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第一部【誕生編】
7話闇の森防衛戦
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沢山の化物たちこと魔族たちの衣服は黒になっていた。
全員が喪中を表しており、化物達種族には喪中の概念はなかった。
これを広めたのはジャンだった。
魔王城にいる沢山の化物たちは魔王の旅立ちを死と捕らえ、みんなが涙を流していた。
魔王城のバルコニーに一人の青年が立っている。
化物たちは彼を見つめていた。
ウィルコムは大きな遠吠えをあげると、ただ叫んだ。
「俺様は母上と会話したことがない、俺様は母上の記憶でしか母上のことを知らない。俺様は父上だと知らずに殺され、父上だと知ってから、彼の記憶を見た。俺様は父上と話しかけたかった。俺様は両親ともっと話したかった。きっとこの世に生まれてくる生命には両親がいる。両親と会話できるものとできないものとに分かれるだろう。それでも俺様はこれから生まれてくる生命たちに両親のいない気持ちや感情を味合わせたくないのだ」
ウィルコムは少し押し黙ると、一粒涙を流した。
「俺様は命が消えるのを嫌う、俺様は命を粗末にするやつを嫌う、俺様は命をゴミだというやつを嫌う、俺様は守る。守って守って守りとおす。あるときデビモンド師匠はいった。大切なものを守れと、デビモンド師匠は俺様の父親代わりだった。師匠は俺様に平和な世界を見せたいために命を削った」
ウィルコムはいつしか涙を大量に流して、しゃっくりをあげていた。
こんなになくのなんて初めてだった。
背中を撫でる感触。
後ろを振り返ればいつの間にかメイリン姫がいて彼女は笑顔を浮かべてウィルコムの背中を撫でていた。
彼女の真っ白い顔を見ただけで元気がでた。
「俺様は化物達の傭兵団団長としてデストンを倒す。やつの気持ちがわかる。やつは魔王が死んだいまだからこそ、ここを攻め滅ぼそうとするはず。だが俺様は違うとおもうここは結界に包まれているし、やつの国からここまでとてつもなく遠いい、よってやつらは闇の森を攻めるはず。俺様たちはそこに向かって、また立ち上がる。守る、俺様たちは侵略をしない、ただひたすら守るだけだ。それが傭兵団だああ」
「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおお」」」」」」」
たくさんの人々の遠吠え、たくさんの人々の雄たけび。
心臓に響く。
「みんな聞いてくれ、お前たちはここで待っていて欲しい、俺様たち化物達の傭兵団に任せてくれ」
全員が押し黙った。
どうやらウィルコムが普通の体だと思っているやつらがいるようで。
ウィルコムは突然炎の翼を生やした。
次に空を飛翔した。
フェニックス族の力。
きっと民衆たちはフェニックス族の先祖がえりだと思ったに違いない。
右手をあげる。
回転を始める。
フェニックス族の翼がある状態で、回転、それは。
「タツマキ族」
これはタツマキのように回転ができる化物だ。
その行動を見て、一人また一人と声をあげた。
それはたった5名で闇の森を守ることを許可してくれたような気がするほどの勢いだった。
「そうさ、俺様はモンスターズパニックを使える。だから安心してくれ」
それでもたくさんの遠吠え雄たけびは聞こえてくる。
ウィルコムはようやくちゃんと生きている。
ちゃんと強くなっている。
心が成長していっている。
それを感じることができた。
演説が終わると、シャドウ族のセバスがにこにこしていた。
なぜにこにこしているのが分かるかというと。
顔の空白の部分がにこにこしていたからだった。
「では三日後に出発でいいですな?」
「はい、そうするよ、闇の森に集まった難民たちを助ける。あそこには誰がいるんだい?」
