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♯4
確証。そして真実へ
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「イズナ、少し話がある」
先の騒動から二時間ほどが経った頃。海斗は、唐突にそう切り出した。
イズナは医療魔機の治療を受け、万全とはいかなまでも、もう一度、戦場に出られる程度には回復した。
「えと、それって、私が聞いたら問題ありますか?」
少し遠慮がちに声をかけてきたのは、イズナを戦場から連れ戻してくれた黒髪の軍人だ。
彼女は名を『ユーリ・ヴォルフガング』というそうだ。
「いや、問題はない。というより、むしろ聞いてもらったほうが良いかもしれん」
イズナが医療魔機で治療を受けることができたのは、ひとえに彼女の存在のおかげだ。
かなり刺激的な格好になっていた彼女だったが、今は予備の制服に着替えている。
本当ならすぐにでも戦場に戻らねばならないはずの彼女だったが、イズナに救ってもらった恩を返していない、と言って、海斗と共に、イズナを医療魔機が設置されたテントまでついて来たのである。
その時、まだイズナは身体をうまく動かすことができなかったので、海斗が背負って連れて行った。
イズナは終始、恥ずかしそうに顔を紅くしていたが、動かない身体ではどうすることもできす、ただされるがままという状態だった。
そして、医療魔機のあるテントでも、一悶着起きかけたのである。
海斗たちは治療の順番を待っていたというのに、いざ自分たちの番となった途端、医療魔機の担当者が、後ろに並んでいた兵士が優先である、とか抜かし始めたのだ。
そこに割って入り、人種、職業で治療を優先するのではなく、重症者から治療するのが当然ではないのか、とユーリが一喝。
実は彼女、軍の内部でもそこそこに高い地位にある人部らしかった。
しかし、若年で成り上がった彼女を快く思わない者たちに嵌められて、今日の戦場に出撃させられる羽目になったという。
現在、軍内部の組織は大きく分けて二つに分断されているらしく、ユーリは自身の部下の手によって、相手の派閥に売られたのだ。
彼女の父親は、この街では有力な議員なのだそうだ。要するに、彼女を取り込んで自分たちの発言権を強化したい輩がユーリを欲したのだ。
だが、よく考えればおかしな話である。もし仮にユーリを通して彼女の父親とコネクションを得たいと考えているのであれば、むしろ戦場へ出す理屈が通らない。
もし仮に娘が戦場で死んでしまっては、コネどころの話ではないように思える。
しかし、実際のところ、議員の父は娘が軍に所属していることをよく思っていないらしい。ユーリ本人も、父親のことを毛嫌いしていた。
議員の父は、本来、政略結婚の駒として娘を育ててきたつもりだった。
だが、当てが外れてしまった。ユーリは、父が用意した縁談を、片っ端から拒否。無理やり受けさせた見合いの席では、相手の男性に対してかなりキツイ物言いをしたとか。
おかげで父親は面子を潰される結果となったわけである。
そうなると、娘のことはもう邪魔でしかなくなってくる。しかし幸いなことに、娘は軍に所属している。これを利用しない手はないと、軍に手回しをおこなったが、ユーリは軍の幹部にまでのし上がってしまっていたため、簡単ではなかった。しかも、彼女が所属している派閥は、かなり清廉な組織であり、裏から手を回すことが不可能に思えた。しかし、ここにきて暗い陰が組織に侵入した。
嫉妬という感情は、時にどれだけ高潔な者も狂わせることがある。
それが今回の裏切りという結果に結び付き、所属する組織が変わった彼女は、議員である父とコネを持ちたい上 層部の思惑に翻弄された。結果として、彼女は自分の地位を活かしきることができず、さながら一兵卒のごとく扱われ、現在に至る。
しかし、ユーリは部下が裏から手を回して自分を売った証拠を掴んでおり、この戦場を無事に生き抜くことができたら、今回の件に関わるすべての者を断罪する気でいた。
無論、その対象には自分の父親も入っている。
ユーリは、たとえ肉親であろうと、容赦する気はない、と海斗たちに語って聞かせた。
「……ユーリにも協力してももらうことがあるかもしれん」
