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「お待たせして申し訳ないね」
重厚な扉を開けて入ってきた金髪碧眼の美少年?が熱のない微笑みを僕に向けて言う。
僕は何かわからない恐怖にぶるりと全身を震わせた。
絶対に逆らってはいけないオーラをビシバシ感じている。
僕の前に出されている紅茶が一瞬にして冷めてしまったのが残念でならない。
しかし何故平民の僕が豪華な部屋でお茶をいただくなんてことになったのだろうか…
僕はアドニスと別れて帰路につき、自分の家のドアの前で嫌な予感がした。
開けてはいけないような、でも開けなきゃ自分の家に帰れない、でも開けては…なんて考えていると、ドアがガチャリと開いた。
「!!!!」
空き巣?強盗?僕の家のドアが勝手に開いたよ!?マジで?嘘でしょ?
「アンスリウム様ですね、お待ちしておりました」
ドアを開いて出てきたのは、見るからに上等な服を着た初老の男性だった。
金持ちを装っての強盗か?いや、でも待っていたと言われたし、いやいや、何で勝手に部屋に入っているんだ?
「どちら様ですか?ここは僕の家だと思うのですが…」
「左様でございます。ご帰宅時間がわかりませんでしたので、家の中で待たせていただきました」
「で、あの…」
「申し遅れました。私、コスモオーラ侯爵家の執事長をしております、バロータと申します。お見知りおきください」
バロータさんという初老の男性が作られた笑みを向ける。
「こ、侯爵家の執事様が何故僕の部屋にいらっしゃるのでしょうか?何か御用でしょうか?」
ん?侯爵家?まさかアドニスの家?
「アンスリウム様はご自分が何をなさったのか、わかっていらっしゃらない…ということでしょうか」
バロータさんの笑みの圧が怖い!
「い、今!今わかりました!アドニス様の絵のことでしょうか?!」
「左様でございます。では、ご案内いたします」
「ご案内…?」
執事さんが僕の後ろに視線を向けたので、振り返ると馬車がいた!
えっ?音!音しなかったよ?
「当主が邸でお待ちです。お乗りください」
執事さんがニッコリと笑うが、圧力!ひっどい圧力!
僕は断ることも出来ず素直に馬車に乗り込むと、売られた家畜の様に侯爵家へと輸送された。
そして今、冒頭へと戻るのであった。
「君の絵、見させてもらったよ。よく描けているね。この顎の辺りとか、アドニスそのままで驚いたよ」
美少年侯爵様が僕の絵を指差し感想を述べられる。
そうでしょうそうでしょう。顔を描かない分、肌質や輪郭などに心血注いで描きましたからね!
「君はアドニスとはどのような関係かな?」
「どのような…とは…?」
アドニスとの関係なんて、僕が一方的に声に惚れ込んで、外見にも中身にも惚れて…信者?
「私は声を出さないよう我慢している息子が可愛くて可愛くて仕方がないんだ」
あ、アドニス!侯爵様に声が出せるのバレてるよ!!
「疑り深くて心を許せる者など居なかった可愛い息子…そんな息子がモデルの絵があるなんて、正直最初は信じられなかったんだよ。いつも頑なに拒んでいたからね。家族集合の姿絵すらも」
「そ、そうなのですね……」
許可も取らずに勝手に描いていたが、事後承諾になってしまったけどアドニスから描いても良いというお許しは今日もらった。大丈夫だ。何も問題はない。だがお父さんの目は怖い!
「君が私の息子に近付く理由は何だい?まさか懸想しているなんて言わないよね?」
僕の身体はビクッと大きく跳ねた。申し訳ないが、そのまさかです、お父さん。アドニスを一目見て好きにならない人間が居ると思いますか?全人類が好きになります。貴方の息子さんは美を司る神です。美神です。外見だけではなく中身も可愛らしくて、小悪魔で、天使で、透き通る歌声に恋しない訳がない。
「はぁ~~」
侯爵様が見た目に似合わない大きなため息を吐いた。
「別に懸想するなとは言わない。いままでアドニスに下心を持たずに近付いた者など居ないからね。まぁアドニスが絵を描かせるくらいに気を許しているのだから、君が悪意ある者だとは思わない。ただね、私は息子が心配なんだよ。世間知らずで世の中の汚い所を知らない、本当に綺麗な子なんだ。だから近付く者には、アドニスに相応しく覚悟と自覚と素養を持った者しか認めない。生半可な者は私が容赦なく消す」
けっ、けっ、消す???