「バビモンドがいます。彼は魔王様より闇の森の盟主として認められました。バビモンドはエルフ族でデビモンドの義理の兄です」
「そうか、デビモンドの兄か」
バビモンドはエルフ族であるらしい。
義理ということはなにかしらの歴史があったのだろう。
「フェニックス族の箱車にて空から送りましょう」
「助かる」
「フェニックス族は非常にデリケートでして同じ場所にずっといられないのです。ここ魔王城は水呑場としていますが、ですので、闇の森以降はウィルコム様たち自身で動いてもらわなければなりません、あと銀色の角なしユニコーンであるライザー殿ですが、どうしましょうか」
セバスがたずねてくると。
ギードはうむと考えていた。
「セバス殿、わしは考えたのじゃが、ライザー殿もつれていってはいけぬだろうか? 姫の唯一の理解者らしいのでな」
「はいです。ライザーはいるとたのもしいのですわ」
ギードはオーガ族で巨躯だが、心はやさしいお爺ちゃんでもある。
「うむ、ですと一週間分の食料を三日分に減らせば、フェニックス族でも運べるのですが」
「ああ、そうしてくれ」
「ウィルコム殿、食料がなくなるということは」
「安心しろ、俺様たちはそれぞれのスペシャリスト、魚でも獣でも鳥でもくっているしキノコでも野草でも食うさ」
「ですが魔王の息子にそのようなことをしたとあっては」
「気にするな、ここは魔王の息子だから好待遇としてたら誰もついてこないぞ」
セバスはにこりと頷いた。
「この執事、ウィルコム殿の成長振りに感激です」
「ははは」
とウィルコムが笑っていると。
「ではサイクロプスのコックたちに今日の昼ご飯を用意させます、では」
セバスがいなくなると、大きな居間で、ポルカは椅子の上に座っており、メロナとメリザは魔王城の魔法書を借りて勉強している。
ギードはあくびしながらストレッチをしていて。
「それで、わたくしとしてはウィルコムは闇の森にいったことあるの?」
メリザはこの魔王城でヘアーサロンなんたらにかよって、髪の毛を縦ロールにしてまるでお嬢様のようになっていた。
「行ったことはないのね? 教えてあげるわ、ちょうどその参考書をかりてきたから、メロナはそれをみながらよ」
「はいですお姉さま」
「私はしっておりますのよ?」
とさきほどまで歯磨きしていたメイリンがやってきた。
「姫も聞いてて」
「はいです」
ギードは相変わらずストレッチをしている。
「まず、闇の森の盟主はバラモンドというエルフという長老で、困っている化物たちを助けてきたの、もちろん人間が困っていたら手を差し伸べる。魔王様と勇者様のよき理解者であり、2人の間にだけ存在した将軍の一人なの、その将軍がデビモンドにバビモンドにギードよわかっているだけで」
「ちょっとまてなにげにギードでてくるな」
「わしいっとらんかったっけ? これでも魔王様の将軍だったって」
「それだけじゃわからんて」
ポルカが小人ながらに高い声をあげて反論した。
「してデビモンドは氷の血となって死んだとされてるわけだけど、これ知ってるの魔王城にいる人だけよ、あとジャン勇者だけね、ウィルコム、そのところどうなの?」
「おう、その通りだ」
「で今明らかにされてる将軍で生きてるのはギードとバビモンドね、で、闇の森は中に入ると、盟主に認められない限り、五感が遮断されるの」
「え?」
ウィルコムが唖然とした。
「つまりフェニックスが近づけるのは結界の外まで、中に入った瞬間五感がなくなるけど、大抵は入った瞬間に何かが起きるらしいといわれてるのよ、それで判定されるみたいね」
「よかったよ」
ウィルコムが安堵するとコロポックル族のポルカが首をふる。
「つまり認められなければ、何も感じず殺される?」
「まではいかないけど、捕まるわね」
「はぁ」
とウィルコムがため息をつくけど。
