美月 ~芸能界の物語~

鎌倉結希

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第二章 森の少女

6 ラッキーランスロットの店で

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「……大丈夫?」

長く彼女は私を見つめたから私は聞いた。そして彼女はささやくように言葉を出した。「あなたは天使?なんかの神様?」
へ?「いえ、人」
聞こえなかったように彼女は続けた。「これはあの世だよね」
「どのヨ?」
そう言うと、妙に彼女は微笑むとそのまま寝ていた。本当になにか飲んでいたんじゃないか。こうなっていつまで待つかと思うと二、三分後彼女はまた目を開いた。「あなた……なぜここに?」
「え、歩いてきて……」
「……ここ、どこ」

彼女は上の葉陰を眺めていた。

私は驚いて最初気づかなかったが、今彼女としばらくいると、彼女が寝ている周りの野草には、赤、黄、紫などの明るい色の花もあって、自然に生息しているというより彼女の身体の周りに……生えていて咲いたようだった。彼女はただここを昼寝のベッドとしてえらぶか、わからないまま私は言った。「えっと、一緒に帰る?」

彼女は無表情で私を見た。

「いや、なんでもない。ただそろそろ暗くなってくるから、早くそとに出た方がいいんじゃないかと思って」
「あなたは帰って」
「え?」
「帰って。私はいるから」
「でも、ここ?家の人は?」
「あなたの問題じゃない。構わなくていいよ」

スカートがちょっと上がっていると気がついて彼女はそれを伸ばした。長い髪の毛は後ろに結って顔がはっきり見えた彼女は、実は本当にきれいだ、こんな時にまだこう思う私は恥ずかしくないか。

彼女にいろいろ聞いて帰ることも説得したが、急に彼女は私に背を向けて寝て無視した。夕空にはまだ美しい紫色の雲が見えても、木々の下はもう暗くなってきているから、なにかしないといけないと決めた私は彼女のリュックを取って背負うと、勝手に彼女の背中と膝の下に腕を差して運んだ。「な、なにしてんの?!」
彼女に私は答えた。「森のそとに行く」

こうするのは日本語でお姫様抱っこと言う?そとまで運べるか自信がないが、私はゆっくりと立ち上がった。この女の子の悲鳴を聞きながら抵抗に耐えて進んで、下ろすように彼女は何度も求めて、途中で自分で歩けると彼女は主張したからやっと私は彼女を下した。

彼女はまだ無表情な顔で、一緒に歩くかと思っても振り向いたら彼女はほかの方向に歩いて森に戻った。動き方を見ると弱々しかったが……

もう腕力を使いたくないので私は彼女に遠くからついて行きながら説得した。雑木の枝が多いので歩くのは難しいけど、慣れたのかこの美月はなにも引っかからないみたいに歩けるらしかった。しばらく進むと私たちはある浅い川に着いた。ためらったようで、水の流れの前で彼女は立ち止まると言った。「もう帰って、お願い」
「いえ、なにかあったら……」
「あなたは心配してくれてありがとう。私は本当に大丈夫よ」
「大丈夫……じゃないでしょ」
しばらく彼女は黙ると、私は言った。
「君はここにいるなんて私はだれにも伝えたくないけど、もう六時で、そろそろ、二、三十分後母は家に帰ったら私の姿が見えないと連絡すると思う。そのとき私は君にここにいてほしくないし……一緒に出たくない?またここに来たいなら、次の日は?」
「……なぜ」
「うん?」
彼女は川から私の方に振り向くと言った。「あなたは私のことを知ってるの?」
「……え?」
「でしょ、もし明日私がいなくても、あなたには関係ないんだ」
「え、うん」
「言ったじゃん」
「でも、明日?また君と会えたらいいけど」
「え?」
「えっと、私、ここに引っ越したばかりなんだ。友だちなんて、うーん、だれも知らないけど」
「そうなの?日本人?」
「うん、私の名前はセブ……じゃなくて、彰」
「そっか、彰くんね。美月、私は……帰っていいよ、私はもうあなたの名前を覚えたから。知らないのに、本当にありがとう。私のことを忘れてほっといていいよ。もうお母さんが待ってるね」
「え、どういう?」
「またね」
そういうと彼女はゆっくりと川を歩いて。川のなかではただ足首くらいの深さだけど、なぜか私はあわてて言った。「待って!一緒に帰らないの!」

