ガチ・女神転生――顔だけ強面な男が女神に転生。堕女神に異世界の管理を押し付けられました!

昼行灯

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奴隷編

いりません

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「ふぅ……」

 海に出てから約1時間。

 天馬はディーが指定したポイントに到着し、いかだを魔法でその場に留めていた。

「静かだなぁ……」

 夜の海というものは、森とはまた違った怖さがある。

 海中に何か潜んでいるような、不気味な気配。
 それと、筏が壊れたらどうしよう、という不安などもある。

 だが、空を見上げれば、森では木々によって遮られていた満天の星空を望むことができる。

 そして地球で見るものよりも遥かに大きな月が、半分に欠けて輝いてるのが目に入った。
 あれをこの世界でも月と称するのかは知らないが、その姿は間違いなく、天馬の知る月と酷似していた。

 それらを慰めとしながら、天馬は海に向かって魔法を発動し続ける。
 波に筏がさらわれないようにするためだ。
 継続して魔法を維持しなければならないため、今日は一睡もすることができない。
 ここに来るまでに使っていたタブレットは、海に落とすと大変なので、胸の谷間に納めている。

 ディーとの通信も、今は切れている状態だ。

「はふぅ……」

 魔法を使うこと自体に、さして疲労感はないのだが、ひとり夜の海を漂っているだけというのもつまらない。

 しかし、天馬は退屈を感じる以前に、体に疲労感以外の感覚が芽生えているのを感じていた。

「……何だか、体が重い……疲れ、じゃないよな、これ……」

 天馬が己の体に不調を感じていると、

『天馬さん? どうかされましたか?』

 不意に声が掛けられた。
 胸元から響く聞き慣れた声に、天馬は谷間からタブレットを取り出す。

 すると画面には、案の定、ディーの顔が映っていた。

「あ、ディーさん……何だか、体がだるいと言いますか、重いと言いますか……もしかして、風邪でも引いたんでしょうか?」

 誰にも頼ることができないこの状況に、天馬は不安を覚えるのと同時に、すがるような気持ちでディーに訊ねた。

『天馬さん、あなたは風邪を引きませんよ』

 しかし、返ってきた答えはそっけないものであり、天馬は思わず半目になってしまう。

「……それは、俺がバカって意味ですか……?」

 天馬は顔を顰めながら、ジトーという視線をディーに向けた。

『天馬さん、何か勘違いをされているようですが、あなたはそもそも【不老不死】なんですよ? あらゆる病気に、天馬さんは耐性を持っています。以前も説明したはずですが……』
「あ……そうでした。すみません。……でも」

 ディーの説明に、天馬は自分が思い違いをしていたと頭を下げるが、それならこの体調不良は何なんだという話になる。

 天馬の肉体は、魔力が常に体を循環しており、老いることはない。細胞は常に新しく更新され、体は常に健康な状態を維持し続けることができる。

 それでも、以前のように毒キノコを食べたりして、体が毒などに犯されれば、中毒症状が出ることもある。

 しかし今回、天馬は体を壊すようなものは口にしていないはず。
 船酔いかもとも思ったが、どうにもそれだってしっくり来ない。

 それに、何だかお腹の辺りが痛いような気も……

「何なんでしょう、これ……?」

 実際に、天馬の体は倦怠感に襲われ、お腹にも異常を感じる。

 それに、だんだん頭も重くなってきたような……

『もしかしたら……天馬さん、少し待っててください。調べてみます……』

 そう言って、ディーは心当たりでもあるのか、天馬から視線を外し、別の端末を操作し始める。

 数分間、ディーは天馬の体の異常を調べていたが、所々でうんうん頷き、最終的には『ああ、そういうことですか……』と、何かに納得していた。

「あの、何か分かったんですか? 俺、そろそろ起きてるのも辛いんですけど……」

 実は先程から、魔法の行使も止まっており、このままでは筏がどんどん流されてしまう。
 原因が分かったのであれば、早急に対策を立てねばと、天馬は少し焦っていた。

『結果から言えば、天馬さんのそれは、病気ではありません』
「え? それじゃ、なんですか……?」

 天馬には、どう考えても何かしら体に異常が起きているとしか思えなかった。

 しかし、ディーが言うには、これらの症状は病気ではないという。

 では、いったい……?

