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- 1 - ニュース発表の裏側と新規アシスタント
- 1 - ニュース発表の裏側と新規アシスタント 2話
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炎の大陸最大手財閥の前会長ギリトは、もとは優しい雨降る小国――かつて世界大戦中に亡命した王家の姫君の血を引く家系だった。
ギリトの親世代までは、姫君の祖国において王族としての特権を持っていたという。
だが、その特権には条件があった。
姫君から数えて六代目以降は、王家直系との縁組がなければ王族の資格を失う、というものだ。
もし、五代目が姫君の祖国の貴族と正式に結婚していれば、爵位に見合う王族相当の地位が与えられ、体面は保たれただろう。
しかし、五代目は、婚約話が進んでいたにもかかわらず突如家を飛び出し、単身炎の大陸に渡って、現地で結婚、子どもを設けてしまった。
こうして六代目以降、王族としての資格も、特権も、すべて失われたのだった。
――本来なら、そこで平民として静かに生きる道を選ぶべきだった。
だが、五代目は違った。
彼女はなおも、王族時代の特権にしがみつこうとした。 当然、生家も、姫君の祖国も、これを冷たく拒絶した。
戦争になりそうで他国とのやり取りを急激に減らしたこと、そして何より、勝手な結婚が婚約破棄となったことを理由に、五代目は正式に王族から除籍された。
五代目は焦った。
だが、すでに結婚の際、政略結婚を阻止するため、相手との間に解消不可能な神聖魔法契約を結んでいた。
結果として、どれほど嘆こうと、もう王族に戻る道はなかった。
自由を夢見て飛び込んだ炎の大陸での暮らしは、相手がそれなりに良家の出であったとしても平民であり、かつての王族時代とは比べ物にならないほど貧しかった。
やがて五代目は心を病み、その矛先は、日々子どもへと向かうようになった。
――もっとも深くその影響を受けたのが、六代目、すなわちギリトだった。
彼は、母から繰り返し語られた。
王族だった頃の栄光、教育、失った特権、そして自ら選んだはずの亡命と、それでもなお絶えることのない、生家や祖国への恨み。
それはまるで、子守唄のように毎晩繰り返された。
ギリトの父は、息子に真実を伝えようと努めた。
だが、仕事柄、商談で家を空けることが多く、説得の機会を持たないまま、ギリトが十七歳のときに早世してしまった。
――彼を正せる者は、ギリトがまだ「子ども」と呼べる年齢のうちに、誰もいなくなったのだ。
ギリトは、父方の祖父の補佐を受けながら急速に頭角を現した。
そして、孫娘が生まれる頃には、すでに炎の大陸で並び立つ者のない実業家へと成長していた。
豊かさにおいては、もはや優しい雨降る小国とは比較にならなかった。
だが、幼少期から植え付けられた「王族の栄光」「特権への執着」は、ギリトが手にした成功をしてなお、癒えることはなかった。
そんな折、家族旅行で訪れた東の連邦国で、孫娘が我が国アナベルの王子に恋をした。
ギリトは悟った。
――これは、神が与えてくれたもう一度のチャンスだ。
失われた王族の地位と特権を取り戻し、かつて母が夢見たかつての栄光を我が物にする、またとない機会だと。
その執念が、アナベル国の王子と、その王子の関心を引くレオントポディウムの叡智に向けられたのだ。
彼の財力と影響力は、一国の外交すら左右しかねない程であり、今回の副所長への接触も、単なる縁故作りではなく、アナベル王家への食い込みと、究極的には国の研究成果を掌握しようという深謀遠慮が隠されていた。
ギリトは即座に動き出した。
我が国の王子、王族、貴族のパワーバランスから、街娘たちが好む噂話、農民たちが求めるものに至るまで、あらゆる情報を集めた。
そして、その計画の一環として、我が研究所の副所長がターゲットにされた。
理由は単純だった。
我が国の王子は、国のために黙々と務めを果たす、隙のない人物として知られていた。
学業、武術、外交、すべてをそつなくこなし、個人的なスキャンダルもない。
だが――ただひとつ、個人としての情熱を傾ける対象があった。
それが、「記憶の湖」に関連する魔道具だった。
王子は、壊れた骨董品にすぎない魔道具でさえ、惜しみなく収集していた。
学生時代から、記憶の湖研究所での研究職に就きたかったと公言しており、直系の王位継承者でなければ本気で目指していただろう、とすら言われていた。
アナベル王家にとって、失われたレオントポディウムの叡智の復元は、国家の再興と繁栄に不可欠な最重要課題であり、王族自らが研究に関与し、投資することは伝統でもあった。
王子がこれほどまでに情熱を傾けるのも、単なる趣味ではなく、次代の王としての責任感の表れでもあったのだ。
――そして、ギリトはその「弱点」を突いたのである。
王子の興味関心を惹きつけられ、王族から貴族からスラム街の住人でさえ反対が出ない理由を作るのに、うちの研究所に目を付けていたって話だ。
レオントポディウムの叡智は、アナベル国にとっては失われた技術を取り戻し国力を増強する最大の機会だが、他国にとっては、そしてギリトのような野心家にとっては、喉から手が出るほど欲しい『力』そのものなのだ。
世界中でこのレオントポディウムのような失われた記憶の湖が戻れば、計り知れない恩恵があると期待されており、記憶の湖に関しての研究者はどの国でも平民出身であれ、扱いがいい。
国によっては楽園のような研究関係者用の施設を作って優秀な者を囲い込んだり、貴族や権力者が子どもの結婚相手として選び、自家から研究者を輩出して何かしらの功績を上げたいと金や権力をどれだけ使っても強く望んでいるんだ。
