一途な刺客 〜暗殺者の恋路〜

神谷アキ

文字の大きさ
3 / 11
1、ナンパ男

3

しおりを挟む
 
 人気のない路地裏で、拳銃を突きつけられている男がいた。

「おい、お前もストーカーか?」

「ひっ、ち、違います! 命令されてただけです!」 

「俺がこうしなきゃまだ狙っていただろう? 誰の命令だ」

「そ、それは……」


 この期に及んで言いよどむ男の額に、拳銃を突きつける。まだ自分の立場かわからないのかと安全装置を外すと、カチッと音がした。
 その無機質な音に、男の体がびくっと震える。


「ひっ」

「まだ言わないのか?」

「言ったら俺達がけ、消される……!」

「だったら横に転がっている奴含めて、今俺が消してもいいんだぞ?」

 横で気を失っている男にチラと視線を向ける。好戦的な奴で、こっちが手を出す前に飛びかかってきた。目の前の男は、一人になって腰が抜けてしまった腑抜けだ。
 目線を合わせるようにしゃがみ込むと、勝ち目はないと踏んだのか躊躇いつつも話し始める。

「………親…に」

「なんだ? はっきり言え」

「あ、あの人のは、母親に……」

「…………くるってやがる」

 拳銃を持った男はそう呟くと、倒れている男を足蹴にした。立ち上がり、蔑んだ目で男を見る。

「おい、こいつを連れて早く去れ。目障りだ」

「い、いいのか?」

「……だが、次にやったらわかっているな?」

「も、もちろんだ! こんな危ない契約は切る!」

 冷や汗を大量に浮かべた男は、倒れているもう1人の腕を肩にかけ、去っていく。

 それを見送った男もまた、拳銃をしまうと自分が来た方向へ帰って行った。



ーーーーー



 あれから智也は、たびたびご飯をもらいにくる。必ず私の夕食前に来るからもう狙ってやっているとしか思えない。

そう思いながらだらだらとテレビを見ていると、私のスマホが鳴った。この音はバイト先からだ。

「もしもし」

「あ、夏美ちゃん? ごめん急なんだけど今日出てこれる?」

「はい! 大丈夫です」

「ほんと? 1人熱でこれなくなっちゃったの。接客の人が足りないからお願いね」

「わかりました」

 通話が終わると急いで髪をとかし、軽くメイクをする。全部できたらすぐに家を出てバイト先へ向かった。しょうがない、今日はゆっくりできると思っていたんだけど。

 私の働くレストランはお昼時が1番混む。ランチメニューを出しているからね。
 着いたらすぐにバタバタと忙しく動き回っていると、お客さんを案内する声が聞こえる。目を向けると私がマスターにも愚痴を言ってしまったあのお客さんだった。

 来た。よりにもよってお昼時に。

 たまにバーのマスターに愚痴ってしまうけど、一人だけお客さんに本当にしつこい人がいる。
 はっきり断っても意味がなかった。同僚によると、裏の家業の人らしい。この時間はいつも間に入ってくれる男の人がいないためか、私を見つけるとニヤニヤしながら話しかけてきた。

「夏美ちゃん、まだ俺と付き合う気はないの?」

「すみません、何度言われても付き合う気はありません」

「なんで? 洋服やアクセサリーだって何でも買ってあげるよ?」

「あまり欲しくはないので」

 来るたびに繰り返される言葉にうんざりする。しかし、今日は様子が違った。いつもみたいに断り続けていると、目の前の男の目が鋭くなる。

「夏美ちゃんさー、このお店に迷惑かけたくないよね? 俺と一緒に来ればそんな心配をしなくて済むよ? いいかげんわからないかな」

「なっ……!」

 両手を膝の上におき、店内をゆっくりと見渡しながら脅してきた。周りの人も気づいているけど、誰も助けては来れない。どうすればいいか頭を働かせていると、ここ数日で聞き慣れた声が聞こえた。

「あれ、夏美ちゃんじゃーん!」

 智也が私の元へやってきた。今来たばかりなのか、案内しようとしてた店員が困ったようにこちらを見ている。

「誰だお前は」

 馴れ馴れしく私に話しかけてきた智也に、男が名前を聞く。すると、チャラチャラしながら声だけは真面目な様子で智也が答えた。

「だれってー、彼氏になる予定の人?」

「ちょっと!」

 慌てて違うと叫ぼうとしたが、手で口を覆われてしまう。顔を見ると、静かにというように、人差し指を自分の口元へ当てていた。

 意図を察して私が頷くと、智也は男に向き直る。すると、男と一緒にいた人たちが騒ぎはじめた。

「おい、お前人をおちょくってるんじゃねぇよ」

「ふざけていると痛い目に合うぞ?」

 オラッと言いながら腕を振る。危ないっと思って目をつぶったが、衝撃は来なかった。恐る恐る目を開けると、智也が目の前にある腕を掴んでいた。
 
 驚いているその人をチラッと一目見ると、腕を掴んだまま体の向きを変えて、今度は正面の男に向き直る。
 先程から黙ったままの男に向かって、挑発するように声をかけた。

「お兄さんさー、こんなやり方しても夏美ちゃんはなびかないって。今日はもう帰ったほうがいいと思うよ?」 

 男は睨み付けているが、何かを言う雰囲気はない。店内に一瞬静寂が訪れたが、チッと舌打ちをした後に立ち上がった。それを見て智也もつかんでいた腕を乱暴に離す。

「お前ら、帰るぞ」

「えっ、でも」

「いいから来い」

 そのまま歩き出すと、連れを無視して1人で去ってしまった。絶対何か言ってくると思ったから拍子抜けだ。
 呆然と後ろ姿を眺めていると、肩に置かれていた手が離れるのがわかった。

「うわー、大丈夫だった?」

 出口を見ていると、智也が声をかけてきた。タイミングよく来てくれて助かったとお礼を言う。智也が来てくれなかったら、多分まだ絡まれたままだったはずだ。

「ありがとう、あの人いつもしつこくて」

「えー、今日だけじゃないのあの人?」

「2ヶ月ぐらい前からよくお店に来る人。それにしても本当にタイミングよかったね」

「そこの道歩いてたら夏美ちゃんが仕事しているのが見えて。せっかくだからお昼食べようと思って入ったらさ、夏美ちゃんのピンチでもうびっくり!」

「そうだったの? 絡まれていたのを助けてくれたのって……」

「うん、偶然中の偶然」

「そっか。でもありがと」

 私の言葉に、両手でピースを作りながらタイミングよく助ける俺ってかっこいい! と一人でうんうん頷いている。
 さっきまでの頼もしい姿の後影もなく、いつも通りの智也を見つめながら、最近なぜだか智也と会ってばかりだと少し不思議に思う。

 それこそ偶然中の偶然だと、周りに迷惑をかけたことを詫びてから仕事を再開した。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄?いいですけど私巨乳ですよ?

無色
恋愛
 子爵令嬢のディーカは、衆目の中で婚約破棄を告げられる。  身分差を理由に見下されながらも、彼女は淡々と受け入れようとするが、その時ドレスが破れ、隠していた自慢のそれが解き放たれてしまう。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい

沢尻夏芽
恋愛
 自他共に認める陰キャ・真城健康(まき・けんこう)は、高校入学前に宝くじで10億円を当てた。  それを知る、陽キャ幼馴染の白駒綾菜(しらこま・あやな)はどうも最近……。 『様子がおかしい』 ※誤字脱字、設定上のミス等があれば、ぜひ教えてください。  現時点で1話に繋がる話は全て書き切っています。  他サイトでも掲載中。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...