上 下
6 / 22
1章 修行の章

第6話 モンスタースレイブ

しおりを挟む
 心臓が爆発するかのようだ。本気で走った。
 風が気持ちがいい、だが人やモンスターの燃える臭いがした。
 沢山の悲鳴が聞こえた。人間ばかりの悲鳴だ。
 モンスターの悲鳴はなぜか聞こえない。
 走った走った。
 
 崖から落ちた時は死ぬかと思ったが、地面に着地してみると意外と簡単だった。
 それからもう必死だった。

 村は崩壊し、人間の死体とモンスターの死体が転がっている。
 街は崩壊し、人間の死体とモンスターの死体が転がっている。
 
 走った。走った。助けられる命は助ける。
 それでも心にあるのは3人の家族。
 空からものすごい雷が降ってきた。
 あれは人間の魔法だ。
 トロールのルッティじゃない。
 
 走った走った。
 そしてそこで心臓は止まったかのように静けさに包まれた。
 12人の男女が立っていた。
 みんなそれぞれの恰好をしていた。
 彼等は汗だくになりながらぼろぼろになりながら立っていた。
 その目先にはドンストが真っ黒こげになりながら仁王立ちしていた。
 そこから心臓の鼓動は感じない。

 声がうるさい、音がうるさい、沢山の悲鳴が聞こえる。
 大勢の命が散っていく、それでもそれでも、果たしてこれは人間の声なのか?
 頭がおかしくなりそうだ。

 スクワッドがばらばらになって地面に転がっていた。
 しかもアシュレイの足元だった。
 悲鳴が上がりそうになった。
 心が震えて爆発しそうになった。

 ルッティが巨漢でただ座っていた。
 人間達を見て笑っていた。

「何を言っているかわからぬなモンスターいや悪魔の3兄弟が」

「勇者よ、お前は今にわかる。いまに」

「だから、人間の言葉をしゃべれ」

 勇者は勇者の剣でトロールの首をはねようとして。

「やめろおおおおおおおおおおおおお」

 アシュレイは叫んでいた。
 走った。動かないトロールによりそって涙を流していた。

「ルッティ先生、こんなの聞いてないじゃないですか」

「やはり来たか、アシュレイ」

「あ、あいつまさか」

「し、信じられないわ、モンスターの言葉を理解しているだと」

「ま、まさか」

「モンスタースレイブの伝説は本当だったか」

「うるさいうるさいるるあさいいあいいあい、さっきから沢山の悲鳴がうるさいんだよ」

 人間の悲鳴じゃない、それはモンスターの悲鳴、なぜアシュレイはモンスターの悲鳴が聞こえるのか理解できなかった。

 ちゃんと言葉として理解できるのだから、そのどれもがきっとさっきやってくるときにすれ違ったモンスター達の死にかけ、哀れみを抱いた死にかけだ。

「いいか、お前は特別だ。いいか、お前は奴隷なんかじゃない、僕たちが奴隷なんだ。モンスタースレイブとはな、もう僕の命は燃え上がる、お前を飛ばす、家がお前のものだ。そこにあるものを調べろそして旅だて、僕たちはお前を愛している」

「や、やめろ、ルッティ死ぬぞ、お前は死ぬのか」

 アシュレイの体がうっすらと消えていく。

「ま、まずい、あいつを逃がすな伝説が本当なら、奇跡が起きるぞ」

「あのトロールをころせえええええ」

 アシュレイは怒りをあらわにし、魔法を発動。

「お前らをぶちころすうううううう」

 その殺気、その場にいた12人は震えあがった。
 強大な魔法を解き放つ時、すでにアシュレイの姿はそこにはいない、そこにあったのは山だった。
 山にアシュレイは魔法をぶちあてていた。

 山は吹き飛び消滅した。

「うわあああああああああああああ」

 涙を流し、地面を何度も叩く、何がモンスタースレイブだ意味が分からない。
 何が隠されている。
 頭がちかちかする。
 助けたかった。家族だ。ドンスト、ルッティ、スクワッド、皆家族だ。