何の覚悟と何の自覚ですか?僕が平民だということは知ってらっしゃいますよね?侯爵様は僕を消しますか?僕消されちゃいますか?
「アンスリウム君にはアドニスの側近になる為の選抜試験を受けてもらう」
「選抜試験…ですか?」
「本当は専属画家として雇い入れても良いと思っていたが、アドニスが5歳の頃から毎年開催されている側近選抜試験がそろそろ行われるし、他の参加者が血反吐を吐きながら頑張っても選ばれないのに、ぽっと出の君を特別扱いしたら、普通に参加者達に暗殺される可能性がある。そうなるとアドニスが心を痛めてしまうからね。まぁ大した覚悟もない者を息子に近付けるわけにはいかないだろう?」
「おっしゃってる意味がわからないのですが…」
そもそも側近選抜試験とは?いや、でも待てよ、専属画家となれば絵を描く間しかアドニスと一緒にいることはできないが、側近になればアドニスのお世話が出来る上にずっと一緒に居られるのでは…?
「侯爵様!質問よろしいでしょうか?」
「どうぞ?」
「側近選抜試験とは一体どのような試験でしょうか?平民の僕でも参加出来るような内容ですか?お金はかかりますか?今まで合格された方はいらっしゃるのでしょうか?」
「お金はかからないよ。残念ながら今まで側近に選ばれた者は居ない。試験内容は特に決まってないが、アドニスへのプレゼン大会みたいなものかな。いかにアドニスに仕え貢献できるか己の有用性をアピールするんだが、アドニスは近くに誰かを置くことを良しとしなくてね。14年間決まらないままだよ。身の回りの事は全部自分でしてしまう優秀な息子で困ってしまうよ」
ほんと困ったねと眉を下げる侯爵様は本当に成人している人の親なのかと疑う程に儚く美しい少年にしか見えない。遺伝子おかしくないか?
おそらく侯爵様とアドニス信者は想像よりもとても多いだろう。その猛者達を蹴散らして、僕はアドニスの側近の地位を得られるのか…まず有用性とは?僕がアドニスにとって有益になることってある?
「あぁそうだ、アドニスと示し合わせることは許さないよ。公平に選別しないといけないからね。ちなみに選抜試験の試験官はアドニスだけではないから。アドニスはもちろんだが、私と妻、アドニスの弟妹も参加するよ。どうだい?試験に参加するかい?」
「ええ、もちろん参加させていただきます!!」
僕は何も考えずに返事をしてしまった。全く戦えそうな武器を持たずに…いや、でも挑戦しないという選択肢はない。もし今年駄目でも、来年もある!はず!
「そうそう、試験とは別のことなんだけど、息子をモデルにした絵は今後売らないようにして欲しい」
「えっ!?」
「描いても良いが、売らないことを約束してもらわないと、君の大切な腕か、そもそもの根源を奪うことになるけどどうかな?」
「ぼ、僕も別に売るつもりはなかったのですが…しかし何故ですか?」
「闇取引されるんだよ」
えっ?
「私の息子は天使だろ?その天使を身近に置けると思うと、みんな狂ったように奪い合うみたいでね。うちの関係者が見つけた時には何枚か流れてしまった後で、ちょっと苦労したんだよ?」
「でも、絵ですよ?僕は売れない無名の画家ですし、モデルがアドニス様でも価値が出るとは思えないのですが…」
「君の絵の価値というよりはアドニスが描かれているという事実への価値だろうね。あと気持ち悪い使われ方すると許せそうにないし」
侯爵様の瞳からは完全に光が消えている。
本当にすみません。一番気持ち悪いのは僕です!でも使わない約束は出来ません!すみませんすみません!
