国を捨てて自由を掴む 🌿〜王家脱出、ブックカフェ行き〜☕️

神谷アキ

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1、『ブックカフェ ラーシャ』

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「やっと開店できる!」

 ここまで本当に長かった。
国王の第五子として生まれ、「サラーシャ」と名付けられた私。
自分の生まれ育った国を飛び出し、単身で隣国ナランジェへとやって来た。

 なぜ王女がそんなことを──と不思議に思う人もいるだろう。

 私の母は街の娘だった。
お忍びで街を訪れた現国王と出会い、恋に落ちて、そして生まれたのが私。
 幸運にも母は側室になれたが、ただの街娘が王室に入っても馴染めるはずがない。
 やがて王妃様から嫌がらせを受け、母は精神を病み、体まで弱っていった。

 そんな中で生まれた私は、当然のように厄介者扱いだった。
 メイドたちが最低限の世話をしてくれはしたけれど、ほとんど部屋に閉じ込められて過ごす日々。
 本をねだれば与えられたから、退屈はしなかったけれど。

 そして、確か六歳の頃。部屋で本を読んでいると、二番目のお姉様が突然やって来て──

「父上にもらった物を寄こしなさい!」

 と怒鳴った。

 王様はこの王宮で、唯一と言っていいほど私に優しい人だった。
 毎年、誕生日にはプレゼントをくれる。……まあ、自分で母を側室にしたのだから、王妃様をちゃんと抑えてほしいところだけど。

 私が嫌がると、お姉様はそのプレゼント──お気に入りの髪飾りを奪って走り去った。
 あわてて追いかけた私は、運動神経のなさを発揮して階段で足をもつれさせ、落ちてしまったらしい。
 三日ほど意識が戻らなかったと、あとで聞いた。

 そのとき王妃様に言われた言葉が、今でも忘れられない。

「そのまま起きなければ良かったのに」

 私は何も言わずに固まっていた。
 王妃様は私がショックを受けて黙り込んだと思ったのか、鼻で笑って去っていったけれど、違う。

(……私って、一度死んでたの!?)

 そう、前世の記憶が突然蘇ったのだ。前世でも、ビルの階段から落ちて──そこからの記憶がない。

(どれだけ階段に嫌われてるのよ)

 自分で心の中でツッコミながら、私は悟った。これはチャンスだと。
 この生活から抜け出すための計画を立て、十五歳になったら独り立ちしようと決めた。幸い、この国では十五歳で成人とみなされる。

 心も体も弱ってしまった母は、私が十歳になる前に亡くなった。
 だから、この国にもう未練はない。十五歳の誕生日パーティー(他の王族よりずっと小規模なもの)が終わった夜、私は城を抜け出した。

 持ち出したのは、大好きな本の山と、生活費代わりのドレス、少しばかりの宝石。私の部屋は誰も見回りに来なかったから、脱出は驚くほど簡単だった。

 ──そうしてたどり着いたのが、このナランジェの街。

 前世からずっとやりたかった夢がある。それは「ブックカフェ」を開くこと!
 本が好きな私にはぴったりの仕事だ。城を出るときも、本をできるだけ詰めて持ってきた。重くて大変だったけど、後悔なんてない。

 空き家を買い(宝石を売って資金を作った。使い道もなかったので)、準備を重ねて──ついに今日、開店の準備が整ったのだ!

「お客さん来てくれたら嬉しいけれど、読書しながら仕事できるなんて!あ、でも仕事もちゃんとしないと!」

 店名は『ブックカフェ ラーシャ』。
 自分の名前から取ったけれど、なかなか気に入っている。
 昨日から宣伝していたから、午後から開店が楽しみで仕方がない。

 本棚よし、机よし、椅子よし、メニューも完璧!
 料理は簡単なものばかりだけど、リクエストがあれば作る形式にした。空いているとき限定のサービスだ。

「あ、お店の前、掃除しとこ」

 飲食店の入り口が汚いと、入りづらいもの。念入りに掃除しよう。
 箒を手に、店の前を掃いていると──

「あ、サラちゃん! 今日からお店開けるんだってな! 客、来るといいな!」
「こんにちは! ありがとうございます! ぜひ来てくださいね!」
「おお、もうお店ができたのかい? 中の様子はどうだ?」
「トマさん! 改装工事、本当にありがとうございました! とっても雰囲気いいです!」

 通りのあちこちから、声をかけてくれる人たち。
 トマさんは、格安で改装工事をしてくれたご近所さん。引っ越しの挨拶をしたときから気に入ってくれて、息子のビートもよく手伝いに来てくれた。

「ビートも開店したら顔出すってよ! あのアイス、食いたいんだと!」
「わかりました、用意して待ってるって伝えてください!」

 もうすぐ春も終わり、暑い夏がやって来る。外も少しずつ暑くなってきたから、冷たいメニューを増やそうと思ってアイスを用意した。

 この世界には魔法がある。
 ただし、使えるのは主に貴族だけ。たまに市民の子供にも発現するらしいけれど、珍しいという。
 私は魔法を少しだけ使えるので、それでジュースを冷やしたり、アイスを作ったりしている。

 学園には通わなかったけれど、家庭教師はいた。
 王族に教師をつけないわけにはいかないからだ。
 その先生がとても優秀で、たくさんのことを教えてくれた。
 今思えば、私はあの先生はかなり好きだったな。どこかでもう一度会えたらいいな。

「あ、そろそろ急がないと!」

 ご近所さんと話していたら、掃除が全然進んでなかった。慌てて箒を片づけ、店の中へ戻る。初日にどのくらいお客さんが来るかわからないけれど、軽食を用意しておこう。

 ふっふ~ん♪ ふ~んふん♪

 鼻歌を歌いながら、手際よく準備を進める。
 王女時代にはできなかったけれど、前世では一人暮らしだったから料理くらいお手の物。

 そして、開店ギリギリまで準備を整え──

 店の前のプレートを、close から open へとひっくり返した。
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