【本編完結】役立たずと言われた「癒し」スキルで幸せになります!

ひなた

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第三十七話 熱※

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 屋敷に戻った僕たちは、言葉を交わすことなく寝室までやってきた。途中でジェラルド様が立ち止まっていたような気もするけど、正直あまり覚えていない。

 扉を開けて寝室に入る。ジェラルド様は後ろ手で扉を閉めると、繋いでいた手を離して上着を脱いだ。そして、それをソファーに放り投げた。
「私から声をかけるまで決して部屋に近づくなとアルチュールに言っておいた」
 ジェラルド様は僕を引き寄せると、上から覆いかぶさるように強く抱きしめた。
「拒否するなら今のうちだ」
 耳元でささやかれるその声は掠れていて、彼の不安と期待が伝わってきた。
 僕は「拒否なんて絶対しません」と返事してジェラルド様の胸に顔を埋めた。

 突然、体がふわりと浮いたかと思うと、次の瞬間にはベッドの上に寝かされていた。
 ジェラルド様の整った顔が近くにあって、そのままキスをされた。
「んっ……」
 舌と舌が触れるだけの優しいキス。絡み合うような激しいものではないのに胸が高鳴る。
「ふっ、ぁ」
 唇が離れても舌先は触れ合ったままだ。いい感じに力が抜けてきて、舌ってこんなに柔らかいんだなとのんきなことを思った。

 しばらくして舌と唇が離れた。呼吸はできてきたはずなのに、なぜか息が上がる。
「もう顔が赤くなってる。可愛いらしいな」
 ジェラルド様はそう言いながら僕のシャツを器用に脱がしていく。
「可愛くなんかないですよ」
 嬉しいはずなのに、恥ずかしくて否定してしまう。
「私にとって君は誰よりも可愛い」
 真っ直ぐな言葉と視線に何も言い返せなくなる。

「ノア」
 唇同士が軽く触れてすぐに離れた。お互い服を全部脱いでいて、直接肌が触れ合う感覚にゾクゾクする。
「好きだよ」
「僕も、大好きです」
 大きな手で頭を撫でられ、心地よくて目を細める。ジェラルド様はベッド脇にあるサイドテーブルの引き出しから香油を取り出した。

「うつ伏せに」
「今日はずっとジェラルド様の顔を見ていたいです」
 膝の裏を抱えて足を開く。ジェラルド様は複雑な顔をしてから「辛くなったらすぐに言うように」と告げ、香油を手のひらに垂らして温めた。
 冷たくないようにというジェラルド様の気遣いだとわかっていても、じれったくて腰が揺れる。

 ぬらついたジェラルド様の指が後孔の縁に触れた。
「あっ……」
「力を抜いて」
 長く息を吐くとジェラルド様はゆっくりと指を挿入れた。
「痛いか?」
 ふるふると首を振る。ジェラルド様は微笑んでから無骨な指を少し奥に押し込んだ。そして探るように軽く指を曲げ始める。

「あっ! んんっ!」
 ジェラルド様の指がある一点を掠めると体がびくんと跳ねた。内側から膨れ上がる快楽に声が漏れる。
 気持ちいいはずなのに、すっかり慣れてしまったそこは、足りないとばかりに指を締め付ける。

「もう指を増やしても大丈夫そうだな」
 いつもならもっと時間をかけるのに。快楽を受け入れる反面、いつもと違う性急な様子に疑問が生まれる。
「いつもより早」
 ジェラルド様の顔を見て疑問が吹き飛んだ。表情から余裕が一切消えている。
「痛い思いはさせないから、早く君が欲しい」
 僕を求める切実な声音に頷くことしかできない。

 香油が足され、侵入する指が増える。二つの指の腹が絶妙な力で前立腺を叩く。
「あっ、あっ」
 激しい抜き差しはしていない。僕が感じるところを的確に刺激している動きに喘ぐことしかできない。
「んんっ……ァ、ぅあっ!」
 また指が増えた。三本の指は痛みを与えることなく後孔を拡げていて、余裕がないはずなのに僕への労りが感じられた。

 身体が熱い。もっと奥に欲しい。ジェラルド様を感じたい。

 持ち上げていた足をジェラルド様の腰に回す。
「ジェラルド様、もう」
「わかった」
 ジェラルド様は僕の脚の間に体を滑り込ませ、膝裏を持ち上げた。そして、すっかり大きくなったそれを入り口にあてがう。
「あっ……」
 ゆっくりと入ってくる陰茎に、思わず声が出る。
「痛くないか?」
「大丈夫です」
 ジェラルド様の腰が奥に進む。

「んっ」
 多少の圧迫感はあるが痛みはない。硬くなった亀頭が前立腺を掠る。
「ああっ! んっ、そこ」
「ここか?」
 ジェラルド様は浅いところを何度も往復し、一際感じる場所を擦った。
 僕が感じきった声を上げていると、ジェラルド様は空いている両手で僕の胸に触れた。

「ふ、あっ……そこ、だめ」
「好きだろう?」
「んんっ……はっ、ぁ」
 痛いくらいに張った胸の尖りを、指の腹で押し込まれる。そのままぐにぐにと潰され、時折摘まれる。
 絶頂には至らない、でもねっとりとした快感が乳首だけではなく中にも響く。

 だめって言ったのに意地悪だ。そこに触れられるともっと奥まで欲しくなるから止めたのに。
 ジェラルド様は長大なものを全て中に入れず、浅い場所で浅く抽挿を繰り返している。もどかしい快感に腰が揺れてしまう。