「も、申し訳ございません…」
「君が描いた絵は我が侯爵家が買い取らせていただくから、描いてもらう分には問題ないよ。でもどうしても他所に売るというならば…ね?」
侯爵様が今日一番の笑顔を見せていらっしゃるが、他に売ろうものなら命はないぞという圧力を感じる。絵を売った友人にもしっかり言い聞かせないと…いや、もう既にどうにかなっているかもしれない。
「あの……あ、いえ、何でもありません」
今何かあったと言われてもどうすることも出来ないし、出来る力もないので質問するのをやめた。
下手なこと言って一番危ないのは友人よりも僕自身だし。
「…そうかい?ではもうこんな時間だし、この契約書にサインだけしてもらったら馬車で送るよ」
侯爵様は僕の目の前に紙を差し出した。
「あの、これは…?」
「侯爵家以外と絵を売買しないという契約書だよ。口約束で済む問題でもないし、この書類にサインしなければ…ね?分かるだろ?」
僕は内容も読まずにサインした。サインしてもしなくても、おそらく何か起こった場合、僕の命はないだろう。そもそもこんな契約書がなくても、侯爵様なら僕をどうにかするなんて呼吸するより簡単だと思う。
「君が素直で理解が早い人物で安心したよ。今後とも宜しく頼むよ」
契約書を侯爵様に手渡し、僕は引き攣った微笑みを向けた。
侯爵家の豪華な馬車で平民街をドナドナされつつ自宅に到着すると、バロータさんから選抜試験の詳細が書かれた紙を受け取りお礼を言って家に入った。
「………」
疲れたから何もせず寝ようと思い自室に入ると、今まで描いたアドニスの絵が1枚も残らず消えていた。
壁に貼り付けていたラフ画でさえもなくなっている…残っているのは風景画だけ。
おそらく侯爵様の指示だろう。いや、もう仕方ない。懸想していることも知られたのだし、アドニスの絵であんなことをしていたことなどバレているだろう。
僕は汚い毛布を引っ張り出して包まると、そのまま床に転がって目を瞑った。
「アドニス様……」
僕は悪夢で目が覚めるまで、丸一日眠り続けた。
重厚な扉を開けて入ってきた金髪碧眼の美少年?が熱のない微笑みを僕に向けて言う。
僕は何かわからない恐怖にぶるりと全身を震わせた。
絶対に逆らってはいけないオーラをビシバシ感じている。
僕の前に出されている紅茶が一瞬にして冷めてしまったのが残念でならない。
しかし何故平民の僕が豪華な部屋でお茶をいただくなんてことになったのだろうか…
僕はアドニスと別れて帰路につき、自分の家のドアの前で嫌な予感がした。
開けてはいけないような、でも開けなきゃ自分の家に帰れない、でも開けては…なんて考えていると、ドアがガチャリと開いた。
「!!!!」
空き巣?強盗?僕の家のドアが勝手に開いたよ!?マジで?嘘でしょ?
「アンスリウム様ですね、お待ちしておりました」
ドアを開いて出てきたのは、見るからに上等な服を着た初老の男性だった。
金持ちを装っての強盗か?いや、でも待っていたと言われたし、いやいや、何で勝手に部屋に入っているんだ?
「どちら様ですか?ここは僕の家だと思うのですが…」
「左様でございます。ご帰宅時間がわかりませんでしたので、家の中で待たせていただきました」
「で、あの…」
「申し遅れました。私、コスモオーラ侯爵家の執事長をしております、バロータと申します。お見知りおきください」
バロータさんという初老の男性が作られた笑みを向ける。
「こ、侯爵家の執事様が何故僕の部屋にいらっしゃるのでしょうか?何か御用でしょうか?」
ん?侯爵家?まさかアドニスの家?
「アンスリウム様はご自分が何をなさったのか、わかっていらっしゃらない…ということでしょうか」
バロータさんの笑みの圧が怖い!
「い、今!今わかりました!アドニス様の絵のことでしょうか?!」
「左様でございます。では、ご案内いたします」
「ご案内…?」
執事さんが僕の後ろに視線を向けたので、振り返ると馬車がいた!
えっ?音!音しなかったよ?
