【本編完結】異世界まったり逃避行

ひなた

文字の大きさ
8 / 158
グレイセル王国からの逃亡

虚ろな目

 結局アイザック兄さんはカーター叔父さんの家に泊まって、次の日の朝早くに村から出たらしい。見送りの挨拶もできなかった。

 あれから4年経って僕は12歳になった。いろいろあったが強くなる計画は順調だ。
 魔法は独学だが、かなり強くなったと思う。村外れにいる魔物も危なげなく倒せるようになった。
 筋肉はまだ付いていないが、身長は順調に伸びている。このまま鍛えればムキムキになれるだろう。
 剣術は習えなかったけど仕方ない。剣に代わる武器としてメイスのような武器を作った。
 殴る動きなら斬るより技術はいらないはずだ。武器がないよりマシだと思って毎日素振りしてる。

 4年の間に家族にも変化があった。まずブルーノ兄さんが、成人したことを機に、正式に後継ぎとなった。半年前に隣村のハンナさんと結婚して幸せそうだ。
 ニック兄さんはブルーノ兄さんを支えると決めたらしく、ふたりで協力して畑を広げていこうと約束していた。婚約者もできて順調そのものだ。
 アイナ姉さんは現在3人目を妊娠中だ。一度だけ姉さんのところに遊びに行ったが、甥っ子も姪っ子もすごく可愛かった。
 リリアナは僕に対する態度が少しだけ丸くなった。彼女も何か思うところがあったのだろう。
 父と母は相変わらずだが、家族全員大きな病気もなく健康そのものだ。

 僕は家を出て冒険者になると決めた。冒険者になって、世界中を旅して美味しいものを食べたい。
 前世の記憶のせいで僕は美味しい食事を渇望していた。父の許可は取っていないが、来年の春に村を出る予定だ。

 村を出る前にやりたいことはふたつある。 
 まずはお金を貯めること。定期的に魔物を狩って肉を村の食堂に卸しているが、お金はいくらあっても足りない。1カ月後に行商が来るので換金できる素材を整理したい。
 そして教会にある本を全部読み切ること。村の教会には意外にも本がたくさんあった。これでもかなり少ない方らしい。
 教会の本部があるメトゼナリア神聖国は、良質な紙を生産していることで有名らしく本の支給が多いとか。司祭様はお酒の方がいいのにとボヤいていた。
 本は知識の宝庫だ。魔法のことや世界の常識、冒険者についてなどいろいろなことを学んだ。書庫には古い冒険譚も置いてあってすっかり読書が趣味になってしまった。

「ただいまー」
 ブルーノ兄さんの手伝いを終えて家に帰る。早めに切り上げたので、家に誰もいないと思ったが先客がいたようだ。
「え?アイザック兄さん?」
 あの日と同じように兄さんがそこに座っていた。でも纏う雰囲気が全然違う。虚ろな目が僕を捉える。
「ルカ久しぶりだな。」
 今にも消え入りそうな声だった。

「兵士を辞めさせられてな。大怪我を負って剣が持てなくなったら、役立たずはいらないと言われた」
 どういうことだ。兄さんが剣が持てないほどの怪我をするなんて。
「魔物暴走から街を守るために戦っていたら、武器が粗悪品にすり替えられていて怪我を負った」
「武器をすり替えた犯人は古くからの友人だった。俺の活躍が妬ましかったらしい」
「伯爵様にはあの時死んでいればよかったのにと言われた。剣が持てない役立たずのために、高額な治療費を払ってしまったと嘆かれていたよ」
「婚約者にも捨てられた。顔も合わさず書面でさよならだ」
「父さんに鍬も振るえない穀潰しは出て行けと言われた。せめて脇腹の傷が完全に塞がるまでは、ここに居させてほしいと頼んだが断られた」

 唖然としてすぐに返事が出来なかった。
 自身に降りかかった出来事を淡々と述べる兄さんに胸が締め付けられる。大切な人たちに次々と裏切られるなんてどれだけ傷ついただろう。
 本当に信じられない。父は息子に野垂れ死ねと言ったのか。

「なあ俺はこれ以上何をしたらいいんだ。これからどうしたらいい。もう分からないんだ」
 まずい、兄さんは死ぬ気だ。ここで僕が見捨てたら兄さんはその場で喉を掻き切って死ぬだろう。
 兄さんの手にはよく切れそうなナイフが握られている。

「兄さんはたくさん頑張ったんでしょ。これ以上何をしたらって何もしなくてもいいんだよ」
「何もしなくてもいいってどうしたらいいんだ。お前が言っている意味がわからない。ごめんな、ごめん」

 声に感情がこもっていない。このまま家にいるのはまずい。今の兄さんに家族を会わせるわけにはいかない。
「言葉のままだよ。これ以上頑張らなくてもいいってこと。分からないならとりあえず僕についてきなよ。試したいことがあるんだ」
感想 24

あなたにおすすめの小説

【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。 名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。 そんな彼には「推し」がいる。 それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。 実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。 終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。 本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。 (番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

うちの家族が過保護すぎるので不良になろうと思います。

春雨
BL
前世を思い出した俺。 外の世界を知りたい俺は過保護な親兄弟から自由を求めるために逃げまくるけど失敗しまくる話。 愛が重すぎて俺どうすればいい?? もう不良になっちゃおうか! 少しおばかな主人公とそれを溺愛する家族にお付き合い頂けたらと思います。 初投稿ですので矛盾や誤字脱字見逃している所があると思いますが暖かい目で見守って頂けたら幸いです。 ※(ある日)が付いている話はサイドストーリーのようなもので作者がただ書いてみたかった話を書いていますので飛ばして頂いても大丈夫です。 ※度々言い回しや誤字の修正などが入りますが内容に影響はないです。 もし内容に影響を及ぼす場合はその都度報告致します。 なるべく全ての感想に返信させていただいてます。 感想とてもとても嬉しいです、いつもありがとうございます!

悪の策士のうまくいかなかった計画

迷路を跳ぶ狐
BL
いつか必ず返り咲く。それだけを目標に、俺はこの学園に戻ってきた。過去に、破壊と使役の魔法を研究したとして、退学になったこの学園に。 今こそ、復活の時だ。俺を切り捨てた者たちに目に物見せ、研究所を再興する。 そのために、王子と伯爵の息子を利用することを考えた俺は、長く温めた策を決行し、学園に潜り込んだ。 これから俺を陥れた連中を、騙して嵌めて蹂躙するっ! ……はず、だった……のに?? 王子は跪き、俺に向かって言った。 「あなたの破壊の魔法をどうか教えてください。教えるまでこの部屋から出しません」と。 そして、伯爵の息子は俺の手をとって言った。 「ずっと好きだった」と。 …………どうなってるんだ?

[完]異世界銭湯

三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。 しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。 暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。