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第12話 それでもてめーは国王か!?

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 城の中には豪華な代物が色々と飾られていた。
 
「ここの王様はどうやら城の中だけはちゃんとしてるようだな、なぁ、ガツ元国王」

「はい、息子は恰好を付けたがりなのです」

「なるほど、よーく分かる。俺の世界はな身だしなみっていうものが大事でな、このスーツを皆着てるんだ」

「そんな変なスーツをですか!」

「何を言っている、係長の次に偉い部長が言っていた。スーツは人を表すと!」

「その部長さんは、あの化け物、いえ係長の次に強いのですか!」

「そうだ。部長はその右手だけで世界を牛耳る事が出来る」

「な、なんと」

「マウスを動かすだけで、世界情勢を変えちまうんだ」

「ネズミで動かすんですか!」

「そうだ。ネズミ? いやマウスだ。よーく覚えておけ、マウスで世界は変わる」

「は、はい、ネズミですね」

「いいから、マウスだ」

 ルルーが後ろで声を押し隠して笑っている。

「いや、竜司よ、そなたの世界のマウスが何か知らんが、こちらではネズミだぞ」

「うむ、そういう事にしておこう、ちゃんとメモを取るように、マウスで世界を牛耳る、はい」

【マウスで世界を牛耳る、はい】

 殺人鬼みたいな元国王と殺人鬼の手下みたいな配下達がオウム返しで答える。

 竜司達の眼の前に立ちはだかる敵はいなかった。
 恐らく先程の無数の兵士で尽きたようだ。

「そこが玉座の間でございます」

「そうか、開いて見ようか」

 ゆっくりと大きな扉を開く竜司。
 その向こうでは女たちを侍らせている王様が1名いた。
 
 女たちは竜司達に気付くと、悲鳴をあげて壁際に逃げて行き。

 大きな椅子に座っている巨漢が立ち上がった。

「で、あいつは?」

「知りません」

「はい? ガツさんそれ聞いてないっすよー」

 見るからに筋肉ムキムキマッチョで、巨大なハルバートを握っている。
 禿頭の頭に可愛らしい瞳。
 ぷっくりとした唇。

「うん、なんかやばいな」

「お前ら、不届きものだな、おお、エルフではないか、こっちにこい」

「誰か行くか馬鹿者」

「あ、不敬罪だ、ワッカナイあいつらを皆殺しで、父上まで来たんですか?」

 今、悲しい名前が聞こえたんだが。
 聞かなかった事にしよう。

 ガツ元王の息子はちゃらんぽらんな現代風で言う所のちゃらい青年だった。
 見るからに雑魚、だがワッカナイと呼ばれるムキムキマッチョが危険すぎる。

 どすんどすんと立ち上がったワッカナイ。

「お前を殺してあげようか」

「いえ、殺さなくていいです」

「だから、お前を殺してあげようか」

「だからああああ、殺してあげなくていいですから!」

「逃がさぬ、お前をこてんぱんにしない」

「ありがとう」

「ミンチにする」

「意味間違えてるでしょ」

「うおお」

 どすんどすんどすんと怪物かよと思う走り方で、こちらに向かってハルバートを叩き落すワッカナイ。
 彼のハルバートは高速スピードで飛来し、頬をかすり、地面を爆発させた。

「あーあ、俺達の城がああ」

 ガツ元王が悲鳴をあげているなか。

「ワッカナイやりすぎだよ!」

 なぜか現国王も慌てている。

「すまない、王様、今すぐこいつをミンチにする」

 その可愛らしい瞳とぷっくりとした唇で言われると怖い。

「うんだばあ」

 なんかすごい怒声を上げながら、ワッカナイがハルバードを回転させる。

 あまりにも怖くて、防御態勢をとる事に。

 普通の剣士や戦士なら武器でガードするが。
 残念ながら竜司は現代社会で生きるサラリーマンであり、雑用係なのだ。

「うわあ」

「りゅ、りゅうじい」

 一瞬の絶望的な瞬間。
 竜司の人生は終わったかに見えた。

 バリィインという音が響いた。
 ハルバートが粉々に吹き飛んだ。
 竜司はただ勇者右腕と屈強左腕のガードと防御力+100があっただけだ。
 最近竜司はゲーム内のステータス換算ではいけないと痛感している。
 もしかしたらこの世界では攻撃力とかの+50だけでも凄い事なのではと。

