【本編完結】異世界まったり逃避行

ひなた

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イーザリア王国編

ワイバーン

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 あれがワイバーンか。体長は4メートルくらい。思ったよりも小さい。
「兄さん。ワイバーンの倒し方にコツとかある?」
「地面に落として首を切断するのが確実だろうな」
「じゃあ僕が地面に引き摺り下ろすから、止めは兄さんに任せるね」
「了解」

 ワイバーンは逃げ惑うゴブリンに狙いを定めて旋回している。下りてくる気配はまだない。
 雷撃が届くか微妙な距離だ。攻撃魔法で遠距離からチマチマ本体にダメージを与えるより、翼にダメージを与えるほうが確実に地面に落とせるだろう。
 ワイバーンは前足の部分が翼になっている。根本を狙って翼を切断するのは難しい。
 やつの翼は指と指の間の皮膜が翼になった形状をしている。狙うのは皮膜の部分。穴を開けて引き摺り下ろしてやる。

「兄さん!翼の皮膜のところに穴を開ける!少しの間、やつの注意を引きつけてほしい」
「わかった」
 兄さんが僕と離れて大木に剣を当ててガンガン鳴らし始めた。するとワイバーンが兄さんの動きを警戒して旋回をやめた。
 僕は魔法に集中する。土属性魔法《金属生成》で土の塊よりも質量が重い球を生成、風属性魔法《風弾》でそれを飛ばす。
 魔法はイメージが大切だ。僕は生成した球がより速く、より遠くに飛ぶようにイメージして魔力をこめる。
「今だ!」
 僕の魔法が直線的に飛んでワイバーンの翼の皮膜に命中する。

 ワイバーンがフラフラと空から落ちて地響きを立てる。兄さんはその瞬間を逃さず、即座に近づいてワイバーンの首に狙いを定め大剣を振り下ろす。
 ワイバーンも抵抗しようと体を動かしたが遅かった。

 ワイバーンの首が綺麗に切断される。正に一刀両断だ。無駄のない動き、兄さんの剣はいつ見ても惚れ惚れする。
「ルカ!怪我はないか?」
「大丈夫!兄さんは?」
「俺も大丈夫だ」
 よかった。ふたりとも怪我はないようだ。

「それにしてもワイバーンをこんなあっさり倒せるとは……ルカの魔法はすごいな」
「兄さんもかっこよかった!ワイバーンの首をスパーンって!兄さんは世界一の剣士だね!」
「褒めすぎだ」
 兄さんの耳が赤い。もしかして照れてる?ここまで分かりやすいのも珍しい。兄さんも僕に褒められたらソワソワするのだろうか。そうだったら嬉しいな。

「おーい!そこに誰かいるっすかー?」
 ミゲルの声だ。そういえば銅級冒険者パーティーが来るって伝達役が言ってたな。
「ミゲルー?ルカだよ!僕達以外誰もいないよー!」
「は?なんでルカがそこに?急いで向かうっす!」
 ミゲルはそう言ってすぐにこちらに来た。ミゲルは無属性魔法《身体強化》を使った素早い動きが得意だ。そのおかげで1番に現場に到着したのだろう。他の冒険者の気配はまだ感じられない。

「もしかしてルカとアイザックさんがはぐれワイバーンを倒したっすか!?銅級パーティー複数で倒すレベルの魔物っすよ!」
「兄さんに倒し方のコツを聞いたから余裕だったよ!」
「コツで魔物倒せたら冒険者はいらないっす!……キレイに首を切断してるっすね。かなりの報酬になると思うっす」
「いいことってこれのことかぁ」
「普通ワイバーンに遭遇するのをいいことって言わないと思うっすが、たぶんそうっすね……」

 しばらくして『銀色の風』のメンバーと銅級冒険者パーティーが2組やってきた。
 僕達がワイバーンを討伐したと知ると先ほどのミゲルと同様に、他の冒険者達も驚きを隠せない様子だった。
 『銀色の風』以外の冒険者からは兄さんがワイバーンをソロで倒したと思われてるようだ。兄さんだけ質問攻めにあっている。

 ワイバーンの運搬をするため、兄さんと別れて行動する。
 僕はかなり前方で土属性魔法《土操》を使い運びやすいように地面を均している。隣にいるのは『銀色の風』の魔法使いカミラだ。
「ワイバーンの翼の傷。あれルカでしょ?」
「わかる?魔法でちょっとね」
「ワイバーンの翼は薄いけど伸縮性があって、魔法では簡単に傷付けられない。本体に攻撃魔法を当てて弱らせるのが、一般的な魔法使いの戦い方よ」
「えっ?兄さんは僕が魔法で翼に穴を開けるって言っても止めなかったけど」
「強い戦士というのはね、自分達ができることは魔法でもできると思う生き物なの」
 そう言うとカミラは遠い目をしてぶつぶつと呪詛を吐き出した。いろいろと苦労しているのだろう。これはあまり触れない方がいいな。

 ある程度呪詛を吐いたらすっきりしたのかカミラが話を続ける。
「ルカの魔法は異常だわ。私達が使う魔法と全く違う、根本からなにもかも違う。」
「そんなに?」
「熟練の魔法使いでも、飛んでるワンバーンの翼を狙って局所的に攻撃するのは不可能よ」
「そうなんだ」
「あなたの実力は隠しておいた方がいい。幸い、私達以外の冒険者連中は、アイザックさんがソロでワイバーンを倒したと思い込んでる。それを利用して魔法のことを誤魔化すの。あなたの実力がバレたらいろんなところから狙われるわよ。それこそ貴族とか」
「貴族!それは嫌だなぁ。ありがとうカミラ、兄さんに話して口裏を合わせてもらうことにする」
 カミラは僕の言葉に満足したように頷くと急に顔を強張らせる。
 そして意を決したように口を開いた。

「ルカ、あなた何者なの?」
「僕は僕だよ。鉄級で冒険者暦2ヶ月のお荷物くん。趣味は食べ歩きで最近紅茶にハマってる」
「……ごめんなさい。いらない詮索しちゃったわ。そうよね、ルカはルカよね」
「うん、これからもよろしくね」
「もちろんよ」
 僕の方こそごめんね。前世の知識を基にした魔法の力だ、なんて教えられない。
 それこそ兄さんにも言えない最大の秘密だ。

 兄さんは僕の魔法のことを詮索してこない。『ルカはすごいな、天才だ』と褒めてくれるだけだ。その心地よさに引き込まれてすっかり油断していた。
 平穏な冒険者生活のために気を引き締めないといけない。貴族に目をつけられて離れ離れに、なんてもってのほかだ。

 何があっても僕と兄さんはずっと一緒だ。

 歩きながらカミラといろんな話をした。ハマってると言ったからか紅茶の話が中心だ。
 もう春が近い。穏やかな日差しに目を細めながら、ワイバーン肉を何キロ貰おうかなとぼんやり考えていた。
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