ガチ・女神転生――顔だけ強面な男が女神に転生。堕女神に異世界の管理を押し付けられました!

昼行灯

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無人島漂流編

脱出 2

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「無茶言わんで下さい」

 天馬は、にべもなくディーの話を拒否した。

『……ダメですか?』

 対してディーは、こてんと首を傾ける。
 仕草が非常に可愛らしく見えるが、彼女が口にしていることは、相当の無茶である。

 むろん天馬も、彼女のこの仕草で首を縦に振ったりはしない。

「無理ですよ! この島からどこ行けってんですか?! ていうかそれ以前にっ、どの方角に進んでいいのかも分からないこんな状態で、島から出られるわけないでしょうが!」
『ふむ……でしたら、その島から南に300キロほど行ったところに、大きな大陸があります。そこまで泳いで……』
「無茶振りにも程があるわ!!」

 平然と300キロの遠泳を提案してくるのは、彼女がそもそもひとではないからなのか……それとも、単純にドSなのか……判断に迷うところである。

『……そうですか……では、もうひとつの手段ですね』
「もうひとつの、手段?」

 ディーの言葉に、今度は天馬が首をかしげる。

『はい。調べたところ、その島の近くを、3日後の早朝に船が通り掛かります。それに忍び込みましょう』
「…………まさか、密航ですか?」
『その通りです』
「ええ? 俺、一応、女神ですよね? そういう犯罪者みたいな事してもいいんですか?」
『……今回は非常事態です。仕方ないでしょう』

 一瞬間が開くも、ディーは天馬に頷く。

 やはり体裁としては、あまりやってほしいことでもないのかもしれない。

「マジですか……」
『ええ、マジです。女神は、形はどうあれ、ひとと接することで世界に影響を及ぼします。それが、ずっと無人島でひとり、隠居生活をされては、今後この世界に発展はありません。世界を変える英雄も哲学者も科学者も、あなたが関わることで生まれるのです。女神とは、そういう存在なのですから』
「…………いや、でしたら最初からひとのいる場所に転生させてくださいよ……」
『……ごもっとも、すみません』

 流石に、天馬も突っ込みを入れざるを得なかった。

 真面目な話をしているところを冷静に返されて、ディーも俯き加減で謝罪を口にする。

 しかし、そもそも転移先を間違えたのは、あの惰女神である。

 ここでディーを責めることが正しいとは言えない。

「はぁ……分かりました。3日後、ですね……それで、船に忍び込むにしたって、いきなり船を見付けてから泳ぎ出したって間に合いませんよ? どうするんですか?」

 天馬とて、ずっとこの島で、ひとり寂しく生きていきたいわけではない。
 出られる機会が巡ってくるのであれば、それを利用しない手はないだろう。

 経緯はどうあれ、天馬は女神の仕事をやる、と口にしたのだ。

 であれば、いつまでもここで生活しているわけにはいかないことも、天馬は頭では理解していた。

『あ、そうですね……でしたら、これから早急にいかだを作って、海に出ましょう。船が通るルートは既に分かっていますので、その航路上で待機して、通り掛かった瞬間に入り込みましょう。天馬さん、魔法は使えますか?』
「ええ、大丈夫です。少しなら、扱えるようになりました」

 現在、天馬が扱えるのは、水、火、風、土、を使った魔法だ。
 最も得意とするのは水であり、火の魔法に少し苦手意識を持っている。

『でしたら、風を操って船に飛び乗りましょう。大きな船ですから、どこかしら飛び込める場所はあるはずです』
「分かりました。何とかやってみましょう」

 風を使って自分を持ち上げる事ができるかは、まだ試したことはないが、この3日のうちに習得せねばならないだろう。
 幸い、風を操ることはそこまで難しく思っていない天馬である。
 多少の修練で、一時的に自分を風にのせて飛ばすくらいなら、何とか出来るようになると思われる。

『では、筏の作り方が書かれた資料を、タブレットに送信しておきます。動画も添付しておきますから、参考にしていただけると。それから……』

 と、こんな感じで、天馬とディーは島からの脱出計画を練り、方針を固めていく。

 そうして、天馬は急ピッチで筏の製作に取り掛かった。

 水に浮く木を選別し、丈夫な蔓を身繕みつくろう。風魔法を駆使して丸太を切断し、土魔法で地面を操作して、木を転がす。そうして、材料を浜辺まで運ぶのだ。
 筏の床下部分に括りつける、浮きの役目を果たす大きめの木の実なんかも回収した。中が空洞になっているもので、見た目はヤシの実のような形だ。

