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第15話 Z冒険者

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 そこは冒険者ギルドの2階。
 沢山のクエスト紙が収納されている。
 達成済みには黒丸を失敗には赤丸だった。
 
 5人から7人パーティーの冒険者では叶わないとされる危険な地域が自由王国の北に存在する。
 どのクエスト紙を見ても、殆どが北からの撤退が多かった。
 
 東と西のモンスターは小規模で、冒険者達でも討伐が可能のようだ。
 なにより採集クエストですら北は失敗している。

 冒険者の殆どは逃げかえる事に成功しているが、何名かは帰らぬ人になっている。

「竜司よ、これなんだが、北にて無数のモンスターが混合したスタンピートが起こっていると報告書であるな」

「ああ、こっちにもだ。そのスタンピートが国を崩壊させてるのかもしれない、それとガツ王のいた所のやんちゃなガキのせいだろうな」

「私はそのやんちゃなガキがやってしまった事と今回の事は繋がってると思うんだが」

「どうしてだ? 意見を聞きたい、俺はこの世界の人間じゃないからな、モンスターについての知識は殆どゲームだ」

「そうだな、説明すると、大勢の兵士が戦争を仕掛けた場合、沢山人が死ぬ、その死体はどうなるか、モンスターは死体を食べる。人間の肉の味を覚えたモンスターは人間を狩るようになる。モンスターの基本の知識だな」

「まったく、あのやんちゃだがちゃらいだが知らんが、死ぬ前に片づけて欲しいぜ」

「まぁ、しょうがないというものだ」

 その時だった。
 自由王国のあちこちから警報のような音が鳴り響いた。

「まったく、次から次へと」

 竜司が頭を押さえていると。

「大変です。Z冒険者達、北からスタンピートを起こしたモンスターの大軍が攻めてきました!」

「あんたらはバカか、スタンピートは起きてると分かっていたではないか」

「はい、そうですよ、ですが、それを防げる冒険者の数が揃うまで待っていたのです。守りならなんとかなるでしょう」

「はぁ、そうかい」

 竜司は嫌気がさしてしまいそうになる態度を受付嬢に向けてしまっていた。

「まぁ、落ち着け、竜司よ」

 竜司はこくりと頷くと。

「大変だー銀の城壁が壊されたーミノタウロスだ!」

「何てこと」

「行くぞルルー」

「もちろんだとも」

 竜司とルルーは驚きを隠せない受付嬢を後にして走り出した。
 階段をジャンプして下ると、大勢の冒険者達がびくびくとしていた。

 竜司は臆病風に見舞われた冒険者を無視すると、扉を開けて外に出た。

 あちこちで火の手が上がっていた。

「てか、なんで、俺達が自由王国に入ったタイミングで起きるんだよ」

「恐らく幸運だからだろう、なにせ竜司はモンスターと遭遇したかったのだから」

「まあ、良いんだけど、つまりここで名声を築けば良いんだな、ルルー回復は任せるからな」

「その為のMPの12段階だろうに」

 竜司は右手に伝説の剣を握りしめる。
 
「はっきり言うが、俺は剣道もからっきし、剣術もからっきしだぜ、だけどな野球はしてたんだなー」

 野球の構えで、次から次へとやってくるモンスターをフルスイングでぶっ飛ばす。

 豚のようなオークが両断されて真上に吹き飛んでいく姿を、大勢の冒険者が見ていた。

【うぉおおおおおおおお】

 士気が高まっていくのが肌で感じる事が出来た。

 トカゲ人間のようなリザードマンや犬の姿をした小さいコボルトや羽の生えたハーピーが無数にいた。
 小さい人間のようで緑色のゴブリンもちらほらと見受けられた。

 冒険者達はそれぞれの技術とスキルと魔法を使って、命を燃やしていた。
 竜司は次から次へとフルスイングしてモンスターを着実に倒している。

 地面を叩くような音が轟いた。
 その音は少しずつこちらに近づいてくる。
 ドシンドシンと巨人が歩くような音。
 そいつは現れた。
 牛の頭をしていて巨漢の体をしている。
 