「当主が邸でお待ちです。お乗りください」
執事さんがニッコリと笑うが、圧力!ひっどい圧力!
僕は断ることも出来ず素直に馬車に乗り込むと、売られた家畜の様に侯爵家へと輸送された。
そして今、冒頭へと戻るのであった。
「君の絵、見させてもらったよ。よく描けているね。この顎の辺りとか、アドニスそのままで驚いたよ」
美少年侯爵様が僕の絵を指差し感想を述べられる。
そうでしょうそうでしょう。顔を描かない分、肌質や輪郭などに心血注いで描きましたからね!
「君はアドニスとはどのような関係かな?」
「どのような…とは…?」
アドニスとの関係なんて、僕が一方的に声に惚れ込んで、外見にも中身にも惚れて…信者?
「私は声を出さないよう我慢している息子が可愛くて可愛くて仕方がないんだ」
あ、アドニス!侯爵様に声が出せるのバレてるよ!!
「疑り深くて心を許せる者など居なかった可愛い息子…そんな息子がモデルの絵があるなんて、正直最初は信じられなかったんだよ。いつも頑なに拒んでいたからね。家族集合の姿絵すらも」
「そ、そうなのですね……」
許可も取らずに勝手に描いていたが、事後承諾になってしまったけどアドニスから描いても良いというお許しは今日もらった。大丈夫だ。何も問題はない。だがお父さんの目は怖い!
「君が私の息子に近付く理由は何だい?まさか懸想しているなんて言わないよね?」
僕の身体はビクッと大きく跳ねた。申し訳ないが、そのまさかです、お父さん。アドニスを一目見て好きにならない人間が居ると思いますか?全人類が好きになります。貴方の息子さんは美を司る神です。美神です。外見だけではなく中身も可愛らしくて、小悪魔で、天使で、透き通る歌声に恋しない訳がない。
「はぁ~~」
侯爵様が見た目に似合わない大きなため息を吐いた。
「別に懸想するなとは言わない。いままでアドニスに下心を持たずに近付いた者など居ないからね。まぁアドニスが絵を描かせるくらいに気を許しているのだから、君が悪意ある者だとは思わない。ただね、私は息子が心配なんだよ。世間知らずで世の中の汚い所を知らない、本当に綺麗な子なんだ。だから近付く者には、アドニスに相応しく覚悟と自覚と素養を持った者しか認めない。生半可な者は私が容赦なく消す」
けっ、けっ、消す???
何の覚悟と何の自覚ですか?僕が平民だということは知ってらっしゃいますよね?侯爵様は僕を消しますか?僕消されちゃいますか?
「アンスリウム君にはアドニスの側近になる為の選抜試験を受けてもらう」
「選抜試験…ですか?」
「本当は専属画家として雇い入れても良いと思っていたが、アドニスが5歳の頃から毎年開催されている側近選抜試験がそろそろ行われるし、他の参加者が血反吐を吐きながら頑張っても選ばれないのに、ぽっと出の君を特別扱いしたら、普通に参加者達に暗殺される可能性がある。そうなるとアドニスが心を痛めてしまうからね。まぁ大した覚悟もない者を息子に近付けるわけにはいかないだろう?」
「おっしゃってる意味がわからないのですが…」
そもそも側近選抜試験とは?いや、でも待てよ、専属画家となれば絵を描く間しかアドニスと一緒にいることはできないが、側近になればアドニスのお世話が出来る上にずっと一緒に居られるのでは…?
「侯爵様!質問よろしいでしょうか?」
「どうぞ?」
「側近選抜試験とは一体どのような試験でしょうか?平民の僕でも参加出来るような内容ですか?お金はかかりますか?今まで合格された方はいらっしゃるのでしょうか?」
「お金はかからないよ。残念ながら今まで側近に選ばれた者は居ない。試験内容は特に決まってないが、アドニスへのプレゼン大会みたいなものかな。いかにアドニスに仕え貢献できるか己の有用性をアピールするんだが、アドニスは近くに誰かを置くことを良しとしなくてね。14年間決まらないままだよ。身の回りの事は全部自分でしてしまう優秀な息子で困ってしまうよ」
ほんと困ったねと眉を下げる侯爵様は本当に成人している人の親なのかと疑う程に儚く美しい少年にしか見えない。遺伝子おかしくないか?
