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第五章 聖都の夜、淫魔王の真実
╰U╯ⅩⅩ.聖都の夜、淫魔王の真実(1)
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ミオリは神殿側に引き渡され、聖都へと連れてこられた。
白く雪化粧を施した聖都は荘厳ではあるが、うら寂しく寒々しい印象からは免れ得ない。
住人達は神殿の怒りを買わないよう身を潜めて暮らしながら、国軍との戦況を見守っていた。
そんな聖都にあって、ひとり気炎万丈、権力への欲望を漲らせる男がいる。
その男とは――神官長オカクナである。
「オカクナ様、本当に聖女を処刑なさるのですか」
抑えた声音でオカクナに問うたのは、女官長カサハ。
すでに四十の坂をとうに越え、五十に届こうかという年齢のはずだが、その立ち居振る舞いは洗練され、また女の色香も未だ兼ね備えている。
「聖女を処刑すれば、賊軍の意気を削ぐことができる。彼奴らは王子とともに、聖女を担ぎ上げていたからな」
オカクナはカサハを見遣ることもなく答えた。
六十を迎えたオカクナの顔には、深く醜い皺が無数に刻まれている。かつて美丈夫として鳴らした面影を、そこに見いだすことは難しかった。
「その前にカサハ、お前にやってもらうことがある」
「はい」
オカクナはようやくカサハに向き直り、そして命じた。
「儂を聖女のもとに案内せよ」
† † †
ミオリは湯の中にちゃぷん、と身を沈めた。
(聖都は他と比べて水が潤沢だけれど……それでもこんなにお湯を使えるなんて)
聖女として神殿に仕えていた折ならいざしらず、かつてマ・クバス=イオスへの逃避行の際泊まった宿でも、湯は使えず蒸し風呂だった。
サウラ=ウルは水資源に乏しい国なのだ。
(……それに)
ミオリが連れてこられたのは神殿ではなかった。聖都のどこかではあると思うが、小さな、だが行き届いた貴族の邸のようだ。
そしてまた。虜囚のような扱いを覚悟していたが、ミオリには侍女がつけられ、身の周りは快適に整えられている。
ミオリが神殿側に差し出されてから、すでに十日ほどが経つ。その間、ミオリは何不自由なく暮らしているのだった。
処刑される聖女への温情なのだろうか?
だが、これ以上考えても仕方がないとミオリが湯から上がろうとした、その時。
湯室の扉が開かれ、誰かが入ってきた。侍女かと振り返ったミオリの目に映ったのは。
「――!」
後ろへ流した白髪に、険しい藍色の瞳の老人。
神官長オカクナだった。
「……神官長!? なぜ、ここに……」
「ふん、カサハめ。こんなところに聖女を隠していたとは……賢しらな真似をする」
「え?」
オカクナはミオリの疑問に答えることなく、扉に鍵をかけた。そのまま大股で湯槽に歩み寄る。
そして、腕を交差させて前を隠そうとするミオリを掴み、湯から引きずり上げた。
「いた、い……!」
「淫魔と情を交わしたそうだな。小娘のくせに、とんだ淫売だ」
「!」
ミオリははっとしてオカクナを見上げた。まともに見つめたこともない神官長と目が合い、怖じ気づきそうになる。
だが、ミオリは声を張り、はっきりと言った。
「ウォルフスのことを悪く言わないで。彼は誠実な男性です」
「ウォルフスだと?」
オカクナが片眉を上げる。
「まさか、お前の相手はマ・クバス=イオスの淫魔王だというのか!?」
ミオリはそれには答えず、オカクナを睨み付けた。
ウォルフスとのことも、リュートの伴侶になると決めたことも、すべてミオリの大切な想いで、決意だ。オカクナに語ってやることなんて、ひとつだってない。
「……面白い」
ミオリの腕を掴むオカクナの手に力が籠もり、その瞳に熱が宿った。
