盾と剣の組織

MIZAWA

文字の大きさ
上 下
1 / 14

第1話 ジャック・ザ・ピエロ

しおりを挟む
 人々の悲鳴が頭蓋を響き渡る音響となる。
 いつしかどこかで隠れてやりすごす少年だった事を思いだし、ひとりでにへらと笑う。
 自分の声は仮面によりくぐもって聞こえた。


「こちら銀行強盗です。犯人は3名で警察が到着した事により10名の人質を取り、立て籠もっています。要求はヘリコプターです。銀行の屋上にはヘリポートがあり、しかしヘリコプターはありません」

 
 1人のピエロがるんるんとスキップしながら歩いている。
 歌はピエロのマーチとか勝手に創作して歌っている。

「んーーふふーぬーふふー」


 報道陣がまっすぐに銀行にスキップしながら向かっている人物に気付いた。
 もちろん警察官達も気付いて、それぞれ止めようとする。
 だがピエロはジャンプする。体操選手顔負けのジャンプ力で警察官の向こうに到着する。


 そして報道カメラ陣がわっと騒ぎ出す。


「来ました。いつも問題を解決してくれるテロリストのジャック・ザ・ピエロさんです。今日も解決してくれるのでしょうか、なぜ警察官たちは彼を指名手配するのでしょうか、正義のピエロではありませんか」

「ちょっとそこ黙って、いいから報道終了、規制が入ったから」


 1人の美女刑事によりその報道は無理矢理停止させられた。


「あなた達どこの許可とってるの」
「うるさいですよ、報道は人々の権利です。皆は知る権利があるのです」
「そのせいで盾と剣の組織の呼び込みになったら意味がないのよ」

「それはこの世界がおかしいからでしょう」
「まったく報道記者がそれ言っちゃおしまいでしょ」

「リアンこっちだ裏口から侵入出来るぞ」
「マッドン刑事も言ってやってください」

「そんな暇はない、リアン急げ、前みたいにピエロが暴走したら死人が出るぞ」
「そうね、マッドン刑事、特殊部隊を集めて、今度こそピエロを捕まえるわよ」
「おいおい、リアン、今日は銀行強盗を捕まえるんだよ」
「あはは、気にしないで」


 リアンの黒髪のロングヘアーは丁寧にトリートメントされているのか纏まりがよかった。
 特殊素材の使われたズボンとジャケットを羽織っている。
 このジャケットは防弾チョッキより軽くて丈夫であり、研究科の人が最近開発したものだ。

 リアン刑事は1年前に刑事になった。
 年齢は22歳であり、この世界では若い部類の刑事であった。
 マッドン刑事はリアンの先輩であり、それでもリアンが引っ張っている所を見ると。
 マッドン刑事は女性に弱いのだ。


 特殊部隊は20名であり、銀行強盗3名にしては少し多い気はする。
 なぜなら彼等は銀行強盗を捕まえ、人質10名を解放したら、ピエロを捕まえる気でいるのだから。


「まったく、皆行くわよ、報道陣、絶対くるなよ」

 
 報道陣の2名はぷんすか怒っていたのであった。


 ―――銀行入り口―――

 ピエロはイヤホンでロックンロールな曲を聞いていた。
 彼には全ての音を感知する事が出来る。
 今となりのマンションでは男と女がいちゃついている。
 さらに隣では老人が腰をやっちまった。
 コンビニではさぼっているコンビニ店員の声が。
 
 それらは騒音となって聞こえる訳ではない。
 取捨選択出来るようになったのだ。

 
 なので現在はロックンロールな曲を聞きながら、右手と左手と右足と左足でるんるんとリズム刻む。

「種も仕掛けもありませーん、このわたくし、そちらにいってしまいたいでーす」


 ピエロは扉を開けるのではなく、ガラスに扉を作って開けたのだ。
 そのまま中に入ると、扉をしめる。
 ガラスの扉はしまると元の扉になった。

 ピエロはさらにリズムを刻みながら歩き出す。
 
「お、間違って演歌聞いたけど、演歌もわるかないな」

 ピエロの独り言に、銀行強盗犯の1人が目の前に立っていた。
 そいつはアサルトライフルを構えていた。フルオート射撃で発射してくる銃弾をジャック・ザ・ピエロは全身で盛大に撃たれた。

 まるで踊り狂うマリオネットの如く、ぐねぐねと動き。
 銃弾が止まると、アサルトライフルから白い煙がふわっと浮かび上がり、ようやく銀行強盗犯の悲鳴が聞こえる。


「な、なんで倒れねーんだよ」

「種も仕掛けもありませーん、なぜならわたくし銃弾なんて御菓子みたいなものでね、殺すならダイナマイトがおすすめですよ」

「そうか手榴弾だ」

「ちょ、それでいきますか」


 空中を手榴弾が飛んでいく。
 ピエロはこれを避けると建物自体にダメージがあると判断した。
 彼は右手から大きな袋を取り出すと。そこに手榴弾を入れてしまう。
 
 爆発が鳴ると思ったら。屁みたいな音を響かせて袋の中で吸収された。


「あらまぁ銀行強盗さん屁はトイレでしてください、今は命のやり取りですよ」

「う、うるさあああああい」


 銀行強盗は後ろに逃げる。

 それをゆっくりとスキップしながら追いかけるピエロ。

 それをばっちし撮影している先程の2名の報道カメラマン。

 1人をヤゲンという男性であり、カメラマンである。
 1人をネツコと呼ばれる女性で、インタビューしたり実況したり担当の人。

 ヤゲンはいつも居酒屋でお酒ばかりを飲んでいる。
 彼はいつも大きな山を狙っている。
 そしていつも組んでいるのがネツコと呼ばれる女性で30台を超えている。
 特ダネを探して、10年近く色々な国を彷徨っている。

