67 / 80
はじまる冬
67
しおりを挟む
「デート申請を出したいんですが!」
カウンターに居るテッドさんに向かって僕がそう言ったのは、今回が初めてだった。
テッドさんは少し目を細くしてから、磨いていたグラスを棚に置くと向き直る。
「それはいつだ?」
「あ、明日あたりにシュニップの出荷が一度終わるので、その次の日に!」
「てことは明後日か。いいぞ」
「理由は二人で山に出る白キツネを見てみたいなって思ってって、良いんですかー!?」
「声がでかい」
「あ、すみません。もっとちゃんとした申請が必要なのかと思って」
「特に理由も聞かんよ。そんなもん野暮だろう」
「そ、そういうもんなんですかね……?」
「そういうもんさ」
それだけ言うとテッドさんはまた次のグラスを拭き始め、あっさりと許可が取れてしまった。
「ね? すぐに取れるよって言ったでしょ?」
近くで聞いていたらしいオードちゃんがあっさりとそういうと、僕の手を取る。
「で、でもまさかこんなにあっさりとれるだなんて……」
「今は冬だから、昼間は特に寒くて出入りが少ないから。お休みも簡単に取れるよって、私言ったよ?」
「はい、聞きました……」
でもそういう問題じゃなくて、デートに関することへの許可がダメだ、とか言われるかと思ったんですって。
「じゃあ明後日、久しぶりのデートだね! 白キツネは山の麓で見れるから、それを観察しつつ温泉に行ってー」
そう言って僕の手の指をいじりながらデートプランをペラペラと話し始めるオードちゃん。
すみません、ここテッドさんの前なんですが。せめていちゃつくのは移動してからにしませんか、嬉しいけど。
「オード」
「ん? なに、お父さん」
「山に行くなら防寒はきちんとするようにな」
「うん、わかったよ」
「あとノルズくんが落ち着かないようだから移動して話しなさい」
「え? あ、ごめんごめん。じゃあいつものところに移動しようか」
オードちゃんもテッドさんも気にした様子もなく、そのまま席へと移動する。
仲がいいのはわかるんだけど、これでいいものなんだろうか……?
さて、時間は流れてデートの日。
朝のいつもの温泉卵デートを終えて、そのままオードちゃんは僕の家へ。
寒いから中で待っているように言ってから、僕は搾乳やブラシ掛けを終わらせるとデートの始まりだ。
「ノルズくんとのきちんとしたデート、久しぶりで嬉しいな」
ご機嫌な僕の彼女はもこもこのコートを着て、嬉しそうに繋いだ手を上下に振ってゆったりと歩く。
その速度に合わせて僕も歩くんだけれども、改めて言われると僕も嬉しくなって、一緒に手を上下に振って歩いた。
「あ、あの子達だよ!」
山の麓にいくと、白い狐の親子が見えて、少し離れた場所から僕らはそれを見守る。
「白い狐、僕初めて見たや」
「ここら辺にしか住んでないんだってー。だから一回でも良いからノルズくんに見せてあげたかったんだよね」
そう言ってにこにこと笑うオードちゃん。今日もうちの彼女は可愛い。
「あ、もう一匹来たよ? 家族なのかな? 仲が良くてかわいー!」
オードちゃんの言うように、いつの間にか子狐の隣に二匹の白い狐が立っている。
「家族かー。狐でも家族って居るんだね」
「ねっ」
そう言って嬉しそうにオードちゃんはその家族をじっと見つめ、微笑んでいる。
「そう言えば、ノルズくんって家族に手紙とか出さないの? もしくは年越しあたりに帰省するとか」
「うーん、特には考えてないかな。うちって家族仲が良くないし」
「え」
聞いてはいけなかったという顔をしたオードちゃんがこちらを振り向くから、それが面白くて思わず微笑んでしまう。
「ご、ごめん。聞いちゃいけないことだったね……」
「オードちゃんに聞かれて困ることはなにもないよ。それに家族仲が良くないってだけで、別に家族がいないわけでもないし……多分僕のことなんかいなくても気にしてないってだけ」
「え……」
「オードちゃんにこそごめんね。お母さんの事思い出して辛くならない?」
「ならないよ。うちの場合はお母さんが定期的に私に手紙をくれるから」
「そうなんだ? じゃあ、よかった」
家族関係でトラウマがあるのは僕よりオードちゃんの方のはずなので、その返答に僕はほっと息を吐く。こちらこそ聞いちゃいけないことだったかと思ってドキドキしちゃったよ。
「あ、巣穴に入っちゃう」
「寒いもんね。巣穴でぬくぬくしてねー」
そうやって、僕らの狐鑑賞は終わりを告げたのだった。
「さて、じゃあ次は温泉の方に行くんだっけ? でも温泉卵は朝作っちゃったし、もっと作るの?」
「…………」
「オードちゃん?」
黙り込んでしまったオードちゃんに向けて首を傾げれば、ハッとした顔で我に返る。
それを不思議に思っていると、オードちゃんは繋いだ手にギュッと力を入れて、僕に言うのだった。
「……デートのプラン、変更しても良い?」
「もちろん良いけど……どうしたの?」
「ノルズくんに聞きたいことがあります」
「僕に? いいけれど。じゃあ寒いし家に戻ろうか」
そうして僕らはデートのプランを変更し、僕の家に帰ることになったのだった。
カウンターに居るテッドさんに向かって僕がそう言ったのは、今回が初めてだった。
テッドさんは少し目を細くしてから、磨いていたグラスを棚に置くと向き直る。
「それはいつだ?」
「あ、明日あたりにシュニップの出荷が一度終わるので、その次の日に!」
「てことは明後日か。いいぞ」
「理由は二人で山に出る白キツネを見てみたいなって思ってって、良いんですかー!?」
「声がでかい」
「あ、すみません。もっとちゃんとした申請が必要なのかと思って」
「特に理由も聞かんよ。そんなもん野暮だろう」
「そ、そういうもんなんですかね……?」
「そういうもんさ」
それだけ言うとテッドさんはまた次のグラスを拭き始め、あっさりと許可が取れてしまった。
「ね? すぐに取れるよって言ったでしょ?」
近くで聞いていたらしいオードちゃんがあっさりとそういうと、僕の手を取る。
「で、でもまさかこんなにあっさりとれるだなんて……」
「今は冬だから、昼間は特に寒くて出入りが少ないから。お休みも簡単に取れるよって、私言ったよ?」
「はい、聞きました……」
でもそういう問題じゃなくて、デートに関することへの許可がダメだ、とか言われるかと思ったんですって。
「じゃあ明後日、久しぶりのデートだね! 白キツネは山の麓で見れるから、それを観察しつつ温泉に行ってー」
そう言って僕の手の指をいじりながらデートプランをペラペラと話し始めるオードちゃん。
すみません、ここテッドさんの前なんですが。せめていちゃつくのは移動してからにしませんか、嬉しいけど。
「オード」
「ん? なに、お父さん」
「山に行くなら防寒はきちんとするようにな」
「うん、わかったよ」
「あとノルズくんが落ち着かないようだから移動して話しなさい」
「え? あ、ごめんごめん。じゃあいつものところに移動しようか」
オードちゃんもテッドさんも気にした様子もなく、そのまま席へと移動する。
仲がいいのはわかるんだけど、これでいいものなんだろうか……?
