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第四章 秋、離宮にて
╰U╯ⅩⅨ.想い出の斎庭(2)
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神殿に上がったリュートが目にしたのは、神殿をも蝕む腐敗だった。
神殿の長である神官長オカクナは、権力欲の強い男だ。神の教えは彼にとって、人々をうまく御するための手段でしかなく、彼の私生活もまた乱れていた。
色好みの彼は、女官たちに次々と手をつけていたのである。
なかでも女官長カサハは腹心ともいえるほどの長年の愛人で、オカクナと共にこの神殿を強権的に支配している。
当然リュートは、そんな神殿に絶望した。だが神殿騎士を辞めることはしなかった。
腐臭渦巻く神殿にあって、唯一清浄な気配を持つ存在。淡く輝く金糸の髪を持つ聖女――ミオリ。
彼女の存在が、リュートを神殿へと留まらせた。
(私はミオリを護る。そしていつか神殿を解体し、この国を――変える。その時にはミオリ、きみが私の隣に居て欲しい)
リュートは決意と想いを胸に秘め、十五歳から二十歳の五年間を神殿騎士として勤め上げたのだった。
† † †
「リュート様!」
その日、久しぶりに神殿を訪れたリュートをミオリが迎えてくれた。
リュートが神殿騎士を辞めてから、四年の月日が流れていた。二十四歳になったリュートは、昔と変わらない微笑みで聖女に尋ねる。
「久しぶりだね、ミオリ。変わりはないかい?」
「え? ええ……」
ミオリはわずかに憂いを含ませた。何かあるのだろうか。
だが十八歳という年齢を考えれば、子供の頃ほど屈託なくもいられないのだろう。
「なかなか来られなくてすまない。本当ならずっと神殿騎士として、ミオリの傍に居てあげたかったのだけど、私も王子としてそうはいかなくてね」
「ええ」
「辛い思いはしてない?」
「……ええ」
しかしミオリは目を伏せ、あきらかに沈んだ声で答える。
リュートは心配になって、ミオリの顔を覗き込んで尋ねた。
「またカサハにいじめられた?」
「いいえ、そうじゃないの」
「じゃあ、どうしてそんな顔をしているんだい」
「……」
ミオリは膝の上でぎゅっと両手を握りしめる。
「……最近、変わった夢を見て。それで」
「うん」
「体から何かが溢れ出て、下着を濡らしてしまうの……」
「――」
リュートは沈黙した。それをどうとったのか、ミオリは不安げに瞳を揺らした。
「わたし、どこか病気なのかもしれないわ」
「ええと、ミオリ。それは月のものではないのか?」
リュートは咳払いをしてからそう問うた。だが、ミオリはふるふると首を振る。
「ち、違うわ。その時期ではないの」
「……そうか」
リュートが難しい顔をして考え込んだので、ミオリはさらに不安になったのか、泣きそうな表情をしている。
「あ、ああ……すまない、ミオリ。きみは病気というわけじゃない」
「そうなの!?」
「ああ。ミオリは……」
ミオリは固唾を呑んでリュートの言葉を待った。
「きみは、肉の棒を求めているんだ」
† † †
思い返すと、どうしてそんなことを言ったのかはわからない。
だがリュートは常日頃からミオリを抱きたいと思っていたし、その欲望が、彼の口にそんなことを言わせてしまったのかもしれない。
おまけに、いたずら心と興奮に突き動かされ、偏った性知識を教え込んだ。
だが、ミオリがカサハにそれを話したのは誤算だった。
カサハはミオリが大きくなってからは鞭を使うことはなくなっていたが、それは烈火のごとく怒ったらしい。
それを受け、ミオリが肉の棒はとても素晴らしいものだと思い込んだのも、さらなる誤算だった。
カサハはいつも、楽しいこと、美味しいもの……そんな小さな幸せを聖女に制限させている。カサハが忌み嫌うものは、素晴らしいもの。ミオリはそう思い込んでいたのだった。
やがてミオリは、身の回りを世話する女官に、下着を濡らしていることを見咎められた。
カサハとしては大事にするつもりはなかったのかもしれない。男が通ってなどいないことは、彼女にはわかっていただろう。
