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1、ナンパ男
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しおりを挟む人気のない路地裏で、拳銃を突きつけられている男がいた。
「おい、お前もストーカーか?」
「ひっ、ち、違います! 命令されてただけです!」
「俺がこうしなきゃまだ狙っていただろう? 誰の命令だ」
「そ、それは……」
この期に及んで言いよどむ男の額に、拳銃を突きつける。まだ自分の立場かわからないのかと安全装置を外すと、カチッと音がした。
その無機質な音に、男の体がびくっと震える。
「ひっ」
「まだ言わないのか?」
「言ったら俺達がけ、消される……!」
「だったら横に転がっている奴含めて、今俺が消してもいいんだぞ?」
横で気を失っている男にチラと視線を向ける。好戦的な奴で、こっちが手を出す前に飛びかかってきた。目の前の男は、一人になって腰が抜けてしまった腑抜けだ。
目線を合わせるようにしゃがみ込むと、勝ち目はないと踏んだのか躊躇いつつも話し始める。
「………親…に」
「なんだ? はっきり言え」
「あ、あの人のは、母親に……」
「…………くるってやがる」
拳銃を持った男はそう呟くと、倒れている男を足蹴にした。立ち上がり、蔑んだ目で男を見る。
「おい、こいつを連れて早く去れ。目障りだ」
「い、いいのか?」
「……だが、次にやったらわかっているな?」
「も、もちろんだ! こんな危ない契約は切る!」
冷や汗を大量に浮かべた男は、倒れているもう1人の腕を肩にかけ、去っていく。
それを見送った男もまた、拳銃をしまうと自分が来た方向へ帰って行った。
ーーーーー
あれから智也は、たびたびご飯をもらいにくる。必ず私の夕食前に来るからもう狙ってやっているとしか思えない。
そう思いながらだらだらとテレビを見ていると、私のスマホが鳴った。この音はバイト先からだ。
「もしもし」
「あ、夏美ちゃん? ごめん急なんだけど今日出てこれる?」
「はい! 大丈夫です」
「ほんと? 1人熱でこれなくなっちゃったの。接客の人が足りないからお願いね」
「わかりました」
通話が終わると急いで髪をとかし、軽くメイクをする。全部できたらすぐに家を出てバイト先へ向かった。しょうがない、今日はゆっくりできると思っていたんだけど。
私の働くレストランはお昼時が1番混む。ランチメニューを出しているからね。
着いたらすぐにバタバタと忙しく動き回っていると、お客さんを案内する声が聞こえる。目を向けると私がマスターにも愚痴を言ってしまったあのお客さんだった。
来た。よりにもよってお昼時に。
たまにバーのマスターに愚痴ってしまうけど、一人だけお客さんに本当にしつこい人がいる。
はっきり断っても意味がなかった。同僚によると、裏の家業の人らしい。この時間はいつも間に入ってくれる男の人がいないためか、私を見つけるとニヤニヤしながら話しかけてきた。
「夏美ちゃん、まだ俺と付き合う気はないの?」
「すみません、何度言われても付き合う気はありません」
「なんで? 洋服やアクセサリーだって何でも買ってあげるよ?」
「あまり欲しくはないので」
来るたびに繰り返される言葉にうんざりする。しかし、今日は様子が違った。いつもみたいに断り続けていると、目の前の男の目が鋭くなる。
「夏美ちゃんさー、このお店に迷惑かけたくないよね? 俺と一緒に来ればそんな心配をしなくて済むよ? いいかげんわからないかな」
「なっ……!」
両手を膝の上におき、店内をゆっくりと見渡しながら脅してきた。周りの人も気づいているけど、誰も助けては来れない。どうすればいいか頭を働かせていると、ここ数日で聞き慣れた声が聞こえた。
「あれ、夏美ちゃんじゃーん!」
智也が私の元へやってきた。今来たばかりなのか、案内しようとしてた店員が困ったようにこちらを見ている。
「誰だお前は」
馴れ馴れしく私に話しかけてきた智也に、男が名前を聞く。すると、チャラチャラしながら声だけは真面目な様子で智也が答えた。
「だれってー、彼氏になる予定の人?」
「ちょっと!」
慌てて違うと叫ぼうとしたが、手で口を覆われてしまう。顔を見ると、静かにというように、人差し指を自分の口元へ当てていた。
意図を察して私が頷くと、智也は男に向き直る。すると、男と一緒にいた人たちが騒ぎはじめた。
「おい、お前人をおちょくってるんじゃねぇよ」
「ふざけていると痛い目に合うぞ?」
オラッと言いながら腕を振る。危ないっと思って目をつぶったが、衝撃は来なかった。恐る恐る目を開けると、智也が目の前にある腕を掴んでいた。
驚いているその人をチラッと一目見ると、腕を掴んだまま体の向きを変えて、今度は正面の男に向き直る。
先程から黙ったままの男に向かって、挑発するように声をかけた。
「お兄さんさー、こんなやり方しても夏美ちゃんはなびかないって。今日はもう帰ったほうがいいと思うよ?」
男は睨み付けているが、何かを言う雰囲気はない。店内に一瞬静寂が訪れたが、チッと舌打ちをした後に立ち上がった。それを見て智也もつかんでいた腕を乱暴に離す。
「お前ら、帰るぞ」
「えっ、でも」
「いいから来い」
そのまま歩き出すと、連れを無視して1人で去ってしまった。絶対何か言ってくると思ったから拍子抜けだ。
呆然と後ろ姿を眺めていると、肩に置かれていた手が離れるのがわかった。
「うわー、大丈夫だった?」
出口を見ていると、智也が声をかけてきた。タイミングよく来てくれて助かったとお礼を言う。智也が来てくれなかったら、多分まだ絡まれたままだったはずだ。
「ありがとう、あの人いつもしつこくて」
「えー、今日だけじゃないのあの人?」
「2ヶ月ぐらい前からよくお店に来る人。それにしても本当にタイミングよかったね」
「そこの道歩いてたら夏美ちゃんが仕事しているのが見えて。せっかくだからお昼食べようと思って入ったらさ、夏美ちゃんのピンチでもうびっくり!」
「そうだったの? 絡まれていたのを助けてくれたのって……」
「うん、偶然中の偶然」
「そっか。でもありがと」
私の言葉に、両手でピースを作りながらタイミングよく助ける俺ってかっこいい! と一人でうんうん頷いている。
さっきまでの頼もしい姿の後影もなく、いつも通りの智也を見つめながら、最近なぜだか智也と会ってばかりだと少し不思議に思う。
それこそ偶然中の偶然だと、周りに迷惑をかけたことを詫びてから仕事を再開した。
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