さて、時間は流れてデートの日。
朝のいつもの温泉卵デートを終えて、そのままオードちゃんは僕の家へ。
寒いから中で待っているように言ってから、僕は搾乳やブラシ掛けを終わらせるとデートの始まりだ。
「ノルズくんとのきちんとしたデート、久しぶりで嬉しいな」
ご機嫌な僕の彼女はもこもこのコートを着て、嬉しそうに繋いだ手を上下に振ってゆったりと歩く。
その速度に合わせて僕も歩くんだけれども、改めて言われると僕も嬉しくなって、一緒に手を上下に振って歩いた。
「あ、あの子達だよ!」
山の麓にいくと、白い狐の親子が見えて、少し離れた場所から僕らはそれを見守る。
「白い狐、僕初めて見たや」
「ここら辺にしか住んでないんだってー。だから一回でも良いからノルズくんに見せてあげたかったんだよね」
そう言ってにこにこと笑うオードちゃん。今日もうちの彼女は可愛い。
「あ、もう一匹来たよ? 家族なのかな? 仲が良くてかわいー!」
オードちゃんの言うように、いつの間にか子狐の隣に二匹の白い狐が立っている。
「家族かー。狐でも家族って居るんだね」
「ねっ」
そう言って嬉しそうにオードちゃんはその家族をじっと見つめ、微笑んでいる。
「そう言えば、ノルズくんって家族に手紙とか出さないの? もしくは年越しあたりに帰省するとか」
「うーん、特には考えてないかな。うちって家族仲が良くないし」
「え」
聞いてはいけなかったという顔をしたオードちゃんがこちらを振り向くから、それが面白くて思わず微笑んでしまう。
「ご、ごめん。聞いちゃいけないことだったね……」
「オードちゃんに聞かれて困ることはなにもないよ。それに家族仲が良くないってだけで、別に家族がいないわけでもないし……多分僕のことなんかいなくても気にしてないってだけ」
「え……」
「オードちゃんにこそごめんね。お母さんの事思い出して辛くならない?」
「ならないよ。うちの場合はお母さんが定期的に私に手紙をくれるから」
「そうなんだ? じゃあ、よかった」
家族関係でトラウマがあるのは僕よりオードちゃんの方のはずなので、その返答に僕はほっと息を吐く。こちらこそ聞いちゃいけないことだったかと思ってドキドキしちゃったよ。
「あ、巣穴に入っちゃう」
「寒いもんね。巣穴でぬくぬくしてねー」
そうやって、僕らの狐鑑賞は終わりを告げたのだった。
「さて、じゃあ次は温泉の方に行くんだっけ? でも温泉卵は朝作っちゃったし、もっと作るの?」
「…………」
「オードちゃん?」
黙り込んでしまったオードちゃんに向けて首を傾げれば、ハッとした顔で我に返る。
それを不思議に思っていると、オードちゃんは繋いだ手にギュッと力を入れて、僕に言うのだった。
「……デートのプラン、変更しても良い?」
「もちろん良いけど……どうしたの?」
「ノルズくんに聞きたいことがあります」
「僕に? いいけれど。じゃあ寒いし家に戻ろうか」
そうして僕らはデートのプランを変更し、僕の家に帰ることになったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました
小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」
二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。
第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。
それから二十年。
第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。
なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。
不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。
これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。
※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
王女殿下のモラトリアム
あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」
突然、怒鳴られたの。
見知らぬ男子生徒から。
それが余りにも突然で反応できなかったの。
この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの?
わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。
先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。
お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって!
婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪
お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。
え? 違うの?
ライバルって縦ロールなの?
世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。
わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら?
この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。
※設定はゆるんゆるん
※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。
※明るいラブコメが書きたくて。
※シャティエル王国シリーズ3作目!
※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、
『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。
上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。
※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅!
※小説家になろうにも投稿しました。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
魔法使いとして頑張りますわ!
まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。
そこからは家族ごっこの毎日。
私が継ぐはずだった伯爵家。
花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね?
これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。
2025年に改編しました。
いつも通り、ふんわり設定です。
ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m
Copyright©︎2020-まるねこ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる