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「なーアンちゃん、もう本当に辛い俺の気持ちわかる?俺頑張ってるよね?そうだよね?」
美神ことアドニスとの衝撃的な出会いから、1ヶ月ほどが経った。
アドニスはサラサラな金髪の頭を僕の肩にグリグリと擦りつけながら甘えた声で寄っかかっている。
ぼ、僕を殺す気か!?
アドニスは神様ではなかったが、侯爵家の嫡男という、普通なら平民とすれ違うこともない立場の人間だった。お母様は元王女様とか…
貴族中の貴族な上、金髪にライトグリーンの瞳、19歳とは思えない濃縮した蜂蜜みたいな甘い顔、ちゃんと食べてる?というくらいに色白で華奢なスタイル。
誘拐されない?大丈夫?
しかも高級すぎて一度も買ったことのない雲の上の画材を取り扱ってるチェッカーベリー商会を営んでいる侯爵家…
色々と設定盛りすぎだと思うけど、アドニスを見たら納得するしかない。
神ではなく現実に存在して、触れることも言葉を交わすことも出来る。
それだけで幸せすぎて、アドニスに会う度に涙を流してしまい、毎度キモカワイイ奴だなと言われる。
一週間に一度でも会えるだけで嬉しかったが、ここ最近は2日に一度のペースで会っている。
それでも涙が枯れてしまわないのが人体の不思議である。
しかも心を許してくれているのか、必ず引っ付いてベンチに座り、猫の様に頭を擦りつけて日頃の愚痴を呟いては撫でて撫でてとおねだりされる。
壊れ物を扱うようにそっと撫でると、気持ちよさそうに細目になるアドニスを見て…僕は…僕は…
「なぁ、アンちゃん、そういえば俺、アンちゃんの描いた絵を見たことないんだけど、見せて?」
僕の中に湧き上がるむくむくとしたモノが、アドニスの言葉で、霧散した。
「僕の絵…です…か?」
「そうそう、売れない画家って言うけど、そういや見たことなかったなーって。というか描いてる?描いてるとこも見たことないけど。俺の実家、絵とかも扱ってるし、良いか悪いか、流行かそうでないかくらいはわかるぜ!」
僕の絵…まずい!絶対に見せられない!!
アドニスと出会ってから、自分の画力と記憶を総動員させてアドニスしか描いていない。
顔はどうしても表現しきれないから、ぼやかしたり構図的に隠したりで完全に描くことはないが、多分見る人が見ればアドニスだと分かってしまう。
そして1番見せられない理由は……
「あの、最近筆が乗らなくて、お見せ出来る絵がないんです。少しお待ちいただければ…でも本当に僕の絵はつまらないので…」
「面白いかつまらないかなんて、見る人間が決めることだろ?うだうだ言ってないで3日後持ってこい」
「は…い…」
とにかくアドニスじゃない別の絵を描かなければ…アドニスに失望されたくない。
「ちゃんと持ってきたら、ご褒美やるから」
アドニスからとんでもない言葉が飛び出した。
ご褒美…?ご褒美ということは、僕が喜ぶモノってこと?
「ご褒美とは、何ですか?!教えてください!!」
僕は目をガッと開いて恐れ多くもアドニスの肩を掴んで揺すった。
「声でけーな。まぁ楽しみにしてな。んで、1番の力作持って来い」
アドニスは悪魔の様な天使の様な、艷やかで純粋な笑顔で言った。
ヤバイヤバイ。3日後までに描きあげられるモチーフは何だ。アドニス以外?風景か?でも3日では無理だ。以前描いていたものは駄目だ!恥ずかしくて見せられない。
あぁ!!!どうすれば!!
「んじゃ、今日はもう帰るし、3日後また来るから」
アドニスはじゃ!と言って、いつもより早く帰って行った。
アドニスの笑顔が憎い!いや、美しい!可愛い!天使!いやいや、悪魔!悪魔だ!
「はぁ…どうしよう…」
僕は形だけ持ってきていた画材道具を拾い上げて抱えると、どうすれば良いのかグルグル考えながら帰宅した。
家に入ると、アトリエとも言えない寝室件作業場の扉を開けた。
「こんなの描いてる僕…本当にキモいよね…」
床には足の踏み場のない程描き込み済みのキャンバスが並べられ、壁には壁紙が見えないほどびっしりと絵が掛けてある。
全てアドニスをモデルとした天使画だ。
僕はアドニスと出会ってから、アドニスしか描けなくなった。
正確に言うと、アドニスを模した宗教画。
アドニスを表現出来るほど、僕には画力がない。才能もない。ただ愛しさが溢れて止められない。
最近数少ない画商の知人が、溢れかえった絵を見るとすぐさま売ってやると言って2、3枚奪って行き、即完売したからもっと寄越せと言ってきた。
本当はアドニスをモデルにしているから、売ったりしたくないが、描きたいという衝動を満たすためには画材が必要でお金がかかる。より良い画材が手に入れば美しいアドニスをもっともっと美しく描ける。
あの白い肌を表現することは本当に難しい。
だが未だに顔だけは描いていない。
目を閉じれば容易にアドニスの顔が思い浮かぶのに…
描いてしまったら駄目なのだ。
顔を描かず未完成なままの絵なのに、自分で描いた絵なのに…
僕はあんなことを毎日毎日…毎日毎日…知られたくない!アドニスだけには!絶対に!
勝手にアドニスをモデルに絵を描いていることも知られたくない!
軽蔑の眼差しを向けられたら死んでしまう!
描こう!3日以内に何としてでもアドニス以外を描かなければいけない!
