農場経営?そんなことより僕は恋が仕事です!

ただのひと

文字の大きさ
5 / 80
はじまりの夏

5

しおりを挟む
 僕の好きになった人は所謂『モブ』でした。

 というか、自分が主人公とも聞いてないよーと叫びたい気持ちを抑えつつ、酒場までの道のりをトボトボと歩く。
 あれからキョウの母親のクメさんからもらったカノン農場の納品書をぼんやりと受け取り、うちの子を嫁にどうだいなんてイベントまでこなして今、こうしているのであった。

 オードちゃん。
 僕の好きな人……いや、運命の人はオードちゃんという。
 キョウの大親友で、酒場の娘。
 酒場の看板娘で、いつでも元気印のとってもいい子。
 キョウのイベントでことあるごとに主人公の背中を押してくれる、いい子でもある。
 そう、本当にいい子なのだ。
 いい子すぎて、どうしてあの子と結婚できないのか謎だった覚えがある。

 とはいえ好きなものは好きで。
 他の人なんてと思えるくらいにもう好きで。
 それなら頑張るしかないと決め、酒場の扉をくぐる。
 そう、とにかく今は覚悟を決めてオードちゃんと仲良くなる。それが目標だ。

「こんにちは!」

 そう大声で声をかければ、はーいという声と共にオードちゃんが現れた。

「あ、農場の! ごめんね、名前も場所も言い忘れちゃって。無事辿り着けたみたいでよかったよー」
「い、色んな人に助けてもらって……。えっと、店長さんはオードさんですか?」
「やだなー、オードさんだなんて他人行儀な言い方! 私のことはオードでいいよ!」
「じゃ、じゃあオードちゃんで……」
「う~ん……ちゃん付けってガラじゃないんだけど……って、そうだ。店長、店長だったね。今お父さんを呼んでくるからちょっとまっててねー」

 言うが早いか、オードちゃんは急いで厨房らしきところに駆けていく。
 そんな姿もかわいいなぁなんて想いながらぼんやりしていると、大柄な男性がやってきた。
「お前がノルズか」
「は、はいぃ!」
 あまりの迫力に思わず声が裏返る。
 怖い、怖いよオードちゃんのお父さん!
「何、そんなにかしこまらなくていい。そうだな、座れ。今後の話をしよう」
 そう言って食堂らしきところの椅子を一つ引くと、お父さんはどかりとその椅子に腰掛ける。
 僕はその真正面を促されて、おどおどとしながらその椅子に腰掛けた。
「もー、お父さんてばまた他人のこと怖がらせてー。ごめんね、こう見えて別に怖い人じゃないから安心してね」
 お茶を淹れてきてくれたらしいオードちゃんはそう言って三つカップをテーブルに並べると、そのまま僕の隣に腰掛ける。

 近い! 近いよオードちゃん!

 たったそれだけでお父さんと対峙した時とは違う意味で上がる心拍数。
 なんとも現金な自分の心臓である。

「あ、そうだ」

 そこで思い出す。今日は手土産として卵とプニップを持ってきたんだった。

「あの、これ……。一応見本的な意味も込めて持ってきたんですけれど……」
「たまご! うわぁ、ノルズくん家のたまごだ! やっぱり最高の品質だね。ね、お父さん」
「ああ。これならやはり申し分ないな」

 見ただけでわかるのか。
 そんなも僕の心の声が聞こえたのか知らないが、オードちゃんがいそいそとオーバーオールの中から普通の卵を一個取り出してみせる。
 よく潰れなかったね、それ……。

「これが普通の卵。で、こっちがノルズくんの卵。この違い、わかる?」
「……大きさ?」

 明らかにウチの卵のほうがでかい。具体的には二倍くらい違う。

「そうそう。あとは透かして見ると全然違うんだよ。とれたてですっ!っていうのがすぐわかる証拠にノルズくんのはすごく透き通って見える。これだけでもすごいことなんだよね」
「まあそれ、今日の朝の卵だから……」
「え、全部持ってきてくれたの!?」
「いや、半分くらいかな? うちの子達二十羽くらいはいるから」
「半分……。これ、ぜひ買い取らせてください!」
「え、いや。お土産なので……」
「お土産にしてはちょっと高級すぎるよ!」
「いや、でも……」
「あー……おちつけ二人共。オードも興奮するんじゃない。お土産だってんだ、ここは素直にいただこう」
 ふたりで押し問答(僕のほうが圧倒的に押されていたけど)を見ていたオードのお父さんが口を挟み、そこで一時休戦となる。
「さて、申し遅れたが俺の名前はテッド。さっきから聞いてたと思うがこいつの父親だ。ここで食堂兼酒場をやっている。ああ、部屋が余っているから宿屋もついでにやってるよ。まあ、お前さんがここに泊まることはないとは思うがよろしくお頼む」
 そう言って右手を差し出されて、僕も慌てて右手を差し出して握手する。
 そうするとテッドはにやりと笑ってから、手を離した。
「うん、良い手をしているな。働き者の手だ。俺はお前が気に入ったよ。これからも頼む」
「あ、いえ。こちらこそよろしくお願いします」
「腰の低いやつだな、お前は……。オードから聞いてた感じだと、もっと元気なやつだと思ってたんだが……まあいい。これから価格交渉と納品数の話と行こうか。おい、オード。おもたせだがこの卵を使って最高の玉子料理を頼むわ。そしたら買い取りもなにもないだろう?」
「でも……」
「なぁに、玉子のフルコースでも良い。お前、得意だろ?」
 そう言われて、オードの目がキラリと煌く。
「うん!」
 よっぽど厨房を任されたのが嬉しかったのか、そのまま卵を大事そうに抱えて走っていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

処理中です...