もう私の方を見ないで、彼女は歩き続けた。

弱っているからか、なにかに足を取られた彼女は転んだ。急いで走って助けようとしたが、彼女は私の手を振り払った。ワイシャツやスカートは濡れたせいで色が濃くなりながら、彼女は言った。「やめよう」
「……なに?」
「私は意味があるふりをしてるって」

そう言うと彼女は泣き出した。

その泣き声からどうしたらいいか私はわからない間に、一瞬彼女は振り向いた。さっきより顔が赤く、変な表情になった。彼女の気持ちのままの見せたくない顔に、私はここにいていいのか。濡れてきた彼女の頬は、川の水か涙か、確かじゃなくなってきた。



静かな街だ。

家でリビングのソファに横になりながらそとのセミの声が聞こえた。うるさくても妙に私は眠くなってきた。そろそろ来年入学のため日本語を勉強しなければならないのに、なぜかやる気がなくて動けなかった。

また寝て、起きると一時だった。まだセミの歌が響いていた。

冷蔵庫のおばあちゃんが作っておいたおかずとご飯をチンして食べると、私は力を奮い起こして勉強を続けた。気分転換のために教科書じゃなくて携帯でネットの記事を読んで、知らない言葉は多いけどすぐに携帯の辞書を使えるから便利だった。ランダムにえらんだその記事は、ニュースから料理のレシピ、宣伝までも読んだが、そのとき私はある有名な俳優の二股ニュースを読んであまりわからなかた。

五十嵐新……?

読み方がわからないから検索してみると、それはいがらしあらただとわかった。なぜ日本人の名前はこんなに難しいのか、読み方のルールがないようにいつも変わるようで、一つひとつ覚えないといけないんだ。この記事の写真には東京のあるお洒落なレストランの前にその俳優と女の人のショットで、彼らの関係に興味があるより、そんなレストランに行けるなんて羨ましかった。

島根ってこんなに田舎か。前に聞いていたトレッキングやいろんなアクティビティが全然見なくて、みんなは家で寝ているみたいで、出かけたら私は一人だけいる感じだった。学校がはじまるまで何ヶ月間?そのときまで私はなにをしたらいいか。

実は昨日私はリッケと電話して、いろんな話からやっと珍しい森で出会った少女のことを長く話した。

美月という子の行為は珍しかった。リッケは縄やナイフを見なかったか、彼女の連絡先がないかと聞いた。実は山から麓の道に別れるときまで私は忘れていたと言うと彼女は驚いたようだった。「え?重要なことなのに?」
「そんなとき……聞かないでしょ」
「いいじゃない?多分彼女も聞かれるのを待ってたから。そんな風に森のなかで出会って、家までエスコートして、だれもが感動するよ。もうすぐ彼女ができたのに」
「なにバカなことを!」
「いいや。期待してるよ!」