僕は雄叫びを上げ、アドニスをモデルにした絵に囲まれながら拳を突き上げた。
美神ことアドニスとの衝撃的な出会いから、1ヶ月ほどが経った。
アドニスはサラサラな金髪の頭を僕の肩にグリグリと擦りつけながら甘えた声で寄っかかっている。
ぼ、僕を殺す気か!?
アドニスは神様ではなかったが、侯爵家の嫡男という、普通なら平民とすれ違うこともない立場の人間だった。お母様は元王女様とか…
貴族中の貴族な上、金髪にライトグリーンの瞳、19歳とは思えない濃縮した蜂蜜みたいな甘い顔、ちゃんと食べてる?というくらいに色白で華奢なスタイル。
誘拐されない?大丈夫?
しかも高級すぎて一度も買ったことのない雲の上の画材を取り扱ってるチェッカーベリー商会を営んでいる侯爵家…
色々と設定盛りすぎだと思うけど、アドニスを見たら納得するしかない。
神ではなく現実に存在して、触れることも言葉を交わすことも出来る。
それだけで幸せすぎて、アドニスに会う度に涙を流してしまい、毎度キモカワイイ奴だなと言われる。
一週間に一度でも会えるだけで嬉しかったが、ここ最近は2日に一度のペースで会っている。
それでも涙が枯れてしまわないのが人体の不思議である。
しかも心を許してくれているのか、必ず引っ付いてベンチに座り、猫の様に頭を擦りつけて日頃の愚痴を呟いては撫でて撫でてとおねだりされる。
壊れ物を扱うようにそっと撫でると、気持ちよさそうに細目になるアドニスを見て…僕は…僕は…
「なぁ、アンちゃん、そういえば俺、アンちゃんの描いた絵を見たことないんだけど、見せて?」
僕の中に湧き上がるむくむくとしたモノが、アドニスの言葉で、霧散した。
「僕の絵…です…か?」
「そうそう、売れない画家って言うけど、そういや見たことなかったなーって。というか描いてる?描いてるとこも見たことないけど。俺の実家、絵とかも扱ってるし、良いか悪いか、流行かそうでないかくらいはわかるぜ!」
僕の絵…まずい!絶対に見せられない!!
アドニスと出会ってから、自分の画力と記憶を総動員させてアドニスしか描いていない。
顔はどうしても表現しきれないから、ぼやかしたり構図的に隠したりで完全に描くことはないが、多分見る人が見ればアドニスだと分かってしまう。
そして1番見せられない理由は……
「あの、最近筆が乗らなくて、お見せ出来る絵がないんです。少しお待ちいただければ…でも本当に僕の絵はつまらないので…」
「面白いかつまらないかなんて、見る人間が決めることだろ?うだうだ言ってないで3日後持ってこい」
「は…い…」
とにかくアドニスじゃない別の絵を描かなければ…アドニスに失望されたくない。
「ちゃんと持ってきたら、ご褒美やるから」
アドニスからとんでもない言葉が飛び出した。
ご褒美…?ご褒美ということは、僕が喜ぶモノってこと?
「ご褒美とは、何ですか?!教えてください!!」
僕は目をガッと開いて恐れ多くもアドニスの肩を掴んで揺すった。
「声でけーな。まぁ楽しみにしてな。んで、1番の力作持って来い」
アドニスは悪魔の様な天使の様な、艷やかで純粋な笑顔で言った。
ヤバイヤバイ。3日後までに描きあげられるモチーフは何だ。アドニス以外?風景か?でも3日では無理だ。以前描いていたものは駄目だ!恥ずかしくて見せられない。
あぁ!!!どうすれば!!
「んじゃ、今日はもう帰るし、3日後また来るから」
アドニスはじゃ!と言って、いつもより早く帰って行った。
アドニスの笑顔が憎い!いや、美しい!可愛い!天使!いやいや、悪魔!悪魔だ!
「はぁ…どうしよう…」
僕は形だけ持ってきていた画材道具を拾い上げて抱えると、どうすれば良いのかグルグル考えながら帰宅した。
家に入ると、アトリエとも言えない寝室件作業場の扉を開けた。
「こんなの描いてる僕…本当にキモいよね…」
床には足の踏み場のない程描き込み済みのキャンバスが並べられ、壁には壁紙が見えないほどびっしりと絵が掛けてある。
全てアドニスをモデルとした天使画だ。
僕はアドニスと出会ってから、アドニスしか描けなくなった。
正確に言うと、アドニスを模した宗教画。
アドニスを表現出来るほど、僕には画力がない。才能もない。ただ愛しさが溢れて止められない。
最近数少ない画商の知人が、溢れかえった絵を見るとすぐさま売ってやると言って2、3枚奪って行き、即完売したからもっと寄越せと言ってきた。
本当はアドニスをモデルにしているから、売ったりしたくないが、描きたいという衝動を満たすためには画材が必要でお金がかかる。より良い画材が手に入れば美しいアドニスをもっともっと美しく描ける。
あの白い肌を表現することは本当に難しい。
だが未だに顔だけは描いていない。
目を閉じれば容易にアドニスの顔が思い浮かぶのに…
描いてしまったら駄目なのだ。
顔を描かず未完成なままの絵なのに、自分で描いた絵なのに…
僕はあんなことを毎日毎日…毎日毎日…知られたくない!アドニスだけには!絶対に!
勝手にアドニスをモデルに絵を描いていることも知られたくない!
軽蔑の眼差しを向けられたら死んでしまう!
描こう!3日以内に何としてでもアドニス以外を描かなければいけない!
僕は雄叫びを上げ、アドニスをモデルにした絵に囲まれながら拳を突き上げた。
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