農場経営?そんなことより僕は恋が仕事です!

ただのひと

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はじめての秋

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 さて、誕生日とは言え仕事は待ってくれないわけで。

 そろそろ秋の終わりの時期とは言え、まだまだバタタールの収穫やはなちゃんたちのお世話が待っている。
「今のうちに私、卵の納品を家にしてきちゃうね」
「え、そんなの悪いよ」
「いいのいいの。それに下ごしらえしておいた料理も取ってきたいし、ちょっとだけ行ってくるよ」
「了解。いってらっしゃいー」
「いってきまーす」
 あ、なんか今のちょっと夫婦っぽかったななんて妄想をしつつ、僕は仕事を始める。
 大量のバタタールの収穫の前に酪農の方をと思ってはなちゃんたちのお世話をして厩舎の外に出て来たところで、今度はカノンさんがやってきた。

「ノルズちゃん、誕生日なんだって? これはおばさんからのお祝い。ちょっと早いけどシュニップの種とスノーフラワーの種だよ」
「うわ、ありがとうございます! すごく助かります!」
「ノルズちゃんはお得意さんだからねぇ。サービスサービス。じゃ、お仕事がんばるんだよ」
 肩をポンポンと叩かれ、そのままカノンさんは帰っていく。
 それを見送ってから僕はバタタールの収穫を始め、その間にオードちゃんが帰ってきた。
「ただいまー。お台所借りるね」
「おかえりー! うん、勝手に使っちゃって」
 それにまた夫婦の妄想をして、ニヤニヤとしつつ収穫に精を出す。
そしてそれを無事に終えた頃、また来客があった。

「ノルズはいるか?」
「はーい、今行きますよーって……え!?」
 そこにいたのは予想外にもノースで、仏頂面で牧場の入口に立っている。
「ノルズくん、どうかしたの? って、あれ? ノース、珍しいね」
「まあノルズには収穫祭で世話になったからな。誕生日だと聞いてその……祝いに来た」
 その言葉に更に驚いておもわずポカーンと口を開けていると、それを見たノースの眉間にシワが寄る。
「なんだ、そのアホ面は。お前にはオードを任せたんだぞ? もっとしゃっきりしてもらわんと俺がもらうぞ」
「だからオードちゃんは渡さないってば」
 ポカーンから一気に険悪なムードになりつつも、オードちゃんがまあまあと取り直して仕切り直し。
「ご、ごほん。まあとにかく誕生日祝いだ。受け取れ」
「あ、ありがとう」
 ぎこちないながらにそれを受け取って、返事を返す。
「んじゃ、用事はそれだけだから」
「う、うん」
 そう言って踵を返すノースになにか言わなきゃいけない気がして、後ろ姿に声を掛ける。
「き、来てくれてありがとう!」
 それに後手でノースは返事を返し、ノースは去っていった。

「何くれたのかな?」
「さあ? 開けてみるよ」
 小さな箱に入ったそれはなにか既視感を覚えた気もしたんだけれども、開けてみればやはり……。
「……犬笛」
「……まさかノースとかぶるとは」
 ショックに打ちひしがれているオードちゃんを宥めながら、家に入る。
 仕事も終えたし、これからはパーティーの時間。
 二人きりの時間だった。

「じゃああらためて……ノルズくん、誕生日おめでとー!」
 パーンという音とともにクラッカーがなり、オードちゃんのお祝いの言葉が重ねられる。
「ありがとう。嬉しいよ」
 それに素直に返事をして、二人で話をしながら料理を食べていく。
 オムレツはもちろん、キュッシュやミートパイなど色々なものが並んでいて、何かすごく感動した。
「それにしても、なんだか不思議だね」
「え? 何が?」
「前にここでお祝いした時は皆がいたのに、今日は二人っきりって……なんだかちょっと照れちゃうかな。いや、自分が言いだしたんだけど!」
「ははは! 確かにちょっと変な感じかも。二人きりだと、ちょっと広い気がするよね」
「うん……」
 そこで急にオードちゃんは俯いて、なにかもじもじし始める。
 なにかと思ってみていたら、急にバッと顔を上げて覚悟を決めたように口を開いた。
「あの!」
「はい!」
「と、隣りに座ってもいいですか!」
「へ? え、もちろん。むしろ向かい合って座るのは少し寂しいなって思ってたところだったよ」
「そ、そっか。寂しいって思ってくれてたんだ……」
 オードちゃんはそんな事を呟きながら、僕の隣の席へと移動してくる。
「お、お邪魔します」
「ど、どうぞ」
 なんかそう緊張されると、僕が緊張してくる。
 いつもお弁当を食べるときだって隣で食べているのに、なんでこうも緊張しているのかよくわからなくて。
「あ、あのね」
「う、うん」
 何を言われるのかなって思って身構える。
 ここで別れ話ってことはないだろうけれども、それでも緊張するものは緊張するのだ。
「ふたりっきりでお祝いしたいって言った時にいいよって言ってくれたの、すごく嬉しかったよ」
「え、だって僕だってそう思うし……」
「でも最初は自分の誕生日に興味持ってなかったじゃん」
「まあそれは……色々あって今まで自分の誕生日ってきちんとこうして祝ってもらうってなかったから」
「じゃあノルズくんのはじめて、私が貰っちゃったんだね」
「う、うん」
 言い方をどうにかして欲しいと思いながらも、どうにか答えて。
 そうすると、ぽすんとオードちゃんの頭が肩に乗ってきて、熱を感じる。

