農場経営?そんなことより僕は恋が仕事です!

ただのひと

文字の大きさ
69 / 80
はじまる冬

69

しおりを挟む
 次の日、朝の温泉卵デートにオードちゃんは来なかった。

 僕はどうしてなのかよくわからなくて、とりあえず温泉卵を作ってから牧場に戻る。
 いつもの作業をしながらずっと考えていた。
 僕の何が悪かったのか、僕の何が悪いのか。

 寂しい気持ちなら、知っている。
 グロウがここを一旦去るといった時だって寂しかったし、オードちゃんと別れる時はいつだって寂しい。
 それと何が違うのかよくわからなくて、僕はずっと混乱していて。

 でも、とにかく今はオードちゃんに会いたかった。
 何が悪いのかわからないけれども、話がしたかったんだ。

 お昼前、仕事が終わると納品する卵を持って急いで牧場を出た。
 卵を抱えながら走って、走って。
 酒場につくには最短記録だったと思うほど、走って。

「こんにちはっ!」

 そうして吐いた酒場で挨拶をすれば、テッドさんがカウンターに居るだけでオードちゃんの姿は見えない。
「あの、オードちゃんは?」
「奥にいるよ」
「あ、あの卵」
「厨房に置いておけ」

 それだけの短い会話をして、厨房に入るけれどもやっぱりオードちゃんの姿は見えない。
 厨房に卵を置いて、オードちゃんの部屋をノックする。
 すると、はい、という声が聞こえて。
「オードちゃん、僕だよ。ごめん、会いたくないのかと思ったけど、どうしても僕が会いたくてきちゃったんだ。会いたくないならこのままでいいから、どうか話しをさせて」
 そう懇願するようにドアにすがりながら言えば、ドアは内側に開いて。
 ぎゅっと、オードちゃんの熱から包まれる。

「ごめんね。会いたくなかったわけじゃないよ。ただ、どんな顔していいかわからなくて行けなかっただけ。心配かけてごめんね」
 柔らかな熱はとても心地よくて、僕も抱きしめ返して。
 ああ、この熱が欲しかったんだと自覚する。

 僕はきっと、寂しかったんだ。

 それから二人で部屋に入って、ベッドに腰掛けて。
 しばし沈黙した後、僕から話しを始める。
「昨日、答えられなくてごめん。寂しい、っては思ってるんだと思う。でも言葉にどうしてもならなくて……」
「いいんだよ。私が意地悪を言っちゃったって思った。今まで寂しいって言えなかった人に、急に言えって言ったって無理っていうか……酷いことしちゃったなって」
 そうしてぎゅっともう一度、オードちゃんは抱きついてきて。僕はそれを支えるようにして抱きとめる。
「あのね、本当はこう言いたかったの。ノルズくんはもう孤独じゃないんだよって。私が居るんだよって言いたかったの。家族になるとか、そういう話はまだ早すぎるけど、それでももしかしてノルズくんの中に私は入れないんだって思ったら悲しくて」
「オードちゃんは、僕の心のど真ん中に居るよ?」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、信じきれなかったんだと思う。ノルズくんの家族の話を聞いて、ノルズくんはどこまでも孤独に慣れてるんだって思ったら……ごめんね。私、試すようなこと言っちゃったね」
「そんなの……」
「いいんだよって、言わないで。これは私の悪いところだから。ただノルズくんが欲しいって、そう思っちゃっただけだから」
 その言葉に、ドキリと心が揺れる。

 今はベッドの上で、抱き合ってる状態で。
 そんな言葉を言われたら、僕は違う意味に捉えそうになっちゃうわけで。
 違う意味で高鳴る胸に蓋をして、オードちゃんを引き剥がして。
「……ゆっくり、教えてくれる? 寂しいって、僕が言えるようになれるように」
「もちろん、教えてあげる。家族って、本当はすごく良いものなんだよっていうのも全部含めて教えてあげるから、覚悟しといてよね!」
 そう言ってふんと鼻を鳴らすオードちゃんに、思わず苦笑して。
「じゃあテッドさんにも心配かけてると思うから、お店の方に……」
「待って」
 移動しようよと言おうとしたところで、腕を引いて止められて。
 何事かと思えば、オードちゃんはじっとこっちを見つめて瞳が潤んでいて。
「仲直りのキスがしたい」
 直球でそんな事を言われたもんだから、こっちがひるむ。
 今、この状況で、それを言われると、僕の理性が!
「ダメ、かな……?」
 みるみるうちにしゅんとするオードちゃんに結局は勝てなくて、僕はまず額に一つキスを落とす。
「そこじゃなくて」
 ぶーたれた顔でそう言うから、いよいよ理性がグラグラと揺れるんだけれども、オードちゃんはお構い無しで。
「ん」
 目を閉じて、唇を少し突き出すその姿にもう退路はない。
 覚悟を決めて唇を重ねれば、満足そうにオードちゃんは微笑んだ。
 それに理性が崩壊して、僕はもう一度、少し乱暴にオードちゃんの唇を奪って、何度も繰り返して。
 ベッドに押し倒そうとしたところで、ハッと我に返ってオードちゃんを開放する。
「ごめん、やりすぎた」
「……んーん、気持ちよかったよ」
 へにゃりと笑ってそう言うから、僕はもう一度唇を奪いたくなって必死に堪える。
 この人は、多分僕を萌え殺すつもりなんだと思うと本気で思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました

小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」 二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。 第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。 それから二十年。 第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。 なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。 不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。 これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。 ※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

処理中です...