「ふははは」

 竜司は開き直った。

「ふ、かかってきなさい、ワッカナイ」

「こんの拳で」

「お前なぞ小指で十分だ」

 ワッカナイの拳が小指にヒットして、小指がぼきりと折れました。

「ぎやああああ」

 竜司の悲鳴が上がる。

「うお、まじ、いてーし、これゴブリンに殺されかけた奴だし、まてよ、アイテムボックスから、ちょ、まちなさい、こっちええええええええ」

 ワッカナイの次なる攻撃が飛来する。
 左手でガードするも、ぼきりと音を鳴らして左手が粉砕した。

「ぎやああああ」

 現在進行形で竜司は死にかけている。

「だ、大丈夫か」

「く、くるな」
 
 とルルーに恰好をつける竜司。

「さっきのハルバードは何で壊れたんだろう? あ、そうか、右手だ勇者の右手だ。あ、でも勇者の右手の小指折れたしな」

「ふんふん、どうやら雑魚だったようね、このワッカナイに勝てると思うてか」

「なんだその棒読みのセリフは、こっちは死にかけてるんだぞ」

 そう言いながら、ちゃっかりアイテムボックスからエリクサを取り出してむしゃむしゃと食べる。

「まじーな、これ、まぁいいんだけど、ルルーが作ったエリクサ料理の方が遥かに旨いよ、ルルーありがとな」

「まぁ、また作れと言われれば作るだろうが、よそ見しないほうが」

「ふご」

 竜司の顔面を殴ったワッカナイ。

 円を描いて落下していく。

「あばば」

 顎が外れた。
 とにかくエリクサーを顎が外れた状態で食べると、すぐに回復。

「よーし、再挑戦だぜ」

「こいつ、無敵か、王様、こいつ無敵だ」

「ワッカナイそいつを倒したら肉食べ放題だ」

「よし、殺そう、次で最後の必殺技だ」

 ワッカナイは有無を言わせず突っ込んでくる。

「だからちょっとまてよおお、こっちは戦闘のド素人よ、助けてくれ!」

 竜司逃走。

「あのールルーさん? あの人大丈夫ですか?」

 ガツ国王がルルーに尋ねる。

「ああ、遊んでるのだろう」

「いえ、あれは完全に逃げてるかと、というより、スピードが尋常じゃなく早いのですが」

「ああ、あれも特技だ。気にするな」

 ルルーはその光景を見ていて笑っていたのを竜司はちらりと見ていた。

「素早さ+100は助かるよな」

「まてええええええ」

「どうやって倒すかだが、うーむ、困ったなそうか、あれがいい、ちょっと卑怯だけど」

 竜司は方向転換して。

 魔法の言葉「ファイアーボール」と唱える。
 MPが100あるので、下級のファイアーボールは無制限に出せる。

「これがファイアーボールマシンガンだよおおおお」

 巨漢の男性、瞳は可愛らしく、唇はぷっくりしている。禿頭の危険人物。
 の全身にぶち当たるファイアーボール。
 上半身裸の為。全身からもろに食らう。
 火傷どころではすまないし、エルフのように魔法耐性はないだろう。

 だがそこに立っていたのは真っ黒こげのワッカナイだった。

「にく、にくにくにく」

 こちらに突撃してくる。

 と思いきや、ワッカナイは意識錯乱して現王様の元に突撃する。

「ちょ、まて、ワッカナイこっちくるな!」


 ワッカナイに衝突され、壁事破壊して遥か真下へ落下していった。

 普通に考えたら即死だろう。
 ワッカナイは分からないけど。

 その時だ。今の衝撃で地震のような音が響いた。

「あああああ、俺達の城がああああ」

 城に亀裂が走る。
 大勢の人間達がパニックになり、奴隷も現れて、逃げていく。

 瓦礫の粒が頭に当たって血が飛び出ても、うむと頷く竜司。

「ルルーこの国誰が破壊した?」

「うむ、お主だな」

「いや、本当に破壊出来るもんだな」

「城壁と城を破壊したのはお前だな、おめでとうと言っておくよ」

「ありがとうと言っておくぜ、さて、とんずらするか」

【おめでとうございます。クエストが完了したました。スキルポイントが1000ポイント追加されます】

「おい、今、お前が国王だ凄い魔法書3冊くれるんだろ」

「おい、竜司、お前は鬼か」

「いいか、元国王、約束は守った。交渉はな利益がなきゃ存在しない、サラリーマン舐めんな」

「は、はいいいいい」

「いや、国王よ全部、竜司が悪いぞ」

「いいんです。この国は解放されたのです」

 ガツ国王の目が逝っていた。
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