【本編完結】異世界まったり逃避行

ひなた

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アファルータ共和国編

欲しかったもの

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 俺は物心ついた時から孤児として生きていた。両親の顔は知らない。いつか両親が迎えに来てくれると淡い期待すら持たなくなったのはいつの頃だったか。
 そんな俺が8歳になった時、人生の転機が訪れた。父の遠い親戚と名乗る夫婦が俺を引き取ってくれたのだ。

 その日から俺は鏑木かぶらぎ 瑠夏るかになった。

 鏑木家は代々社会的地位を維持し続けている家だった。いわゆる旧家というやつだ。
 地元で知らない人はいない有名な家柄がなぜ俺を引き取ったのか、初めはわからなくて混乱した。

 答えは親戚になったやつらが、頼んでもいないのにご丁寧に教えてくれた。
 両親は若くして結婚したが、子宝に恵まれなかった。まだ子どもを諦める年齢ではないが、万が一のために俺を引き取ったらしい。
 俺に求められた役割はお飾りといったところか。正式な後継ぎが生まれるまでのつなぎ、それが俺の存在意義だった。

 それでも求められたことが嬉しくて、俺は後継ぎになるために死ぬほど努力した。
 引き取った理由は納得いかなかったが、両親は俺に優しかった。初めて与えられた親の愛情というやつが嬉しくて、俺はさらに努力を重ねた。

 母と一緒に料理をするのが好きだった。母が料理をする機会は多くはなかったが、毎回のように手伝いを申し出る俺を愛おしそうに受け入れてくれた。何とも言えない味になっても美味しそうに食べてくれる母の明るい笑顔に、こちらまで明るい気持ちになった。

 父とキャッチボールをするのがいつしか一番の楽しみになっていた。言葉を交わさずボールを送り合うだけの行為なのに、父の気持ちが伝わってきて、それがどんな言葉よりも俺を励ましてくれた。

 容姿端麗、文武両道、社交も完璧。非の打ち所がない後継ぎ様になるのにさほど時間はかからなかった。
 両親も俺を自慢の息子だと言ってくれて、照れくさいけどとても幸せだった。

 しかし俺が16歳になった年、そんな幸福な日常が一変した。
 母が妊娠した。喜ばしいことのはずなのに、いつも明るい母が泣きながら俺に謝ってきた。厳格な父が背中を丸めながら俺に頭を下げていた。
 必死に謝る両親を見て、わかってしまった。俺への愛情は全部偽物だった。本物へ捧げるための練習で気まぐれに与えられたものだった。

 両親のことを許せるはずがなかったがお腹の子に罪はない。結局俺が進級してまもなく、双子の男の子が生まれた。
 監視の目がないと近づくこともできなかったが、それでも可愛い弟だ。ふたりがまだ赤ちゃんの時、一度だけ触れ合うことを許可されて抱っこしたことがある。ふたりとも俺が子守唄を歌うとすぐに眠ったのが、可笑しくて可愛くてたまらなかった。

 俺が独り立ちするまでは面倒をみると両親が約束してくれたため、俺は医学部に入学した。少しでも長く実家にしがみつくための悪あがきだった。
 大学生活は可もなく不可もなく淡々と過ぎていった。弟はすくすく育ち、将来が楽しみな優秀な子ども達だと周囲から評価されていた。俺の存在意義は完全になくなった。
 それを認めたくなくて、嫌がられても度々実家を訪問した。その頃の俺は虚しさだけが付き纏う生きる屍と化していた。

 月日は流れ医師国家試験を控えたある日、信号無視の車に轢かれた。地面に叩きつけられた瞬間、死を確信した。
 クソみたいな人生だった。愛情なんて求めなければ、もっとマシな人生になったかもしれないのに。中途半端に知ってしまったせいで惨めさが増した。
 死ぬ間際、もし次があるなら唯一が欲しいと願った。俺は生みの親にも育ての親にも捨てられた。だから血の繋がりだけでは足りない、それを超えた繋がりを誰かと——
 死の直前、ぼやけた視界に流れ星が落ちた。それがまるで俺の願いを聞き入れてくれたように見えて、久しぶりに心から笑った。


 目が覚めるとベッドの上だった。見慣れた寝室に安堵する。兄さんが運んでくれたのだろう。窓から光が漏れていないことから、まだ夜であることがわかる。

 あんなに怯えていたのに、蓋を開けたら僕は僕のままだった。前世を完全に思い出したことで、いろいろと理解した。
 僕は8歳のあの日、すでに瑠夏と人格が混じっていた。でも無意識に瑠夏として生きた記憶を封印していた。もし二度目の人生で誰にも受け入れてもらえなかったら、心が耐えられないと思ったから。
 前世を思い出すたびに恐怖していたのは、瑠夏が強く拒絶したからだ。全部思い出した今となっては、恥ずかしくなるくらい何も変わっていない。
 僕は初めて兄さんと出会った時から僕のままだったようだ。

 兄さんに何と言おうか悩んでしまう。あんなに騒いだのに何ともなかったとは言いづらい。
 兄さんにかける言葉をああでもないこうでもないと考えていると、兄さんが部屋に入ってきた。
 兄さんは僕が起きていることに気がつくと、不安そうな顔で恐る恐るベッドに近寄った。
 その様子を見て、今まで考えていた言葉が全て吹っ飛んだ。前置きもなく一番伝えたい言葉が自然と溢れていた。

「僕もアイザックを愛してる。これからもずっと一緒だよ」

 兄さんに抱きしめられ、貪るように唇を奪われた。呼吸すら奪われる激しいキスに頭がクラクラする。

 ぼんやりとした頭で前世の自分に思いを馳せる。鏑木瑠夏、君の気持ちすごくわかるよ。
 血の繋がりを超えた唯一無二の絆。他人から見たらドロドロのグチャグチャでおぞましいものでも僕はこれが欲しかった。ずっとずっと心の底から求めていたんだ。


 ああ、やっと手に入れた


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