老人の体にどこに力を隠しているのか、オカクナはミオリの肩を掴み、自らの体重を載せて湯室の床に押し付けた。そして、そのまま組み敷く。
オカクナの瞳に宿るのは――欲望だった。
白く雪化粧を施した聖都は荘厳ではあるが、うら寂しく寒々しい印象からは免れ得ない。
住人達は神殿の怒りを買わないよう身を潜めて暮らしながら、国軍との戦況を見守っていた。
そんな聖都にあって、ひとり気炎万丈、権力への欲望を漲らせる男がいる。
その男とは――神官長オカクナである。
「オカクナ様、本当に聖女を処刑なさるのですか」
抑えた声音でオカクナに問うたのは、女官長カサハ。
すでに四十の坂をとうに越え、五十に届こうかという年齢のはずだが、その立ち居振る舞いは洗練され、また女の色香も未だ兼ね備えている。
「聖女を処刑すれば、賊軍の意気を削ぐことができる。彼奴らは王子とともに、聖女を担ぎ上げていたからな」
オカクナはカサハを見遣ることもなく答えた。
六十を迎えたオカクナの顔には、深く醜い皺が無数に刻まれている。かつて美丈夫として鳴らした面影を、そこに見いだすことは難しかった。
「その前にカサハ、お前にやってもらうことがある」
「はい」
オカクナはようやくカサハに向き直り、そして命じた。
「儂を聖女のもとに案内せよ」
† † †
ミオリは湯の中にちゃぷん、と身を沈めた。
(聖都は他と比べて水が潤沢だけれど……それでもこんなにお湯を使えるなんて)
聖女として神殿に仕えていた折ならいざしらず、かつてマ・クバス=イオスへの逃避行の際泊まった宿でも、湯は使えず蒸し風呂だった。
サウラ=ウルは水資源に乏しい国なのだ。
(……それに)
ミオリが連れてこられたのは神殿ではなかった。聖都のどこかではあると思うが、小さな、だが行き届いた貴族の邸のようだ。
そしてまた。虜囚のような扱いを覚悟していたが、ミオリには侍女がつけられ、身の周りは快適に整えられている。
ミオリが神殿側に差し出されてから、すでに十日ほどが経つ。その間、ミオリは何不自由なく暮らしているのだった。
処刑される聖女への温情なのだろうか?
だが、これ以上考えても仕方がないとミオリが湯から上がろうとした、その時。
湯室の扉が開かれ、誰かが入ってきた。侍女かと振り返ったミオリの目に映ったのは。
「――!」
後ろへ流した白髪に、険しい藍色の瞳の老人。
神官長オカクナだった。
「……神官長!? なぜ、ここに……」
「ふん、カサハめ。こんなところに聖女を隠していたとは……賢しらな真似をする」
「え?」
オカクナはミオリの疑問に答えることなく、扉に鍵をかけた。そのまま大股で湯槽に歩み寄る。
そして、腕を交差させて前を隠そうとするミオリを掴み、湯から引きずり上げた。
「いた、い……!」
「淫魔と情を交わしたそうだな。小娘のくせに、とんだ淫売だ」
「!」
ミオリははっとしてオカクナを見上げた。まともに見つめたこともない神官長と目が合い、怖じ気づきそうになる。
だが、ミオリは声を張り、はっきりと言った。
「ウォルフスのことを悪く言わないで。彼は誠実な男性です」
「ウォルフスだと?」
オカクナが片眉を上げる。
「まさか、お前の相手はマ・クバス=イオスの淫魔王だというのか!?」
ミオリはそれには答えず、オカクナを睨み付けた。
ウォルフスとのことも、リュートの伴侶になると決めたことも、すべてミオリの大切な想いで、決意だ。オカクナに語ってやることなんて、ひとつだってない。
「……面白い」
ミオリの腕を掴むオカクナの手に力が籠もり、その瞳に熱が宿った。
老人の体にどこに力を隠しているのか、オカクナはミオリの肩を掴み、自らの体重を載せて湯室の床に押し付けた。そして、そのまま組み敷く。
オカクナの瞳に宿るのは――欲望だった。
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