本来であれば、彼女はすぐにでも戦場に戻るべきなのだが、
「イズナさんに、きちんと恩を返しきれていません!」
と言って、いまだに海斗達と行動を共にしている。
「分かりました。それで、どのような内容なのですか?」
「ああ。その前にイズナ、前に聞いた話だが、最近クリーチャーが、街の周辺に出現する現象が、ここ最近増えていた件。あれは間違いないのか?」
「あたし自身が直接それを目撃したわけじゃないけど、複数のヒトが、クリーチャーの姿を世界線のなかから見たって情報は確かよ」
「その話なら私のところにも来ていました。聞くところによると、近くのデッドフォレストから顔を出しているのを見た、というのが大半で、一部からは、外壁付近に接近しかけるクリーチャーを見た、なんてものもありましたね。
それについては、政府が生息分布に変動などがないか、調査をギルドに委託したとか」
「その通りよ。その調査には、あたしも参加してたし……まぁ、めぼしい成果は上がらなったんだけどね……」
「……そうみたいね。我々の方でも、一部の者を調査隊に送ったけど、これといって異常は見つからなかったわ……ただ……」
「ん? どうした、ユーリ?」
わずかに目を伏せ、考えるように口元に手を当てるユーリ。
「ええ、少しだけ、気になる報告が上がっていたの」
「なんでもいい。とにかく今は、俺の話の前に情報を共有しておくべきだ」
「私としては、あなたの話が気になるところだけど、まぁいいわ。
上がってきた情報というのは、少しクリーチャーの警戒心が強くなっている件なの」
「「警戒心?」」
俺とイズナは、同時に疑問の声を上げた。
「そう。政府経由で、ギルドからもらった報告書にも、目を通したんだけど、いくつかの報告書にも、クリーチャーの警戒心が、普段にもまして強まっている、という内容が数件ほどあったわ。
最初は気にしていなかったのだけど、よく考えたら、これは妙だわ。
各クリーチャーの生息域に変化はない。それは、別の種類が自分の縄張りに入ってきたわけでないということ。もちろん、同族であっても縄張りを荒らすものは排除するクリーチャーがいるのも事実。ヴァイスリザードなんかは典型的ね。あれは一匹狼だから。
でも、それ以外のクリーチャーは同族における縄張り争いは、それほど頻繁じゃない。まぁ、群ごとにきちんと縄張りが分かれていることもあるけどね。
でも、今回はどの種類のクリーチャーも、他のクリーチャーを襲った形跡はない。
なのに、警戒心だけが上がっている。
――となると」
「クリーチャー以外の『なにか』に、警戒している」
「そいうことになるわね」
「ふむ、そうか………今の話が事実なら、あともう一押しか……」
「カイト、どうしたの?」
急に考え込むカイトの顔を覗き込むイズナ。
「……イズナ、もしくは、ユーリでもいい。クリーチャーの生態について、二つほど訊きたいことがある」
「いいわよ、あたしに答えられる範囲なら」
「ええ、勿論、私も協力します」
「うむ。まず一つ目だが、今この街を襲撃しているクリーチャーの『繁殖期』は、いつごろだ?」
「今、となると、『ヴァイスリザード』に『チープレックス』、あとは……『サイクロプス』の三種類ね」
ユーリは『サイクロプス』の名を出す時、わずかに身体が震えた。
やはり、犯されそうになったことがトラウマになりかけているのだろう。
「ユーリさん、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。あなたが助けてくれたおかげで、私はまだ純潔だしね、はは……」
「……辛い思いした直後で悪いが、とにかく生態を教えてくれ。それで、奴らの繁殖期は、いつなんだ?」
「カイト。あたしが説明するわ。今いる三種類なら、みんな今の時期が繁殖の最盛期よ」
「三種類、全部がか?」
「そうよ、みんな一斉に……あ、もしかして!」
イズナは何かに気付いた様に声を上げた。
「気付いたか。奴らがここ最近になって警戒心が強くなった理由は、おそらく『それ』が原因だろう」
なるほど。これで奴らが妙にピリピリしていたことにたいして説明がついた。
「それと、もう一つ。クリーチャーというのは、その、なにか、特別なものでお互いの存在を引き合ったりするものなのか?」
そう、これが一番肝心なのだ。
「引かれ合う、ですか?」