 そしてここジャパニーズ王国にてピエロという謎の男性の存在を知った。
 ネツコとヤゲンは再び手を組んだ。


 その2人が2階の窓からジャック・ザ・ピエロを撮影している。
 先程のありえない種がないというマジック。
 全身をアサルトライフルのフルオートで射撃されたのに、何もびくともしない謎のピエロ。

 ヤゲンもネツコも衝撃的シーンを撮影出来た事に感動していた。


 2階の下を通っていくピエロは人質のたまり場に辿り着き。
 彼等の全身にダイナマイトが装着されていることを悟る。

 そして3人の強盗犯がこちらを指さす。

 3人は同時にアサルトライフルのフルオート射撃をしてきた。

 再びマリオネットとなるのかと思われたが。
 ピエロの両手にはアサルトライフルが3丁握られていた。


「種も仕掛けもありあません、ちょっともらいました」

「「「うそおおおおおおお」」」


 銀行強盗犯の力となる武器が奪われた。
 彼等に残されたのはナイフだけだが、ナイフではこの化物を倒す事は出来ない。


「う、うごくなあああ、うごくと、人質が吹き飛ぶぞおおおお」


 ピエロはにぃっと笑った。
 仮面越しで一部の子供しか気付かなかったが。

「あの人笑ってる」
「あまり見ないの」


 親に指摘されて静かになる子供達。


 2人の強盗犯が逃げる準備を始めた。
 一方で1人の強盗犯はスイッチらしきものを押そうとしている。
 

 ピエロはマジックでスイッチを奪う事も考えてみたが。 
 ちょっとした動作でスイッチが起動したらここは爆発する。
 それは人質10名の死亡を意味する。
 その中にピエロの死亡は含まれていない。

 2人がお金を一通り持つと。屋上に向かっている。
 1人はずっとこっちを見ている。

 ピエロははぁと溜息をつくと。

「君達さ、むなしくないの? お金を奪ってお金を使ってそれで何か報われるの? 確かに色々な豪勢な事は出来るだろうけどさ、君達が欲しいのはそういうものじゃないんじゃない? 普通に暖かい家族なんじゃないの?」

 先程まで異常さをあらわにしていたピエロがまっとうな事を呟いた事により強盗犯も人質もそして影で隠れている刑事と特殊部隊とさらに2階で隠れている報道記者2名は驚愕していた。


「金が必要なんです。娘が病気でやばいんです」
「なるほどね、その娘の名前を教えてくれないかい?」
「ど、どうする気なんだ?」
「知り合いに治療を頼んでみるよ」

「そんな事出来る訳が」
「わたくしのマジックは種も仕掛けもない、だから色々な事が出来るし繋がりも持っている」
「でも……」
「別に君が逮捕されようと爆死しようと関係ない、わたくしはその子供を救いたい。名前だけ教えろ」

 ぼそっと強盗犯は娘の名前を告げた。

「なるほど、こちらで検討してみるよ、さて舞台はフィナーレと行きましょうか」

 影で隠れている刑事2名と特殊部隊20名、広場で人質にされており体中にダイナマイトが付けられているのが10名、2階に隠れている報道記者2名。

 全ての人間は何が始まるのかと驚愕していると。

「さて、スイッチを押しなさい」

【はいいいいいい】


 その場の全員が唖然とした。
 つまり人質を殺せと言っているのだ。
 しかも爆発したら刑事も特殊部隊も犯人も人質も報道記者も死ぬだろう。

 
「いいから押せよ、殺す覚悟があったら押すんだよ、いや押してください、お願いします」


 なぜかピエロが懇願するという謎の自体になりつつも。

「ひいいい、お、おすぞおおおおお」


 犯人がパニックになり。
 ついにスイッチを押した。
 至る所で隠れていた人々がそれを止めようと我先にと出てくるのだ。

 ダイナマイトが爆発した時、中からビックリ箱のようにピエロの人形が沢山出来てきた。
 その場の全員が唖然とする。


「実はダイナマイトはすり替えさせてもらったよ、刑事さんこの住所に行けば爆弾売りのおっさんを捕まえられるよ」

「あら、ありがとうって、あんたを逮捕するわ」


「ふふ、捕まえられるものならな」


 ピエロは回転を始めると、そのまま窓を突き破ってどこかに飛んでいってしまった。

 その場にいた人々は訳の分からない表情をしている。


しおりを挟む

処理中です...