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第三章 初デート
14 美月が入院……
しおりを挟む十二月クリスマスが近づくと、デンマークに送るポストカードを買うつもりだった私は自転車で駅まで行って、そこから電車で出雲に行った。
天気がいいからそこまで寒くないけど、念のため私はちょっと厚着した。母以外、紗季とも一緒に電車に乗ったことがあったし、ここはデンマークよりも安全らしくて私は一人でもあまり心配しなかった。
列車のなかでコートを丸めて肘のピローにして、持ってきた本を読んだ。昼に出雲に着くと、ネットで調べた文房具屋さんに歩いていった。ネットで注文できるけど本物を見たかったから、文房具屋で意外と長くえらんでいた。
え、これは『スタークロッシング』じゃない?
『スタークロッシング』のポストカードは、ソーラー・ゲイザー銃を持っている主人公とパートナーの後ろに五人の主役の宇宙人がならんでいるきれいなイラストだった。同じところにまた六、七、八…八デザインもあったんだ。どうせ軽いから、全部買ってスヴェンに送ってもいいかなと思った。
「はい、四千八十円になります」
「はい」
私は店員にお金を渡した。
十五枚、買った。帰る電車代……まだあるけど。
買ったポストカードのなかに島根のマスコットしまねっこの柄だった。私は初めて出雲空港でしまねっこの像を見て、黄色の猫で、頭に出雲大社の屋根みたいなものを被った。かわいいけど、だれに送ったらいいかな。スヴェン? もうそんなに若くないけど。
その辺のレストランで天ぷら定食を食べながら、先週ヘリーンさんとの電話を思い出した。私の事情を聞いたから、ヘリーンさんはスヴェンのことも話した。彼女はスヴェンのインターネットの履歴にいろんな怪しい件を発見して、しかも彼の観たアニメは彼女も見てみると性的なシーンが多いとわかった。日本でこんなアニメは子ども向けかと彼女は聞いた。「え、うーん、大人でも観てると聞いたけど」
「危ないね、覗いたり触ったりするのはさ。いっぱい観て知らない人にそうしたくなったらどうするの」
え……「う、はい。そうだよね」
「あとはローマ字ね、『sukebura』ってどういう意味?セバスチャンは知ってる?数件があったけど」
すけ……透ける?ぶら?ブラ?
なぜか意味は急に私にピンと来た。「知らないけど……」
「なんかまた覗くことみたいね」
そろそろ十一歳だけど、一般の異性より、色気のあるフィギュアの検索履歴を見るとスヴェンはそういう興味があるらしくて、彼は普通かとヘリーンさんは心配していた。どう答えればいいかわからない私は、次の日スヴェンに電話したときに言った。「ちゃんと履歴削除してよ!」
「了解!」
スヴェンは相変わらずのん気だった。
レストランを出ると、もう予定がなくて道をぶらぶらしながら、遠くに霞んだ山岳が見えた。出雲は島根の都市だけど、こんな風景は結構田舎だと思った。ちょっと本屋に行ってみるか、モールのなかの本屋もいいかなと考えていた。
だが、母から電話が来た。もし彼女が連絡しなければ、いつもと変わらない日だったかもしれない。「彰くん、今どこ?」
母は聞くと、私は出雲と言った。「なんですか。お母さんはまだ仕事じゃないの?」
「ちょっと急だけど、美月ちゃんが今入院した。お見舞いに来れる?」
入院、美月が?
そこは島根県立総合病院だった。出雲で働いている母は最初、車で私を送ってあげると言ったけど、その病院が近いと聞いたから私は自分で行けると答えた。でもバスの乗り方がわからなくて、しかも急いでいるので結局私はタクシーに乗って行った。
心がバクバクしていたのは美月のことだけではなく、たまにバックミラーで私をチラッと見たタクシーの運転手は、私が学校をサボったと思うかな。三キロくらい乗って着くと、帰りにお金が足りるかと心配しながら私は十階くらい、大きな病院の建物の前にいた。
いろんな入り口がありそうだが、人がよく出入りしているのが多分メインの入り口だと見ると私はそこに入った。受付係に聞いてエレベーターに乗ると四階に来た。ある病室に『浅井美月』と書いた名札を見て、深呼吸して少しドアをノックして、開いてみると明るい声が聞こえた。
「彰くん!」
窓の眩しい青色からベッドを見ると美月は安座していた。びっくりしているのか、嬉しいのかわからないその顔は、そばにいるお母さんに会釈すると私は美月に言った。「今、どう?」
「いいよ。なぜここに……」
美月に私がなにか答える前に、浅井さんはなぜか椅子から立ち上がると言った。「みーちゃんのお見舞いに来てくれてありがとうね、彰くん!でも一人で……?」
「あ、はい」
「又渡から大変じゃないの?」
「いえ、今日たまたま買い物しに来て、美月のことを母から聞いたので」
浅井さんはうなずいた。「偉いね、こんなにいろいろ自分で出来て、みー……あ、美月ちゃんも一人でいろんなところであそんでいるけど、用事でどこかに行くのは本当に怖いね」
さっき『みーちゃん』と言った瞬間に、美月のお母さんへの目線はなにか。しばらく美月の体調について話すと、お母さんは私たち二人でいた方がよくないかと言うと、私は彼女の方に振り向いた。「え、それは」
「彰くんと美月ちゃんは話があるでしょう。おばさんはちょっとそとに行くから自由にしていていいよ」
え?
気づいたら笑顔のお母さんはもう病室を出て、またベッドを見ると美月は青い病衣の姿ですわっていた。でも、今横座りになったから女らしく見えて……さっきこうすわってたっけ?怪我とかはないけど彼女の顔はちょっと疲れているようだった。彼女の後ろのテーブルに置かれた本は教科書かと思うと、テレビの周りにも歴史教科書があった、紗季の教科書をよく見たから覚えていた。こんな体調で本当に読めるのか。「お母さんはまた私のことを言ったね」
少し意味がわからないが、私の母は美月のお母さんから知らされたと気づいた。「そうかな。ねえ、なんでなにも伝えなかったの」
「うん?」
「病院にいるって……これは?」
美月の手首にある点滴を見ると、ただちょっと食べられないと彼女は答えた。「でも大丈夫よ、たまたまなだけなの」
「心配してるよ」
「ごめん。ね、松島くん……」
そう言うと美月はベッドから降りて点滴棒を引いて私の方に来た。しばらく見合うと不意に彼女は私を抱いた。
軽くまわした彼女の両手を感じながら、びっくりした私はじっと立っていた。やわらかく私の首元に触れたのは彼女の息じゃないのか。「ま、待って」
「うん?」
「なんか、大丈夫?」
「だめなの」
「いえ、でも」
しばらく私たちはそのまま立って、ゆっくりと離れると彼女は言った。「この前彰くんもこうしたじゃないの、ハグって」
「そうだけどさ……」
「気持ちがよくなったね、そのとき。温もりを感じて、いっぱい言いたいことがあっても、近かくにいたら言葉を忘れたみたい……ご、ごめんね……松島くんは海外出身でハグすることには慣れてるから、こうしてもいいんじゃないかなと思ったの。来てくれてありがとう」
そういうこと?
私は紅潮しているかな……美月は勘違いしてるんじゃないかと思いながら見ると、彼女は微笑んた。
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