

「というと、そこの魔法使いはシンガーの歌で腕を操作しようとする」

「うちが歌でというか、全部予言されてる」

「すると腕は動きませんなぜなら、腕だけで、劇場計略の能力ですべてを操っているのですから、ここにいる亡霊たちもそしてその腕だけの飾りもね、そう言われてメイルンはこう動く」

「ふざけるな、あなたが先代勇者なんて信じられない」

「といって君は斬りつける」

 メイルンは右手と左手に炎の紅き剣を出現させると、次元斬りで、亡霊の勇者の背後から斬りつけるのだが、そこにはすでに亡霊は存在しない。

「君だけが次元斬りを使えると思わないほうがいいなぁ」

 勇者の亡霊は自らを次元にいれて、瞬間移動してみせる。
 そしてパラレルワールドにおいてのたくさんの勇者の亡霊が湧き上がり、

「これが亡霊斬りじゃて、触れたらひゃっこいどおおお」

 無数の幽霊の腕で斬りつけられるメイルンは、
 その魂の冷たさに悶絶しながら。

「どこまでふざけているのですか、先代勇者、いえ、初代勇者、あなたはいつもそうやって人を馬鹿にして戦って、だけどそのおかげで初代魔王に惚れられてあなためちゃくちゃです」

「なっちーんぐ、なぜならそれが劇場だからだ。すべては劇場で生きている。可能性はすべて演技力で成り立っている。そしてなっちんぐは演技力すら、ほ、ん、ね、なのねぇいいいいい」


「このおっさん頭大丈夫なのか」
「フィーズ油断しないで、あれすべて演技だから、師匠は倒し方を知っているのですか?」

 ロンパは考えるふりをしながら。

「それを決めるのは君たちだ。わしはそれを指導するだけだ。指導としていうなれば、結局は魂とは気体ということだよ」

 ネネーネとドースンが腕組をしながら考えている。


「そしてついに魔法使いが閃くのであった、なっちんぐ」

「気体ということは冷やせば液体になるのでは?」

「でもネネーネ、わたくしは炎系の攻撃技しかありません」
「俺様は分裂とかそういう魔法ならいけるが、属性系は無理だ」
「わしゃは見ての通り魔法は無理」
「うちは使えるけど、それほど威力はない」

 4人はこちらを見ていた。
 それもロンパの力を貸してくれと、
 それは師匠としてではなく、
 1人の仲間として。

 ロンパは頭をぽりぽりとかきながら。

「仕方がありませんね、なんかすみません、初代勇者」

「気にするな、君とは一度戦ってみたかったのだよ」

 ロンパは盛大にローブをはためかせて歩く、
 その右手には杖が握りしめられている。
 一方で亡霊勇者は透明な剣を握りしめている。
 2人は邂逅した。

 過去と現在。

 過去の大親友である異世界からやってきた勇者。
 そして勇者にとってこの世界を教えてくれる大賢者。

 2人は今、ぶつかり合おうとしている。

 賢者は氷系の魔法を炸裂。
 勇者は次元斬りをあびせる。

 賢者は姿を消滅させ、いたるところからテレポートしてみせるも、
 それを先読みする勇者の追撃、
 空中を飛びながら、沢山の魔法が炸裂する。
 そのすべては氷魔法。
 気体のような亡霊の体をしている勇者は次から次へとくる氷を避けるのに必死、

 塔という塔のすべてが振動してくるように、 
 地面を操る魔法、それはゴーレム。
 ゴーレムが無数に出現するなか、勇者はそれを幽霊のような剣で両断しまくる。
 ゴーレムたちが次から次へとぶっ倒れるなか、
 その粉塵の中から、賢者が走っている。

 賢者の右手と左手には杖が握りしめられている。
 賢者は知っている。魔法使いがなぜ2本の杖を振ってはいけないのか、
 それは力が分担されるわけではなくて、

 たくさんに分離するからでもなくて、
 2本の杖にすべてが流れるから。

 しかし賢者のように膨大な魔力を秘めている場合、
 それを使うことは苦難ではない。

 風のように、そして水のように、呼吸するように使うことができる。

 両腕から炸裂する氷の刃は簡単に亡霊の勇者に弾かれてしまう。

 だがそれも。

「先の先を読む」
「先読み、それがあなたから学んだことですよ勇者、あいにくわしは次元斬りとか次元渡りはできないので」


 勇者の背後から両手握られている杖、その先が氷ついている。
 勇者の心臓を捕らえている。
 それは魂でありながらも、ちゃんとした生命線になっているのだから。


 水となった亡霊の勇者は地面に落下した。
 そして何よりスライムみたいな物になりながら、うねうねと排水口を通って逃げていった。

 さすがわが友、死人になっていても遊ぶとは。

「すすげええええええ」
「本当に信じられないです」
「わしゃ死んだかとおもったぞい」
「さすが師匠です」

 フィーズにネネーネにドースンにメイルンは微笑んでくれた。
 これが1人のパーティーメンバーとして送られる儀式のようなものだ。

 久しぶりに、数千年ぶりに仲間というものを味合わせてくれた彼らに感謝をして告げるのだ。

「わしはここまでだ。マジックポイントも切れたしな、アモスを倒してこい」
「え、どういうことですか、最後まで見届けてくれるんじゃないんですか」
「そういうわけにもいかぬ、足手まといにはなりたくない」
「ですが、師匠は、沢山のことを教えてくれました」
「そうか、ならいつかまた会おう。わしにはいろいろと仕事がある」

「そうですか、なら、みんなで手を握ってここに『大賢者の集い』というパーティーがあったことを心に残したいのです」

「いつの間につけたのじゃ」

「それは、メイルンが一生懸命考えたこと」
「そうなんだよ、俺様てきにもっとかっこいい名前を付けたかったけどな」
「わしゃは反対しないぞい」

 ロンパは涙を流しそうになりながらも、
 その場にいる5人で仲良く両手を握りしめた。

 そしてロンパであることは今日で終了したのだ。
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