ユーリは頭に疑問符を浮かべているようだった。そこで、海斗は少し説明を追加した。
「ああ、例えばだ、どこかに瀕死の個体がいたとして、そいつが仲間を遠くから呼ぶ、などといったことがあるのかどうか。これが正しいかどうかよっては、俺の考えが正しいことの証明になる」
「……そうですね……ないこともありせんが、それはおそらく、成体のクリーチャーと幼体のクリーチャーに限定されると思います。過去の実験記録から、クリーチャーは、親子の存在を、かなり離れた位置からでも察知することができる、という研究結果が出ています」
「……なるほど、な」
これが事実だとすれば、今回のクリーチャー襲撃は……
海斗は、腸が煮えくり返るような怒りを覚えた。
「くそがっ!」
そう、思わず叫んでしまうほどに。
「「っ!?」」
イズナもユーリも、海斗が突然、大声を上げたことに驚いていた。
ガシガシと乱暴に頭を掻く海斗。
今のユーリの説明で、パズルのピースは全て組みあがった。かつ、海斗の推論が、ほぼ確実に正しいことの証明にもなってしまった。
「すまない。大声を出して……しかし、これではあまりにも……」
死んでいった者たちが、浮ばれないではないか。
「カイト、何かあるなら、言って」
「ああ、そうだな。というよりも、その話をするために、ここにいてもらってるんだ」
「「…………」」
イズナとユーリは、黙して海斗の言葉を待った。
「おそらく、今回のクリーチャー襲撃は……『人為的』引き起こされた可能性がある」
「「え!?」」
海斗の言葉に、二人の目が見開かれた。
「意図的か、はたまた事故かは分からない。しかしだ、今回のこの一件、ヒトの手が動いている。それは、間違いない」
「そんな……」
「カイト、確証はあるの?」
「ああ、ある。それと同時に、俺達は、ここから抜け出さなくてはいけなくなった」
「えと、それってどういう……?」
「はい。説明してください」
二人の真剣な表情に、海斗は頷いた。だが、
「動きながら話そう。今は、一分一秒が惜しい。それと、これから『ある場所』に向かう」
「「ある場所?」」
「ああ、ここからそんなに離れてはいない。今から俺たちが向かう場所は――」
海斗は、間を一拍空けてから、
「『駅』だ……」
と、二人に答えた。
先の騒動から二時間ほどが経った頃。海斗は、唐突にそう切り出した。
イズナは医療魔機の治療を受け、万全とはいかなまでも、もう一度、戦場に出られる程度には回復した。
「えと、それって、私が聞いたら問題ありますか?」
少し遠慮がちに声をかけてきたのは、イズナを戦場から連れ戻してくれた黒髪の軍人だ。
彼女は名を『ユーリ・ヴォルフガング』というそうだ。
「いや、問題はない。というより、むしろ聞いてもらったほうが良いかもしれん」
イズナが医療魔機で治療を受けることができたのは、ひとえに彼女の存在のおかげだ。
かなり刺激的な格好になっていた彼女だったが、今は予備の制服に着替えている。
本当ならすぐにでも戦場に戻らねばならないはずの彼女だったが、イズナに救ってもらった恩を返していない、と言って、海斗と共に、イズナを医療魔機が設置されたテントまでついて来たのである。
その時、まだイズナは身体をうまく動かすことができなかったので、海斗が背負って連れて行った。
イズナは終始、恥ずかしそうに顔を紅くしていたが、動かない身体ではどうすることもできす、ただされるがままという状態だった。
そして、医療魔機のあるテントでも、一悶着起きかけたのである。
海斗たちは治療の順番を待っていたというのに、いざ自分たちの番となった途端、医療魔機の担当者が、後ろに並んでいた兵士が優先である、とか抜かし始めたのだ。
そこに割って入り、人種、職業で治療を優先するのではなく、重症者から治療するのが当然ではないのか、とユーリが一喝。
実は彼女、軍の内部でもそこそこに高い地位にある人部らしかった。
しかし、若年で成り上がった彼女を快く思わない者たちに嵌められて、今日の戦場に出撃させられる羽目になったという。
現在、軍内部の組織は大きく分けて二つに分断されているらしく、ユーリは自身の部下の手によって、相手の派閥に売られたのだ。
彼女の父親は、この街では有力な議員なのだそうだ。要するに、彼女を取り込んで自分たちの発言権を強化したい輩がユーリを欲したのだ。