「巨漢てレベルじゃねーぞ」
 
 それはまさしく巨人と言って良いほどのレベル。
 口には冒険者を加えてもしゃりもしゃりと食べている。
 まるでスルメを齧っているような感じだ。

 恐ろしくて見ていられなかった。

 竜司の足はぶるぶると震えだす。

 今まで人間なら戦えた気がしていた。
 
 こんなに強そうなモンスターは恐怖そのものだった。

 後ろに退こうとして止めた。

 なぜなら後ろには大勢の冒険者とルルーがいるからだ。

 どんなに大怪我をしようとルルーが助けてくれる。
 そう信じる事にした。

 竜司は攻撃力+200と神之右腕と神之左腕と神之右足と神之左足を上手く動かす。
 目の前のミノタウロスは巨大な斧を担いでいる。

 伝説の剣でぶつかり合えば何とかなるだろうが、剣術からっきしでは足手まといになるので、伝説の剣を腰につるす。

 地面を蹴り上げると、地面が土煙で爆発した。
 攻撃力+200の拳をミノタウロスの顔面に向けるが。
 ミノタウロスもハイスピードで斧を構え振り落とす。

 拳が巨大斧に激突する。
 右手が砕けてしまうのではないかと思った。

 だが竜司は自らの右手を舐めていた。 
 その右手は神クラスだと言う事を思い出したからだ。

 ピシリという音を響かせて、斧が砕けた。

 ミノタウロスはきょとんとしたが、次の瞬間には、右手と左手を構え、右足と左足を交互に出していた。

 どうやら武術で戦うつもりだ。
 残念ながら竜司には武術の才能もない。

 雑用で鍛えられた技術ならあるが。
 何度でも何度でも怒られようと失敗しようと立ち上がる極意だ。

 ただ走り、ただジャンプし、ただ拳を握り、ただ拳を振るう。避けられては、蹴りをあびせる。
 ただの蹴りは、どこにも響く事はないが、神之右足だから、攻撃は響く。

 ミノタウロスは地面に膝をついた。

 竜司は止めとばかり、格好をつけてジャンプして踵落としを浴びせようとしたのだが、背筋を凍らせる寒気みたいな物を感じた。
 何か巨大な物で殴られ、竜司はルルーの所まで吹き飛ばされ転がった。

 右肩の関節が外れており、動かない。

「大丈夫か」

 ルルーが心配してくれて、回復魔法をかけてくれる。

 ほぼ初めての経験だが、竜司は自らの左手で右肩の関節をはめた。

 激痛所ではなく、もはや意味不明な作用を発していた。

「ぐあああ」

 短い悲鳴をあげ、眼の前の敵を見る。

 そいつは巨大な狼人間、いやウェアウルフだったのだ。

 その足元には10匹くらいの巨大なオオカミモンスターがいた。

 絶体絶命に陥りながら、竜司の脳内では高速で計算が発動されていた。

「一回やってみたかったんだけど、やってみるかな」

「何をやるんだ竜司」

 後ろではルルーが心配の声を上げている。

 パチンと劇場が始まる合図のようなものを送り。

「ジャグリングさ、たぶん、ファイアーボールだけとか、サンダーボールだけとかなら、あいつら耐性とか回避できるだろうから、要は試しってね、さぁ冒険者の皆さん、そして一般市民の皆さん、この俺のショータイムを見せてあげましょう、題名は魔法のジャグリングってね、ちょっと玉大きいけどね」

 まるでサーカスの舞台に立ったように。

 拍手喝采は1人もいないけど。

 それでも前を見据えて、右手と左手に魔法の玉を出現させた。
 それは運動会で出てくる玉転がし競争と同じレベルだった。
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