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はじまる冬
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次の日、朝の温泉卵デートにオードちゃんは来なかった。
僕はどうしてなのかよくわからなくて、とりあえず温泉卵を作ってから牧場に戻る。
いつもの作業をしながらずっと考えていた。
僕の何が悪かったのか、僕の何が悪いのか。
寂しい気持ちなら、知っている。
グロウがここを一旦去るといった時だって寂しかったし、オードちゃんと別れる時はいつだって寂しい。
それと何が違うのかよくわからなくて、僕はずっと混乱していて。
でも、とにかく今はオードちゃんに会いたかった。
何が悪いのかわからないけれども、話がしたかったんだ。
お昼前、仕事が終わると納品する卵を持って急いで牧場を出た。
卵を抱えながら走って、走って。
酒場につくには最短記録だったと思うほど、走って。
「こんにちはっ!」
そうして吐いた酒場で挨拶をすれば、テッドさんがカウンターに居るだけでオードちゃんの姿は見えない。
「あの、オードちゃんは?」
「奥にいるよ」
「あ、あの卵」
「厨房に置いておけ」
それだけの短い会話をして、厨房に入るけれどもやっぱりオードちゃんの姿は見えない。
厨房に卵を置いて、オードちゃんの部屋をノックする。
すると、はい、という声が聞こえて。
「オードちゃん、僕だよ。ごめん、会いたくないのかと思ったけど、どうしても僕が会いたくてきちゃったんだ。会いたくないならこのままでいいから、どうか話しをさせて」
そう懇願するようにドアにすがりながら言えば、ドアは内側に開いて。
ぎゅっと、オードちゃんの熱から包まれる。
「ごめんね。会いたくなかったわけじゃないよ。ただ、どんな顔していいかわからなくて行けなかっただけ。心配かけてごめんね」
柔らかな熱はとても心地よくて、僕も抱きしめ返して。
ああ、この熱が欲しかったんだと自覚する。
僕はきっと、寂しかったんだ。
それから二人で部屋に入って、ベッドに腰掛けて。
しばし沈黙した後、僕から話しを始める。
「昨日、答えられなくてごめん。寂しい、っては思ってるんだと思う。でも言葉にどうしてもならなくて……」
「いいんだよ。私が意地悪を言っちゃったって思った。今まで寂しいって言えなかった人に、急に言えって言ったって無理っていうか……酷いことしちゃったなって」
そうしてぎゅっともう一度、オードちゃんは抱きついてきて。僕はそれを支えるようにして抱きとめる。
「あのね、本当はこう言いたかったの。ノルズくんはもう孤独じゃないんだよって。私が居るんだよって言いたかったの。家族になるとか、そういう話はまだ早すぎるけど、それでももしかしてノルズくんの中に私は入れないんだって思ったら悲しくて」
「オードちゃんは、僕の心のど真ん中に居るよ?」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、信じきれなかったんだと思う。ノルズくんの家族の話を聞いて、ノルズくんはどこまでも孤独に慣れてるんだって思ったら……ごめんね。私、試すようなこと言っちゃったね」
「そんなの……」
「いいんだよって、言わないで。これは私の悪いところだから。ただノルズくんが欲しいって、そう思っちゃっただけだから」
その言葉に、ドキリと心が揺れる。
今はベッドの上で、抱き合ってる状態で。
そんな言葉を言われたら、僕は違う意味に捉えそうになっちゃうわけで。
違う意味で高鳴る胸に蓋をして、オードちゃんを引き剥がして。
「……ゆっくり、教えてくれる? 寂しいって、僕が言えるようになれるように」
「もちろん、教えてあげる。家族って、本当はすごく良いものなんだよっていうのも全部含めて教えてあげるから、覚悟しといてよね!」
そう言ってふんと鼻を鳴らすオードちゃんに、思わず苦笑して。
「じゃあテッドさんにも心配かけてると思うから、お店の方に……」
「待って」
移動しようよと言おうとしたところで、腕を引いて止められて。
何事かと思えば、オードちゃんはじっとこっちを見つめて瞳が潤んでいて。
「仲直りのキスがしたい」
直球でそんな事を言われたもんだから、こっちがひるむ。
今、この状況で、それを言われると、僕の理性が!
