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イーザリア王国編
呪い
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僕は兄さんの手を引いて宿屋に向かっている。兄さんは何も言わない。顔色は青を通り越して白くなっている。
兄さんがこうなった原因はわかってる。ダリオのいつか僕に捨てられるかも発言のせいだ。
兄さんは大切な人達に裏切られて、人間不信に陥っている。表面上落ち着いて見えるが、実際は精神的に不安定だ。
兄さんは今でも夜中にうなされて飛び起きることがある。そのたびにうわ言のように繰り返すのだ。『俺の何がいけなかったんだ』『どうしてどうして』と。
僕が起きていると気づくと、兄さんは平静を装うのでいつも寝たふりをしているが、その言葉を聞くたび腸が煮え返る。
僕は兄さんをこんな目に合わせたやつらを絶対に許さない。
「ルカっ、お願いだ俺を…俺を捨てないでくれ。何でもするから、囮にでも何にでもなるから……。俺はもうルカだけなんだ!ルカだけが俺の生きる意味なんだ!」
兄さんは部屋に着くなり、その場に跪いて懇願してきた。大粒の涙をこぼし、やがて嗚咽を漏らす。
僕はしゃがみ込んで兄さんを抱きしめた。「大丈夫、大丈夫だよ」「ずっとそばにいるよ」赤子に語りかけるように優しく囁く。僕は兄さんが落ち着くまでずっと抱きしめていた。
「すまない。恥ずかしいところを見せてしまった」
「落ち着いた?」
兄さんをベッドに腰掛けさせ、水が入ったコップを手渡す。
兄さんは気恥ずかしいのかコップを握り込んだまま俯いてしまった。
僕は兄さんの横に腰掛け励ますように肩を叩く。
「兄さんはさ、たまには泣いたらいいんだよ。泣くのは恥ずかしいことじゃない。心を守るために大事なことだよ」
「そんなことは初めて言われた。そうか…泣いてもいいのか」
「僕の胸ならいつでも貸すから」
「何でルカは俺なんかのためにそこまでしてくれるんだ?」
俺なんか、か。兄さんの心の傷は僕が思ってるよりもずっと深いのだろう。
「大切な人だからだよ。兄さんはさ、僕に恋人ができたら捨てられるかもって怖くなったんでしょ」
「そうだ。ルカに捨てられたらと思うと俺は…」
「実は今日僕も似たようなことを思ってた」
「えっ」
「僕が16歳になったらふたりでお酒を飲もうって約束したでしょ」
「ああ」
「その時兄さんは26歳で、もしかしたら結婚して冒険者を辞めてるかもしれないって思ったら寂しくなった」
「俺は結婚なんてしない。ルカが辞めるまで冒険者を続ける」
「ありがとう。僕はね、もし兄さんが結婚しても16歳になった日だけは兄さんを独占してやろうって思ってた」
「……」
僕の告白に兄さんが息を呑んだ。
「でも今の兄さんを見て思い直した。兄さんはそんな曖昧な関係じゃ不安なんだって。赤の他人にちょっと言われたくらいで取り乱すくらいに。だからさ」
だめだ。一度言ってしまったらもう元に戻れなくなる。今から僕が言おうとしているのは呪いの言葉だ。それも兄さんの人生を縛る呪い。
でも兄さんの泣き顔がまぶたの裏に焼き付いている。兄さんの嗚咽が耳から離れない。抱きしめた時の兄さんの温もりが肌に残っている。
僕は覚悟を決めて立ち上がり、ベッドに腰掛けている兄さんと向かい合う。兄さんの顔をそっと引き寄せるように頬に手を添える。
「だからさ、兄さんの、アイザックの人生を僕にちょうだい。僕達は誰のものにもならない。ずっと一緒にいる……一生の相棒だ」
「ああ……ああ!!」
上から覆うように抱きしめられた。僕達の間を阻むものは何もない。
兄さんはまた泣きだした。初めて声を出して泣くことを知った子どもみたいに、下手くそな泣き声を上げていた。
