農場経営?そんなことより僕は恋が仕事です!

ただのひと

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はじまる冬

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 家に戻った僕らはコートを脱いで、机に向かい合って座り込んだ。

 いつもなら隣りに座ってくれるのに、なんだろうと不思議に思っていると真剣な目をしたオードちゃんが口を開く。

「……ノルズくんの家族構成を聞いてもいいですか?」
「え? もちろんいいけど……」
 何をそんなに改まってと思いながらも、僕は自分の家族の顔を思い浮かべる。
「父と母、あと妹だよ」
「……家族仲が良くないっていうのはなんで? あ、別に答えたくなかったら答えなくてもいいけれど」
「そんなに珍しい話でもないと思うけど……」
「いいの。聞きたいだけだから」
「うーん……。単純に妹が病弱でね。それにつきっきりの母親。仕事人間の父親。だから僕は一人で家にいることが多かったから、関わりは薄いんだ」
「妹さんが病弱って……それ、ここにいていいの?」
「別に問題はないよ。昔から僕は病室に入れてもらえなかったし」
「入れてもらえなかった?」
「余計な菌が移ると困るからって。無菌室に居るんだよ、僕の妹」
「それなら余計に心配じゃないの?」
「特には……だって昔から家にいなかったから、本当に関わりが薄いんだ。母さんも着替えに来たり僕の食事代を置いていくだけだったしね」
「……ノルズくんは、それで寂しくなかったの?」
「寂しい、って感覚はないかな。ずっとそうだったし。むしろここに来るのも反対も何もされなかったから、嬉しいくらいだ」
「でもそんなのって!」
「うーん……ごめんね、オードちゃん。。オードちゃんがどうしてそんな顔をするのか、僕にはよくわからないんだ」

 オードちゃんの顔は、怒っているようにも悲しんでいるようにも見えて。
 僕は一人、困ってしまう。
 昔からそうだったものはそうだったものだから、今更ここでそれを問われても僕はなんとも思えないんだよ。

「……ノルズくんってさ、家族をもちたいって思いはないの?」
「ないわけじゃないけど……よくわからないかな。結婚はしたいなって人は目の前にいるけど」
「そ、そういうのは置いといて!」
 茶化してみるけれども、それでもダメで。
 オードちゃんが真剣になにかに怒っていて、悲しんでいるってだけはわかるんだけど。
「……家族ってものがよくわからないから、自信はないかな」
 だからこっちも本音を言うしか無くなって、正直にそれを暴露する。

 オードちゃんとは結婚したいと思う。
 だってそうしたら、オードちゃんは永遠に僕のものになる。
 僕の妻ですって、ノースみたいなやつが近寄ってきたら自信を持って言えるようになるから。
 けれども、子供が出来たらどうだろう?
 僕は大切に育ててあげられるだろうか?
 父みたいに、仕事人間にならないだろうか?

 正直、よくわからなかった。

「……ノルズくんは、寂しい思いを今までしてきたんだね。寂しいがわからなくなるくらい」
「そうなのかな?」
「私なら、お父さんがいなくなったら寂しいよ。一人の夜を考えたら、寂しくって泣けちゃうかもしれない」
「テッドさんなら大丈夫だよ。オードちゃんのこと、大好きだもの」
「うん。だからね、余計に私は寂しいな。この感覚がノルズくんがわからないってことが、寂しい」
「……寂しい?」
「うん、寂しいよ」
 オードちゃんが、よくわからないことを言う。
 どうして僕が寂しいがわからないことが、オードちゃんが寂しいんだろう?
 オードちゃんには関係ないことなのに。

「ノルズくん、私には関係ないことなのにって思ってるでしょ?」

 心の内を読まれて、ドキッとした。
 口から出ていたのかと思って思わず口を塞げば、違うよってオードちゃんが言う。

「あのね、ノルズくん」
 そう言いながら、オードちゃんは僕の隣に移動してきて。
 ぎゅうっと手を握って、こういうんだ。

「ノルズくんの家族になりたいって思うから、私は寂しいんだよ」
「オードちゃん?」
「こうして隣りにいて、一人の時に一緒に居てくれたら私は寂しくない」
「僕だって、オードちゃんがそばに居てくれたら嬉しいよ」
「じゃあ私が居ない時に一人でいたら、寂しい?」
「…………」
 その言葉に答えが見つけられず、僕は黙り込む。
「きっとノルズくんは、寂しくないんだよね」
「……そんな、ことは」
 ないよ、とは言えなくて、やっぱり僕は黙り込んで。

「だから私は今、寂しいよ」
 そう言ってオードちゃんは、涙を一つこぼして。
 それがとっても綺麗で、思わず手で掬い取った。
「どうしたらノルズくんのそれを救えるのか、私わからなくてごめんね」
 そうして、オードちゃんはそのまま泣いて。
 泣いて泣いて、目を腫らして送らせてもくれずに帰っていった。
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