『よく考えてみれば、すぐに分かることでした。私も、周期的に来ますしね、「それ」……』
「えと、あの、結局これって、何なんですか?」

 はっきりと言わないディーに、天馬の苛立ちが募る。

『……まぁ、これは天馬さんが「正常に女性になった」と言いますか、おめでたいことと言いますか……』
「えっと、つまり……?」
『あの、ここまで言って分かりませんか? 天馬さんのそれは――「月経」です』
「…………え?」

 ディーの言葉に、一瞬、天馬の思考が停止した。

『ですから、月経、です。要するに、生理ですよ。つきのもの、女の子の日、とも言いますね。天馬さんの場合は、今回が初めてなの月経なので、初潮しょちょうになります』
「え? ええ? えええええ――っ?!」

 繰り返されるワードに、天馬の思考がようやく復帰。

 しかしそれは、天馬にとっては予想外の言葉であり、静かな海に彼女(彼)の声が響いた。

「お、俺が生理?! 何で?!」
『いえ、天馬さん、今のあなたは女性なのですから、くるのは当たり前です』
「いや、だって女神ですよね?! 神様に生理とかあるんですか?!」
『無論あります。神だって子供を産むじゃないですか。我々だって、周期的に来ますよ? 生理……』
「あ、ああ、そういえば、神様にも子供っていますよね……あれ、でも……」

 何だか、神様の産まれ方って、色々と特殊じゃなかったか? という考えが、天馬の脳裏を掠めた。

「あの、神様って、普通に女性のお腹から産まれるんですか? 何ていうか、俺はてっきり、もっと奇抜な方法で生まれてくるものだと思ってましたけど……」

 彼等の世界では、男の神様が普通に別の神様を産むようなことも珍しくない。
 ギリシャ神話に登場する女神とかは、天空神の頭をカチ割ったら産まれていたし、日本神話でも有名な神様達も、とある神様の目やら鼻やらから産まれていたりする。

 天馬はそんな彼等を、まるでプラナリアみたいだな、と失礼極まりないもので例えていた。

『まぁ、昔は無茶苦茶な感じで、産めよ増やせよの時代でしたからね……なりふり構っていられなかったんですよ……』
「え? そういうもんなんですか?」

「神様にもそういうのあるんだ……」と、天馬は素直に驚いた。

『まぁ、今はほとんど普通に、男神だんしんと女神が、発情した上でドッキングして、子宮で子供を授かって産んでますよ。神様の世界だって色々と様変わりするんです。昔みたいに体の至る所から神を増殖させることは、今ではほとんどありません。それと、女神はわりと性に関して奔放な者が多いですよ? かなり潔癖なのも、中にはいますが』
「そ、そうなんですか……」

 確かに、神話で語られる神々は、性に関してはかなり寛容なイメージがある。しかし、割と不倫やら浮気でドロドロして、切った張ったな顛末になるものも多い気が……などと天馬は思いながら、ディーの説明に納得した。

「にしても、よりにもよって生理なんて……」

 元々男であった天馬には、女性のこういったデリケートな部分に触れる機会などなかった。
 それが自分の身に起きていることを、どうにも受け入れられずにいる。 

『確かに、天馬さんは今回が初めての月経なので、戸惑うことも多いかもしれませんが、これからはずっと……それこそ「永遠」に付き合っていくことになるのですから、早く慣れる事をおススメします』
「うう~、簡単に言わないで下さいよ~……」

 天馬はとうとう体の倦怠感に耐えられるなくなり、筏の上で横になってしまった。

『天馬さん、お辛いですか?』
「……なんか、動きたくないです……」
『そうですか。……分かりました。今回は天馬さんが初潮を迎えたおめでたい日でもありますし、特別に、筏をその場に留めておくのは、私がやっておきます。天馬さんは、朝まで横になっていて下さい。船が来ましたら、起こしますから』
「はい……ありがとうございます……それじゃ、少し、横になってますね……」

 ディーの言葉に甘えながら、天馬は筏の上で力を抜き、目を閉じた。

『……起きたら、お赤飯でも送りますか?』
「いりません……」

 日本の風習を持ち出され、天馬は力なく突っ込みを入れたのだった。
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