ガチ・女神転生――顔だけ強面な男が女神に転生。堕女神に異世界の管理を押し付けられました!

昼行灯

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奴隷編

傷だらけの女

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 奴隷船。

 木で造られたその船は、船底に数十人の奴隷を積み込み、とある国の領地に向けて、海をわたっていた。

「……あと、どれくらいで目的地に着くんだい?」

 船首で海の様子を観察しているのは、赤髪を無造作に後ろで束ねた、二十代の女性である。

 名をマルティナといい、大規模な盗賊団をまとめる、女頭である。

 彼女はその鋭い視線を横に滑らせ、隣で控えている小柄な男に声を掛けた。

「そうですね…………普通に港に入るわけにゃいきませんし……正規の航路を通るのも無理ですから…………順調に行って、最低でもあと2週間……風や時化しけの状況によっては、1ヶ月近く掛かるかもしれませんなぁ……」

 男は指折り数えながら、現在地から目的地までの日数を概算する。
 それを聞いた女は、明らかに不機嫌な表情を浮かべた。

「はぁ……全く。辺境の領主風情が、奴隷をかき集めてこいなんて無茶言ってくれたせいで、こちとら大迷惑だよ」

 船に乗せられている奴隷は、小さな村などを襲撃して捕らえてきた者達が大半だ。
 積まれているのは、ヒュームと獣人が全体の8割。残りが森精霊エルフ土精霊ドワーフである。
 戦争で身寄りをなくした孤児なんかも数人いるが、大半がどこかでさらってきた者達だ。
 
 しかも今回は、大規模な商人の集団も襲ってしまったため、彼女達には国から討伐命令が出てしまっていた。

 そのため、陸路での奴隷運搬は危険が伴うと、マルティナ達は船を奪うという大それたことまでしでかす羽目になったのだ。

 しかし、ゴロツキ集団である彼女達に、船を操ることなど到底できない。

 女の隣で佇む小男は、過去に船に乗っていた経験を持つが、彼ひとりでこの規模の船を操船することは不可能だ。

 故に、彼女達は交易で使用されるキャラック船を、乗組員共々、奪ったのである。
 船の中には、船員の家族が人質になっており、彼らの動きを奪っている。
 そして最終的には、船員共々、全ての者達を奴隷として売り飛ばす算段だった。

 とは言え、ここまでのことやるためには相当の金も使い、マルティナの部下の何人かは、荒事の最中に死亡した。

 彼女は、がしがしと乱暴に髪を掻き、今回の仕事を引き受けてしまったことを、かなり深く後悔していた。

「……ああ、くそっ!」
 
 それもこれも、こんな仕事を依頼した、レインという男のせいである。
 マルティナは、レインという存在と懇意にしていた過去があり、複数存在するアジトの場所も把握されていた。

 今回の仕事を断れば、間違いなく王国の兵にアジトの場所をばらされていただろう。

 そうなれば、組織は大きな打撃を受ける。
 せめて、ここにはいない仲間が、国外に逃亡するまでは、時間を稼ぐ必要があったのだ。

「頭、大丈夫ですかい?」
「はぁ……大丈夫なもんかい……あの男、いずれ殺してやる……まぁ、今はそっちはいいよ。……それより、船の食料はどうだい? 港に着くまでもつのかい……?」
「商人共を襲った際の食料がまだありますんで、そこは大丈夫でしょう。……ただ、連日のようにばか騒ぎをしてたら、すぐに干上がっちまいますがね……」
「なら、他のバカ共に言っておきな。『死にたくなかったら無駄な食料を使うな』ってね……」
「あいよ……ですが頭、何でまたこれだけの奴隷を集めたんで?」

 小柄な男が、マルティナに向かって疑問を投げ掛けた。

「ああ、どうやら他国に輸出する鉱石の採掘に、大量の炭坑夫たんこうふが必要なんだとさ……最近になって、自分の領内にも鉱脈を見付けたとかでさ。どうやら、そこで使う労働力が欲しいみたいなんだよ……」

 マルティナは男の問いに答えながら、腰に手を当てて、小さく息を吐き出した。

「なら、本国から奴隷を買えばいいんじゃ? 俺達を使って奴隷を集めたことがばれたら、どうなるか分かったもんじゃありませんぜ?」

 男の言葉はもっともだった。
 国から追われている自分達から奴隷を買ったことがばれれば、それは同時に、破滅を意味する。
 身分はもちろん、財産も没収され、ろくなことはない。

 しかし、

「……今まで目立った産業なんかない領地だったからね、金が無いんだよ。……国から奴隷を買えるほどの財力はないが、ウチ等からなら、安値で奴隷を買えるって踏んだろうさ」

 呆れたように再びため息を漏らすマルティナ。
 彼女達は今まで、数多くの者達を拐っては、奴隷にして売り飛ばしてきた。

 だが、今回は要求された人数がかなり多く、集めるにもそれなりに苦労させられた。

 しかも、本国からマルティナ達への討伐指令が出てしまったほどだ。

 しばらくはこの辺りでの活動ができなくなった上に、国の外に逃げ出さなくてはいけない。

 しかも組織の何人かは、今回の仕事で死んでいるのだ。
 
 こうなれば、搾り取れるだけ搾り取らねば気がすまないと、マルティナは苛立ちを露にしていた。

「さて、どうしてやろうかね…………ん?」

 領主とどう交渉して金を吐き出させるかを考えていた彼女の目に、何かが映った。

「おい、ありゃ何だ?」
「はい……?」

 マルティナが指差す方に、男も視線を向ける。

「ん~……ありゃ、ただのぼろ切れじゃないすかね?」

 海に浮かぶ亜麻色の何か。男はそれをただの漂流物と判断したが、マルティナはそれが別の何かに見えていた。

「……いや、どうにも違うみたいだね」

 近付くにつれ、徐々にその姿がはっきり見えてくる。
 それは、丸太にしがみついている、一人の人族だった。
 俯いている為、男か女かは分からないが、姿からして、おそらくは人だろうと、マルティナは判断した。

