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はじまる冬

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「ごめんね、チーかまちゃんが小型犬なの忘れてて!」

 レース大会当日、オードちゃんからそう謝られた僕は曖昧に笑みを返すことしか出来なかった。
 もう終わった話であったということもあるが、何よりペット大会に出場すること周りの犬が着飾ったとても豪勢な犬ばかりであったからである。

「僕とチーかま、すごく浮いてるよねぇ……」
「大丈夫大丈夫、絆はどこの組より負けてないから! 絶対優勝できるよ!」
「うん……」

 優勝したとして、この犬たちと一緒にチーかまが並ぶのかと思うと少々哀れな気持ちになる。
 かといってチーかま用の服なんて持ってやいないし、今更なんだけれども。
 ちらりと雪ぞりレースの方を見ると、僕らと同じような格好をした犬と飼い主たちが見えて、絶対に大型犬を買おうと心に密かに誓うのであった。

「はーい、それはまずペット大会の部を始めます。参加者の皆さんは位置についてください!」
「あ、いかなきゃ」

 そんなアナウンスが流れ、僕とチーかまは準備のためにレースのためにスタート地点へと向かおうとした時のことだった。
「ノルズくん!」
「うん?」
 オードちゃんの声に振り向いたところで感じる、頬への柔らかさ。
「勝利の女神のキスだよ!」
 そう言って真っ赤になりながらファイトと送り出してくれたオードちゃん。
 一気にテンションが上った。
 他の犬などどうでもいい。着飾った犬がなんぼのものだ。
 僕はこのレースの優勝を、オードちゃんに捧げる!

「いくぞ、チーかま!」
「わん!」
 チーかまもやる気満々で、返事をする。

 スタート地点の柵の奥側にチーかまを置いて、僕はゴール側へと駆けていって。
 そこでスタンバイオッケー。
 さあこいスタートの合図!

 バンっと音がなり、柵が外され一気に犬がスタートした。
「チーかま! こっちだチーかま!」
 途中に置かれた犬用のおやつや餌に見向きもせず、チーかまはこちらへと真っ直ぐに走ってくる。
 他の犬はその罠に引っかかって止まっているのに、見事な走りだった。
 そうして独走を貫いたチーかまは、僕の胸へ。
「わん!」
「よくやった!」
 チーかまを撫でくりまわそうと家建が、宙を切る。
 そしてそのまま、チーかまは僕の周りを一周して後ろへと走り去っていった。

 何事かと後ろを振り向けば、そこにはグロウがいて。
「おー、よくやったなチーかま。お前が一番だぞー」
「わん!わんわん!」
 グロウに撫で回されているチーかまの姿が、そこにはあった。

「……えー、本日のペット部門、レースの優勝はルロヨシ牧場のチーかまとノルズです! みなさま、盛大な拍手を!」

 ぽつんとゴールに立つ僕。
 グロウと僕の間を行ったり来たりするチーかま。
 そんな中でアナウンスが流され、湧く会場。

 僕はとても複雑な気持ちになりながら、その拍手を惜しみなく受けるのであった。
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