【本編完結】異世界まったり逃避行

ひなた

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最終章トリフェの街編

魔力供給

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「そういえば、この前した休息日になんでも言うことを聞くって約束はどうする?」
「忘れてた……」
 弟用にひらひらのアイドル衣装を所望する兄という危ない絵面を回避するため、そんな約束をしたのだった。
 休息日に予定が詰まっていたせいで、すっかり頭から抜け落ちていた。

「今日の予定は?」
「空いてるよ。あんまり疲れるやつはやめてね」
「そこは大丈夫だ」
 妙に楽しそうな兄さんに嫌な予感がしたが、とりあえず付き合うことにした。

 僕はリビングの椅子に座り、兄さんの手で優しく髪を撫でられていた。指先が髪の房に触れるたびに、心地よいくすぐったさが背筋を伝って身体を走る。
「どうだ?」
「おお、すごい。兄さん器用だよね」
 魔法で映し出した自分の姿を角度を変えて何回も見てしまう。いつも緩く一つに束ねるだけだから、なんだか不思議な気分だ。
 ハーフアップにしたらこんな感じになるのかと感心する。

「この髪型も可愛いな」
「それって可愛いのは髪型だけ?」
「まさか。すごく似合ってる」
 魔法で出した鏡越しに兄さんと目が合う。思わず鏡を引っ込めてしまった。兄さんの表情に確かな愛情が浮かんでいるのがわかって、心臓が跳ね上がる。

「よし、じっとしててくれ」
「はいはい」
 まさか兄さんのお願いが魔紙写真のやり方を教えてほしいだとは思わなかった。ミゲルが僕に教わっているのを見て羨ましく思ったらしい。
 髪型を弄らせたのは約束が延びたお詫びだ。けっして、魔紙写真のやり方でお願いを使い切ったことに気づいた兄さんの悲しそうな目に絆されたわけではない。

 兄さんが瞬きもせずにじっと僕を見ている。なんだかくすぐったくて口元を緩めてしまう。案の定、魔紙写真に写った僕の顔は緩みきっていた。
「うわ。さすがにこの顔はまずいな」
「そうか?ふたりきりの時はこんな感じの顔になってるぞ」
「嘘!」
「今の俺も自分じゃ直視できない顔なんだろうな」
 そう言いながら目を細めて笑う兄さんが、いつもふたりきりの時に見る表情だったから、僕は恥ずかしくなって顔を背けた。

 その後も兄さんは飽きもせず僕の髪型を変えるたびに魔紙写真を撮っていた。
 今は何回目かのヘアアレンジの最中だ。兄さんの指先がそっと耳に触れるたび、身体中に心地よい快感が広がる。
「ん……」
「どうした?痛かったか?」
「なんでもない」
 思わず声が出てしまい、兄さんが手を止めた。耳が気持ちよかったというのはさすがに照れくさくて、強引に話題を変える。

「兄さんはさ、兄弟でこういう関係になるのに葛藤はあった?」
「いきなりすごい質問だな……それはもちろんあった。でもまあ、吹っ切れたな。一生心に秘めようと思っていたから、想いを伝えた時点で葛藤とかそういうのは全部なくなったよ」
「そっか」
「ルカは俺と一緒になったことに後悔はないのか?」
「あるわけないよ。とっくに覚悟出来てる」
「すまない。変なことを聞いた」
「別に。兄さんこそ……」
「ん?何か言ったか?」
「なんでもない」
「またそれか」
 兄さんは笑って流してくれた。危なかった。思わず心の内を全てさらけ出すところだった。

 兄さんこそ、僕以外の人と家族になる道もあったはずなのに

 これを口に出したら今の関係が崩れてしまう気がして、怖くて言えなかった。その道を閉ざしたのは僕なのに、なにを今さらって話だ。後戻りできないほどこの人を好きになったのだから、この痛みも受け入れなければならない。
 そうやって自分を納得させて、僕の髪を弄る兄さんの動きに身を委ねた。

「兄さん僕がポニーテールになった途端、熱心に魔紙写真を撮るね。わかりやすい」
「違う。いや、だって、これは似合いすぎというか。うん、すごくいい。好きだ」
 いい意味で開き直ったよ。首元に集まる視線が痛い。そういえば温泉の時もよく見てたな。兄さんはここが好きなのかと、束ねていた髪を持ち上げてうなじを晒す。
「ここ好きなの?撮っていいよ」
「好きだけどそれはなんか違う。髪から手を離してくれ」
 兄さんがすごく残念そうな顔をしている。僕には理解できないけど、なにかこだわりがあるみたいなので放っておくことにした。

 その日の夜、魔紙写真を撮るのに魔力を使い過ぎて気だるげな兄さんと一緒にベッドに入った。
「こんなに魔力を使ったのは久しぶりだ。毎日やってたルカはすごいな」
「慣れだよ。だるくなったら寝るだけだから、むしろ楽かも」
「だるすぎて眠れそうにない」
 辛そうな兄さんがかわいそうなので、この前ウォーロックに教えてもらったあれを試すことにした。

「舌出して」
「なんで」
「いいから早く」
 兄さんが恐る恐るという感じで舌を出したので、覆い被さって舌を重ねた。
「んぐっ!」
 兄さんが驚いて声を上げたが構わず舌を絡める。僕の魔力を兄さんに流し込むイメージでキスを続ける。

 僕が今行っているのは接触による魔力供給だ。ウォーロックにやり方を教えてもらい、自分なりにアレンジしたのだがこれは失敗だったかもしれない。
 腰が砕けそうなくらい気持ちいい。たぶん兄さんも同じくらい気持ちよくなっているはずだ。魔力の相性が良すぎるのも考えものだ。あまりの快感に、怖くなって魔力を流すのを止めてしまった。

 兄さんが顔を横に振って唇を離したかと思ったら、身体が反転して逆に押し倒された。
「今のは?」
「粘膜接触による魔力供給」
「そのわりに途中から魔力が流れなくなったが?」
「それは……」
 気持ちよすぎたからと言えるわけがなく口籠もる。兄さんは微笑んだあと僕の首筋に顔を埋め舐め上げた。

「ぁあっ……ん、は」
 なんだこれ。いつもの穏やかに広がっていくのと違う、ビリビリと痺れるような気持ちよさだ。
「いつもより敏感になってるな」
 兄さんがまた首筋を舐めた。下から上へ丁寧に舌先でなぞられる。
「や……あっ、だめ」
 兄さんの舌先が触れた部分から痺れが広がり、そこだけ感覚が鋭くなってさらに快感を拾ってしまう。

「まだ身体がだるい気がするな。魔力供給をお願いできないか」
 兄さんは嘘つきだ。十分すぎるほど魔力が満たされているはずなのに、こうして甘えた言い訳をしてくるのはずるいと思う。
 でも今はこの言い訳に付き合ってもいいのかもしれない。兄さんに触れるたびに広がる苦みを、媚薬のように身体に回る快楽が上書きしてくれるから。

「もっと気持ちよくしてくれるならいいよ」
「言ったな?」
 舌を絡ませながら魔力を流すと、気持ち良すぎて視界が真っ白になる。兄さんと繋がっている時に魔力を流したら壊れてしまうかもしれない。
 さすがにそれを試すのは怖いなぁと思いながら、兄さんが与えてくれる快感に溺れた。
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