「ダメ、かな……?」
みるみるうちにしゅんとするオードちゃんに結局は勝てなくて、僕はまず額に一つキスを落とす。
「そこじゃなくて」
ぶーたれた顔でそう言うから、いよいよ理性がグラグラと揺れるんだけれども、オードちゃんはお構い無しで。
「ん」
目を閉じて、唇を少し突き出すその姿にもう退路はない。
覚悟を決めて唇を重ねれば、満足そうにオードちゃんは微笑んだ。
それに理性が崩壊して、僕はもう一度、少し乱暴にオードちゃんの唇を奪って、何度も繰り返して。
ベッドに押し倒そうとしたところで、ハッと我に返ってオードちゃんを開放する。
「ごめん、やりすぎた」
「……んーん、気持ちよかったよ」
へにゃりと笑ってそう言うから、僕はもう一度唇を奪いたくなって必死に堪える。
この人は、多分僕を萌え殺すつもりなんだと思うと本気で思った。
僕はどうしてなのかよくわからなくて、とりあえず温泉卵を作ってから牧場に戻る。
いつもの作業をしながらずっと考えていた。
僕の何が悪かったのか、僕の何が悪いのか。
寂しい気持ちなら、知っている。
グロウがここを一旦去るといった時だって寂しかったし、オードちゃんと別れる時はいつだって寂しい。
それと何が違うのかよくわからなくて、僕はずっと混乱していて。
でも、とにかく今はオードちゃんに会いたかった。
何が悪いのかわからないけれども、話がしたかったんだ。
お昼前、仕事が終わると納品する卵を持って急いで牧場を出た。
卵を抱えながら走って、走って。
酒場につくには最短記録だったと思うほど、走って。
「こんにちはっ!」
そうして吐いた酒場で挨拶をすれば、テッドさんがカウンターに居るだけでオードちゃんの姿は見えない。
「あの、オードちゃんは?」
「奥にいるよ」
「あ、あの卵」
「厨房に置いておけ」
それだけの短い会話をして、厨房に入るけれどもやっぱりオードちゃんの姿は見えない。
厨房に卵を置いて、オードちゃんの部屋をノックする。
すると、はい、という声が聞こえて。
「オードちゃん、僕だよ。ごめん、会いたくないのかと思ったけど、どうしても僕が会いたくてきちゃったんだ。会いたくないならこのままでいいから、どうか話しをさせて」
そう懇願するようにドアにすがりながら言えば、ドアは内側に開いて。
ぎゅっと、オードちゃんの熱から包まれる。
「ごめんね。会いたくなかったわけじゃないよ。ただ、どんな顔していいかわからなくて行けなかっただけ。心配かけてごめんね」
柔らかな熱はとても心地よくて、僕も抱きしめ返して。
ああ、この熱が欲しかったんだと自覚する。
僕はきっと、寂しかったんだ。
それから二人で部屋に入って、ベッドに腰掛けて。
しばし沈黙した後、僕から話しを始める。
「昨日、答えられなくてごめん。寂しい、っては思ってるんだと思う。でも言葉にどうしてもならなくて……」
「いいんだよ。私が意地悪を言っちゃったって思った。今まで寂しいって言えなかった人に、急に言えって言ったって無理っていうか……酷いことしちゃったなって」
そうしてぎゅっともう一度、オードちゃんは抱きついてきて。僕はそれを支えるようにして抱きとめる。
「あのね、本当はこう言いたかったの。ノルズくんはもう孤独じゃないんだよって。私が居るんだよって言いたかったの。家族になるとか、そういう話はまだ早すぎるけど、それでももしかしてノルズくんの中に私は入れないんだって思ったら悲しくて」
「オードちゃんは、僕の心のど真ん中に居るよ?」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、信じきれなかったんだと思う。ノルズくんの家族の話を聞いて、ノルズくんはどこまでも孤独に慣れてるんだって思ったら……ごめんね。私、試すようなこと言っちゃったね」
「そんなの……」
「いいんだよって、言わないで。これは私の悪いところだから。ただノルズくんが欲しいって、そう思っちゃっただけだから」
その言葉に、ドキリと心が揺れる。
今はベッドの上で、抱き合ってる状態で。
そんな言葉を言われたら、僕は違う意味に捉えそうになっちゃうわけで。
違う意味で高鳴る胸に蓋をして、オードちゃんを引き剥がして。
「……ゆっくり、教えてくれる? 寂しいって、僕が言えるようになれるように」
「もちろん、教えてあげる。家族って、本当はすごく良いものなんだよっていうのも全部含めて教えてあげるから、覚悟しといてよね!」
そう言ってふんと鼻を鳴らすオードちゃんに、思わず苦笑して。
「じゃあテッドさんにも心配かけてると思うから、お店の方に……」
「待って」
移動しようよと言おうとしたところで、腕を引いて止められて。
何事かと思えば、オードちゃんはじっとこっちを見つめて瞳が潤んでいて。
「仲直りのキスがしたい」
直球でそんな事を言われたもんだから、こっちがひるむ。
今、この状況で、それを言われると、僕の理性が!
「ダメ、かな……?」
みるみるうちにしゅんとするオードちゃんに結局は勝てなくて、僕はまず額に一つキスを落とす。
「そこじゃなくて」
ぶーたれた顔でそう言うから、いよいよ理性がグラグラと揺れるんだけれども、オードちゃんはお構い無しで。
「ん」
目を閉じて、唇を少し突き出すその姿にもう退路はない。
覚悟を決めて唇を重ねれば、満足そうにオードちゃんは微笑んだ。
それに理性が崩壊して、僕はもう一度、少し乱暴にオードちゃんの唇を奪って、何度も繰り返して。
ベッドに押し倒そうとしたところで、ハッと我に返ってオードちゃんを開放する。
「ごめん、やりすぎた」
「……んーん、気持ちよかったよ」
へにゃりと笑ってそう言うから、僕はもう一度唇を奪いたくなって必死に堪える。
この人は、多分僕を萌え殺すつもりなんだと思うと本気で思った。
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