モニターワールド

MIZAWA

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第18話シカ人間

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 シカ人間たちは動き出す。
 千体を超える奴らは、まるで蟻の大軍のように、群れで動く。
 一直線に森の中を駆ける彼らは四足歩行。
 その遥か後ろには彼らの王女様のごとく、
 メデューサという宇宙怪獣がいる。
 奴は今もシカ人間のコピーを作り続けている。


 時はモニターワールドが起動してから、
 2ヵ月目と3日めであった。


 空の天気はとても快晴で雨1粒もふっていない。
 風はとても気持ちよさそうだ。
 五郎さんと獄山がさんが木々の上から弓矢とロケットランチャーを構えている。


 少し離れたところには李さんが武器を構え、その隣では相棒のように、
 ヤオヤギさんがボクサーグローブをはめている。

 校長先生の武闘派である伝吉さんはハンマーを持ちながら。
 ウルサーナさんはサブマシンガンを構えながら。

 戦闘の時をまっている。


 僕はモニター画面を切り替える。
 いたるところに画面を切り替えながら、やつらに作戦を練る知能があるのかないのか確かめようとしていた。


 だが彼らには作戦を練る知識はないようなのだ。
 僕はそこを一安心した。
 
 だがそれは結局体力勝負のぶつかり合い。
 千体を超えるてきはたった六名でさばききれるはずなどない。
 こんな時に頼りになるのが。

 クラナートドラゴンと獅子王だった。
 
 六名の戦士が戦っている間。
 まず、僕は、クラナートドラゴンに説明していた。

 

 クラナートドラゴンがどこにいるかは一目瞭然であった。
 人間たち100名が過ごしている集落。
 そこのどでかいキャンプファイアーの場所で、
 奴は眠っていた。


 炎が顔を焼いている。
 その温かい炎の揺らぎに身を任せている。
 ぐごごっごごっと盛大ないびきをあげている。


「クラナートドラゴンさん」
『有無、何用じゃ』


 なにげに眠っていなかった。

「いまこの集落の危機です。助けてください」
『いいであろう、我こそは正義の味方クラなー――――とドラゴン』

 それを僕はスルーしながら。

「ここに向かってください」
『まかされたし』

 彼は、巨大な翼を羽ばたかせると。
 キャンプファイアーを消してしまう勢いで、空に飛び立った。
 しばらくすると今のモニターからドラゴンの姿は見えなくなった。
 ふうと一安心付くと、別なモニターに変更する。
 そこに映し出されたのは、魚を取っておいしそうにたべている獅子王だった。

 彼はあくびをしながら、魚の骨を綺麗に爪で剥ぎ取って、生のまま、
 口の中に放り込んでいた。
 まるで口の中にたくさんの牙があるとでもいうように、
 ばきぼきと魚が租借される音がする。
 獅子王は全身がライオンのように毛深く、前みたときよりもナイスダンディーになっていた。
 ダンディーな獅子王を見ながら。

「獅子王さんお久しぶりです」
『うむ、神よ、息災か』
「はい、無事です。ただ集落の人々の命が危機に瀕しようとしています」
『ほう、訳をはなせ』
「はい」


 僕はシカたちが進化していること、
 そして宇宙怪獣がかかわったこと。
 敵のボスはメデューサと呼ばれる巨大頭の蛇化け物だということ。
 

『うむ、手をかそう、クラナートもくるのだろう?』
「はい、きます」
『人間から見てクラナートだけでいいのではないか?』
「それでは足りないと思われます」
『ほう、それはクラナートでは役不足だと?』
「はい」
『がっはっは、それはうれしい、あのクラナートの出鼻をくじけるとは』
「では?」
『行くにきまっとる、ではどこにいけと?』
「ここです。変更するかもしれません」
『お主のマップ機能を見せられても、そうか、わしにもマップ機能を送ってくれ』
「そのつもりです」




『よし送らてきた。人間どもよわしがいくまでもたせよ』
「まかせてください」

 その時だピコピコと鳴り響いた。
 その突然のアラームに一瞬仲間たちが戦闘を始めたものだと思った。
 それは違った。


 そのモニターは遥か遠いい山岳地帯だ。
 確かあそこには。


「海事さん、どうしました」


 海事さんは布を体のあちこちに撒いて寒さ対策をしているようだ。
 その隣では狼の獣人であるリーナが全身をつかって海事さんを温めていた。
 そのエロ動画を見せるためにこの神を読んだのか?
 と疑問に思ったが。よく見ると、リーナさんはちゃんと衣服を着ていた。
 

