月夜にUFOでお散歩

スズキヒサシ

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月夜にUFOでお散歩

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 カチコチカチコチ。
 大きく聞こえる時計の音。
 しょうまくんは、つむっていた目を開けて、布団ふとんの中でモゾモゾ動きました。
 いったい何分たったのでしょう。
 お父さんに、早く寝なさいと言われて、布団に入ってからだいぶたった気がします。
 でもうす暗い部屋の中で、ひとりぽっちでいるのは、なんだか落ちつきません。
 ーーあーあ、お母さんがいたらなぁ。
 お母さんがとなりにいたら、きっと何かお話をしてくれます。
 けれど、いつもならとなりで寝ているお母さんは今日はいません。
 しょうまくんのお母さんは、赤ちゃんがうまれるので、昨日から入院しているのです。
 お父さんもおじいちゃんもおばあちゃんも、みんな大よろこびです。
 しょうまくんも、弟か妹ができるなんて、とても楽しみです。
 でも、お母さんはおなかがふくらんできてから、大変そうでした。
 しょうまくんは、うれしいけど心配でたまりません。
 ーー早くお母さんかえってこないかなぁ。
 布団から顔を出して、てんじょうをぼうっと見つめていると、時計の音がさらに大きくなった気がしました。
 カチコチ、カチコチ。
 明日も学校があるので、早く寝なければなりません。
 しょうまくんは、春に二年生になったばかりです。
 一年生のときより、勉強はむずかしくなっていますし、友だちづき合いだってあります。
 目をとじて、寝よう寝ようとしていると、ふいに何か聞いたこともない音が聞こえました。
 ゴオオオ、というような変わった音です。
 しょうまくんは、目をあけて音のする窓の方を見ました。
 とたんに、まぶしい光が差しこみました。
「な、なに!?」
 布団から起き上がり、まっ白な光に包まれている窓の方へかけ寄ります。
 カーテンをあけると、なんとそこには大きな銀色のかたまりが浮いていました。

「ゆ、ユーフォー?」

 UFOとは、未確認飛行物体みかくにんひこうぶったいという意味で、何かわからない飛んでいる物のことです。
 しょうまくんは、テレビでみたことがあったので、それがUFOだとすぐにわかったのです。
 そのUFOはとても大きくて、肉まんみたいなかたちをしていました。
 丸い窓が一つあり、白い光が周りをピカピカと照らしています。
 浮いたままのUFOを見ていると、窓の向こうに人かげがあらわれました。
 なんと、こっちに向かって手をふっています。