「そこんところは大丈夫よ、わたくしがいるからね、ヴァンパイア族はいま滅びの真っ最中で、ヴァンパイア族は闇の森が率先して保護してるの、だからわたくしのおかげで、あなたたちは助かるのよ」
「なんかむかつくのう、そもそもわしがいればいいわけじゃがら」
ぽつーんと、メリザが部屋のすみっこでのの字を書いていた。
「いいもん、わたくしなんて必要ないもん」
「これまた失礼、わしとしたことが、ちなみにオーガ族は顔パスじゃがらな」
「いいもん、わたくしなんて」
「これまた失礼」
「なぁ、ギードってあれわざと?」
「お爺ちゃんはきっとわざとなのです」
とポルカとメロナが笑っていると。
「昼飯ができましたのじゃ」
とセバスがきて。作戦会議は一時中断した。
―――
川に流された。
永遠と呼ばれるほど沢山の魚とすれ違った。
のっぺら族には鼻がない。
口がはあるが、奇跡的に体は浮いていた。
浮きながら、口から空気を吸いながら。
ひたすら流れる。
なぜだろう。
目がないのに物が見える感覚。
みんな気味わるがっていた。
ピット器官とよばれるもの、蛇なのがもつ器官なのだが、それがのっぺら族には備わっている。そのことから餓鬼のころにたくさんの修行をした。
のっぺら族とはだいだい暗殺の一族。
そのなかに禁じられた文明の忍術というものがあった。
巻物から習得していくもの、のっぺら族は一人前になるとアイテムボックスをもらう。
そのアイテムボックスに巻物を数種類持ち運ぶことを許される。
本当に必要なとき、本当に大事なときにその巻物から力を使えといわれる。
だが今アイテムボックスには数種類の巻物と、林檎しかない。
林檎をアイテムボックスからぬきとると、川に流されながらかじりついた。
まだ生きたい。
死にたくない、こんなところで終わるわけにはいかない。
突然何かが遮断された。
五感がなくなりピット器官すらなくなった。
ひたすら流され続けていた。
ここが?
闇の森だった。
何も感じない。
「お前は争いを好むな」
「そう好む、強いやつと殺しあいたい」
「なら問おう、大事なものを守りたいか?」
「守りたい、守りたいけど全部失った。我はたった一人ののっぺら族」
「なら許そう、俺はバビモンド、ここの盟主だ。のっぺら族はお前が初めてだ」
ふと気づいた。
全身にさらに包帯がまかれてあった。
巨大な家だった。
沢山のけが人やらがうめき声をあげては暴れては、宥められていた。
右手がないもの左手がないもの。
鬼神は化物たち、つまるところ魔族が嫌いだった。
魔族に気持ちわるいからといわれリンチされた。
そのとき人間の子供が助けてくれた。
その子も魔族に殺された。
周りではたくさんの魔族たちが悲鳴をあげてはのたうっている。
「ドクターこっちきてください、血がとまりません」
「ドクター心肺停止です」
「なにやってんのーそこは輸血しなさい」
その女性は必死にたくさんの魔族たちを助けていた。
その女性は。
「人間?」
そう化物しかり魔族を救っていたのは一人の女性だったのだ。
ドクターと呼ばれる彼女は化物たちから頼りにされており、その人間は明確な指示のもとけが人を治療していく。
ピット器官がわずかな違いを教えてくれる。
神官ではないのはわかるし、魔法では治せないところを治療していた。
その治療は手術と呼ばれるもので、見たことなかった。
ピット器官はさらに教えてくれる。
彼女の頭からのびる沢山の透明な意識線を。
深夜になったようだ。
みんなが寝静まった中。
ドクターは椅子にすわってぜいぜいと呼吸していた。
鬼神は立ち上がった。
重症をおった腹が痛いが、穴の開いた場所にはちゃんと縫合のあとがあった。
「あんたはがんばってる」
自分が呟くと彼女はこちらをみてにこりとわらった。
「のっぺら族か、あたいは知恵族なの」
「なるほど、人間と少し違う波動のようだな」
「のっぺら族って目がないけどどうやってみているの?」