 どうやら相当寒いようで、リーナさんの体温で海事さんを温めていたようだ。


『神さまキャンピングカーでこの地区の地図をつくっていました。ですがキャンピングカーではこの山にはいけないため、近くの獣人たちの集落に置いてきました。拙者たちはこの山でサラマンダーの痕跡を見つけました。』
「……」
『神様?』


 僕は唖然とした。
 今シカ人間で手一杯なのに、サラマンダーまで。

「桐山君、ついにこの時がきたわ」
「はい?」


 栗ちゃんの問題発言に面食らっていると。

「モニターダブル操作モード、一応AIアースからの許可もとってる。今から私とあなたで同時にモニター画面を二分割して指示を飛ばすの。いい、わかった? 私はサラマンダーのほうをやる、あなたはメデューサのほうよ」
「でも、大丈夫なんですか?」
「あら忘れたかしら? あなたと私で1つのチームなのよ」


 栗さんはその日、とても眩しく見えた。
 栗さんの髪の毛がとてもまぶしく光り。
 ほんのりと薄化粧された彼女のほっぺたがとても美人のそれだった。



「私、第二の神様です。これからサラマンダー討伐を任されました。以後よろしく」


 その発現の栗ちゃん、彼女は僕の隣の椅子に座った。 
 キーボードを高速で操作したら。あっという間にモニターが二分割された。
 いろいろなパスワードとかがでてきたから。
 僕なりにはあせったのだが。


 僕は彼女が海事さんとリーナさんと会話していくのを見て。
 自分の仕事に戻る。

 モニター画面を切り替えると。
 そこにはたくさんのシカ人間と相対するように、ウルサーナさんが立っていた。

『神様よ、俺様は夢でも見ているのか?』

 
 シカ人間は全員が岩の棍棒をもっていたのだ。
 奴らは学習し、そして自ら武器をもった。
 顔はシカのそれだ。
 顔の表情はつかめない。
 それでも二足歩行で、何より、全身の毛皮はシカを表している。
 なぜシカの獣人とは違うのか、そもそもシカの獣人がいるのかは知らないけど。

 とりあえず獣人はどちらかというと人間よりだ。しかし彼らは動物よりなのだ。
 宇宙怪獣は姿を現していない。
 ので強制的なゲームアクションのような戦闘は開始されない。
 それは一種の救いだとい思う。

『神様、ぶっぱなしていいか?』

 画面を切り返す。

 ヤオヤギさんと利さんが背中合わせ手に周囲をシカ人間に囲まれている。

『神よ、戦うね』
『殺されるぞ』

 またモニターを変える。
 五郎さんが獄山さんのいる樹木の下には無数のシカ人間か。

 彼らは無言で神に答えを求めている。


 伝吉さんはウルサーナさんの隣でハンマーを握り。
 そこにいる全員が神の発言を待っていた。



「全員武器をかまえ、そしてシカ人間を駆逐しろおおおお」

「「「「「「うおおおおおお」」」」」」

 そして戦争は始まった。

 ウルサーナさんがサブマシンガンでシカ人間たちを射殺しまくる。
 シカ人間たちは何が起きたのか理解できずに一体また一体と射殺されていく。
 仲間たちの体にあいた穴が。彼らに死を与えていると気づいたとき。
 彼らは遠吠えのような声をあげる。


 おそらく人間でいう容赦するなという合図だろう。
 シカ人間たちはものすごい速い獣のように走り出す。
 やつらは岩の棍棒をもっているので四足歩行ができないのかと思っていた。
 それは違った。
 奴らは腰につるのようなもので岩の棍棒をまくと。四足歩行で走ってきたのだ。


 だだだだだだ


 という音が響き。


『ウルサーナよ、おぬしは射撃に集中しろ、わさは近くにきたやつをぶったおす』

 伝吉さんはハンマーを握りしめて。踊るようにシカ人間の頭にハンマーをぶったたく。
 シカ人間は頭蓋骨を破壊されて、動かなくなると。そのまま伝吉さんはハンマーを反対の咆哮に振り上げる。そこにもシカ人間がいる。
 もはや伝吉さんの舞踏を説明することは不可能。