だが、よく考えればおかしな話である。もし仮にユーリを通して彼女の父親とコネクションを得たいと考えているのであれば、むしろ戦場へ出す理屈が通らない。
もし仮に娘が戦場で死んでしまっては、コネどころの話ではないように思える。
しかし、実際のところ、議員の父は娘が軍に所属していることをよく思っていないらしい。ユーリ本人も、父親のことを毛嫌いしていた。
議員の父は、本来、政略結婚の駒として娘を育ててきたつもりだった。
だが、当てが外れてしまった。ユーリは、父が用意した縁談を、片っ端から拒否。無理やり受けさせた見合いの席では、相手の男性に対してかなりキツイ物言いをしたとか。
おかげで父親は面子を潰される結果となったわけである。
そうなると、娘のことはもう邪魔でしかなくなってくる。しかし幸いなことに、娘は軍に所属している。これを利用しない手はないと、軍に手回しをおこなったが、ユーリは軍の幹部にまでのし上がってしまっていたため、簡単ではなかった。しかも、彼女が所属している派閥は、かなり清廉な組織であり、裏から手を回すことが不可能に思えた。しかし、ここにきて暗い陰が組織に侵入した。
嫉妬という感情は、時にどれだけ高潔な者も狂わせることがある。
それが今回の裏切りという結果に結び付き、所属する組織が変わった彼女は、議員である父とコネを持ちたい上 層部の思惑に翻弄された。結果として、彼女は自分の地位を活かしきることができず、さながら一兵卒のごとく扱われ、現在に至る。
しかし、ユーリは部下が裏から手を回して自分を売った証拠を掴んでおり、この戦場を無事に生き抜くことができたら、今回の件に関わるすべての者を断罪する気でいた。
無論、その対象には自分の父親も入っている。
ユーリは、たとえ肉親であろうと、容赦する気はない、と海斗たちに語って聞かせた。
「……ユーリにも協力してももらうことがあるかもしれん」
本来であれば、彼女はすぐにでも戦場に戻るべきなのだが、
「イズナさんに、きちんと恩を返しきれていません!」
と言って、いまだに海斗達と行動を共にしている。
「分かりました。それで、どのような内容なのですか?」
「ああ。その前にイズナ、前に聞いた話だが、最近クリーチャーが、街の周辺に出現する現象が、ここ最近増えていた件。あれは間違いないのか?」
「あたし自身が直接それを目撃したわけじゃないけど、複数のヒトが、クリーチャーの姿を世界線のなかから見たって情報は確かよ」
「その話なら私のところにも来ていました。聞くところによると、近くのデッドフォレストから顔を出しているのを見た、というのが大半で、一部からは、外壁付近に接近しかけるクリーチャーを見た、なんてものもありましたね。
それについては、政府が生息分布に変動などがないか、調査をギルドに委託したとか」
「その通りよ。その調査には、あたしも参加してたし……まぁ、めぼしい成果は上がらなったんだけどね……」
「……そうみたいね。我々の方でも、一部の者を調査隊に送ったけど、これといって異常は見つからなかったわ……ただ……」
「ん? どうした、ユーリ?」
わずかに目を伏せ、考えるように口元に手を当てるユーリ。
「ええ、少しだけ、気になる報告が上がっていたの」
「なんでもいい。とにかく今は、俺の話の前に情報を共有しておくべきだ」
「私としては、あなたの話が気になるところだけど、まぁいいわ。
上がってきた情報というのは、少しクリーチャーの警戒心が強くなっている件なの」
「「警戒心?」」
俺とイズナは、同時に疑問の声を上げた。
「そう。政府経由で、ギルドからもらった報告書にも、目を通したんだけど、いくつかの報告書にも、クリーチャーの警戒心が、普段にもまして強まっている、という内容が数件ほどあったわ。
最初は気にしていなかったのだけど、よく考えたら、これは妙だわ。
各クリーチャーの生息域に変化はない。それは、別の種類が自分の縄張りに入ってきたわけでないということ。もちろん、同族であっても縄張りを荒らすものは排除するクリーチャーがいるのも事実。ヴァイスリザードなんかは典型的ね。あれは一匹狼だから。
でも、それ以外のクリーチャーは同族における縄張り争いは、それほど頻繁じゃない。まぁ、群ごとにきちんと縄張りが分かれていることもあるけどね。