「いま我は今世紀一台の医学の進歩を提供しようとしているのか」
「大げさね」
「我は蛇がもつピット器官とやらで見ているのだよ」
「へぇ、蛇かぁ、そう言う方法がね、小説でみたけど、のっぺら族って暗殺の一族でしょ?」
「ああ、我を残して絶滅したよ」
「そうっか、あたいも最後の一人なんだよ、人間があたいたちをつかって禁じられた文明発掘に強制労働させてね、知恵ばっか使わされて、知恵熱で死んでいった。あたいはバビモンド様に助けられたのさ」
「禁じられた文明か、どこもかしこも禁じられた文明ばっかりだな、そんなに過去の異形が大切なのだろうかぁなぁ?」
「きみちょっとたまに変な話かたになるよね、今気づいた。うなされてるときもさ」
「それはしつれいしたぁあ、すまん、戦いになると話方が変になるんだ」
「あっはっは、それ面白い」
「そうか?」
「あたいはドクター・カエデ、ドクターと呼んで、あんたは?」
「鬼神だ」
「キシン?」
「そっちで呼ぶより、漢字のほうがすきだ。まぁ漢字も失われた文明だがな」
「鬼神、鬼の神? 覚悟ってわけ?」
「やはり頭がいいのもいいことではないな」
「そうかな、いい名前よ、ようこそ、闇の森へ」
突然の発言に。
「ああ、よろしく頼む、なぜか君と話すと、どっかのバカを思い出して、殺したいとおもっていたのに殺してはいけないと思ってしまう」
「それがきっと友情よ」
「友情? そいつは我が敵なのに仲間になれといったドアホうものだよ」
「いいじゃん、昨日の敵は明日の友ってね」
「なんだ。その名言は」
「これも禁じられた文明だけどね」
「そうか、禁じられた文明も悪くないものだな」
「そうかもね、弱肉強食って言葉もあるけど」
「お前面白いな、弱い肉と強い食べるってどういう意味だ」
「弱いものは強いものに食われるって意味らしい」
「まるで我の人生そのものじゃないか」
「そんなにすごい人生なら、人生を言い合いっこしましょ」
「いいねぇ」
その日から毎日のように深夜になると、鬼神とドクターは話続けた。
ドクターの髪の毛は金色で、黄金のようだった。
それでも衣服は血に汚れていた。
毎日毎日話しては笑ってはないては、にこにこしては、怒っては。
まるでちゃんとした人生そのものを感じていた。
そんなときだった。
内臓の負傷がおもったほどひどくてなかなか退院できない鬼神は。
一人ぼーっと外を見ていた。
病院に2人の男女が入ってきた。
最初は普通の表情で見ていたのだが。
「げ」
と彼は気付いた。
ウィルコムとメリザだった。
ウィルコムはさっそく鬼神を見つけて大爆笑していた。
「かっかっか、お前ばっかだなぁ、俺様についてこれば、こんなことにはならなかったのに」
「面目ない」
「え? お前はすごい素直になったな」
「うるせい」
「え? 俺様を殺すんじゃないの? 殺さないの? お前バカだけど、だいたいはさっするよ、それで俺様の仲間になるか?」
「ああ、なるよ、おまえのしつこさにはヘドがでるけどね、一緒にここを守るんだろ? ここには我にとって守りたいものがあるんだ」
「その心意気大事だよ。大事」
「殺すぞ」
「落ち着いてよ、さぁ、団員も揃ったことだし、もちろん、メイリン姫も団員だから、モンチャスのところにつれてくなんていうんじゃないぞ」
「うす」
「私団員だったのですか? うれしいですわあああ」
と一人お花畑になったメイリン姫がいたわけで。
というかメイリン姫よいつのまにいたんだ。
メリザはというと回復魔法で片っ端から人々を救っていくが、病気やウイルス性のものはなおせないので、ドクターに任せるという方法みたいだ。
神官と医者がタッグを組んだらすごいことになっていた。
現在化物達の傭兵団 団員7名
〈ウィルコム〉〈種族モンスターズ〉
〈メリザ〉〈種族ヴァンパイア〉
〈ギード〉〈種族オーガ〉
〈メロナ〉〈種族サキュバス〉