「やあ! 地球の子どもよ」

 とつぜん、窓がすうっと開いて、宇宙人があいさつしてきました。
 どう見ても宇宙人です。
 だって、つるんとした緑色の顔に、目と口はありますが、鼻もかみの毛もありません。
 頭の上には二本のしょっかくが生えています。
 しょうまくんは、まばたきもわすれて見つめました。
「すまないが、ここはどこだろうか? わたしはどうやら道にまよってしまったらしい」
 しょうまくんはおどろきながら、窓をあけてなんとか答えました。
「ここはぼくの家だよ。まよったってどういうこと?」
「わたしはケンタウルス星系からやってきた地球観光ツアーの者だ」
「地球観光ツアー?」
 おばあちゃんがよくバスで行っている日帰りツアーみたいなものかな? としょうまくんは思いました。
 しかし、ケンタウルスというのは、どこでしょう?
 聞いたこともありません。
「ほかの宇宙船とはぐれてしまったらしい」
 宇宙人はしょんぼりしています。
 しょうまくんも、お母さんと買い物に行って、はぐれてしまったことがあったので、宇宙人の心ぼそい気持ちがよくわかりました。
 仕方がないので、しょうまくんは部屋のつくえに置いてある地球儀ちきゅうぎを持ってきました。
「みて、ここがぼくたちのいるところだよ」
 うなずいた宇宙人が、とつぜん窓からすがたを消すと、UFOの何もない場所にドアがあらわれました。
 そして、ドアからまっすぐにしょうまくんの部屋の中へ青いライトの道がのびてきました。
 ドアがひらいて、宇宙人が細い手を、おいでおいでと振りました。
 すると、しょうまくんの体がフワッとうき上がり、窓からUFOに向かって青いライトの道をすすんで行きました。
「わっ! な、なに?」
「どうか一晩ひとばんだけおつき合いねがえないだろうか? わたしにはきみの案内が必要だ」
 とつぜんの話に、しょうまくんはあわてました。
「ええっ!? こまるよ」
 夜に出歩くなんて、お父さんにしかられてしまいます。
 でも、宇宙人は言いました。
「すぐにかえってくるから、だいじょうぶさ。きみがいないことにもきづかないよ」
 本当でしょうか?
 しょうまくんは、うたがいの目を宇宙人に向けました。
「ふむ、そんなに心配なら、これでどうだい?」
 宇宙人が手をパパッと振ると、なんとしょうまくんのとなりに、もう一人のしょうまくんがあらわれました。
 本物のしょうまくんにそっくりです。
 にせもののしょうまくんは、すぐさまベッドに入り、寝始めてしまいました。
「さあ、行こう!」
 宇宙人がUFOの中へと、しょうまくんをさそいます。
 UFOに入ったしょうまくんは、おどろきました。
 肉まんのような形のUFOの中は、とても広くて、まわりのようすがわかるように、ぐるりとテレビのモニターがついています。
 赤や青、黄色のボタンがたくさんついた操縦席そうじゅうせきに、宇宙人がすわりました。
「きみの席はとなりだよ」
 しょうまくんがすわると、すぐにUFOが動き出しました。
「ど、どこに行くの?」
 しょうまくんがたずねます。
「まずは一番近くの、ゆうめいな場所さ。そこにツアーの宇宙船がいると思うんだ」
 しょうまくんは、ずっとかかえていた地球儀を見下ろしました。
「ここから近いゆうめいな場所かぁ」
 パッと頭にうかんだのは、京都でした。
 去年、お父さんとお母さんといっしょに旅行に行ったとき、世界でもゆうめいな場所だと聞きました。
 みんなが大切にするべき場所や建物にえらばれる世界遺産せかいいさんになっているところです。
 宇宙人が手前のボタンをおすと、目の前のモニターがピカッと光って、あっという間にUFOは京都の上空に移動しました。
「すごいや!」
 しょうまくんは、びっくりしながらモニターを見ました。
 そこには古くからの屋根がわらの並ぶ家々がうつっていました。
 あわい光に照らされて、夜の町はとてもきれいです。
 家々の向こうがわに、京都タワーも見えています。
 UFOはゆっくり動き出しました。
 京都のあたたかな夜景やけいをすぎていくと、ひときわ明るく照らされている場所が見えました。
 夜の銀閣寺ぎんかくじです。
 宇宙人が、ほうっと感心したように息をつきました。
「冬は雪がつもって、もっときれいなんだよ」
 しょうまくんが言いました。
 なんだか、自分の家でもないのに、ほこらしい気持ちです。
「地球人は、うつくしい建物を作るんだね」
 宇宙人もにっこりしました。
 京都の上空をぐるりとまわると、宇宙人がざんねんそうに言いました。
「どうやらツアーの宇宙船は、べつの場所に行ったみたいだ」
 しょうまくんもがっかりしました。
 もしかしたら、ほかの宇宙人にも会えたかもしれないのですから。
 宇宙人は、しょうまくんに言いました。
「すまないが、もう少しだけつき合ってもらえないだろうか?」
 しょうまくんは、もちろん一緒に行くことにしました。
 UFOはとても乗りごこちがいいし、なんと一瞬でほかの場所に移動できるのです。

 次にUFOが向かったのは、中国でした。
 長い長い城壁じょうへきが見えました。
 高い空から見ているのに、はてしなく遠くまでとぎれることなく続いています。
 万里ばんり長城ちょうじょうという二千三百年も前から、作られてきた高い壁です。
「なんて長いんだ!」
 宇宙人が、びっくりして言いました。
 しょうまくんも写真でしか見たことがなかったので、町をぬって、山を越えて、どこまでも続いている長城に目をみはりました。
 コツコツがんばって作った人たちは、ほんとうにすごいと思いました。
 でも、ここにも宇宙船はいませんでした。

 つづいてUFOはカンボジアのアンコールワットに向かいました。
 とうもろこしのような屋根がたくさん建っています。
 ここはお寺の遺跡いせきなのですが、しょうまくんが知っているお寺とは、まったくちがっていました。
 とてもたくさんの建物が集まってできています。
 まわりの池からのびる橋も石づくりでりっぱです。
「これはまた変わった建物だ」
 宇宙人は、興味深そうに言いました。
 でも、ここにもツアーの宇宙船はいませんでした。