「んぅ、やぁ、あん……ん」
「可愛い。もっと声が聞きたい」
 ジェラルド様がさらに奥へ腰を進め、内襞をこそげるように擦り上げる。
「ああっ! んんぅ、ふ……ぁ」
 待ち望んでいた刺激に声が大きくなる。ゆっくりとした動きが徐々に早くなって深いところを穿つ。

 いつの間にか僕の膝裏を押さえたジェラルド様は、ぐっと前のめりに体を倒した。
 あ、これすごいやつだ。そう思った時にはもう遅かった。

「あ! ああッ、ぅああ!」
 奥だと思っていたところからさらに奥までジェラルド様でいっぱいになる。
「あっ、あっあっ、ジェラルドさま」
 全てを奪うような激しい抽送。滲んだ視界にジェラルド様のギラギラした眼差しだけが映る。
「好きだ、ノア」
 いつもより切実な声だった。僕はジェラルド様に手を伸ばした。彼は動きを止めて僕の手を取ってくれた。

「僕は、どんなジェラルド様も好きですよ」
 不器用なジェラルド様も、穏やかで優しいジェラルド様も、嫉妬するジェラルド様も、激しい愛を告げるジェラルド様も。全部大切で愛しい。
 繋がれたところが全部熱い。その熱で僕の想いが全部伝わればいいのに。

「君は、本当に」
「んっ」
 貪るような口付けとともに抽送が再開された。
「んん~~っ! ん、ふ」
 唇が離れ、繋いでいた手も外される。ジェラルド様は両手で僕の膝を裏を支え足を開かせると、激しく腰を打ちつけた。
「ああっ!! おく、ぅあっ」
「ここか?」
 ジェラルド様が最奥をぐりぐりと抉る。
「や、そこ、あっ! きもちいい、んあっ」
「ああ、一緒に」
「っあ! イク、ああっ!」
 奥を突かれ、頭が真っ白になった。中が熱いもので満たされて、幸福感が胸に広がる。

「んんっ」
 ずるずると埋まっていたものが抜かれた。それだけで声が出てしまう。
 ジェラルド様の手が僕のお腹を撫でる。
「すまない。まだ足りない」
 本当に申し訳なさそうに言うから、笑いそうになった。お腹に置かれた手に自分の手を重ねる。
「僕も同じことを思っていました」
 二人で笑い合い、それから口付けを交わした。
 外はまだ明るくてカーテンの隙間から光が入ってくる。その眩しさに目を細めて、それからジェラルド様と目を合わせて微笑んだ。


 何度交わったのかわからないくらい時間が経った。外はとっくに暗くなっている。
「あっ、あっ」
「ノア、ノア」
 僕は今、ベッドに腰掛けたジェラルド様にまたがった状態で繋がっている。
 普段とは違う体位とその密着感でドキドキする。
 何度も絶頂して敏感になった身体は、ゆるゆると腰を動かされるだけで反応してしまう。

「んっ、そこっ。あっ、きもちいい」
「ああ。気持ちいいな」
「あ、んぅ……ジェラルド様、もっと」
 ジェラルド様は僕の腰を掴むとぐっと下に押しつけた。最奥まで到達したジェラルド様の熱い先端がこつんと当たる。
 そのまま奥を刺激されて、頭の先まで痺れるような快感が走る。
「ふ……ぁっ、あっ、ああっ」
 ずっとこのままがいい。ジェラルド様の首に腕を回してぎゅっと抱きしめる。緩く勃ったものがジェラルド様の腹筋に擦れて気持ちいい。

「すきっ、すき」
 もう掠れた声しか出なくて、腰にもうまく力が入らない。それでも繋がりを求めて身体を動かす。
 ジェラルド様と目が合って、どちらからともなく唇を重ねる。今日はキスしてばっかりだ。性感を煽るものではない、相手の感触を確かめるようなキス。
 ジェラルド様もこの時間を終わらせたくないと思っているのかな。そうだったら嬉しい。

 しばらくいろんな場所にキスをしあって、手を繋いだりと触れ合っていたけど、お互いの限界が近いのは明らかだった。
「ノア、しっかり掴まって」
「はい……あっ、んんっ……ああっ!」
 ジェラルド様が下から突き上げ、僕も動きに合わせて腰を振る。
「んっ、んん……ああ!」
 中で脈打つものを感じる。僕の陰茎からは何も出ていない。ずっと緩やかな絶頂が続くような、恍惚とした快感が僕を包む。

 ジェラルド様が僕を抱き締める。お互いに汗まみれで、額についた髪を撫で付けてくれた。
「無茶をさせた」
「いえ、僕も」
 夢中だったから、と言おうとして咳き込んだ。ジェラルド様が心配そうに僕の背中を撫でる。
「水を取ってこよう」
 ジェラルド様はそう言って僕をベッドに横たわらせる。離れようとしたジェラルド様の腕を反射的に掴んでしまった。

「どうした?」
「えっと、あの……寂しいから早く戻ってきてくださいね」
 ジェラルド様は一瞬目を見張り、それから「すぐに戻る」と言って僕の額にキスをしてから寝室を出た。

 扉を見つめながら少し先のことを考える。
 きっとジェラルド様はすぐに水を取って戻ってきてくれるだろう。それから二人で水を飲んで、服を着て、もしかしたらジェラルド様が着せてくれるかもしれない。そして僕がジェラルド様にねだって腕枕をしてもらって、寝る直前まで大好きだよって伝え合うんだ。

 そんな幸せな想像をしたら思わずにやけてしまった。
 ジェラルド様が帰ってくるまでに表情を戻さないといけないなぁと思いながら、僕はシーツに包まった。
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