〈ポルカ〉〈種族コロポックル〉
〈メイリン〉〈種族人間〉
〈鬼神〉〈種族のっぺら〉
全員が喪中を表しており、化物達種族には喪中の概念はなかった。
これを広めたのはジャンだった。
魔王城にいる沢山の化物たちは魔王の旅立ちを死と捕らえ、みんなが涙を流していた。
魔王城のバルコニーに一人の青年が立っている。
化物たちは彼を見つめていた。
ウィルコムは大きな遠吠えをあげると、ただ叫んだ。
「俺様は母上と会話したことがない、俺様は母上の記憶でしか母上のことを知らない。俺様は父上だと知らずに殺され、父上だと知ってから、彼の記憶を見た。俺様は父上と話しかけたかった。俺様は両親ともっと話したかった。きっとこの世に生まれてくる生命には両親がいる。両親と会話できるものとできないものとに分かれるだろう。それでも俺様はこれから生まれてくる生命たちに両親のいない気持ちや感情を味合わせたくないのだ」
ウィルコムは少し押し黙ると、一粒涙を流した。
「俺様は命が消えるのを嫌う、俺様は命を粗末にするやつを嫌う、俺様は命をゴミだというやつを嫌う、俺様は守る。守って守って守りとおす。あるときデビモンド師匠はいった。大切なものを守れと、デビモンド師匠は俺様の父親代わりだった。師匠は俺様に平和な世界を見せたいために命を削った」
ウィルコムはいつしか涙を大量に流して、しゃっくりをあげていた。
こんなになくのなんて初めてだった。
背中を撫でる感触。
後ろを振り返ればいつの間にかメイリン姫がいて彼女は笑顔を浮かべてウィルコムの背中を撫でていた。
彼女の真っ白い顔を見ただけで元気がでた。
「俺様は化物達の傭兵団団長としてデストンを倒す。やつの気持ちがわかる。やつは魔王が死んだいまだからこそ、ここを攻め滅ぼそうとするはず。だが俺様は違うとおもうここは結界に包まれているし、やつの国からここまでとてつもなく遠いい、よってやつらは闇の森を攻めるはず。俺様たちはそこに向かって、また立ち上がる。守る、俺様たちは侵略をしない、ただひたすら守るだけだ。それが傭兵団だああ」
「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおお」」」」」」」
たくさんの人々の遠吠え、たくさんの人々の雄たけび。
心臓に響く。
「みんな聞いてくれ、お前たちはここで待っていて欲しい、俺様たち化物達の傭兵団に任せてくれ」
全員が押し黙った。
どうやらウィルコムが普通の体だと思っているやつらがいるようで。
ウィルコムは突然炎の翼を生やした。
次に空を飛翔した。
フェニックス族の力。
きっと民衆たちはフェニックス族の先祖がえりだと思ったに違いない。
右手をあげる。
回転を始める。
フェニックス族の翼がある状態で、回転、それは。
「タツマキ族」
これはタツマキのように回転ができる化物だ。
その行動を見て、一人また一人と声をあげた。
それはたった5名で闇の森を守ることを許可してくれたような気がするほどの勢いだった。
「そうさ、俺様はモンスターズパニックを使える。だから安心してくれ」
それでもたくさんの遠吠え雄たけびは聞こえてくる。
ウィルコムはようやくちゃんと生きている。
ちゃんと強くなっている。
心が成長していっている。
それを感じることができた。
演説が終わると、シャドウ族のセバスがにこにこしていた。
なぜにこにこしているのが分かるかというと。
顔の空白の部分がにこにこしていたからだった。
「では三日後に出発でいいですな?」
「はい、そうするよ、闇の森に集まった難民たちを助ける。あそこには誰がいるんだい?」
「バビモンドがいます。彼は魔王様より闇の森の盟主として認められました。バビモンドはエルフ族でデビモンドの義理の兄です」
「そうか、デビモンドの兄か」
バビモンドはエルフ族であるらしい。