 UFOはさらに西へ、今度はシリアのダマスクスに飛びました。
 ついたところは、ウマイヤ・モスクというモスクでした。
 モスクというのは、イスラム教のお寺のことです。
 見てすぐに、しょうまくんも宇宙人も、「わあっ!」と声をあげました。
 とてもキラキラかがやいていたからです。
 中庭の入口の上に金色のモザイクがあり、日ざしをあびてまぶしいくらい光っています。
 中庭をぐるりとかこっているはしらはまっ白です。
 宇宙人が何かボタンを押すと、モニターに建物の中のようすがうつりました。
 とても広くて高いてんじょうに、色のついた窓ガラス。
 ここの柱もまっ白く、はしからはしまでが長いつくりになっていました。
 しょうまくんは、学校の体育館より広いので、びっくりしました。
 宇宙人は、たくさんの人がおいのりしているのを見て、「ほうほう」と感心したようすでした。
 でも、ここにもやっぱり、宇宙船はいませんでした。

 つづいてとうちゃくしたのは、エジプトです。
 しょうまくんも知っている、てっぺんがとがったピラミッドが見えています。
「ふしぎな建物だね。あれはなんなんだい?」
 宇宙人がたずねました。
「むかしの王様のおはかなんだ」
 しょうまくんがこたえると、宇宙人は「ずいぶんむかしの人間は大きかったんだな」と言いました。
 お墓が大きいだけなのですが、それをおしえてあげるまえに、UFOがビューンとまた移動しました。
 ここにも宇宙船はいなかったのです。

 つぎにUFOがたどりついたのは、イタリアのコロッセオでした。
 円形闘技場えんけいとうぎじょうという、中央に舞台ぶたいがあり、まわりに観客席かんきゃくせきが広がる、すりばちの形をした建物です。
 しょうまくんは、お父さんと行ったことのある野球場みたいだな、と思いました。
 でも、ここにもツアーの宇宙船はいませんでした。
 すぐにUFOは移動します。
 イギリスのストーンヘンジ、そして海をわたってアメリカにも。
 自由の女神めがみの上にうかんで、UFOはなかまの宇宙船をさがします。
 でも、宇宙船は見つかりません。
「いったいみんな、どこに行ったのだろう?」
 宇宙人はツアーで行く場所を全部まわってしまいました。
「しかたがないな。地球の外で待っている母船ぼせんに帰ろう」
 母船というのは、ツアーで来ているUFOたちが乗ることのできるとても大きな宇宙船のことです。
 観光がおわったら、その母船にもどって、自分たちの星に帰るのだと、宇宙人は言いました。
「なかまと観光できなくてざんねんだったね」
 しょうまくんが言うと、宇宙人は首をふりました。
「きみといっしょにまわれて、とても楽しかったよ。」
 宇宙人は、にっこりして言いました。
 しょうまくんもうれしくなりました。
「ぼくもすごく楽しかった」
 宇宙人が、しょうまくんの地球儀を見ました。
「じゃあ、そろそろきみの家に帰ろうか」
 そのとき、しょうまくんは、あることを思いついて「あのさ」と宇宙人に言いました。

 しょうまくんは、UFOのモニターを見ながら、地球儀をむねにギュっとだきしめました。
 ベッドにねているお母さんのよこに、小さなベッドがならんでいます。
 そこには、白いおくるみにくるまれた赤ちゃんがねむっていました。
 ちょっとだけかみの毛がはえていて、顔の赤いお人形みたいです。
 赤ちゃんは、むずがゆそうに手を動かしました。
「人間の赤んぼうは、本当に小さいんだなあ」
 宇宙人も、じっと見ています。
 しょうまくんは、赤ちゃんのとなりでねむっているお母さんのおだやかな顔を見て、ホッとしました。
 ここは、お母さんが入院している病院です。
 しょうまくんは、宇宙人にたのんで、帰りに病院によってもらったのです。
 もう赤ちゃんがうまれているとは、知りませんでした。
 どうやら、ついさっきうまれたばかりのようです。
「つれて来てくれてありがとう」
 しょうまくんがおれいを言うと、宇宙人はにっこりしました。

 さあ、そろそろお別れです。
 しょうまくんは、自分の部屋の窓からUFOに手をふりました。
 かわりに部屋でねていたにせもののしょうまくんは、もういません。
 宇宙人がUFOの窓から顔をのぞかせて、同じように手をふりました。
 そして、来たときとまったく同じ、まぶしい光とともに、UFOはパッときえました。
「さようなら! またね!」
 しょうまくんが大きな声で言いましたが、聞こえたかどうかはわかりませんでした。
 そのとき、部屋のドアがひらいて、とつぜんお父さんがさけびました。
「赤ちゃんがうまれたぞ!」
 しょうまくんは、ふりかえって笑顔で「しってるよ」と言いました。



おわり
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