 ディーが送ってきた筏の製作方法に目を通しながら、何とか不器用なりに形にしていく。
 慣れないロープワークには大いに苦戦したが、どうにかこうにか完成系が見えてくる。



 
 ――そして、製作を始めて2日後の夕方。

「できた~!」

 どうにか筏が完成。

 一辺が1メートルから2メートルの長方形。丸太の下には、蔓で無理やり括りつけたヤシの実もどき。丸太の大きさが不揃いで、かなり不恰好ではあるが、どうせ一晩しか使わない即席だ。多少形が歪でも問題はないだろう。

 あとは海に浮かべるだけだ。
 ここまでかなり苦労したが、なんとかここまで漕ぎ着けられた。

『お疲れ様です、天馬さん。何とか間に合いましたね』
「ええ。ですけど、さすがに疲れました」

 今まで、ここまで連続で魔法を使うといったことはなかったし、慣れない作業の連続で、天馬はかなりの疲労感を感じていた。

『それはまだ、天馬さんが魔法の扱いに慣れていないからですね。魔力の消費量も無駄が多いですし、もっと精進して、効率よく運用できるように努めて下さい。ですが、天馬さんが体内に内包する魔力量からすれば、今回使用した魔力は微々たるもの……その疲労は、精神的なものが大半でしょうね』
「う……もっと、頑張ります」

 思ったより手厳しいディーの言葉に、天馬が俯く。
 しかし、そんな天馬に、ディーは優しげに微笑んだ。

『ですが、慣れない魔法を、1ヶ月でここまで使いこなせていることには、素直に感心します……一応申し上げておきますと、女神だからと言って、誰も彼もが魔法を得意としているわけではないんですよ?』

 彼女いわく。

 女神の中にも、魔法の制御が苦手な者は少なくないそうだ。
 自分が体内に内包する膨大な魔力に手を焼いて、うまく扱えない者もいるとか。

 それと、ディー自身も、戦うことを主として創られた為、白兵戦の方が得意で、魔法に関しては、若干苦手意識があるとか。

『それで言えば、天馬さんはまだ拙いながらも、魔法をうまく扱えています。ですから、これからも鍛錬を欠かさず、その才能を伸ばして下さい』

 穏やかに、ディーか口元を緩める。
 魔法の腕前を叱責されると思っていただけに、天馬は思わずポカンとしてしまう。

 しかしそれも一瞬。

 天馬は居住まいを正して、画面越しのディーに視線を向けた。

「……ありがとうございます、ディーさん。俺、もっと頑張ってみます」
『ええ、期待していますよ。さぁ、明日の朝には船が来てしまいます。急いで海に出ましょう』
「分かりました」

 天馬は、砂浜の砂を操作し、筏を滑らせるように海へと押し出した。
 ちなみに、天馬は胸の谷間に存在するアイテムボックスに、島で取れるだけの食料を詰め込んでおいた。

 船では息を潜めて陸を目指すことになるので、食料を確保しておかねば、後々面度な事になりかねない。
 忍び込んだ船内で食料をちょまかすのは、さすがにリスクがある。

 こんなときばかりは、胸の谷間という場所はともかく、物を際限なく入れておけるアイテムボックスは重宝する。

『では、座標を指定しますので、そこまで筏を移動させて下さい』 
「了解です。それで、始めにどっちに?」
『では、そのまま左斜め前方に向かって下さい、距離は――』

 そして、天馬は筏が海に浮うことを確認しながら、海の水を魔法で操作しディーに指定された位置まで移動する。

 途中、1ヵ月の間生活した無人島に振り返り、天馬は僅かに寂しさを滲ませながら、筏を操った。

 結局、泉の傍に作った簡易な住処はそのままだ。

 他の獣が使うか壊すか。いずれにしろ、天馬がそこにいた足跡を、あえて残した。

 この島は、女神の手違いで送られた場所だったが、それでも、天馬をいくらか強く成長させてくれたのだ。

 故に、

「またな……」

 天馬は小さく呟き、いずれ、また訪れる機会もあるかもしれないと、島をあとにしたのだった。
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