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終章
╰U╯ⅩⅩⅦ.しあわせの終着地【完結】
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淫魔国マ・クバス=イオスの王宮。その中庭で、ふたりの子供がきゃあきゃあと水遊びをしている。
ひとりは、女の子。淫魔王と同じ銀髪に、水色の瞳。
もうひとりは、男の子。彼の輝くハニーブロンドは、マ・クバス=イオスではなかなか見かけない色だ。
「お母様、シェナがぼくをいじめる……」
「なぁにロウったら。あなたが鈍くさいのがいけないのよ」
泣きべそをかく男の子と、おとなしげな見た目に反してお転婆な女の子。
そんなふたりに微笑み手を差し出したのは、淫魔王ウォルフスの正妃ミオリだ。淡い金髪を背で揺らす彼女は未だ少女ような細腰で、子供が二人もいるようにはとても見えない。
「二人とも、そのくらいにしなさいね。おやつがあるから、あちらで頂きましょう」
「おやつ!」
目を輝かせた子供達を連れ、ミオリは夫の元へ向かった。
建物からせり出した庇の下、夫は長椅子に腰掛けていた。
「おお、二人ともびしょ濡れになったなぁ」
銀の髪に蜂蜜色の肌、マ・クバス=イオスの王ウォルフスは三人を見て目を細める。
ウォルフスはミオリに向かって手を伸ばし、腰を抱くと自らの膝の上に載せてしまった。
「お父様ったら、お母様をとらないで!」
「とらないでー」
子供達が抗議するが、彼はどこ吹く風で妻を腕の中に抱き込んでしまう。
「……もう」
ミオリもまた大人げない夫に呆れた声を出すが、体はすっかりと彼に体重を預け、甘い幸せに包まれているのだ。
(ああ――わたし、幸せね)
もう、何度目になるかわからないことを思う。
サウラ=ウルの聖女だったミオリは、マ・クバス=イオスの淫魔王ウォルフスに嫁いだ。
ミオリは嫁してほどなく、男と女の双子を産んだ。
可愛い我が子に恵まれ、砂糖菓子よりも甘く愛してくれる夫とともに過ごす毎日は信じられないほどに幸福で、だが、確かにここにある幸せなのだ。
(ウォルフス、愛しているわ。そして――)
ミオリは自分よりも明るい金髪を持つ、息子のロウを見つめる。
(きっと、私より先にこの世からいなくなってしまう、あの人のことも)
† † †
ふと、爽やかな春風に髪を掬われ、リュートは前髪を押さえた。太陽の光を映したようなハニーブロンドが、指の隙間から零れ落ちる。
天高くさえずる雲雀の鳴き声を聞きながら、リュートはそぞろ歩いた。
ここはかつての水霊神殿の跡地で、現在は緑あふれる庭園として整えられている。その入り口から垣根を越えて奥まった場所に、リュートは足を運んだ。
小さな四阿の設けられたその一角は、かつて神殿の中庭だった場所だ。幼い聖女とリュートがたびたび交友を深めた場所。
今でもふと、淡い金糸の髪を揺らし、ミオリが駆けてくる気がする。リュートは懐かしさに頬をほころばせた。
リュートがサウラ=ウルの国王に即位して、六年ほどの歳月が流れていた。
リュートはかつてマ・クバス=イオスへ嫁ぐミオリに、国が落ち着いたら自分もマ・クバスを訪問したいと語ったが、それはまだ実現していない。神殿の影響下にある勢力はほぼ一掃できたが、まだまだ国としての問題を数多抱えているのだ。
リュートは国内の問題で疲弊するたび、この庭園に足を運び、聖女との思い出に心を馳せた。今でも聖女は、リュートにとって明日を目指すための道しるべなのだ。
ミオリと淫魔王ウォルフスとの間には姫と王子、二子が誕生したと聞く。彼らともいつか、顔を合わせてみたいものだ――。
そんなことを考えながらリュートは、そよぐ風を心地よく受け止め、しばしの休息に身を委ねたのだった。
† † †
淫魔王の正妃ミオリは、夫であるウォルフスと共に永い時を生きた。
淫魔と契約し伴侶となった人間の女は、彼の精を胎内に受けることにより若さを保ち、淫魔と同じ時を生きることができるのだ。
ミオリの生国であるサウラ=ウルとの友好関係は、かの国の王が代替わりしても続いた。