おそらく侯爵様とアドニス信者は想像よりもとても多いだろう。その猛者達を蹴散らして、僕はアドニスの側近の地位を得られるのか…まず有用性とは?僕がアドニスにとって有益になることってある?
「あぁそうだ、アドニスと示し合わせることは許さないよ。公平に選別しないといけないからね。ちなみに選抜試験の試験官はアドニスだけではないから。アドニスはもちろんだが、私と妻、アドニスの弟妹も参加するよ。どうだい?試験に参加するかい?」
「ええ、もちろん参加させていただきます!!」
僕は何も考えずに返事をしてしまった。全く戦えそうな武器を持たずに…いや、でも挑戦しないという選択肢はない。もし今年駄目でも、来年もある!はず!
「そうそう、試験とは別のことなんだけど、息子をモデルにした絵は今後売らないようにして欲しい」
「えっ!?」
「描いても良いが、売らないことを約束してもらわないと、君の大切な腕か、そもそもの根源を奪うことになるけどどうかな?」
「ぼ、僕も別に売るつもりはなかったのですが…しかし何故ですか?」
「闇取引されるんだよ」
えっ?
「私の息子は天使だろ?その天使を身近に置けると思うと、みんな狂ったように奪い合うみたいでね。うちの関係者が見つけた時には何枚か流れてしまった後で、ちょっと苦労したんだよ?」
「でも、絵ですよ?僕は売れない無名の画家ですし、モデルがアドニス様でも価値が出るとは思えないのですが…」
「君の絵の価値というよりはアドニスが描かれているという事実への価値だろうね。あと気持ち悪い使われ方すると許せそうにないし」
侯爵様の瞳からは完全に光が消えている。
本当にすみません。一番気持ち悪いのは僕です!でも使わない約束は出来ません!すみませんすみません!
「も、申し訳ございません…」
「君が描いた絵は我が侯爵家が買い取らせていただくから、描いてもらう分には問題ないよ。でもどうしても他所に売るというならば…ね?」
侯爵様が今日一番の笑顔を見せていらっしゃるが、他に売ろうものなら命はないぞという圧力を感じる。絵を売った友人にもしっかり言い聞かせないと…いや、もう既にどうにかなっているかもしれない。
「あの……あ、いえ、何でもありません」
今何かあったと言われてもどうすることも出来ないし、出来る力もないので質問するのをやめた。
下手なこと言って一番危ないのは友人よりも僕自身だし。
「…そうかい?ではもうこんな時間だし、この契約書にサインだけしてもらったら馬車で送るよ」
侯爵様は僕の目の前に紙を差し出した。
「あの、これは…?」
「侯爵家以外と絵を売買しないという契約書だよ。口約束で済む問題でもないし、この書類にサインしなければ…ね?分かるだろ?」
僕は内容も読まずにサインした。サインしてもしなくても、おそらく何か起こった場合、僕の命はないだろう。そもそもこんな契約書がなくても、侯爵様なら僕をどうにかするなんて呼吸するより簡単だと思う。
「君が素直で理解が早い人物で安心したよ。今後とも宜しく頼むよ」
契約書を侯爵様に手渡し、僕は引き攣った微笑みを向けた。
侯爵家の豪華な馬車で平民街をドナドナされつつ自宅に到着すると、バロータさんから選抜試験の詳細が書かれた紙を受け取りお礼を言って家に入った。
「………」
疲れたから何もせず寝ようと思い自室に入ると、今まで描いたアドニスの絵が1枚も残らず消えていた。
壁に貼り付けていたラフ画でさえもなくなっている…残っているのは風景画だけ。
おそらく侯爵様の指示だろう。いや、もう仕方ない。懸想していることも知られたのだし、アドニスの絵であんなことをしていたことなどバレているだろう。
僕は汚い毛布を引っ張り出して包まると、そのまま床に転がって目を瞑った。
「アドニス様……」
僕は悪夢で目が覚めるまで、丸一日眠り続けた。
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