義理ということはなにかしらの歴史があったのだろう。
「フェニックス族の箱車にて空から送りましょう」
「助かる」
「フェニックス族は非常にデリケートでして同じ場所にずっといられないのです。ここ魔王城は水呑場としていますが、ですので、闇の森以降はウィルコム様たち自身で動いてもらわなければなりません、あと銀色の角なしユニコーンであるライザー殿ですが、どうしましょうか」
セバスがたずねてくると。
ギードはうむと考えていた。
「セバス殿、わしは考えたのじゃが、ライザー殿もつれていってはいけぬだろうか? 姫の唯一の理解者らしいのでな」
「はいです。ライザーはいるとたのもしいのですわ」
ギードはオーガ族で巨躯だが、心はやさしいお爺ちゃんでもある。
「うむ、ですと一週間分の食料を三日分に減らせば、フェニックス族でも運べるのですが」
「ああ、そうしてくれ」
「ウィルコム殿、食料がなくなるということは」
「安心しろ、俺様たちはそれぞれのスペシャリスト、魚でも獣でも鳥でもくっているしキノコでも野草でも食うさ」
「ですが魔王の息子にそのようなことをしたとあっては」
「気にするな、ここは魔王の息子だから好待遇としてたら誰もついてこないぞ」
セバスはにこりと頷いた。
「この執事、ウィルコム殿の成長振りに感激です」
「ははは」
とウィルコムが笑っていると。
「ではサイクロプスのコックたちに今日の昼ご飯を用意させます、では」
セバスがいなくなると、大きな居間で、ポルカは椅子の上に座っており、メロナとメリザは魔王城の魔法書を借りて勉強している。
ギードはあくびしながらストレッチをしていて。
「それで、わたくしとしてはウィルコムは闇の森にいったことあるの?」
メリザはこの魔王城でヘアーサロンなんたらにかよって、髪の毛を縦ロールにしてまるでお嬢様のようになっていた。
「行ったことはないのね? 教えてあげるわ、ちょうどその参考書をかりてきたから、メロナはそれをみながらよ」
「はいですお姉さま」
「私はしっておりますのよ?」
とさきほどまで歯磨きしていたメイリンがやってきた。
「姫も聞いてて」
「はいです」
ギードは相変わらずストレッチをしている。
「まず、闇の森の盟主はバラモンドというエルフという長老で、困っている化物たちを助けてきたの、もちろん人間が困っていたら手を差し伸べる。魔王様と勇者様のよき理解者であり、2人の間にだけ存在した将軍の一人なの、その将軍がデビモンドにバビモンドにギードよわかっているだけで」
「ちょっとまてなにげにギードでてくるな」
「わしいっとらんかったっけ? これでも魔王様の将軍だったって」
「それだけじゃわからんて」
ポルカが小人ながらに高い声をあげて反論した。
「してデビモンドは氷の血となって死んだとされてるわけだけど、これ知ってるの魔王城にいる人だけよ、あとジャン勇者だけね、ウィルコム、そのところどうなの?」
「おう、その通りだ」
「で今明らかにされてる将軍で生きてるのはギードとバビモンドね、で、闇の森は中に入ると、盟主に認められない限り、五感が遮断されるの」
「え?」
ウィルコムが唖然とした。
「つまりフェニックスが近づけるのは結界の外まで、中に入った瞬間五感がなくなるけど、大抵は入った瞬間に何かが起きるらしいといわれてるのよ、それで判定されるみたいね」
「よかったよ」
ウィルコムが安堵するとコロポックル族のポルカが首をふる。
「つまり認められなければ、何も感じず殺される?」
「まではいかないけど、捕まるわね」
「はぁ」
とウィルコムがため息をつくけど。
「そこんところは大丈夫よ、わたくしがいるからね、ヴァンパイア族はいま滅びの真っ最中で、ヴァンパイア族は闇の森が率先して保護してるの、だからわたくしのおかげで、あなたたちは助かるのよ」
「なんかむかつくのう、そもそもわしがいればいいわけじゃがら」