でも、今回はどの種類のクリーチャーも、他のクリーチャーを襲った形跡はない。
なのに、警戒心だけが上がっている。
――となると」
「クリーチャー以外の『なにか』に、警戒している」
「そいうことになるわね」
「ふむ、そうか………今の話が事実なら、あともう一押しか……」
「カイト、どうしたの?」
急に考え込むカイトの顔を覗き込むイズナ。
「……イズナ、もしくは、ユーリでもいい。クリーチャーの生態について、二つほど訊きたいことがある」
「いいわよ、あたしに答えられる範囲なら」
「ええ、勿論、私も協力します」
「うむ。まず一つ目だが、今この街を襲撃しているクリーチャーの『繁殖期』は、いつごろだ?」
「今、となると、『ヴァイスリザード』に『チープレックス』、あとは……『サイクロプス』の三種類ね」
ユーリは『サイクロプス』の名を出す時、わずかに身体が震えた。
やはり、犯されそうになったことがトラウマになりかけているのだろう。
「ユーリさん、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。あなたが助けてくれたおかげで、私はまだ純潔だしね、はは……」
「……辛い思いした直後で悪いが、とにかく生態を教えてくれ。それで、奴らの繁殖期は、いつなんだ?」
「カイト。あたしが説明するわ。今いる三種類なら、みんな今の時期が繁殖の最盛期よ」
「三種類、全部がか?」
「そうよ、みんな一斉に……あ、もしかして!」
イズナは何かに気付いた様に声を上げた。
「気付いたか。奴らがここ最近になって警戒心が強くなった理由は、おそらく『それ』が原因だろう」
なるほど。これで奴らが妙にピリピリしていたことにたいして説明がついた。
「それと、もう一つ。クリーチャーというのは、その、なにか、特別なものでお互いの存在を引き合ったりするものなのか?」
そう、これが一番肝心なのだ。
「引かれ合う、ですか?」
ユーリは頭に疑問符を浮かべているようだった。そこで、海斗は少し説明を追加した。
「ああ、例えばだ、どこかに瀕死の個体がいたとして、そいつが仲間を遠くから呼ぶ、などといったことがあるのかどうか。これが正しいかどうかよっては、俺の考えが正しいことの証明になる」
「……そうですね……ないこともありせんが、それはおそらく、成体のクリーチャーと幼体のクリーチャーに限定されると思います。過去の実験記録から、クリーチャーは、親子の存在を、かなり離れた位置からでも察知することができる、という研究結果が出ています」
「……なるほど、な」
これが事実だとすれば、今回のクリーチャー襲撃は……
海斗は、腸が煮えくり返るような怒りを覚えた。
「くそがっ!」
そう、思わず叫んでしまうほどに。
「「っ!?」」
イズナもユーリも、海斗が突然、大声を上げたことに驚いていた。
ガシガシと乱暴に頭を掻く海斗。
今のユーリの説明で、パズルのピースは全て組みあがった。かつ、海斗の推論が、ほぼ確実に正しいことの証明にもなってしまった。
「すまない。大声を出して……しかし、これではあまりにも……」
死んでいった者たちが、浮ばれないではないか。
「カイト、何かあるなら、言って」
「ああ、そうだな。というよりも、その話をするために、ここにいてもらってるんだ」
「「…………」」
イズナとユーリは、黙して海斗の言葉を待った。
「おそらく、今回のクリーチャー襲撃は……『人為的』引き起こされた可能性がある」
「「え!?」」
海斗の言葉に、二人の目が見開かれた。
「意図的か、はたまた事故かは分からない。しかしだ、今回のこの一件、ヒトの手が動いている。それは、間違いない」
「そんな……」
「カイト、確証はあるの?」
「ああ、ある。それと同時に、俺達は、ここから抜け出さなくてはいけなくなった」
「えと、それってどういう……?」
「はい。説明してください」
二人の真剣な表情に、海斗は頷いた。だが、
「動きながら話そう。今は、一分一秒が惜しい。それと、これから『ある場所』に向かう」
「「ある場所?」」
「ああ、ここからそんなに離れてはいない。今から俺たちが向かう場所は――」
海斗は、間を一拍空けてから、
「『駅』だ……」
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