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フォリオのファストフード

○11話(ケイジュ視点)

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 もう何度目かもわからない射精を、セオドアの体内に打ち込む。
正常位でキスで口を塞いだまま絶頂に達したので、お互いの体液が上と下で交換されて一つの生き物になってしまった感覚に陥った。
セオドアはさっきからほとんど意識がないのか、ふー、ふー、と弱々しく鼻で息をしているだけで声も出せていない。
最後に舌を柔く吸い上げて顔を離しても、うー、と弛緩した声を漏らして目を閉じてしまった。
散々交わって体力を使い果たしてしまったのだろう。
疲れ果てた顔ながらも唇には満足げな淡い微笑みを浮かべ、ほかほかと上気した頬には乱れた髪を貼りつけたまま眠りに落ちている。
普段の生き生きと目を輝かせた快活な表情を見慣れているだけに、その哀れで卑猥な姿に感動すら覚えた。
セオドアのこの姿を作り上げたのは、間違いなくおれだ。
魅了魔法ではなく、おれ自身がセオドアをここまで堕落せしめた。
ぐったりとベッドに沈む伸びやかな四肢も、汗や潮や精液にまみれた胴も、おれがこの手でそう仕向けたものだ。
最後まで従順だったアナルも細かく痙攣して精液をのみ込もうとしていたが、流石に容量を超えてしまったのか縁からこぷりと白濁を溢していて、おれの気持ちを満たしてくれる。
今まで味わったことのない達成感に、おれは深く息を吐く。
ふと違和感を覚えて窓に目を向けると、カーテンの隙間から少しだけ見える空はすでに薄明るくなっていた。
もう明け方だったのか。
おれは一体何時間セオドアの身体を貪っていたんだろう。
途中で何度もここまでにしようと思っていたのに、セオドアが淫猥に微笑みながらもっととねだるので、ついつい欲に負けてしまった。
熱く濡れたセオドアの肉に包み込まれるのは信じがたいほどに心地よく、今まで自分が快楽だと思っていたものとは比べ物にならなかった。
その上セオドアも乱れた姿を惜しげなく見せてくれるし、おれの動き一つ一つに悶えて反応を返してくれるので夢中にならないはずがない。
思いを通じあわせてから徐々に慣らしていたおかげもあるだろうが、もともとセオドアにはセックスの素質があったのだろう。
快感を拾いやすい敏感な身体と、言葉や視覚でも興奮しやすい素直な心。
これほどの相手と出会えたおれは一人の男としても、淫魔としても本当に幸せものだ。
叶うことならこの姿のままずっと寝室に閉じ込めておきたいが、そういうわけにもいかない。
おれは流石に怠さを訴える腰を上げて、セオドアの腹に手を当てて詠唱を始める。
淡い青の光がセオドアやおれを包み込み、清浄な状態に戻していった。
流石に汚れが酷くていつもより時間はかかってしまったが、無事に生臭い体液は一掃される。
明日の朝にセオドアが腹痛を訴えたりしなければいいが、その時はその時でたっぷり甘やかして看病することにしよう。
おれはセオドアの身体が冷えないうちにベッドの隅で丸まっていた毛布を引っ張り上げ、丁寧にセオドアを包み込む。
おれも横に寝そべり、セオドアを抱きかかえて目を閉じた。
明け方のひんやりした空気の中で、恋人の体温を感じながら眠りに落ちるのは最高の贅沢だ。
精気で満たされていたのでわざわざ眠らなくても良かったのだが、今はその贅沢を堪能することにした。

 明るい光が目蓋を照らし、おれは安らいだ気持ちで目を覚ました。
体を起こしのっそりとベッドから下りて、眩しさの原因である窓に歩み寄る。
カーテンの隙間をきっちり塞ぐと、ようやくまともに目を開けられた。
セオドアはまだ良く眠っているので、もう少しそのままにしておこう。
最初からこうなることを予測していたから、今日の予定は何もない。
一応時間を居間の振り子時計で確かめると、午前11時前だった。
おれもなんだかんだよく寝てしまったな。
おれはもう一度寝室に戻り、脱ぎ散らかしたままだった服を拾い集め、浄化魔法をかけておく。
予定がないとはいえ、部屋を全裸でうろつくのははばかられたのでシャツに腕を通す。
セオドアの服も皺にならないように広げ、一応浄化しておいた。
あと必要なのは飲み物くらいか。
目が覚めたときのために寝室に水差しとグラスを持っていく。
魔法で水を生成して飲んでいると、うん、とセオドアが呻く声が聞こえた。
ベッドに歩み寄ると、セオドアは仰向けになって瞬きをしていた。
ぼんやりした顔で天井を見上げて、明るさに慣れようとしている。
おれはグラスに水を注ぎ、ベッドに腰掛けた。
セオドアの目がおれに向けられて、それから淡く微笑まれた。
朝の光の中、柔らかい榛色の髪に彩られた白い頬を緩ませて、髪と同色の睫毛に縁取られた青銀の瞳を細めるセオドアは、まるで宗教画のようで神秘的に見えた。
光の加減によっては金色にも茶色にも見える髪の色と、やはりその時々によって違う色味を湛える瞳の色が、幻想的な雰囲気を作り出している。
すっかり右耳に馴染んだ深い青色の宝石がちかちかと光を反射していて、おれも眩しさに目を細める。

「おはよ、ケイジュ」

セオドアは穏やかにそう言ったが、その声は酷いものだった。
セオドア自身も驚いて、苦笑しながら喉に手を当てる。

「おはよう。今日は無理せず寝ていろ。水飲むか?」

おれはセオドアの背中に手を差し込んで恭しく起き上がるのを手伝い、グラスを手渡す。
セオドアは美味しそうに水を飲み干し、少し咳払いをした。

「ありがとう。けど、思ったほど身体は辛くないよ。腹減ったしおれも起きる」

声は先程より随分聞き取りやすくなっている。
そういえば、セオドアは昨日の夕方もあまり食べていなかったな。

「なら、このまま待ってろ。おれが食事も持ってくるから」

「へーきだって。怠いけど、筋肉痛みたいなもんだし、動いたほうが治る」

セオドアはやんわりおれの手を押し返すと、案外すんなりとベッドから立ち上がり、おれが広げていた服を着始めた。
どうやら本当に筋肉痛だけで済んでいるらしい。
まあ、セオドアも体力には恵まれているからな。けど、少し残念だ。
何もできないセオドアに世話を焼くのを楽しみにしていたんだが。
おれのそんな不満に気付いているのかいないのか、セオドアはおれに軽くキスをしてきた。

「服もありがとな。顔洗ったら朝ごはんにしよう。いや、もう昼飯か」

おれの腹はその言葉ですっかりその気になって空腹を訴え始める。
せめてセオドアには座っていてもらおう。
おれはもう一度軽いキスを返して、セオドアより先に寝室を出た。
昨日の残りがあったはずだから、鍋を温めておこう。
それからコーヒーも用意して、他になにかすぐ食べれるものがあっただろうか。
いつも用意してもらってばかりなので、今日ぐらいはおれにさせてほしい。
おれはまだ慣れない台所に四苦八苦しながらも、遅い朝食の準備を始めた。






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