「引き上げるよ!」
「え? あんなの、生きてるかどうも分かりませんぜ?」
「だとしても、売れる商品が多いに越したことはないだろ? 死んでりゃ、またそのまま海に捨てちまえばいいんだよ」
「なるほど、分かりやした……おおい! いったん船を停めろ!」

 男は船を停めさせ、数人な男を呼び寄せる。
 全員かなり顔付きが悪い。全員がマルティナ配下の者たちだ。
 彼等は、長い棒にフックが付いた物を持ち出して、丸太の人物の服に引っ掻けて、船を上に引き上げた。

「おお、こいつ女か! しかもこりゃ、かなりの上玉……は? って、うおええっ?!」
「こ、こいつ……」
「おいおい……」

 途端、男達が色めき立つ。

 引き上げた人物は、美しい銀の髪に、豊満な胸を持つ、一人の女性だった。
 引き上げた際に見えた顔も、相当に器量がいい。

 しかし、その人物は……

「どうしたんだい? 変な声を出して。死体ならさっさと捨てて……」
「いや、頭……こいつ、生きちゃいるんですが、これは……」
「は? ハッキリしないねぇ……何が…………うわ……」

 引き上げられた女性は、体のあちこちから出血し、顔に至っては、半分が『何かに食いちぎられた』かのように、皮膚の下が剥き出しになっている。

 しかも、片方の目も抉れていたのだ。

 見れる部分がなまじ上等なだけに、余計にその姿は痛々しい。

「これで、生きてるのかい……?」
「みたいっすね……うぇ、気持ち悪っ……」
「頭、さっさと捨てちまいましょう。これじゃ、奴隷として使うのは無理ですって……」

 男達は露骨に表情を歪め、汚物でも見るような視線を、傷だらけの女性に向ける。

「はぁ……顔の半分だけ見りゃ、かなりのもんなのによ……もったいねぇ。……しっかし、これじゃいつ死ぬことやら……」
「だな。さっさと海に放り込んじまおうぜ」

 男連中は、女性を海に捨てようと話をしている。

 そんな中、マルティナは女の様子を見ながら考え込んでいた。

「……いつ死ぬかも分からない……か。でも、まだしぶとく生きてるわけだ……なら、捨てるのなしだ。こいつは船底の倉庫に放り込んでおくことにするよ。一応、傷には布を巻いておいて、陸に上がるまで生きてたら、こいつも売り飛ばす。まぁ、体が動けば、何かしらには使えるだろうさ」
「うげっ、頭! こいつも売るんすか?! ぜってぇ死にますって! こんなの!」

 マルティナの決定に、口々に異を唱える男連中。

 しかし、それに動じる様子もなく、マルティナは床に膝を着くと、女の顔を除き込んだ。

「あんたもさっき言ってたじゃないか。こいつは、無事な部分だけ見ればかなりの上玉だよ。女のあたしでも、見惚れちまいそうなくらいにね……」

 冷静に、マルティナは浅い呼吸を繰り返す女性に視線を落とし、そう評価する。

「死んだらその時に捨てればいいだけだ。でも、万が一にも生き残れば、こいつも売ればいくらかは金になる。みすみす商品になるかもしれないもんを、あっさり捨てるんじゃないよ」
「……分かりやした。頭がそう言うなら」

 渋々といった様子で、男の内1人が、死に体の女性を担ぐ。
 彼の顔を見れば、明らかに嫌なものを、無理矢理従っているというのがよく分かる。

「でもまぁ、見られたもんじゃないのも事実だね。そいつには麻袋でも被せときな……暗い場所でこの面を見せられたら、心臓が止まっちまうよ」
「へい……ちっ、命拾いしたな、この醜女《しこめ》……」

 男はぶつくさ文句を言いながら、女を担いで船内に消えていった。

「……しかし、何だってこんな場所に女が……」

 残った男の一人が、そう漏らす。

「大方、どこぞで難破した船から放り出されたんだろうさ。それにしたって、しぶとい女だよ、ありゃ……」

 マルティナは船内に消えた女性の姿を思い出し、ニタリと酷薄な笑みを浮かべた。

「さぁて、あの女の運はどれ程のものかねぇ。さっさとくたばるのか、それとも……その醜い姿で、生き足掻くのか……見物だねぇ」
「頭、何だか楽しそうですね?」

 先程まで不機嫌な顔をしていた彼女の表情が、気色の色に変化しているのに、小柄な男が気付いた。

「ああ、ああいう綺麗どころが惨たらしい目に遭うのは、愉快じゃないかい」
「……俺が言えたことじゃないすけど、いい趣味してますよ、頭は……」
「だろ?」

 くくく、と凶悪な笑みを張り付けて、マルティナは海に視線を落とす。

 見れば、海の中ではとぐろを巻いた大型の『肉食魚』達が、血の付いた丸太に群がっている最中だった。
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