僕は兄さんが泣き疲れて眠るまでずっと兄さんの手を握っていた。
この日以降、兄さんがうなされて飛び起きることは一度もなかった。
兄さんがこうなった原因はわかってる。ダリオのいつか僕に捨てられるかも発言のせいだ。
兄さんは大切な人達に裏切られて、人間不信に陥っている。表面上落ち着いて見えるが、実際は精神的に不安定だ。
兄さんは今でも夜中にうなされて飛び起きることがある。そのたびにうわ言のように繰り返すのだ。『俺の何がいけなかったんだ』『どうしてどうして』と。
僕が起きていると気づくと、兄さんは平静を装うのでいつも寝たふりをしているが、その言葉を聞くたび腸が煮え返る。
僕は兄さんをこんな目に合わせたやつらを絶対に許さない。
「ルカっ、お願いだ俺を…俺を捨てないでくれ。何でもするから、囮にでも何にでもなるから……。俺はもうルカだけなんだ!ルカだけが俺の生きる意味なんだ!」
兄さんは部屋に着くなり、その場に跪いて懇願してきた。大粒の涙をこぼし、やがて嗚咽を漏らす。
僕はしゃがみ込んで兄さんを抱きしめた。「大丈夫、大丈夫だよ」「ずっとそばにいるよ」赤子に語りかけるように優しく囁く。僕は兄さんが落ち着くまでずっと抱きしめていた。
「すまない。恥ずかしいところを見せてしまった」
「落ち着いた?」
兄さんをベッドに腰掛けさせ、水が入ったコップを手渡す。
兄さんは気恥ずかしいのかコップを握り込んだまま俯いてしまった。
僕は兄さんの横に腰掛け励ますように肩を叩く。
「兄さんはさ、たまには泣いたらいいんだよ。泣くのは恥ずかしいことじゃない。心を守るために大事なことだよ」
「そんなことは初めて言われた。そうか…泣いてもいいのか」
「僕の胸ならいつでも貸すから」
「何でルカは俺なんかのためにそこまでしてくれるんだ?」
俺なんか、か。兄さんの心の傷は僕が思ってるよりもずっと深いのだろう。
「大切な人だからだよ。兄さんはさ、僕に恋人ができたら捨てられるかもって怖くなったんでしょ」
「そうだ。ルカに捨てられたらと思うと俺は…」
「実は今日僕も似たようなことを思ってた」
「えっ」
「僕が16歳になったらふたりでお酒を飲もうって約束したでしょ」
「ああ」
「その時兄さんは26歳で、もしかしたら結婚して冒険者を辞めてるかもしれないって思ったら寂しくなった」
「俺は結婚なんてしない。ルカが辞めるまで冒険者を続ける」
「ありがとう。僕はね、もし兄さんが結婚しても16歳になった日だけは兄さんを独占してやろうって思ってた」
「……」
僕の告白に兄さんが息を呑んだ。
「でも今の兄さんを見て思い直した。兄さんはそんな曖昧な関係じゃ不安なんだって。赤の他人にちょっと言われたくらいで取り乱すくらいに。だからさ」
だめだ。一度言ってしまったらもう元に戻れなくなる。今から僕が言おうとしているのは呪いの言葉だ。それも兄さんの人生を縛る呪い。
でも兄さんの泣き顔がまぶたの裏に焼き付いている。兄さんの嗚咽が耳から離れない。抱きしめた時の兄さんの温もりが肌に残っている。
僕は覚悟を決めて立ち上がり、ベッドに腰掛けている兄さんと向かい合う。兄さんの顔をそっと引き寄せるように頬に手を添える。
「だからさ、兄さんの、アイザックの人生を僕にちょうだい。僕達は誰のものにもならない。ずっと一緒にいる……一生の相棒だ」
「ああ……ああ!!」
上から覆うように抱きしめられた。僕達の間を阻むものは何もない。
兄さんはまた泣きだした。初めて声を出して泣くことを知った子どもみたいに、下手くそな泣き声を上げていた。
僕は兄さんが泣き疲れて眠るまでずっと兄さんの手を握っていた。
この日以降、兄さんがうなされて飛び起きることは一度もなかった。
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