「ノルズくん、今日沢山の人にお祝いされてて。なんだかその人達を追い出して二人きりでなんて言っちゃって悪かったかなーって」
「そ、そんなわけないよ! というか、オードちゃんの誕生日よりも全然人少なかったし……」
「それでもまだここにきて一年も経ってないのに、すごいなーって。この人のこと独占しちゃっていいんだなって思ったら、なんだか今日はすごく嬉しくなっちゃった。……ありがとね」
 そう言って肩にぐりぐりと額をこすりつけるオードちゃん。
 すっごく可愛いけど、それ以上に僕は今とっても感動していた。

 何を言ってるんだろう、この人は。
 ありがとうは、僕の方で。
 こんなに僕のために準備してくれて、いっぱいの人に誕生日だよって言ってくれたのはオードちゃんで。
 だからここに来てくれた人のお祝いだって、オードちゃんから貰ったものなのに。

「僕の方こそ、ありがとうだよ」

 コツンと肩に乗るオードちゃんの頭に静かに頭を乗せて、感謝を伝える。
 本当にありがとう、オードちゃん。
 僕は君に出会えて、本当に良かったよ。


 夕闇の中、二人で手を繋いで帰る帰り道。
 お互い何故か無言で、なにか話してもその会話はすぐ途切れて。

「月が、綺麗だね」
「……うん、本当に。今日はお月見日和だ」

 そう言ってお互い笑い合って、とっても満ち足りていて。
 ああ、この人と一緒でよかったなって心の底から思える人に出会えてよかったって、本当にそう思う。

 広場に差し掛かった時、ポッケにこつんとあたる包。
 あ、と思い出して、今日ここで渡したらどうだろうと思い当たる。

 そのペアネックレスはまんまるの形をしていて、ちょうど斜めに半分に割れるから。
 月に見立てるには、ちょうどいいんじゃないかなってそう思って。
 グロウ、グッジョブと心の中で指を立てる。

「オードちゃん」
「ん? なぁに?」

 立ち止まって、オードちゃんに声を掛ける。

「この間の、やり直しをさせて欲しいんだけど」
「やり直し?」

 そう言って首をかしげるオードちゃんに、ちょいっと唇を指差して意図を伝える。
 本当は何も言わないほうがいいんだろうけれど、なんだかあの時は酷すぎたから、ちゃんと言いたくて。

「ダメ?」
「だ、ダメっていうか……」

 聞かないでよ、と真っ赤になったオードちゃんから言われた気がした。
 だからそのままオードちゃんを抱きしめて、頬を手で支えて。
 そしてそのまま、優しくその柔らかな唇に口づける。

 オードちゃんはぴくんと動いて、それからプルプルと震えだして。
 緊張がこちらにも伝わってくるよと思いながら、僕の頭は冷静で。

 唇を離してから、首の部分にネックレスをかける。

 そうしてからもう一度口づけて、もう一度離れて。
 本当は何度だってしたいんだけど、今日はこのくらいでやめないと家に返せなくなる気がしちゃうから。

「これ」
「……へ?」

 まだぽんやりとしているオードちゃんに声をかけて、自分のネックレスを掲げてみせる。
 それで自分の胸のあたりにもぶら下がっていることに気づいたのか、オードちゃんは慌て始めた。

「え? え? 今日はノルズくんの誕生日だよ? なんで私が……」
「月が綺麗だから、かな」

 そう言ってペアネックレスをピタリとくっつけて、月の形を作って。

「ね? だから、月をプレゼント」

 そう言って笑って見せれば、オードちゃんもふわりと微笑む。
 そうしてもう一度自然に僕らは口づけて。

 そんな二人を見ているのは、まんまるのお月さまだけだった。
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