君も研究者を目指すなら覚悟してから、目指すといい。
そう。
もうここからはなんていうか、想定が誰もできなかっと事の連続だったんだ。
――――――――――
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物語を書く元気にもなるので応援してもらえると嬉しいです。
ギリトの親世代までは、姫君の祖国において王族としての特権を持っていたという。
だが、その特権には条件があった。
姫君から数えて六代目以降は、王家直系との縁組がなければ王族の資格を失う、というものだ。
もし、五代目が姫君の祖国の貴族と正式に結婚していれば、爵位に見合う王族相当の地位が与えられ、体面は保たれただろう。
しかし、五代目は、婚約話が進んでいたにもかかわらず突如家を飛び出し、単身炎の大陸に渡って、現地で結婚、子どもを設けてしまった。
こうして六代目以降、王族としての資格も、特権も、すべて失われたのだった。
――本来なら、そこで平民として静かに生きる道を選ぶべきだった。
だが、五代目は違った。
彼女はなおも、王族時代の特権にしがみつこうとした。 当然、生家も、姫君の祖国も、これを冷たく拒絶した。
戦争になりそうで他国とのやり取りを急激に減らしたこと、そして何より、勝手な結婚が婚約破棄となったことを理由に、五代目は正式に王族から除籍された。
五代目は焦った。
だが、すでに結婚の際、政略結婚を阻止するため、相手との間に解消不可能な神聖魔法契約を結んでいた。
結果として、どれほど嘆こうと、もう王族に戻る道はなかった。
自由を夢見て飛び込んだ炎の大陸での暮らしは、相手がそれなりに良家の出であったとしても平民であり、かつての王族時代とは比べ物にならないほど貧しかった。
やがて五代目は心を病み、その矛先は、日々子どもへと向かうようになった。
――もっとも深くその影響を受けたのが、六代目、すなわちギリトだった。
彼は、母から繰り返し語られた。
王族だった頃の栄光、教育、失った特権、そして自ら選んだはずの亡命と、それでもなお絶えることのない、生家や祖国への恨み。
それはまるで、子守唄のように毎晩繰り返された。
ギリトの父は、息子に真実を伝えようと努めた。
だが、仕事柄、商談で家を空けることが多く、説得の機会を持たないまま、ギリトが十七歳のときに早世してしまった。
――彼を正せる者は、ギリトがまだ「子ども」と呼べる年齢のうちに、誰もいなくなったのだ。
ギリトは、父方の祖父の補佐を受けながら急速に頭角を現した。
そして、孫娘が生まれる頃には、すでに炎の大陸で並び立つ者のない実業家へと成長していた。
豊かさにおいては、もはや優しい雨降る小国とは比較にならなかった。
だが、幼少期から植え付けられた「王族の栄光」「特権への執着」は、ギリトが手にした成功をしてなお、癒えることはなかった。
そんな折、家族旅行で訪れた東の連邦国で、孫娘が我が国アナベルの王子に恋をした。
ギリトは悟った。
――これは、神が与えてくれたもう一度のチャンスだ。
失われた王族の地位と特権を取り戻し、かつて母が夢見たかつての栄光を我が物にする、またとない機会だと。
その執念が、アナベル国の王子と、その王子の関心を引くレオントポディウムの叡智に向けられたのだ。
彼の財力と影響力は、一国の外交すら左右しかねない程であり、今回の副所長への接触も、単なる縁故作りではなく、アナベル王家への食い込みと、究極的には国の研究成果を掌握しようという深謀遠慮が隠されていた。
ギリトは即座に動き出した。
我が国の王子、王族、貴族のパワーバランスから、街娘たちが好む噂話、農民たちが求めるものに至るまで、あらゆる情報を集めた。
そして、その計画の一環として、我が研究所の副所長がターゲットにされた。
理由は単純だった。
我が国の王子は、国のために黙々と務めを果たす、隙のない人物として知られていた。
学業、武術、外交、すべてをそつなくこなし、個人的なスキャンダルもない。
だが――ただひとつ、個人としての情熱を傾ける対象があった。
それが、「記憶の湖」に関連する魔道具だった。
王子は、壊れた骨董品にすぎない魔道具でさえ、惜しみなく収集していた。
学生時代から、記憶の湖研究所での研究職に就きたかったと公言しており、直系の王位継承者でなければ本気で目指していただろう、とすら言われていた。
アナベル王家にとって、失われたレオントポディウムの叡智の復元は、国家の再興と繁栄に不可欠な最重要課題であり、王族自らが研究に関与し、投資することは伝統でもあった。
王子がこれほどまでに情熱を傾けるのも、単なる趣味ではなく、次代の王としての責任感の表れでもあったのだ。
――そして、ギリトはその「弱点」を突いたのである。
王子の興味関心を惹きつけられ、王族から貴族からスラム街の住人でさえ反対が出ない理由を作るのに、うちの研究所に目を付けていたって話だ。
レオントポディウムの叡智は、アナベル国にとっては失われた技術を取り戻し国力を増強する最大の機会だが、他国にとっては、そしてギリトのような野心家にとっては、喉から手が出るほど欲しい『力』そのものなのだ。
世界中でこのレオントポディウムのような失われた記憶の湖が戻れば、計り知れない恩恵があると期待されており、記憶の湖に関しての研究者はどの国でも平民出身であれ、扱いがいい。
国によっては楽園のような研究関係者用の施設を作って優秀な者を囲い込んだり、貴族や権力者が子どもの結婚相手として選び、自家から研究者を輩出して何かしらの功績を上げたいと金や権力をどれだけ使っても強く望んでいるんだ。
君も研究者を目指すなら覚悟してから、目指すといい。
そう。
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