 戦いの舞があったら、きっとこんな感じなのだろう。


『こっちは任せろい』


 ウルサーナさんがマシンガンをぶっぱなす。

『神様、そろそろ弾薬頼む』
「了解」

 僕はそこにパソコンからマシンガンの弾薬転送をして、ウルサーナさんの弾薬入れに転送させる。

『サンキュ、神様』

 ウルサーナさんが喜んでくれるのだが。
 結構やばい状況、倒しても倒してもどんどん後ろからシカ人間はやってくる。


 

 モニター画面を李さんとヤオヤギさんの画面に切り替える。
 そこでは李さんが次から次へとばったばったとシカ人間たちを、
 両断していっている。
 シミターをふりぬき、東洋の戦士そのもののように踊り狂う。
 彼の動きに無駄は一切ない。


 シカ人間が棍棒を振りぬいた瞬間、シカ人気の首が落ちていた。
 敵は武器を構えた瞬間に絶命している。

 この前、李さんの傭兵時代の記録を見たことがあった。

 
 彼は、銃弾が飛ぶなか、超人的な力で、銃弾の弾を両断しては、敵兵の中に突っ込み、
 かたっぱしから敵兵を殺していった。
 そのことから傭兵ながらも中国の英雄賞をとった。
 李さんの先頭ぶり、二百人のゲリラ兵を李さんただ1人で両断し。
 1人も生き残りがいなかった。
 そして李さんのほかのメンバーは全員麻雀をやっていたそうだ。

『神様、シミターかえるね、刃がさびついちったね』
「了解」

 僕はパソコンからシミターのデータ情報を習得すると、そこに転送した。
 すると李さんのもっていた武器は消滅して、新しいシミターになる。

『ありがとね』
「どういたしまして」

 李さんの目の前を何かによって吹き飛ばされたシカ人間がいた。

 李さんに夢中でヤオヤギさんに気づかなった。

 ヤオヤギさんはプロボクサーでありさほど有名ではなかった。
 その彼が、たった一つの拳でシカ人間を吹き飛ばした。
 それは常人ではありえないことなのだ。

 ヤオヤギさんのデータにはこう書かれてある。
 
 彼はプロボクサーになって母親が患っている病気の治療費のため、
 がんばってきた。
 プロボクサーになってタイトルをとった。
 だが母親は亡くなった。
 そこから彼の落ちぶれたプロボクサーぶりが露呈し、引退した。
 そんなときいろいろな偶然が重なって彼は死んだ。
 そして惑星開拓民として選ばれた。

 
 彼は容赦しない。
 大切なものを取ろうとする相手を。
 ヤオヤギさんはきっとこの惑星で守るべきものを見つけたのかもしれない。
 そうすれば彼は超人を超えるほどの強さをえるのだから。
 

 ヤオヤギさんは遠吠えを発する。
 パンチがシカ人間の顔面をとらえた瞬間。
 スローモーションのようにシカ人間は吹き飛び、木々にぶちあたって動かなくなる。
 普通パンチくらいでは人は死なないし、それはシカ人間も同じだ。


 ただし、それは普通のボクサーが相手ならではの話、彼のパンチは一発一発、爆弾級。

 ヤオヤギさんのパンチにあたったシカ人気は死に絶える。
 しかもそれは威力だけではない、スピードももはやチーターのごとく。

 ひゅんと拳が消えたと思ったら。シカ人間がこと切れている。
 そんなこと当たり前だった。
 李さんとヤオヤギさんは背中を合わせてあたりを見渡す。


 そこには全然減っていないシカ人間たちがいたのだ。


 近くのモニターに切り替える。
 そこではロケットランチャーをぶっぱなしている獄山さんと弓矢で何度もシカ人間の頭を狙っている2人がいた。
 彼らは木々の上からシカ人間たちを殺しつくしている。
 地面にはたくさんの死体があり。


 シカには木を登るという習性がないのだろうか?
 僕は動物博士じゃないけど、彼らは上を見ない。
 ただひたすら殺され続け。
 きづいたら弾薬がなくなり、僕が転送するという役目。
 しばらくしたら。とつぜんシカの一体が上をみた。
 どうやら進化したようだ。
 正確には学習したのかもしれない。

『ちきしょう』

 五郎さんはこの光景に覚えがあるようだ。
 石が投げられると思った。
 だがそれはぜんぜん楽なほうだった。
 やつらは棍棒を思いっきり投げたのだ。
 四方からくる棍棒、
 あれを食らえば、いくら獄山さんでも五郎さんでもゴミくずになるだろう。
 終わった。
 助けようがない。
 はじめて死者を出した。

 と思ったら。

『我参上、正義のヒーロークラナーーーーーートドラゴン!』

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