ぽつーんと、メリザが部屋のすみっこでのの字を書いていた。
「いいもん、わたくしなんて必要ないもん」
「これまた失礼、わしとしたことが、ちなみにオーガ族は顔パスじゃがらな」
「いいもん、わたくしなんて」
「これまた失礼」
「なぁ、ギードってあれわざと?」
「お爺ちゃんはきっとわざとなのです」
とポルカとメロナが笑っていると。
「昼飯ができましたのじゃ」
とセバスがきて。作戦会議は一時中断した。
―――
川に流された。
永遠と呼ばれるほど沢山の魚とすれ違った。
のっぺら族には鼻がない。
口がはあるが、奇跡的に体は浮いていた。
浮きながら、口から空気を吸いながら。
ひたすら流れる。
なぜだろう。
目がないのに物が見える感覚。
みんな気味わるがっていた。
ピット器官とよばれるもの、蛇なのがもつ器官なのだが、それがのっぺら族には備わっている。そのことから餓鬼のころにたくさんの修行をした。
のっぺら族とはだいだい暗殺の一族。
そのなかに禁じられた文明の忍術というものがあった。
巻物から習得していくもの、のっぺら族は一人前になるとアイテムボックスをもらう。
そのアイテムボックスに巻物を数種類持ち運ぶことを許される。
本当に必要なとき、本当に大事なときにその巻物から力を使えといわれる。
だが今アイテムボックスには数種類の巻物と、林檎しかない。
林檎をアイテムボックスからぬきとると、川に流されながらかじりついた。
まだ生きたい。
死にたくない、こんなところで終わるわけにはいかない。
突然何かが遮断された。
五感がなくなりピット器官すらなくなった。
ひたすら流され続けていた。
ここが?
闇の森だった。
何も感じない。
「お前は争いを好むな」
「そう好む、強いやつと殺しあいたい」
「なら問おう、大事なものを守りたいか?」
「守りたい、守りたいけど全部失った。我はたった一人ののっぺら族」
「なら許そう、俺はバビモンド、ここの盟主だ。のっぺら族はお前が初めてだ」
ふと気づいた。
全身にさらに包帯がまかれてあった。
巨大な家だった。
沢山のけが人やらがうめき声をあげては暴れては、宥められていた。
右手がないもの左手がないもの。
鬼神は化物たち、つまるところ魔族が嫌いだった。
魔族に気持ちわるいからといわれリンチされた。
そのとき人間の子供が助けてくれた。
その子も魔族に殺された。
周りではたくさんの魔族たちが悲鳴をあげてはのたうっている。
「ドクターこっちきてください、血がとまりません」
「ドクター心肺停止です」
「なにやってんのーそこは輸血しなさい」
その女性は必死にたくさんの魔族たちを助けていた。
その女性は。
「人間?」
そう化物しかり魔族を救っていたのは一人の女性だったのだ。
ドクターと呼ばれる彼女は化物たちから頼りにされており、その人間は明確な指示のもとけが人を治療していく。
ピット器官がわずかな違いを教えてくれる。
神官ではないのはわかるし、魔法では治せないところを治療していた。
その治療は手術と呼ばれるもので、見たことなかった。
ピット器官はさらに教えてくれる。
彼女の頭からのびる沢山の透明な意識線を。
深夜になったようだ。
みんなが寝静まった中。
ドクターは椅子にすわってぜいぜいと呼吸していた。
鬼神は立ち上がった。
重症をおった腹が痛いが、穴の開いた場所にはちゃんと縫合のあとがあった。
「あんたはがんばってる」
自分が呟くと彼女はこちらをみてにこりとわらった。
「のっぺら族か、あたいは知恵族なの」
「なるほど、人間と少し違う波動のようだな」
「のっぺら族って目がないけどどうやってみているの?」
「いま我は今世紀一台の医学の進歩を提供しようとしているのか」
「大げさね」
「我は蛇がもつピット器官とやらで見ているのだよ」
「へぇ、蛇かぁ、そう言う方法がね、小説でみたけど、のっぺら族って暗殺の一族でしょ?」