 皆ともっと遊びたかった。もっと教えてもらいたかった。
 涙がとめどなく流れるくやしい、あいつらぶち殺してやる。
 恨みがせりあがる。

 怒りがせりあがる。
 真実とはなんだ。真実とは、そもそも人間は正しい生き物ではないのか。
 間違っているのか、腐っているのか、ふざけるな。

 アシュレイは確かに大勢のモンスターの悲鳴を聞いた。
 そこには信じられない内容がつづられていた。
 それはモンスター達は人間に滅ぼされかけている。
 モンスター達は生きる為に戦っている。

 ある時のスクワッドの話が脳裏をよぎる。ゴブリンは人間の女性を襲って子どもをつくる。そうしないと絶滅するから、だがスクワッドはそれが耐えられなかった。

 何もかもおかしい、何かを統一できれば、意思疎通できれば。
 どうすればいいんだ。

 とぼとぼと涙を流しながら自宅に戻る。
 家を見た何もない家だ。
 いつもルッティは書物を書いていた。
 一冊の本が置かれている。

 ルッティはマジックブックで記録を記すのに、なぜかこの本だけ本として記していた。
 不思議だった。
 だからなのかページをめくっていた。

(アシュレイ、これを見た時はドンストも、僕も、スクワッドも死んでいるだろう、まぁありがちで当たり前な遺書だ。道化の仮面だが大事にしてくれ、君の思うがままに顔を変えてくれる。いつもは道化の仮面に見えるが、脱ぐ時は顔を変えてくれる。2重の罠というやつだな、あと君は君が奴隷だと思っているようだがそれは違う、本当は僕たちが奴隷だった。君に出会った時に従おうと思った、君が伝説のモンスタースレイブだから、奴隷にした相手と意思疎通でき指示できるのだと、君は何か提案を求めていた。だから僕たちは君を強くさせた。だけどそれは違うのだろう、君が家族だと思ったから強くなって生きてほしいと思ったからだ。モンスタースレイブとはモンスターと人間の平和と取り持つ事が出来る伝説の力だ。君にその力を使って平和にしてほしいと思う、だけど君は好きに生きてほしい、あと僕たちが死んだ事で復讐したいとは思わないようにね)

 アシュレイは歯を食いしばってその本を見ていた。その他にはいろいろと書かれていなかった。
 一冊の分厚い本なのに、見終わったら、文字がばらばらになってきた。
 それはもはや人の言葉ではなくなり、散り散りに空中に飛んで行った。

「まってくれまってくれよ、ルッティの遺書なんだよ」

 ルッティの痕跡はなくなり、全ては頭の中に入ってくる。
 建物が崩壊していく、分解されていく、スクワッドが言っていた分子みたいになっていく。粉々になっていく、そして頭の中に入っていく。
 家が崩壊しなくなり、消滅した。
 そこには何もない平原があった。

 そこにはなんの痕跡もなくなった。

「くそったれええええええええええええ」

 すべてドンストもルッティもスクワッドも覚悟していた。
 何もかも準備万端だった。

「涙が流れてくるのに、頭の中には暖かい記憶があああああ」

 鼻水が流れる。
 建物の記憶が頭にはいる。
 ルッティの言葉一つ一つが頭に入る。
 魔法とは理解する事だ。どこまで理解するか。

 頭の中に言葉がよぎる。
 ドンストが笑って微笑んでいるのが見える。

 スクワッドがげらげらと笑っている。

「ああ、今の俺じゃ彼等には勝てない、僕は勇者よりも強くならないと、復讐はおいおい考えるさ、僕には3兄弟がついている。とても逞しくて、とても強い家族だ」

 地面を蹴り上げる。

 もっと強くなるんだ。
 
 魂を燃やせ。
 心を燃やせ。
 体を燃やせ。

 そして精神を燃やせ。
 走って走りまくれ、休憩などいらない。
 食って食いまくれ、運動しながら食え。
 魔法を常時発動しろ、もう体にある文様が消える必要はない。
 無限のマジックパワーを作り出してやる。
 走って走って、最強な体を。
 マジックパワーを使い続けて無限の魔力を。
 素材を集めて集めて、最強の兵器を。

 作って作って強くなる。

「なぁ、お前らもそう思うだろう?」

 そこには無数のモンスターがいる。
 彼等はこちらを見て、にかりと笑うと、お辞儀をする。
 その数千。

「君達が困っている事、1つ1つ解決していこう、僕は君達の主だ。君達は奴隷だだけど君達と僕は家族だ」

 その時、大きな叫び声が消滅した山に叫びあがった。
しおりを挟む

処理中です...