昼から夜までずっとセミが鳴いていたせいか私はまだよく寝ていて、次の週は時間を無駄にしないため、眠くなると自転車に乗っておばあちゃんの店に行った。ただあそびに行っただけだが、もしまだご飯を食べていないなら彼女はいつもなにか作ってくれて、肉じゃがやチキン南蛮、そしてカレーうどんというメニューもあって、どれも食べたことがないので毎日私は試した。私は毎回おばあちゃんの料理はおいしいと言ったから、その日彼女は答えた。「よかったね。おばあちゃんはなにかのパンとかを作らないと彰くんは食べないかなと思った」
「いえ、私はいろいろ食べられます。寿司とかも好きです」
「えー、おばあちゃん知らなかった。デンマークで日本食を売っているの」
「日本のレストランはありますよ。ちょっと贅沢な感じですけど。あとはたまに父が作りましたね、イノリ寿司とか。イノリ寿司好きです、いっぱい食べたことがあります」
「……いなり寿司?」
「そうそう。イノリじゃなくて、いなりですか」
「えー、おいしいいなり寿司作ったのに、お父さんは全然彰くんに教えてくれなかったの?」
「なんですか」
「いなりは神様で神社は京都にあるね。だから人は……いなりにいのる、うん、いなりにいのる、こう覚えてもいいね」
「あー、わかりました!ここにも神社があるのをいろんなところで見ましたね。神様は多いですか」
おばあちゃんは笑った。「多いかな!見たことないから私もわからないのよ!」

家の隣の又渡駅から、西にある地海駅の近くにおばあちゃんのレストランがあった。『ラッキーランスロット』という名前で、一軒家の外見の三つのテーブルとカウンター席があってそんなに大きくないけど、放課後に学生たちはよく来店して夕方は賑やかになった。私は一回そんな時間にすわったことがあって、厨房から入ったり出たりした彼女はみんなと親しく話して常連かと思った。八年前におじいちゃんが亡くなった後、彼女はこの店をはじめて、今年もう六十三歳だがまだ元気そうだった……こんな素早さで私より元気じゃないかと思った。「佳恵よしえの孫、俺全然覚えてないな」
ある日私は厨房で彼女を手伝っていると客の声が聞こえた。おばあちゃんはそうと言った。「私も驚いたね。五年前に会って以来で、成長してて」
「まあ、日本に帰ったのは嬉しいね……いえ、そう言えないけど、あの惨事があったから」
「……しょうがないよ」

手伝うとき以外、私はよく二階の部屋にいて、家よりもっと集中できたのでそこで勉強した。昼に着いて下のレストランにすわって、放課後の学生が来る頃になると上の階に移動して、そういう日々を過ごしていたある夕方、もしお母さんの電話がなかったら私は下の階に降りなかったかもしれない。

六時くらいに、カウンターの後ろにいたおばあちゃんはなにかの準備をするわけではなく、ただ知り合いのおじいさんと話していた。会ったことあるかと思うと、彼の隣に一緒にすわっていた女の子を見ると私の年齢くらいだった。「おばあちゃん、電話……」
「彰くん!あなたのことを話していたの」

うん?

おばあちゃんの元気な態度に迷っていると、そのおじいさんが言った。「彰!何年ぶりか。じじいを覚えてないだろう?」

作業服のジャケットを着ていた彼も六十代で、手をあげて挨拶して、その笑顔も私へか。そしておばあちゃんは言った。「中川さんだよ、彰くん。前にいっぱいあなたをいろんなところに連れて行ったけど、八歳だったからもう忘れたかな」

どう答えようかと考えていると、中川さんは言った。「まあ、前は君はこんなちびだったのに、時間はとんでもなく早いね。おい、なんでそこに立っているんだ?近くに来て」
彼は手で招くと私はうなずいた。「は、はい」

母と電話している携帯をおばあちゃんに渡すと私は中川さんのテーブルまで行った。まだなんと話したらいいかわからない間に、気づくと彼と一緒にいた女の子の大きな目は私を見つめていた。彼女は私服だったが、そばに置いたカバンは岩橋中学校のものじゃないか。「本当ね、彼を近くで見ると志緒ちゃんを思い出す。親子だからね……どう、彰くん、もうここに少しいたでしょう。好きだと思う?」
「え、えっと」
「うん?問題があるのか」
「いえ、大丈夫です。最近私は……」

言葉をあまり発したくないのはまたその女の子と見合ってしまったからかもしれないが。

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