「ああ、我を残して絶滅したよ」
「そうっか、あたいも最後の一人なんだよ、人間があたいたちをつかって禁じられた文明発掘に強制労働させてね、知恵ばっか使わされて、知恵熱で死んでいった。あたいはバビモンド様に助けられたのさ」
「禁じられた文明か、どこもかしこも禁じられた文明ばっかりだな、そんなに過去の異形が大切なのだろうかぁなぁ?」
「きみちょっとたまに変な話かたになるよね、今気づいた。うなされてるときもさ」
「それはしつれいしたぁあ、すまん、戦いになると話方が変になるんだ」
「あっはっは、それ面白い」
「そうか?」
「あたいはドクター・カエデ、ドクターと呼んで、あんたは?」
「鬼神だ」
「キシン?」
「そっちで呼ぶより、漢字のほうがすきだ。まぁ漢字も失われた文明だがな」
「鬼神、鬼の神? 覚悟ってわけ?」
「やはり頭がいいのもいいことではないな」
「そうかな、いい名前よ、ようこそ、闇の森へ」
突然の発言に。
「ああ、よろしく頼む、なぜか君と話すと、どっかのバカを思い出して、殺したいとおもっていたのに殺してはいけないと思ってしまう」
「それがきっと友情よ」
「友情? そいつは我が敵なのに仲間になれといったドアホうものだよ」
「いいじゃん、昨日の敵は明日の友ってね」
「なんだ。その名言は」
「これも禁じられた文明だけどね」
「そうか、禁じられた文明も悪くないものだな」
「そうかもね、弱肉強食って言葉もあるけど」
「お前面白いな、弱い肉と強い食べるってどういう意味だ」
「弱いものは強いものに食われるって意味らしい」
「まるで我の人生そのものじゃないか」
「そんなにすごい人生なら、人生を言い合いっこしましょ」
「いいねぇ」
その日から毎日のように深夜になると、鬼神とドクターは話続けた。
ドクターの髪の毛は金色で、黄金のようだった。
それでも衣服は血に汚れていた。
毎日毎日話しては笑ってはないては、にこにこしては、怒っては。
まるでちゃんとした人生そのものを感じていた。
そんなときだった。
内臓の負傷がおもったほどひどくてなかなか退院できない鬼神は。
一人ぼーっと外を見ていた。
病院に2人の男女が入ってきた。
最初は普通の表情で見ていたのだが。
「げ」
と彼は気付いた。
ウィルコムとメリザだった。
ウィルコムはさっそく鬼神を見つけて大爆笑していた。
「かっかっか、お前ばっかだなぁ、俺様についてこれば、こんなことにはならなかったのに」
「面目ない」
「え? お前はすごい素直になったな」
「うるせい」
「え? 俺様を殺すんじゃないの? 殺さないの? お前バカだけど、だいたいはさっするよ、それで俺様の仲間になるか?」
「ああ、なるよ、おまえのしつこさにはヘドがでるけどね、一緒にここを守るんだろ? ここには我にとって守りたいものがあるんだ」
「その心意気大事だよ。大事」
「殺すぞ」
「落ち着いてよ、さぁ、団員も揃ったことだし、もちろん、メイリン姫も団員だから、モンチャスのところにつれてくなんていうんじゃないぞ」
「うす」
「私団員だったのですか? うれしいですわあああ」
と一人お花畑になったメイリン姫がいたわけで。
というかメイリン姫よいつのまにいたんだ。
メリザはというと回復魔法で片っ端から人々を救っていくが、病気やウイルス性のものはなおせないので、ドクターに任せるという方法みたいだ。
神官と医者がタッグを組んだらすごいことになっていた。
現在化物達の傭兵団 団員7名
〈ウィルコム〉〈種族モンスターズ〉
〈メリザ〉〈種族ヴァンパイア〉
〈ギード〉〈種族オーガ〉
〈メロナ〉〈種族サキュバス〉
〈ポルカ〉〈種族コロポックル〉
〈メイリン〉〈種族人間〉
〈鬼神〉〈種族のっぺら〉
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