二国は淫魔族と人間との橋渡しをし、永きに亘ってこの大陸に平和と安寧をもたらしたのだった――。
<完>
ひとりは、女の子。淫魔王と同じ銀髪に、水色の瞳。
もうひとりは、男の子。彼の輝くハニーブロンドは、マ・クバス=イオスではなかなか見かけない色だ。
「お母様、シェナがぼくをいじめる……」
「なぁにロウったら。あなたが鈍くさいのがいけないのよ」
泣きべそをかく男の子と、おとなしげな見た目に反してお転婆な女の子。
そんなふたりに微笑み手を差し出したのは、淫魔王ウォルフスの正妃ミオリだ。淡い金髪を背で揺らす彼女は未だ少女ような細腰で、子供が二人もいるようにはとても見えない。
「二人とも、そのくらいにしなさいね。おやつがあるから、あちらで頂きましょう」
「おやつ!」
目を輝かせた子供達を連れ、ミオリは夫の元へ向かった。
建物からせり出した庇の下、夫は長椅子に腰掛けていた。
「おお、二人ともびしょ濡れになったなぁ」
銀の髪に蜂蜜色の肌、マ・クバス=イオスの王ウォルフスは三人を見て目を細める。
ウォルフスはミオリに向かって手を伸ばし、腰を抱くと自らの膝の上に載せてしまった。
「お父様ったら、お母様をとらないで!」
「とらないでー」
子供達が抗議するが、彼はどこ吹く風で妻を腕の中に抱き込んでしまう。
「……もう」
ミオリもまた大人げない夫に呆れた声を出すが、体はすっかりと彼に体重を預け、甘い幸せに包まれているのだ。
(ああ――わたし、幸せね)
もう、何度目になるかわからないことを思う。
サウラ=ウルの聖女だったミオリは、マ・クバス=イオスの淫魔王ウォルフスに嫁いだ。
ミオリは嫁してほどなく、男と女の双子を産んだ。
可愛い我が子に恵まれ、砂糖菓子よりも甘く愛してくれる夫とともに過ごす毎日は信じられないほどに幸福で、だが、確かにここにある幸せなのだ。
(ウォルフス、愛しているわ。そして――)
ミオリは自分よりも明るい金髪を持つ、息子のロウを見つめる。
(きっと、私より先にこの世からいなくなってしまう、あの人のことも)
† † †
ふと、爽やかな春風に髪を掬われ、リュートは前髪を押さえた。太陽の光を映したようなハニーブロンドが、指の隙間から零れ落ちる。
天高くさえずる雲雀の鳴き声を聞きながら、リュートはそぞろ歩いた。
ここはかつての水霊神殿の跡地で、現在は緑あふれる庭園として整えられている。その入り口から垣根を越えて奥まった場所に、リュートは足を運んだ。
小さな四阿の設けられたその一角は、かつて神殿の中庭だった場所だ。幼い聖女とリュートがたびたび交友を深めた場所。
今でもふと、淡い金糸の髪を揺らし、ミオリが駆けてくる気がする。リュートは懐かしさに頬をほころばせた。
リュートがサウラ=ウルの国王に即位して、六年ほどの歳月が流れていた。
リュートはかつてマ・クバス=イオスへ嫁ぐミオリに、国が落ち着いたら自分もマ・クバスを訪問したいと語ったが、それはまだ実現していない。神殿の影響下にある勢力はほぼ一掃できたが、まだまだ国としての問題を数多抱えているのだ。
リュートは国内の問題で疲弊するたび、この庭園に足を運び、聖女との思い出に心を馳せた。今でも聖女は、リュートにとって明日を目指すための道しるべなのだ。
ミオリと淫魔王ウォルフスとの間には姫と王子、二子が誕生したと聞く。彼らともいつか、顔を合わせてみたいものだ――。
そんなことを考えながらリュートは、そよぐ風を心地よく受け止め、しばしの休息に身を委ねたのだった。
† † †
淫魔王の正妃ミオリは、夫であるウォルフスと共に永い時を生きた。
淫魔と契約し伴侶となった人間の女は、彼の精を胎内に受けることにより若さを保ち、淫魔と同じ時を生きることができるのだ。
ミオリの生国であるサウラ=ウルとの友好関係は、かの国の王が代替わりしても続いた。
二国は淫魔族と人間との橋渡しをし、永きに亘ってこの大陸に平和と安寧をもたらしたのだった――。
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