しかしミオリの下着の話は神殿内で噂として伝わり、やがて外部――反神殿派の知ることとなった。反神殿派は堕落した聖女の粛正という格好の大義名分を得ることとなり、そしてあの日、神殿へ攻め入ったのだった。
神殿の長である神官長オカクナは、権力欲の強い男だ。神の教えは彼にとって、人々をうまく御するための手段でしかなく、彼の私生活もまた乱れていた。
色好みの彼は、女官たちに次々と手をつけていたのである。
なかでも女官長カサハは腹心ともいえるほどの長年の愛人で、オカクナと共にこの神殿を強権的に支配している。
当然リュートは、そんな神殿に絶望した。だが神殿騎士を辞めることはしなかった。
腐臭渦巻く神殿にあって、唯一清浄な気配を持つ存在。淡く輝く金糸の髪を持つ聖女――ミオリ。
彼女の存在が、リュートを神殿へと留まらせた。
(私はミオリを護る。そしていつか神殿を解体し、この国を――変える。その時にはミオリ、きみが私の隣に居て欲しい)
リュートは決意と想いを胸に秘め、十五歳から二十歳の五年間を神殿騎士として勤め上げたのだった。
† † †
「リュート様!」
その日、久しぶりに神殿を訪れたリュートをミオリが迎えてくれた。
リュートが神殿騎士を辞めてから、四年の月日が流れていた。二十四歳になったリュートは、昔と変わらない微笑みで聖女に尋ねる。
「久しぶりだね、ミオリ。変わりはないかい?」
「え? ええ……」
ミオリはわずかに憂いを含ませた。何かあるのだろうか。
だが十八歳という年齢を考えれば、子供の頃ほど屈託なくもいられないのだろう。
「なかなか来られなくてすまない。本当ならずっと神殿騎士として、ミオリの傍に居てあげたかったのだけど、私も王子としてそうはいかなくてね」
「ええ」
「辛い思いはしてない?」
「……ええ」
しかしミオリは目を伏せ、あきらかに沈んだ声で答える。
リュートは心配になって、ミオリの顔を覗き込んで尋ねた。
「またカサハにいじめられた?」
「いいえ、そうじゃないの」
「じゃあ、どうしてそんな顔をしているんだい」
「……」
ミオリは膝の上でぎゅっと両手を握りしめる。
「……最近、変わった夢を見て。それで」
「うん」
「体から何かが溢れ出て、下着を濡らしてしまうの……」
「――」
リュートは沈黙した。それをどうとったのか、ミオリは不安げに瞳を揺らした。
「わたし、どこか病気なのかもしれないわ」
「ええと、ミオリ。それは月のものではないのか?」
リュートは咳払いをしてからそう問うた。だが、ミオリはふるふると首を振る。
「ち、違うわ。その時期ではないの」
「……そうか」
リュートが難しい顔をして考え込んだので、ミオリはさらに不安になったのか、泣きそうな表情をしている。
「あ、ああ……すまない、ミオリ。きみは病気というわけじゃない」
「そうなの!?」
「ああ。ミオリは……」
ミオリは固唾を呑んでリュートの言葉を待った。
「きみは、肉の棒を求めているんだ」
† † †
思い返すと、どうしてそんなことを言ったのかはわからない。
だがリュートは常日頃からミオリを抱きたいと思っていたし、その欲望が、彼の口にそんなことを言わせてしまったのかもしれない。
おまけに、いたずら心と興奮に突き動かされ、偏った性知識を教え込んだ。
だが、ミオリがカサハにそれを話したのは誤算だった。
カサハはミオリが大きくなってからは鞭を使うことはなくなっていたが、それは烈火のごとく怒ったらしい。
それを受け、ミオリが肉の棒はとても素晴らしいものだと思い込んだのも、さらなる誤算だった。
カサハはいつも、楽しいこと、美味しいもの……そんな小さな幸せを聖女に制限させている。カサハが忌み嫌うものは、素晴らしいもの。ミオリはそう思い込んでいたのだった。
やがてミオリは、身の回りを世話する女官に、下着を濡らしていることを見咎められた。
カサハとしては大事にするつもりはなかったのかもしれない。男が通ってなどいないことは、彼女にはわかっていただろう。
しかしミオリの下着の話は神殿内で噂として伝わり、やがて外部――反神殿派の知ることとなった。反神殿派は堕落した聖女の粛正という格好の大義名分を得ることとなり、そしてあの日、神殿へ攻め入ったのだった。
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